安田女子大学 新1号館

新世紀のキャンパス/安田女子大学 新1号館

広島県にある安田女子大学(以降、安田女子)は、近年積極的な改革で注目される大学だ。1915年創設以来、長きにわたり教育や文学領域で県の女子教育を担ってきた。潮目が変わったのは2003年。現代ビジネス学部開設に始まり、家政学部や薬学部開設等を立て続けに重ね、2010年代に入っても教育学部や心理学部開設等の大型改組を経て、今や国内の女子大では椙山女学園大学に並び最大の学部数を誇るまでに拡大。2015年には創設100周年を迎えた。
「新1号館の建設は、老朽化した1〜4号館を建て替える計画がベースです」と、小川圭司施設部長は言う。同時に、連続した新増設改革により学生が多様化したキャンパスで、学科・学年を超えた繋がりを多く創出するため、環境を整備する狙いもあった。安田馨学長室課長は、「安田女子は昔から、学科内の繋がりがとても強い。1年次に先輩学生が企画運営するオリエンテーションセミナーに始まり、週1回のホームルーム(まほろば教養ゼミ)での活動やチューター制度もあり、課外活動もクラス単位で盛んです。そうした動きを学科外でも展開できれば、総合大学としての強さになる」と話す。
 安田女子は徳育を掲げる大学である。それは日常の挨拶や清掃であり、教卓に花を活ける行為であり、然るべき場では制服で居住まいを正すことであり、即ち社会で活躍するためのベースとなる人間性の涵養である。そうした躾にも近い人間教育の伝統こそが、安田女子の強みなのであろう。またそれは、学科内での強い繋がりによって可能だったのである。
 地上5階建ての新1号館の1・2階はラーニングコモンズとして設計された。その自由度が面白い。「どんな人数でも対応できるよう、少人数から50名規模まで、あらゆるサイズのスペースを用意しました。四角に区切って整然と並べたほうが多く収容できて経営合理性は高いのですが、あえて空間的な無駄を作り、モニュメントやインテリアを配置する等、学生が居心地の良い空間を心掛けています」と小川部長。詰め込まず余白を残すほうが空間としては美しい。無機質で機械的なものも時に必要だが、デザインの良いもの・きれいなもので学生の感性を育みたいと言う。「見せる」「見られる」ことにも拘り、可能な限りオープンスペースか、ガラスでの区切りを採用。エントランスの大きな吹き抜けが気持ちの良い空間の広がりを見せる。一見すると美術館のようだ。
 安田課長は言う。「コンセプトは『出会いによる創発。』。学生が4年間で様々な出会いを通じ、多くの化学反応を起こすことを期待しています。ラーニングコモンズで出会いの対象としたのは、“Teachers, Students, Media, Books,Sports, Business, Art&Music”の7つ。
高次の学問研究だけではなく、五感を刺激し心を豊かにしてもらいたい」。
 そのうえで、拘ったのは稼働性だという。「いくら新しい設備を造っても、学生が日常的に使わなければ意味がない。どうすれば学生が使いやすいのか、滞在時間を長くするには、動線上行きにくい場所をどうするか。自然と学科を超えて会話や交流が生まれるようにするには、何よりも場そのものの仕立てが重要と考えています」。設計に当たり、機能面では他大学の施設も参考にしつつ、デザイン面はICTやスタートアップ企業のオフィスデザインを取り入れたという。
 伝統校が見せた新たな環境整備の可能性。取材当日も多くの学生で賑わい、学生がそれぞれに学び、集い、楽しんでいた。狙い通り学生のポテンシャルが引き出され、縦横斜めの関係性が多く創出されることを確信した次第である。 (本誌 鹿島 梓)