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給付型奨学金制度設計の経緯

動き出した国の給付型奨学金

 どの大学にとっても優秀な学生の確保は至上命題である。学生も自分の望む進路を全員選べるのが理想であろう。しかし、所得の多寡に拘らず、高等教育機関への進学にかかる費用負担は決して軽いとは言えず、低所得世帯ほど所得に対する進学費用の割合が高いため、経済的負担はより重くのしかかることになる。そこで、進学意欲があっても経済的困窮によりその可能性を閉ざされてしまう学生を少しでも減らすために、現状最も有効な手段の1つとされるのが給付型奨学金である。

 2016年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」では、現行の奨学金制度では解消しきれない経済格差や学生の重い返済負荷を踏まえ、「給付型奨学金については、世代内の公平性や財源等の課題を踏まえ、創設について検討を進め、本当に厳しい状況にある子ども達への給付型支援の拡充を図る」と明記されている。これを受けて文部科学省では7月、返済の必要がない給付型奨学金制度の2018年度導入に向けて検討チームを設置し、具体的な制度設計の議論を重ねてきた。12月初頭に財務省・文部科学省両省は、自民・公明両党の提言を踏まえ、2018年度より住民税非課税世帯の大学・短大生を対象に、月3万円の給付を開始すると発表した。想定される対象者は1学年当たり約2万人で、必要な財源規模は約200億円となる。

 給付型奨学金の場合、一番の問題はその財源であろう。給付型ともなれば、より税の使い道に対する説明責任が問われる。そうした意味で、現在の無利子奨学金でも一定の成績要件を挙げているが、給付型では対象者にその努力をより求めるのは必然と言える。一方、経済的困窮を軽減し進学を後押しするという本来の目的に照らし、必要以上に厳しい要件定義は適さないとも言われている。また、こうした施策を継続的に実施していくためには、恒久的な安定財源が必要であり、制度改正や税制措置も含めて引き続き検討するとされている。

 奨学金の支給基準は、低所得を理由に進学を断念せざるを得ない可能性の高い世帯、具体的には生活保護世帯や住民税の非課税世帯、児童養護施設出身者等が挙げられている。そうした世帯であっても、学生自身が給付対象か予想がつかなければ、そもそも進学を諦めてしまいかねない。そのため、入学前にそうした予見ができるよう、高校在学中に採用候補者を決めることを基本とする方針が提示されている。2018年度の本格導入に向けて、2017年度は下宿先から私立大学に通学する者を対象に先行実施する予定だという。政策は漸く一歩前進といったところであろう。

求められる個別大学の対応

 しかし、月に3万円という金額の与えるインパクトは果たしてどの程度のものなのだろうか。図表1に、日本学生支援機構の提供する、下宿学生の年間収入平均・生活費の内訳データを示した。これによると、私立の授業料は諸経費込みで約137万円。食費は26万円、住居・光熱費は43万円であることを考えると、月々3万円つまり年に36万円は、生活回りに充当される水準の金額である。その他の経費を賄う意味で、大多数の学生にとっては、やはり別の貸与型奨学金や、大学独自の奨学金を合わせて利用することが想定される。財源問題は引き続きあるにせよ、国の施策を待つだけでは、なかなか本来の目的は達成されにくいように思われる。

 近年は入学者選抜の改革と合わせて奨学金を設計し、評価と支援を両軸で整備する大学も出てきている。特に私立大学では、建学の精神を踏まえて各大学で設計する3つのポリシーに照らし、求める人物像を獲得するために選抜評価方法を見直す動きが進んでいる。そのなかで、個別の奨学金戦略も合わせて講じる動きは、本当に欲しい学生像に向けたメッセージとしても有効なはずである。今後の広がりに期待したい。

(本誌 鹿島 梓)