【専門職】次世代観光振興のエキスパートを養成する/せとうち観光専門職短期大学

東京みらいAI&IT専門学校キャンパス

POINT
  • 1985年四国情報ビジネス学院の設立を皮切りに、四国を中心としたエリアで「地域の学生を地域で育て、高い専門性と豊かな人間性を育み、地域社会から信頼され、貢献できる人材を育成する」との理念で18の専門学校を展開する穴吹学園が、2021年開設を目指す専門職短期大学
  • 3年制の観光振興学科(定員80名)を設置予定
  • 21世紀の基幹産業である観光領域で、社会構造の変化やニーズを的確に捉え事業イノベーションや地域社会の魅力を創出できる観光振興のエキスパート人材を養成する


せとうち観光専門職短期大学は学校法人穴吹学園が開設する専門職短大である。構想3年半、2年越しの挑戦が見事結実し、2021年に開学を迎える。その設置趣旨や背景にある課題意識について、青木義英学長にお話を伺った。

国の基幹産業を担う観光振興のエキスパートを養成する

 専門職制度はその名の通り、特定の領域における専門職を育成することを主軸に展開する制度である。では観光の専門職とは具体的に何者を指すのか。青木学長は長らく日本航空に勤め、マドリード支店長や人事部キャリア開発支援室部長を経て鈴鹿国際大学や和歌山大学で教鞭をとってきた経歴から、こう話す。「2017年には世界の国際観光客数が13億2600万人に達し、2030年には18億人に達するかと言われており、観光の経済規模は世界のGDP総額の10%を占めるとの推計もあります。しかし、21世紀の基幹産業となりつつある観光業界において、大学の観光系学部に興味を持って進学し学んだ学生でも、観光業界に就職する人は全体の2割程度です。国家の重点施策である観光振興を担う専門人材が枯渇している。これは観光大国を目指す日本としても由々しき事態であり、早急に手を打つ必要があります」。コロナ禍の影響が直撃する業界でもあるが、2025年には国際博覧会(大阪・関西万博)や瀬戸内国際芸術祭等の観光イベントが予定されており、「コロナの影響を踏まえたこれからの観光を牽引する人材が必ず必要になる」と青木学長は強調する。観光領域に関する確かな理論と実践知を持ち、多彩な関連分野で活躍できる観光振興のエキスパートを養成しなければならない。こうした問題意識から、せとうち観光専門職短期大学の設立を構想するに至ったのだという。

 では、観光振興のエキスパートとは具体的にはどういう専門職人材を指すのか。この問いに対し、青木学長は専門学校での養成人材との対比を示した。「観光分野は専門学校も多いですが、そこでは主に対人サービスのスペシャリスト、現場人材を育成しており、教授されるのは接客技術が中心となる。もちろん現場人材の重要性は言うまでもありませんが、観光領域では技術人材だけでなく、観光の文化背景や国際的な潮流を知り、理論を持って経営を企画できる、マネジメントやプランニング側の人材養成も必要で、今枯渇しているのはそうした領域なのです」。そもそも観光とは、軍事力や経済力等の対外的な強制力によらず、国が有する文化や政策等への支持・理解・共感を得ることにより、国際社会からの信頼や発言力を獲得する活動、即ちソフト・パワーの最たるものである。ハード・パワーを持たない憲法規定を持つ国として、日本は観光力を高めることこそが国際社会で生き抜く術でもある。そうした問題意識のもと、接客等ホスピタリティの現場だけではなく観光戦略を創ることができるエキスパート人材養成を手掛けることとした。これにあたり専門職大学制度を選んだのは、「理論と実践の両軸で人材を育成する」という特性が合致したためである。設置する短大は3年制だ。課題意識に合致する教育課程の編成において、観光理論系科目と臨地実務実習等の実習系科目の相互の充実と融合を図るためには2年ではなく、3年制の教育課程が必要と判断した。逆に4年制にしなかったのは、社会に出るスピード感を重視したからだという。

必修科目を中心に足腰を鍛え展開科目と実習で応用力を獲得する

 では、具体的なカリキュラムを見ていこう。「専門職は通常の大学制度に比べて学ぶ内容がどうしても多くなる。また、本学は観光領域に特化した体系的な知識を余すことなく身につけることを優先し、カリキュラムのほとんどが必修です」と青木学長は言う。学事暦はクオーター制を採用し、学生が無理なく基礎から応用へ進めるように配慮している。

 「理論と実践の両軸で人材を育成する」コンセプトで「学術系科目」と「実務系科目」を体系的に配置し、その基盤として、「自学自修」「思考法」「観光英語」を置いた(図1)。「自学自修」とは、学生が自らの最適なキャリアを主体的に形成する土台の力であり、「思考法」は3年間の学修を継続して修得するのに必要な「問いを立て考える力」そのものだ。基礎も応用も、「観光と地域の持続可能性の実現」に資する観光振興・地域振興の理論・知識の学修が科目配置のテーマである。ここで青木学長は「地域とは香川に限らない」と補足する。「勉強する地は瀬戸内ですが、大事なのは軸足を持って文化を知り、相手の異文化を考察する視点。最も身近な起点をまずはきちんと学ぶために、1年次の実習地域は香川県内としています」。2年次・3年次では「地域」の枠を広げて相対化の軸を創るべく、他地域に広げる。「複数の地域を知る中で比較検討や相対化の視点が育ち、その観点が企画力に生きると考えています」と青木学長は言う。

 専門職大学制度特有の科目である展開科目では、観光振興のエキスパートとして必要となる応用力に焦点を当てる。コンセプトは「地域イノベーションや地域の魅力作りを実践できるマネジメント力・情報力・創造力の養成」だ。観光に資する技術革新、地域に根差すために必要なコミュニティデザインやファシリテーション等、エキスパートとしての応用力に該当する科目が並ぶ。足腰は必修科目でしっかり鍛え、応用力を展開科目に配し、そこに後述する実習が立体的に絡み、総合的に理論と実践が体系的に統合されるように設計されている。


図1 教育課程の概要
図1 教育課程の概要



図2 授業科目一覧
図2 授業科目一覧


瀬戸内に軸足を置きつつ異文化を相対化する

 次に専門職大学制度特有の臨地実務実習についてである。まず1年次3週間の実習では、香川県内の各地で観光現場に赴き、観光実務に携わるのはもちろん、地域社会の課題を確認する。2年次は6週間2回の業界実習が用意されている。実習先は73もの企業・団体で受け入れが決まっており、航空や鉄道、宿泊、地域創生等、学生の進路希望別にクラスを分け、原則として希望に応じた実習が実施できる予定だ。実習先の例として、観光クラスでは香川県の小豆島産のオリーブを活用した商品やイベントの企画等に携わる。航空・鉄道クラスでは高松空港やJR四国等で交通機関の現場業務等を体験する。商店街の管理組合や地域の観光協会等の協力のもと、多彩な実習を通じて職業職場をイメージできるようにするという。

 「まずは学生自身の興味があるところから広げていく」と青木学長は言う。実習に必要なスキル・知識は実習前の学期に確実に修得し、実習後の学期では学んだ内容と実践したこととの違いやギャップ、発見を振り返るという仕組みで、学生自身のPDCAが回るように配慮する。実習期間は分野ごとのプロフェッショナルである実務家教員が実習先を回り、現地の指導者と連携して学生を指導するという。

 「学生は単なる職業や職場体験ではなく、その企業で実践的に働きながら学ぶということが必要です。現場では企業のポリシーに沿って指導して頂く場合もあります。それに共鳴して下さった実習先がこれだけ多く確保できたのは財産です」と青木学長は言う。

 3年次には3年間の修学内容を総括するため、フィールドワークをもとに研究報告書等を作成するための少人数制のゼミ(専門演習)が設けられている。また、学修成績評価とは別に、独自開発した「学修態度測定表」で学生の成長度・人間力を測定する仕組みを構築する。入学時・2年生進級時・3年生進級時・卒業時の計4回測定を行う予定だという。

人材育成と研究蓄積でさらなる高みを目指す

 こうした骨太な分野特化カリキュラムについて、「将来観光分野で活躍したいと強く思っている人に来てほしいので、水準は落としたくない」と青木学長は語気を強める。その覚悟は、全方式で面接を課す入試制度に明確に表れている。「是非観光という道場に入門するつもりで入学を希望してほしい。本学でみっちり鍛えられ、黒帯を締めて社会に出ていってほしい」との言葉が示すように、教育に耐えうる意欲や覚悟を面接で見極め、少数精鋭の教育を実践したいという。

 取材の最後に青木学長が強調したのは、日本で1校の観光系専門職短期大学としての使命感だ。「いずれは研究としてのせとうち学派構築を目指したい。研究蓄積を進め、論文を世に出し、地域交流や企業連携の拠点としても研究所を整備したい」。それが将来的にも優秀な教員組織の持続・発展につながる、と青木学長は続ける。見据えるのは「せとうちブランド」をより強固に構築する中心に、新設校が存在感を示す未来だ。

 「公務員ではなく民間の立場で、観光をしっかり理解した人間が根づき、社会に受け入れられる企画を設計できる専門職人材を1人でも多く輩出したい」。青木学長の声は力強い。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/12/15)