少人数教育のゼミを武器に、全学共通でキャリア教育を推進/大阪経済大学

 2011年に大学設置基準が改正され、「大学は、生涯を通じた持続的な就業力の育成を目指し、教育課程の内外を通じて社会的・職業的自立に向けた指導等に取り組むこと」が明記され、就業力育成は大学教育の重要な課題となっている。各大学が活動の方向性を模索する中、地域産業人材の育成や地域経済の活性化にもつながるような就業力育成の取り組みが注目されている。

 この連載では、産業界との連携や地元自治体との協働によって学生の就業力を高めることに成功している事例等を、積極的に紹介していきたい。

 今回は、長らくインターンシップに取り組み、全学共通のキャリア教育を推進し続ける大阪経済大学で、德永光俊学長と黒正洋史進路支援部長にお話をうかがった。

初代学長のことば『道理は天地を貫く』

 大阪経済大学は、「多彩な職業人を育てます」を2007年策定のミッションステートメントに盛り込み、2010年の德永学長就任以来、「ゼミの大経大」「マナーの大経大」と並んで「就職の大経大」を謳う。しかし德永光俊学長は、「就職は目的ではなく単なる手段」と言う。

 「学生たちは自分で伸びる力を持っているので、それをいかに持続的な就業力として、もっと大きく言えば人間力として、具体化させるか。そういう考え方を大学がきちっと持っておかないと駄目だと、私は思っています」

 キャリア教育の充実は、大学の生き残りのための差別化戦略と位置づけられることも多いが、德永学長は異議を唱える。「少子化に進んでいく中で、日本社会全体として、21世紀を担う若者たちをどう育てるか。そのために大学は、自分たちの大学のみの生き残りを考えるのではなく、共存共栄しないといけないのです」というのだ。

 「差別化なんて考えずに、それぞれ持っている建学の理念を大事にしたらいいだけなのです。私の場合、初代学長の黒正巌博士の『道理は天地を貫く』という大切な理念を伝えていくのが責務だし、大経大でしかできない教育と思っているんです」(德永学長)

充実したインターンシップ

 德永学長は、「基本的な考え方さえしっかり持っていたら、具体的なことは教職員や外部スタッフに任せたら良いと思っている」と言い、キャリア教育の現場への信頼は厚い。その進路支援部の黒正洋史部長は、先駆的なインターンシップへの取り組みからキャリア教育への流れをこう説明する。

 「インターンシップを始めたのは1998年。まだ取り組みされる大学は少ない時期だったと聞いています。キャリア教育は、自らが職業選択することができ、持続的な就業力育成をという観点から、2004年に2科目を正課に導入しました。さらに年々、大学におけるキャリア教育の充実が言われるようになり、大学設置基準の改正も契機となって、現行の体系が2011年に始まりました。キャリア教育を担当できる教員も採用し、『社会人基礎学力』『コミュニケーション力強化』『論理的な思考力の育成』の科目など、基礎的・汎用的能力を強化するためのキャリア系科目を充実させてきました」

 キャリア系授業科目は現在7科目。いずれも選択必修だが、新入生ガイダンス等での推奨もあって受講者は多い。昨年度は約4700名が履修。

 キャリア系科目の効果として感じられるのは、協調性の醸成だと黒正部長は言う。「協調性というのはすごく広い意味です。人と関わるときに大切な、例えば傾聴とか理解とか共感とかが、自分と他者を知ることに重きを置くキャリア教育を通じて、少しは理解できるのだろうと。

 また、社会の動きや流れを知ることで、自分は大学でどういうことを学んだらいいのかが見えてくる。学ぶ意欲・学ぶ姿勢をつけ、働くために必要なことを自分で調べて、自分を伸ばしていく。それが私が思う持続的な就業力です。当然、進路、職業選択が明確になります。産業構造の急速な変化に伴い、若者に求められる職業能力が高度化し、そして情報化社会で、情報がありすぎて、逆に職業選択がしにくい時代ですから」

 キャリア教育のもう1つ大きな柱が、質・量ともに充実したインターンシップだ。量については現在、毎年400名以上の学生が、約200社の企業で、原則5日以上、最長2週間、平均で7日間のインターンシップに取り組む。

 「キャリア教育を充実させるにつれて、就職希望者が増えます。それでインターンシップを希望する学生も増えて、事前の履修説明会では800名ほどになりました」(黒正部長)

 質の面は、事前教育・事後教育の充実が挙げられる。前年度は約400名を3クラスに分け、3年生の前期から90分授業を15回。事前教育では毎回の授業姿勢やレポート、マッチング面接等で学生を評価し、基準に達しない学生は企業には出さないという。事後教育では、インターンシップの内容や成果を共有するグループワークとプレゼンテーションを行う。

 さらに、これらの授業は企業にも開放している。

 「受け入れ企業の方に見て頂いて、われわれの取り組みを理解し、質の担保を確認して頂くことが、ある程度継続的な受け入れにつながると思っています。今後受け入れて頂きたい企業の方にも、『これなら安心だな』と思ってもらえるように、お声かけをさせて頂いているんです」(黒正部長)

 また就労意欲の高い学生を40名限定で選抜する、少数精鋭の「就活塾」も始めている。1泊2日の合宿が、就活の始まる3年生の秋と、3月に行われる。

 「就活最前線を行く特殊部隊として選抜され、横のつながりも強めつつ、自分たちのためだけでなく全学のためにしっかりやってくれ、ということで通称『SWATチーム』という愛称をつけています」(黒正部長)

 3年目を迎えた昨2014年度、150名もの応募があり、予算や合宿施設の都合から定員40名を増やせない大学側には嬉しい誤算となった。

 「選考に落ちてしまった学生もなんとかできないか――ということで、合宿なしの講座を別途開講しました。この50名ほどのチームの愛称は『GREEN BERETS』。企業出身の担当講師も力が入り、SWATに負けじと非常に頑張っています」(德永学長)

大阪経済大学のキャリアサポート

ゼミと協力した取り組みで成果

 キャリア教育の推進体制として、教員側には、各学部から1人ずつ委員が選出される「進路支援委員会」がある。進路支援部とのミーティングは隔週ペースで、教職間のコミュニケーションは密といえるだろう。

 「本学の特徴であるゼミナールの所属率が約97%とすごく高いこともあって、就職支援に関しても、ゼミと協力してやっている取り組みの成果は大きいと思う」(德永学長)

 進路支援部の職員がガイダンス等でゼミに出向くことは教員の理解も得られており、それによって職員が学生の状況を把握できるという。教員も、研究と教育をもっぱらとしつつ、ゼミ生の進路に親身になって相談をうけるというつながりを持ちやすい。「教職員と学生とのそういう関係性を作ることも、大経大のつながる教育としてすごく大事だと思っています」(德永学長)

インターンシップの維持・拡大が課題

 直面する課題として黒正部長が挙げるのが、インターンシップの維持・拡充だ。

 「実は今年ぐらいから、受け入れ企業の取り合いになっているのです。アベノミクスの日本再興戦略にインターンシップの充実が盛り込まれたことや、就職活動のスケジュール変更が作用していると思います。本学はこの4、5年、安定的に200社の受け入れ企業がありますが、危機感が非常にあります」

 対応策としては、1つは授業の質の担保、もう1つは企業へのメリットの提供だ。

 「社会的な使命で受け入れて頂いているところが多いのですけれども、メリットを感じてもらわないと、これからは続いていかないですね。今はインターンシップを就職につなげてはいけないという申し合わせがありますが、そこをつなげることも含めて、何らかの取り組みが将来は必要じゃないかとは思います」(黒正部長)

つながる力NO.1を目指して

 今後の方向性として黒正部長は、インターンシップ学生を見てきた経験から「低学年インターンシップ」の充実を構想しているという。

 「インターンシップ後に留年して留学する学生が、毎年必ずいる。企業に行って、自分に足らないもの、例えば語学力が足らないと気づいて、改めて勉強したいというので。そういうときに留年しなくていい仕組みを作りたい。SWATのような横のつながりにもなるし、社会との関係性をできるだけ早期に持たせてあげたい。

 実は昨年の2年生に、トライアル的にやったのです。募集には多少苦労しましたが、先生方の協力で30名ほど集めることができ、成果も見られたので、スモールスタートとして100名からでも始めたいと思っています」

 德永学長の構想は、「ゼミの大経大」「就職の大経大」「マナーの大経大」の深化だ。

 「2010年に学長に就任して以来、言ってきて、ある程度定着したし評価も得られました。今後は『ゼミでつながる』『中堅企業・大手企業とつながる』、そして『あいさつでつながる』と言っているんです。まとめていうと『つながる力No.1』が今後の方向性です」

 例えば「ゼミでつながる」は、ゼミの教員と学生、学生同士といったつながりだけではない。成果を発表しあう「ZEMI-1グランプリ」で、学内のゼミ同士がつながる。他大学と競い合う「西日本インカレ」や企業主催のコンテストへの参加等で学外とつながる。ゼミごとに地域おこし活動に関わる、地域とのつながりもある。

 「意外と抜けていると思うのが、保護者の皆さんとつながることですよ。あるゼミで、親御さんに卒論の発表を見せたのですが、これは素晴らしい体験だった。年に100万円もの学費を出してくれるのに対して、学びの成果を見せるというこの活動、大事だと思う」(德永学長)

『大経大プロフェッショナル』の育成と発信

 もう1つは「大経大プロフェッショナル」の育成と大学内外への発信だ。最優秀の人材をどんどん外部にアピールしていくことを考えているという。

 「ZEMI-1の学生、クラブで頑張っている学生を象徴的に出していく。本人の自信にもなるし、企業が見れば『ああ、大経大の学生だったら大丈夫』っていうことで就業力にもつながる。

 学生個人だけでなく、ゼミ単位でとか、あるいは教職員も、『大経大プロフェッショナル』にしたらいいと思う。そうして、大学自体の力が引き上げられていく中で、高等教育機関としての大学の本来の役割を実現できると思っています」(德永学長)


(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)


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