日本型職業教育の未来(カレッジマネジメント Vol.203 Mar.-Apr.2017)

 日本の労働市場の特徴は「就職」ではなく、「就社」する点にあると言われている。スペシャリストやプロフェッショナルとして「何ができるか」を評価する“ジョブ型”ではなく、その企業の文化や社風に合った「ポテンシャル」を重視した採用を行い、企業内訓練を経てその企業の中でゼネラリストとして成長していく“メンバーシップ型”といわれる人事システムである。しかし、グローバル化や技術革新のスピードアップ等の大きな社会環境の変化により、メンバーシップ型の人事システムだけでは、企業も対応ができなくなってきた。そこで、その領域に通じたスペシャリストやプロフェッショナルをどのように生かしていくかが、その採用や育成の在り方とともに企業の大きな経営課題となりつつある。

 また、労働人口が減少するなかで、多様な人材をいかに活用していくか、という社会全体の課題もある。残念ながら、現状は社会人の学び直しの場として、大学が選ばれているとは言い難い。また、専門学校では、多くの社会人が学んでいるものの、情報公開が進んでおらず、教育の質をどのように確保しているのかが外から見えづらい、という課題もある。

 そうしたなか、2019年には、実践的な職業教育を行う新たな教育機関として「専門職大学(仮称)」の新設が検討されている。一体、なぜ「専門職大学」は新設されるのか。その際にこれまで職業教育を担ってきた、大学や短大、専門学校の役割はどのように変化していくのだろうか。

 これまで、日本ではアカデミックな教育に対して、職業教育は一段下に置かれていたと言われている。しかし、世界に目を移すと、国家単位で学位や資格等を大きな枠組みの中でそのレベルや段階を分かりやすく整理しようという取り組みが進んでおり、既に世界150カ国でそうした枠組みが導入されているそうである。

 このように、日本だけでなく、多くの国で職業教育をどのように進化させ、その教育の質を保証していくのかが大きな課題となっている。今回の特集では、世界の職業教育の動向を整理しつつ、職業教育の質とは何を保証することなのか等について、巻頭で改めて整理していただいた。そのうえで、検討中の「専門職大学(仮称)」について、最新動向も報告いただいた。事例では、各領域において職業教育に取り組む学校に、職業教育にかける思いと、今後の広がりについて取材した。今回の特集によって、職業教育で生じている大きな潮流をご理解いただけると幸甚である。

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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長

小林 浩

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