諸外国の留学生獲得施策から考える、今後の日本の留学生施策/「社会経済の転換期における大学設置認可制度の歴史的検証と国際比較研究」プロジェクト代表 濱名 篤


「社会経済の転換期における大学設置認可制度の歴史的検証と国際比較研究」プロジェクト代表(関西国際大学 学長) 濱名 篤 氏



タイトル 【1】本プロジェクトの目的―欧州、アジアの留学生獲得政策を調査-


 コロナ禍で多くの国で留学生受け入れ数は激減したが、たとえば米国では2022-23年度で、大学・大学院に在籍する留学生総数105万7188人(前年比11.5%増、全米大学生数の5.6%)。アジアからの留学生は74万8165人と留学生の70.8%を占め、出身国上位には1.中国、2.インド、3.韓国とアジアの国が並ぶ。学位レベルでは、大学学部:32.9%、大学院:44.2%、Non-Degree(学位を取得しない):4.1%、OPT(Optional Practical Training):18.8%となっており、回復傾向にある。(出典:Open Doors2023 Institute of International Education)

 一方、日本への留学生は2022年まではあまり増加していない。学部・通学制のみでは留学生の実数は7万3000人(2022年)にすぎず、現在の学部生の入学定員66万人(収容定員はその4倍)から考えると少ない。そうした状況下で文部科学省は新たに、「留学生40万人計画」を発表した。この方向性に影響を与えた教育未来創造会議第2次提言では、留学生の拡大についても論及されている。高等教育段階の留学生の数(高等教育機関及び日本語教育機関)を31.2万人→38万人に、留学生における学位等取得を目的とする者の数を19.6万人→26万人としている。全学生数に占める留学生の割合(学部、修士・博士課程別の数)は学部3%→5%、修士19%→20%、博士21%→33%と掲げられている。こうした留学生政策は実現可能で、他国と比べて妥当性のあるものなのだろうか。

 本稿では筆者が研究代表者を務める科学研究費基盤研究A(一般)「社会経済の転換期における大学設置認可制度の歴史的検証と国際比較研究」(令和5~8年度:研究代表者 濱名 篤)の調査結果から、日本の留学生政策の現状と課題を明らかにしたい。科研研究の対象国・地域としては、英国、ベトナム、マレーシア、韓国、台湾、といった政府が設置認可制度を持つ国・地域で、参考事例として米国(NY州等)を加えた。

 下記に、英国、韓国、マレーシアの留学生受け入れの実態を紹介し、日本の課題を浮き彫りにしていきたい。


タイトル 【2】英国~欧州の成熟国 ―留学生60万人計画に向けたプロポーションを推進


英国<欧州の成熟国>


 まず留学生受け入れ数で世界2位の英国である。英国は、デアリング報告(1997年)を契機にブレア政権が授業料徴収へと舵を切ったことをきっかけに、高等教育機関は「稼げる大学」を目指す一方で、リスクベースの質保証政策を進めることで高等教育の質を重視(規制枠組み)しTEF(Teaching Excellence Framework)の存在)と呼ばれる機関格付けで質保証している。英国はコロナ禍においても他国とは異なり、留学生の受け入れ停止をしなかったこともあり、順調に留学生を獲得し続けた。むしろ米国が受け入れ中止していた留学生の受け皿になっていたともいえる。同国政府は2021年には2030年までに60万人の留学生受け入れを目標とすることを発表した。2030年までに達成可能と判断しての設定だったという(日本学術振興会「海外学術動向ポータルサイト」2021年9月2日)。高等教育統計局(Higher Education Statistics Agency:HESA)の2020/21学事年度の数字によると、英国の留学生数は60万5130人で、そのうち大学院生は20万295人であった(日本学術振興会「海外学術動向ポータルサイト」2023年03月23日)。大学院生の比率は高いが、学部生も半数以上である。人口が日本の約半分であることを考えれば、いかにその数が大きいか実感できる。

 UUK(i Universities UK International)は2021年9月6日に「INTERNATIONAL STUDENT RECRUITMENT:WHY AREN’T WE SECOND? PART2」を発表した。その中で英国の高等教育機関、その他の関連セクター及び英国政府に対し、留学生を60万人に増加させるという国際教育戦略のターゲットを満たすかについての提言をしている。具体的な提言は、①快適で多様かつアクセシブルな留学先としての英国のプロモーションを改善、②留学生が大学卒業後、数年間の英国での就業を可能にするGraduate routeを保証、③より多様かつ革新的な資金提供機会の創出により留学生の経済的な障壁を縮小、④英語能力の向上を支援、であった。

 Graduate Routeは、財力証明要件、スポンサー要件、英語能力要件を問われることなく、学位もしくは修士課程を修了していれば2年間、博士課程を修了していれば3年間、あらゆる技術レベルのあらゆる専門的職業に就くことが可能という制度であり、留学生の呼び水になったと考えられる。他国と比較しても留学生にとって配慮がされたビザ移民政策の一環としても位置づく。ただし、移民流入の抑制政策の一環対策として、2023年からは留学生の扶養家族ビザを制限するなどの抑制計画を導入する誘因となっていた
(JETRO,2023年12月8日記事.https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/12/cc1a0eda1d5be9d1.html)。


タイトル 【3】韓国~東アジアの少子高齢化国 地方振興、人口・労働力確保と組み合わせた政策


韓国<東アジアの少子高齢化国>


 韓国は深刻な少子化(合計特殊出生率0.78と2022年現在、世界最低)であり、このままでは1世代で人口が3分の1まで減少しかねない。また、政府による高等教育機関に対するコントロールが非常に強く、過去15年間人口減少で定員割れが深刻になっていたにもかかわらず、授業料を15年間凍結してきていた。国の財政支援は特定目的の事業費のみで教育課程に用途が限定され、大学の経常費には使えず、年度内の支出が求められ、創造的なことはできないという。定員割れ等で「財政支援制限大学」になると事業費の申請もできない。そうした状況にあって、留学生は入学定員外であり、2016年に、政府が留学生の学費の値上げを認めたのでソウル首都圏の大手私立大学は留学生の学費を上げた。ソウル一極集中が深刻な社会問題になっている。

 韓国ではコロナ禍の間も日本のような留学生の入国制限をしなかった。2022年現在の留学生数は16万6892人である。2023年8月には新たに「留学生30万人計画(Study Korea 300k Project)」を公表した。留学生に関する11年ぶりの新政策で、外国人留学生数は2022年の17万人から30万人(2027年)を目標とし、世界10大留学強国に挑戦したい(韓国政府教育部)という。

 具体的な施策として、①留学生誘致:留学生誘致のボトルネックとなっている大学学士制度や教育国際化力量認証制度を全面改編し、地域ごとに「海外人材に特化した教育国際化特区」を指定し、地域の特徴を配慮した地域発展戦略と連携して、留学生誘致事業を開始していく②学業支援:大学在学中の現場学習機会、インターンシップチャンスを大幅増、留学生が就職前に、より多くの分野の仕事に触れる機会を提供。いつでもどこでも韓国語を学べるよう、テキスト・授業提供のデジタル化を推進し、韓国能力試験(TOPIK)もCBT(Computer Based Testing)に改編。③就職支援:学業から就職までの連携支援を強化する。中小企業等へ就職をする場合のメリット付与等も含まれている。

 大学によっては学部1年時に高額な学費とする代わりに、1年間で集中的に語学教育や初年次教育を行う、プレミアム1年生教育というのを売りにしている。韓国語があまり出来ないレベルでも受け入れているケースも見られ、一定の語学レベルになったら授業を受けさせるという猶予制度を作っているところもあり、出来ないまま授業に参加させている大学もあるという。ただし、語学力の低い留学生の比率が高いと、認証制度に引っかかり、ビザが出なくなるということもあるという。韓国語能力試験は1~6級まであり6級が一番上で、5級くらいはないと大学の授業を受けるのは厳しいと言われるが、3級程度で入学を許可して、卒業時には4級になることを条件とする、という基準を設けている大学もあるという。一方で、体育とか芸術といった語学力がそれほど重要でない学科の場合は2級レベルでも構わないとなっており、かなり低いレベルであっても入学させて、自分の大学の語学堂(語学学習センター)である程度勉強すれば学部に進学させるといったように、様々な方法で留学生を増やそうとしているのが現状だという(内藤亜弥子「韓国における留学生受入れの現状・実情」アジアの友553号、2023年3月号)。

 尹政権は2023年から新政策として、地方大学の振興に着手し、グローカル事業を開始した。首都圏外の大学を対象に毎年10大学ずつ3年にわたり採択し、各校へ毎年200億ウォンを5年間提供する(計100億円)。新しい発想の大学を作るため、申請書は5ページのみとしており、独創的大学モデルを作ろうとしている。ただし、首都圏の半導体関連学科の定員拡大は容認する方針は地方大学の反発を招いている。

 釜山ではA大学が他の2大学との合併を交渉中で、ミネルヴァ大学やアリゾナ州立大学をモデルとしたサイバー大学を計画している。2+2課程では、前半2年間は現地の姉妹校に設置した分校でオンラインによる英語の授業を行い、後半2年間は韓国に留学して英語による国際コースで学ぶ例もあるという。海外分校の設置がほとんど見られない日本とは大きく異なる。

 韓国の現在の入学定員は43万人、出生数は23万人と厳しい状況である。人口減少を留学生受け入れで補完し、労働力人口と定員割れの大学の生き残りを両立しようとしているように見える。現在の高等教育政策はまず定員削減ではあるが、首都圏人口集中の改善と留学生受け入れから地方での労働力確保という地域振興政策や人口・労働力政策と組み合わせて実行されつつある。



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