「学都金沢」の各大学の強みを融合、共有し Society5.0を切り拓く人材育成を目指す


『学都金沢』の高い教育水準を生かした戦略

 京都、仙台に並ぶ学園都市・石川県金沢。2019年、この金沢を中心とした地域で「金沢市近郊 私立大学等の特色化推進プラットフォーム」(以下略、私大等PF)が発足した。金沢を中心とする経済圏の18歳人口の減少と地方創生の課題に、私立大学で取り組むためのプラットフォームだ。私立大学・短大・専門学校の12校及び自治体と産業団体で構成される(図1)。



図1 金沢市近郊 私立大学等の特色化推進プラットフォーム(私大等PF)の参画校・自治体・産業団体

 幹事校を務めるのは金沢工業大学。大学事務局の西川紀子氏は、この私大等PFの幹事役として、体制づくり、各大学間の調整、施策プロジェクトの取りまとめまで、運営全体を手掛けている。

金沢工業大学 大学事務局 共創教育推進室 課長 西川紀子氏

 「『学都金沢』といわれるように金沢には多分野の大学が集結し、学習の環境が数多くあります。『学都』として、大学がさらに質の高い学びを提供できる環境を作ることが、地域振興・地方創生にもつながると考えています」

 実は私大等PFが発足する前の2006年より、石川県では国公私立大学の連合体である「大学コンソーシアム石川」が発足している。しかし設置形態の異なる全ての大学が足並みを揃えることが容易ではないという現実があった。コンソーシアムを充実させるためにも、まずは私立大学間で足並みを揃え、私大の多様性・独自性を生かした施策を進めていこうという運営上の目的もある。

 「コンソーシアムで石川県の大学それぞれに特色があることが分かっていたので、あとはそれをどう生かしていくかがこのプラットフォームの役割のひとつと考えています」

各大学のリソースを共有

 2019年の発足以来、私大等PFでは主に3つの取り組みが始まっている。どれも根底にあるのは各大学の質の良いリソースを共有しようというものだ。

 1つ目が「共同PBL」。金沢工業大学にはもともと「プロジェクトデザイン」というPBLカリキュラムがあり、4年間で5つのPBL体験が必須科目となっている。1チーム6人で構成され、年間で約300チームが活動することになる。指導教員は30名に上り、多くの成功事例や失敗事例とともにPBLのファシリテーターとしての知見が培われてきた。PBL経験の少ない他大学からすると魅力的なプログラムだ。白山市の金城大学と効果的なPBLを行うためのファシリテート方法について話し合いをしていたことから、実践が始まった。金沢工業大学としても他大学との協働によって、学生に工学的な視点だけでなく、広い視野での問題解決の経験が提供できる。将来的には大学間で単位取得が可能となる仕組みづくりを目指している。

 「共同PBLのテーマは『金沢市近郊の地方創生』。学生は課題の設定から解決のアプローチまで考えていきます。参加した学生によって取り組むテーマは多様。工学×観光、工学×経済、工学×福祉といった分野の融合はSociety5.0で活躍する人材の育成にもつながると考えています」

 2つ目がDXによる遠隔授業と単位互換の整備。金沢工業大学が得た文部科学省の教育DXに関する補助金(デジタル活用教育高度化事業「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」)を原資に、100インチディスプレイ2枚を各大学に配置し常時接続する環境の整備を進めている。「スムーススペース」と呼ばれるこの設備は他校の教員がほぼ等身大で映り、リアルな授業に近い環境を実現。2021年9月には私大等PFの3分の2以上の大学に設置が完了する。これによってデータサイエンス基礎、幼児教育、英語教育など各大学の強みとなる授業を共有することができる。

 3つ目は教養科目の共通授業・単位取得制度の整備。3年後には「国際教養課程」と名付けた教養科目を策定し、各大学で共有することで質の高い授業の提供を目指す。同時に各大学のリソース削減につながることも大きい。スムーススペースのようなDXの環境整備も共通教養科目の学修を後押しすることになる。

 3つの取り組みと並行して私大等PFではFD、SDも実施。各大学間のノウハウの意見交換は教員の反響も大きく、多くの教員から高いニーズがあったことも分かったという。

図2 私大等PFの意思決定体制

形骸化しない運営のための組織づくり

 こういった取り組みの成否は、コンソーシアムやプラットフォームにおける意思決定の在り方にも左右されることは多くの大学が実感しているのではないだろうか。私大等PFでは、3つの会議を設けている(図2)。各大学事務局長レベルの「企画調整委員会」、自治体・産業団体も参加する「運営委員会」、各大学学長・自治体・産業団体の部局長クラスの「意思決定委員会」。この3段階で施策立案の検討・合意プロセスを踏む。最初の「企画調整委員会」は大学だけで構成され、素案を作っているところが私大等PFの特徴だ。

 実はこの3つの会議の前に「雑談会」が開かれている。

 「最初は忘年会の飲みニケーションが始まりでした(笑)。今まで隣の大学は何をしているのかも分からなかったのですが、お互いに本音を語り、情報共有することができた。2020年になってオンラインで実施したのが『雑談会』です。議事進行はせず、録画もしません。今日は気楽にしゃべろうよ、という時間にしています。それが新しい施策を生むきっかけになっています」

 私大等PFの立ち上げのとき、声を上げた金沢工業大学に対し「大学の統合を意図しているのか」という声も出たそうだ。今はそれぞれの大学が、共通化できるところはスリム化し、質の高いものだけを残していくという認識を共有し、同じ未来を見据えている。


(文/木原昌子)


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