未来のリーダーを育てる立命館大学の国際展開/立命館大学

立命館大学キャンパス


1980年代後半より、国際化を展開

 立命館大学は、2019年4月開学のグローバル教養学部を含めて16の学部、22の大学院研究科に3万6000人の学生を擁する大規模大学である。この立命館大学が意識的に国際展開に取り組みはじめたのは1980年代後半からである。各国の大学と交流協定を締結し交換留学制度ができたのが1987年、日本人学生の海外セミナーへの派遣が1987年、短期留学生(1年)の受け入れプログラムが1988年と、各種の制度が一挙に開始している。

図1 2023 年までの数値目標

 2018年5月時点の交流協定校は67カ国・地域、450大学・機関にまでなり、国際教育センターが管轄している全学部の学生を対象にした海外派遣プログラムは、語学力向上と異文化体験を主とした1週間~2カ月程度の短期のイニシエーション型が3プログラム23大学派遣、語学力を高めながら外国語の講義を受ける1セメスターから1年程度のモチベーション型が9プログラム11大学派遣、正規の学部留学等専攻分野の学習を外国語で行うアドバンスト型が3プログラム138大学派遣となっている。加えて各学部が独自で実施しているプログラムは76に及ぶ。その内容も語学の習得を中心とするもの、フィールドワークを中心とするもの、派遣先の国の文化習得を目指すもの等様々である。海外からの学生の招致に関しても、日本語、ポップカルチャー、ビジネス等を学ぶ短期研修(期間は2週間から5週間)、Study in Kyoto Program(SKP)という非正規学生として1~2セメスター在籍し日本語と日本文化を学ぶプログラム、留学生入試を経て学位取得を目的とする正規留学プログラムと多様である。

 こうしたなか、プログラムの利用者は着実に増加した。数字で示せば、図1にみるように、海外からの留学生は、2013年度の2,242名から2017年度には3,818名に増加し、さらに2023年には4,500名とする計画である。他方で、大学間協定に基づく日本人学生の海外派遣は、2013年度の1,244名から2017年度の1,793名まで増加し、さらに2023年度には2,800名とする計画である。海外からの留学生は大幅に伸びているが、日本人の海外派遣も着実に増加している。

西日本初の国際関係学部設置が弾みに

仲谷善雄 総長

 「世界に開かれた立命館」が国際化のモットーであるが、それを象徴するのが1988年の国際関係学部の開設である。1965年の産業社会学部設置以来、二十数年ぶりの新学部設置であり、また伝統的なディシプリンによらない、しかも当時はまだ少ない「国際」を前面に打ち出した学部であることが脚光を浴びた。「この学部の設置により、立命館が国際化に舵をきったイメージが確立したのではと思います。西日本初の国際関係の学部設置であるため、学外に対する一定のインパクトはありましたが、それだけでなく、当然のように国際化を視野に置くこの学部の動向は、学内の他学部にも影響を与えてきたように思います。海外大学と共同で学位を出すということもこれ以降、盛んになったことを特筆すべきでしょう」と2019年1月に就任された仲谷善雄総長は語る。

 そこで、1990年代からの国際化のプロセスを追ってみよう。日本には、海外大学との共同による学位としては、ダブル(デュアル)・ディグリー、ジョイント・ディグリーの2種類があり、前者は、双方の大学の既存プログラムをベースに教育課程の実施や単位互換について協議して実施するもので、学位記は各大学が出すため学生は2つの学位を取得する。他方、後者は、双方の大学が共同で1つの新たな学位プログラムを構築するもので、1枚の学位記に双方の大学名が記されるという違いがある。

 立命館大学では、現在、学士課程においてデュアル・ディグリー・プログラム(立命館では「デュアル」を用いている)を4つ、ジョイント・ディグリー・プログラムを1つ持っているが、これらのプログラムには、様々な日本「初」のプログラムであることも明記しておこう(表1)。

 こうした動向の基盤には、1991年からのブリティッシュ・コロンビア大学との協定による1年間の留学プログラムといった経験があり、また、SGUをはじめとする各種競争的資金に採択されたことが、さらに弾みをつけたといってよいだろう。

海外大学との共同・連携による学士課程(学部・学科)(表1)

多様な学士課程共同学位プログラムを展開

 デュアル・ディグリー・プログラムの嚆矢は1994年のワシントンD.C.にあるアメリカン大学との間の締結である。国際関係学部からはじまったこのデュアル・ディグリー・プログラムは、現在、立命館大学の8学部とアメリカン大学5学部の間に広がっている。これは学士課程のプログラムとしては国内初であった。双方の大学の学生は、最低2年間派遣先の大学に留学し、履修要件を満たせば最短4年間で2つの大学から学位が取得できる。

 2つ目のデュアル・ディグリー・プログラムは2009年から開始した立命館大学国際関係学部とサフォーク大学文理学部政治学科国際関係コースとの間の国際関係学に特化したプログラムである。これも双方の学生は相手先の大学への2年間の留学によって、2つの学位が取得できる。

 それに続いたのが、2014年に情報理工学部が大連理工大学と共同で開設した「大連理工大学・立命館大学国際情報ソフトウェア学部」である。これは一般的なデュアル・ディグリー・プログラムとは、やや異なる仕組みで作られている。まず、日中の大学の共同による上記名称の学部の設立・運営のもとにあるプログラムということにある。オフィスは大連理工大学内にあり、このプログラムでデュアル・ディグリーを取得できるのは、大連理工大学に入学した中国人学生のみである。中国において1学年210名を募集し、そのうち40名が立命館大学の3年次に転入し、デュアル・ディグリー・プログラムのもとで2つの学位を取得する。使用言語は日本語である。残る170名は大連理工大学の学位を取得する。こうした設立・運営方式は日本初、中国の国立大学でも初の試みである。G30の時の提携校であった当該大学からの申し出によって5年ほどの協議を経て開設に至り、中国の制度に則り、教員、科目、単位の3分の1は立命館大学が提供している。

 4つ目が、2019年4月開設のグローバル教養学部でのオーストラリア国立大学とのデュアル・ディグリー・プログラムである。そもそも、グローバル教養学部は学部設立過程においてオーストラリア国立大学とのデュアル・ディグリー・プログラムとすることを念頭において設計されており、このこと自体が日本初である。立命館大学に入学した学生は1年間のオーストラリア在留が求められる。また、全ての科目は両大学が共同して開講し英語で提供され、デュアルといいつつ立命館大学側からすれば、ジョイント・ディグリーに程近いプログラムといってよいだろう。

 さて、次が日本初のジョイント・ディグリー・プログラムである。これは2018年からはじまった国際関係学部とアメリカン大学との間での「アメリカン大学・立命館大学国際連携学科」である。両大学の共同で新たに編成されたプログラムのもと、両大学の連名による学位記が授与される。

 これだけ多様な共同学位プログラムが設置されたのは、全学的な方針なのかという問いに対し、仲谷総長は、「立命館はグローバル化をミッションとしていますが、共同学位の締結に関しては、各学部の学問の性格や問題意識から各学部独自に必要な方向性を決めてきました。それを個々の学部の取り組みにとどめず、大学全体の教学のグローバル化につなげてきたことが本学の特長だと考えます」と話す。これだけ工夫を凝らしたデュアル・ディグリー、ジョイント・ディグリーに加え、表に示した日中韓の学生が3カ国を2年間移動しながら共に学ぶ文学部のキャンパスアジア・プログラム、政策科学部や情報理工学部の英語で学ぶ専攻・コースといった国際教育の多様性にも頷ける。

変わる学生、変わるキャンパスの風景

 しかし、ここで1つ疑問が湧く。それぞれのプログラムの内容は目を見張るが、果たして、この要求水準を満たす学生がどの程度いるのかという疑問である。デュアル・ディグリー、ジョイント・ディグリーへの出願要件として、TOEFLやIELTS等の英語能力が問われる。それも、派遣先の大学へ早くて1年次、遅くとも2年次には出発せねばならない。その時までに、英語による授業についていけるだけの英語力を、学生は身につけることができるのか。決して容易なことではない。立命館大学の場合、それをクリアする学生の一定数は附属校からの学生だという。附属中・高等学校は、附属というメリットを活かし、大学教育の要請に見合う高度な英語教育を行っている。全ての高校がそうなることには無理があるが、立命館で展開されているような個別の高校と大学の「教育」の接続は、もっと考えられてよいのかもしれない。

 ただ、「百聞は一見に如かず」という諺が通用することを、お話を伺いながら思った。たとえ外国語があまりできなくても、短期研修であっても、参加することに意義ありという側面もある。学生のなかには、参加によって大いに刺激を受け、英語力の不足を痛感し、帰国後に学内のTOEIC講座等を受講する者が増えており、そのための講座開設を増やしている。呼び水としての短期研修の意義はあり、これをどのようにして次のステップにつなげるかは、大学としても学生としても考える必要があろう。

 もう1つ考えるべきこととして、日本国内の国際化である。今後、長期にわたって日本に定住する外国人は増加するだろう。外国人と日本人の共生のためには、日本において相互理解を深めることが必要である。外国人受入の短期研修は、この役割を果たしている。とりわけ冒頭で紹介した半年から1~2セメスター立命館に在籍するStudy in Kyoto Program(SKP)は人気が高く、2017年度は245名の受け入れとなった。京都という地の利を活かし日本語・日本文化を集中的に学ぶなか、外国人の日本理解が進むだけでなく、日本人学生も外国人を知るようになる。キャンパスの風景はここ数年で大きく変わったという。それは、また、海外を志向する日本人学生の増加にもつながるであろう。

学園ビジョンR2030に掲げる「挑戦をもっと自由に」

 ところで、立命館大学の現在の中長期計画R2020は、次期のR2030にバトンを渡す時期に差し掛かっている。仲谷総長は、2030年にむけた学園ビジョンR2030「挑戦をもっと自由に」のもと、政策目標にいかに内実を与え具体的な計画とするか、先頭にたって学内をリードされている。総長は大きく4つの方向を打ち出されているが、国際展開に関しては現在の方向を推進していくことは当然として、もう1つ別次元での展開が必要だと考えておられる。それは「突き抜けたグローバル化」と呼称され、次のように語る。「日常生活のグローバル化、日常の意識のグローバル化を推進していくことが課題だと考えています。既に隣の席に外国人学生が普通に座っているような環境、当たり前のように海外研修に出かける環境を作り出しつつあります。これは、グローバル化というだけでなく、ダイバーシティの推進ともいえます。共同学位は、そのためのステップなのです」。共同学位の設置は目的ではなく手段ということだが、では目的は何だろう。

 それは共同学位の特徴をうかがったお話のなかから見えてきた。立命館の共同学位は、他に類例を見ない方式でもって、しかも学士課程で採用しているところに特徴がある。というのは、共同学位の多くは大学院レベル、それも既存のプログラムを基盤とするデュアル・ディグリーが主流だからである。2年間と4年間という期間のみならず、専門教育だけで編成する大学院と、専門教育以外に教養教育等も含めて編成する学士課程とでは、プログラム開設に至る労力が大きく異なる。

 それにも拘わらず、なぜ、こうしたプログラムを設置するのかという問いに対して、仲谷総長は、「確かに、デュアル・ディグリー、ジョイント・ディグリー、どちらも開設までは本当に苦労が多いです。でも、これからの日本を支える世代は、もっと世界を知り、世界の多くの人とコミュニケーションをとることが、仕事の上だけでなく、日本での日常生活においても求められます。そう考えると、学士課程においてそうした力をつけることが必要なのです。未来のリーダーを育てるために、こうしたプログラムがあるのです」と、未来のリーダー育成という目的を強調する。R2030における「突き抜けたグローバル化」も、その一環だという。日本を担う次世代は、グローバリゼーションやダイバーシティを当然とすることが求められ、そうした者がリーダーとして日本を牽引する。立命館の学生をそうしたリーダーに育成したい、という仲谷総長の抱負はよく分かる。時流に乗った国際化ではなく、次世代への投資としての国際展開である。ここ四半世紀、日本の大学はこぞって国際化に力を入れてきたが、こうした明確な目標を掲げて国際展開している大学はどの程度あるのだろう。仲谷総長の舵取りが期待される。

(吉田 文 早稲田大学教授)



【印刷用記事】
未来のリーダーを育てる立命館大学の国際展開/立命館大学