コロナ禍でのオールラウンドな学生支援/金沢工業大学

金沢工業大学キャンパス


大澤敏学長

e-シラバスの活用に向けた新入生の状況確認から

 新型コロナウイルス感染症の問題は、2020年の年明けから突然始まった。対岸の火事が日本にも及んできたとき、大学は入試、卒業式、新学期という年度の切り替えの時期に遭遇していた。日本の多くの大学は、入試は何とか乗り切り、卒業式等の行事は中止で対応したが、最大の懸案事項は、4月から授業をどうするかであった。

 金沢工業大学の動きは早かった。既に、2月から対策会議を設置して検討を開始した。幸いにもICT化の先進校である。「KITポータル、KITナビゲーション、KITe-シラバス」という独自開発した教育マネジメントシステムが完備しており、このうち「e-シラバス」は、授業の資料の掲載、音声・動画の配信、外部サイトへのハイパーリンク付与、レポート課題の提示とレポートの受理、小テスト、アンケートの実施等、アクティブラーニングを進めるうえで活用されていた。これを用いれば、遠隔授業ができる。また、このe-シラバスは教務データや学内のほかのシステムと関連づけられているため、学生個々人の学習状況や大学生活の状況を把握することができる。従って、予定していた4月20日から、全面的にオンラインに変更して授業を開始することはできた。

 しかしながら、学生はそれを受講できる体制にあるか。特に気がかりなのは新入生である。4月1日の入学式は、新入生のみを対象とし、31の教室に分散してライブ配信により実施し、オリエンテーションや遠隔授業に関わる基本的なパソコンのネットワーク設定等は行えたものの、予定は大幅な変更を余儀なくされた。さらに緊急事態宣言に伴い、全キャンパスへの学生の立ち入りが禁止となった。そこで、4月21日から27日まで臨時のコールセンターを設置した。Gmail の「安否確認システム」でネット環境の確認が取れた学生を除き、残る約2800人に対して、職員20名が手分けをして電話連絡を行い、ルーターの貸し出し、e-シラバスの使い方説明等、学生個々人の状況に合わせて授業の環境整備をサポートした。こうして、授業開始から10日間、4月30日には1年生の97.7%がe-シラバスを利用するに至った。後学期の対面と遠隔の併用でe-シラバスは反転授業(知識はオンラインで議論は対面で)にも大きな力を発揮した。

メンタルで孤立させないための様々な働きかけ

 遠隔のみでも授業が実施できることは分かった。しかし、オンラインで授業を履修するだけの生活は、孤立感を高める一方である。とりわけ1年生は、大学に足を踏み入れていないに等しく、同級生や先輩もほとんど知らない。これをどのように解決するかが、新たな課題となった。「学生は、心身が整ってこそ、授業にも力が入るのです。このような環境下で学生が孤立感を覚えないように、他者とつながって友人ができるように、正規のカリキュラムのなかでも、課外活動でも、人と関わる工夫を重ねました。オールラウンドな支援の仕組みをつくるために総力をあげて取り組みました。」と、大澤 敏学長はその具体的な取り組みを語ってくださった。

 その支援の仕組みをまとめたのが図表1である。この図からは、いかに多くの支援策が練られたかが分かる。しかしながら、考え方は一貫している。オレンジ色の矢印は学内の資源を使っての学生への働きかけであり、緑の矢印は学生を学内外の活動に引き出す仕掛けである。主だったものを紹介しよう。

図表1 コロナ禍でもいきいきと大学生活を送るための支援の仕組み

 この課題に、まず立ち向かったのが、カウンセリングセンターである。金沢工業大学のカウンセリングセンターは、通常業務である学生相談に加え、学内の心理科学研究所とタイアップし、研究によって得られたエビデンスにもとづき対策を講じてきたことに特色がある。今回も、学生への調査によって、1年生と就活を始める3年生が最も孤立感を高めており、精神的な安定性を欲していることが明らかになった。そこで、それぞれに合わせたプログラムを開始することにした。

 1年生に対しては、最初に履修する全員必修の「修学基礎A」を用いた。もともと学習習慣、生活習慣の確立を目的とした科目であり、このなかに、自分の強み探し、グループディスカッション、自分のキャリアのデザイン、ときには、教員との1対1の面談等を導入して、自己肯定感を高め、同級生とのつながりを模索した。この科目が持つ機能を、より意識的、積極的に利用したのである。

 図表2は、カウンセリングセンター、心理学研究所、修学基礎Aの連携がどのように学生の精神面、学習面での効果を発揮したのかをまとめたものである。学生は、ポジティブな感情を持ち、他者との関係の構築ができてはじめて、自分の生きる意味を自覚し、目標に向かって歩むというサイクルを示している。このサイクルがうまく回り始めた学生は、学習にも意欲的になり、成績も向上したという。

図表2 カウンセリングセンター⇔心理科学研究所⇔修学基礎A(1年次必修科目)の連携による、学生がいきいきと大学生活を送るための支援

 また、「スポーツ考房」、これは学内のトレーニングルームであり、多様なエクササイズマシンが用意されている。「心身が整ってこそ」という学長の言葉の通り、「スポーツ考房」は、1日1回は身体を動かすことで心身のリフレッシュができ、ポジティブな感情を持てるようになるとを学生に呼びかけた。

 ここで看過できないのが、先輩の果たす役割である。これまでにも、学部生のシニアSAや大学院生のTAが、授業を聴講し、当日の夕方に、分かりづらいと思われる箇所をまとめて学生に解説するという「教え合い」をしてきたが、オンライン授業になってこれが効果を発揮した。「4年生や大学院生は研究室での活動を通じて、下級生を個別に面倒みることに慣れていますし、1年生も先生には質問しづらくても、先輩ならば気は楽になるでしょう。これによって、学習の不安だけでなく、生活の不安の解消にもなったと思います。」と、学長は語られる。

プロジェクト学習による他者への働きかけ

 学生がポジティブになれば、次は、その力を、社会に対する支援活動に用いた。それにより、学生自身もさらなるエネルギーを得ることができると考えたのである。再度、図表1に戻れば、多くの緑の矢印が大学の外に向かっていることが分かる。このうち、「地域連携プロジェクト」、「社会実装プロジェクト」は、金沢工業大学の教育の基本であるCDIOという工学教育の世界標準にもとづくプロジェクト型の教育を指す。CDI Oとは、Concei ve(考え出す)、Desi gn(設計する)、Implement(実行する)、Operate(操作・運用する)を意味し、アイデアをいかにして実社会に組み込める形のあるものにしていくかという理念である。日本の大学で初めてCDIOを導入して以来、その理念は4年間を通じての必修科目である「プロジェクトデザイン教育」において、様々に具現化されてきた。そのなかに「地域連携プロジェクト」があり、これは1~2年生を中心に行われ、「社会実装プロジェクト」は、研究室所属の学生や院生が中心となって実施されてきた。社会のニーズを見極め、社会と連携し、チームでプロジェクトを遂行することで、必然的に他者とつながり、そこでコミュニティが形成される。

 また、「SDGs推進センター」では、学生が中心になって小中学生用のゲーミフィケーション教材の作成や、地域活性化の取り組みを行ってきたが、小中学校が一斉休校になったなか、小中学生用のオンライン学習プログラムの作成やZoomを利用しての地域活性化活動を企画・実施した。子どもたちの学習を支援するための活動が、学生自らの主体性やチームワークを生み出すのである。

 バーチャルな環境においても、問題の発見や実践的な解決策の考案は可能であり、具体的な対象があることで、学生の協働が可能になる。他者への支援を考えることは、自身の救いにもなったのである。

 金沢工業大学の場合、75%が県外学生であり自宅を離れての下宿生である。突然始まる1人暮らしが不安を増大することは容易に想像ができ、これらのきめ細かな対応は学生の脱落を防止した。全国の学生調査によれば、退学を考える者が12%という報告もあるが、金沢工業大学の退学率は低い。これらの支援が一定の効果をもった結果とみてよいのではないだろうか。

 加えて、学長が感謝の弁を述べられていたのは、大学の指定寮の大家さんである。上述のように県外学生が多い金沢工業大学では、この大学の学生のみを受け入れてもらっている寮や下宿を指定寮とし、その数は約4100室に及ぶ。この大家さんたちが、自宅を離れて1人大学にやってきた学生の、日常生活や心身の安定に心を砕いてくださったという。

 人間は1人では生きることが困難であり、他者との関わりが生きる力になることが、はからずも証明された数カ月であった。

オンラインや卒業生も活用した就活支援

 新入生と共に問題を抱えていたのが、就活を始める3年生である。コロナ禍による求人数の減少、移動制限のもとでのままならない就職活動は、不安と不満を増大させた。学生の不安や不満をどのようにして軽減し、就職活動をスムーズに進めることができるか、これが「進路開発センター」の役割であった。学生のための企業研究、自己分析、志望分析等、これまでも担ってきた役割は、これまで以上に綿密に実施した。それとともに、企業の求人開拓にはさらに力を入れた。

 しかしながら、キャンパスへの外部者の入構は規制しており、これまでのようにキャンパス内での合同会社説明会や面接試験の実施は難しい。ここでもオンラインの力を利用した。Zoomを利用した企業説明会を開催し、多くの企業に参加を呼びかけ、情報を収集した。面接試験は、Web等での実施の検討を求めた。また、電話による学生の就職相談も実施した。

 もう1つの力が卒業生である。大学として卒業生へアクセスをし、卒業生の働く会社の求人の有無を尋ねたり、後輩へのアドバイスを依頼した。先輩から後輩へのアドバイスは、就活生には大きな励みとなった。このように、進路担当教員や進路開発センターのスタッフは、学生と企業とのマッチングを如何にして高めるかに尽力し、結果的には求人の窓口は広がった。2020年12月の段階での就職内定率は、93%に達している。

 コロナ禍で社会全体としての雇用の減少があるにも拘わらず、就活生の多くは進路が確定した。大学として、あるいは、「進路開発センター」の努力が実った結果ではあるが、それだけではない。これまでの卒業生の社会での実績、ひいてはそうした卒業生を送り出してきた大学の教育に対する信頼、これらがあってこそ、困窮する時期においても、安定的な就職率という結果を導きだせるのではないだろうか。

コロナ禍のなかでも学生の成長を可視化して共有

 大学にとって重要なことは、たとえ、こうした緊急時・非常時であっても、学生の学習の質を担保し、学習の成果を出すということである。何があってもコンスタントな結果を出す、そのために金沢工業大学が用いているのが、冒頭で記したe-シラバスであり、そこには専門能力と人間力の成長の過程と程度を、学生本人と教員とが共有し、また面談を経て確認し合うシステムが組み込まれている。

 どのような力が測定されているのかを示したのが、図表3である。専門能力に関しては、各学科が定めた項目に関して、授業アンケートにおける達成度評価(自己評価)に加えて、教員による成績評価、その学科の平均の成績評価の3つを図示することで、学生は、自己評価の客観性や学科内での自分の位置を確認することができる。人間力に関しては、大学としてその涵養を重視している5つの能力を、毎学期末にルーブリックを用いて自己評価し、それでもって成長を確認する仕組みとなっている。

図表3 専門能力と人間力の可視化データを学生と教員が共有しながら面談することでコロナ禍においての学びと成長を支援

 これまで行ってきたこれらの評価の重要性は、さらに増したというのが、学長の見解である。なぜなら、対面と異なりネットの場合、ネットの向こう側で何が生じているのかが分かりづらいからだという。学生は、授業は履修している。しかし、大学として、学生の成長を全体的に把握することは容易ではない。それは学生も同様である。専門的な知識を獲得したと思っても、他者と比較した場合、それは充分な程度なのか。こうした課題への対応として、前述の評価方法は役に立つ。学生の自己評価と教員の評価を双方で共有しつつ、学生の学びと成長を包括的に把握し、大学としての支援策を講じようとしている。

いかに学生間のつながりを作るか

 ほぼ1年。異例の状況であったが、それだから明らかになったことは多く、来年度以降もこうした状況が続いたとしても、それへの対応策も見えてきた。最大の課題は、いかにして学生間のつながりを作るかということである。ただ、コロナ禍で金沢工業大学が行っているこれらの学生支援は、何も新規な試みではない。これまで実施してきたことを、一層意識化し、各種の活動を構造化して、オンラインに載せたのだと言ってよいだろう。

 そのうえで学長が目指しているのは、オンラインだからこそ容易になった国際化とDX(デジタル・トランスフォーメション)による新たな価値創造である。「遠隔教育の質を下げることなく海外とつながることで、学生の視野の拡大が望めます。また、例えば、人間がその場に立ち会うことが困難な状況下の問題を、画像解析しロボットで遠隔操作しつつ解決するといったことは、リアルをバーチャルに代替することで可能になるものです。」と、可能性を語られる。これまでの蓄積の上に、現況を利用して、さらなる教育の可能性を追求されようとしている。ともすればうつむきがちになるわれわれに、一条の光を与えてくれる言葉である。


(吉田 文 早稲田大学教授)


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