The Learning Station CROSSLIGHT/梅光学院大学

梅光学院大学キャンパス


 梅光学院大学は、文学部人文学科と子ども学部子ども未来学科から成る山口県下関市にある大学である。日本で6番目に創設されたミッションスクールを淵源とし、1967年に女子大学として開学、2001年に男女共学となった。そして、大学開学50年の記念事業の一環として建設されたのが「The Learning Station CROSSLIGHT」である。

 学院長・学長である樋口紀子氏は建設の経緯について振り返る。「かつては学生募集が振るわず苦しい経営状況が続いており、新校舎建設は叶わぬ夢であった。2012年の学長就任の翌年から志願者数が好調に転じ、財政的にも安定した。また文科省の防災機能等強化緊急特別推進事業の補助金を受けるための申請も最後の年となる2017年、その好機を逃さず建設を決めた」。

 スピーディな決断であるがゆえに、建築物自体の構想はゼロからのスタートである。そこで、既知の他大学の特任教授に相談したところ、紹介されたのがこの新校舎の建築設計を手掛けた建築家・小堀哲夫氏であった。

 「その先生から『とにかく1日も早く(小堀氏に)会った方が良い』と言われ、すぐ東京の事務所におうかがいした。すると、模型を提示され、『梅光学院大学の新校舎です』と。すでに様々な情報を調べ、それをもとに準備されていた。『建物が学び方を変え、人を成長させる』という考え方や『学生の居場所を作る』『人と人との多様な交流の実現』という建物のコンセプトもプレゼンされ、ぜひこの人に依頼したいと気持ちを強くした」(樋口氏)。結果として小堀氏は新校舎のコンペティションに参加し、学内の選考委員会で満場一致で小堀氏への依頼が決定した。

 3階建ての校舎には「人と人とのコミュニケーションが生まれる」仕掛けがあらゆる場所に具現化されている。各フロアの導線はジグザグに設計されており、人が歩く距離が長くなり、接点が増えるように作られている。

 1階の教職員が働く場所はフリーアドレス制。教員の個人研究室や職員のセクションごとの執務室もなくし、教職協働での学生支援を目的としたオープンな空間となっている。

 「全員がノートPCで仕事を行い自由に移動。ペーパーレスを目指し、データはクラウド上にアップしている。教職員がみな一つのフロアにいるので、自然に情報が耳に入るから、わざわざ会議をしなくてもいい」(樋口氏)。

 良いことづくめのフリーアドレス化だが、実現に向けては、教員からは研究室に所持している本をどうするのかといった声も出ていたというが、「フリーアドレス制をいかに運用するか、キャリアのある管理職がやると『オフィスはこうあるべき』という志向に陥りがちだと考え、20代30代の若手職員の自由な発想に全て任せた」と樋口学長は語る。

 2階と3階も、壁によって完全に分断されることなく、学びのスペースが多様な顔を持ちながら展開されている。教室によっては上のフロアから参加することもできる。オープンスペースの発想は、学長自身が35年前にアメリカ留学中に行った教育実習先で、オープンな場で自由に学ぶ小学生を見て、日本の閉鎖的な教室との違いにインパクトを受けたことも影響しているという。オープンスペースでの授業に対する学生の反応が懸念されたが、「見たり見られたりすることで、逆に良い緊張が生まれ勉強が進む」という声が多い。

 今後は、教育手法をさらに磨き、この建物で学びへの意欲につながる授業ができているか、自主性・自律性が育まれ、学生が成長しているのかを検証することも必要だと樋口学長は話す。

 さらに、卒業後のキャリア形成もサポートしていけるようなシステム作りも検討中だという。大学のさらなる挑戦に期待したい。



梅光学院大学キャンパス内部

明るい光が差し込む内部。


梅光学院大学キャンパス1階フリーアドレスのスペース

1階はフリーアドレスのスペース。そのほぼ中央にインフォメーションを設け、教員・職員・学生が共に受付を担当。担当した学生には独自のワークスタディ制度で海外留学資金を奨学金として提供している。


梅光学院大学キャンパス1階フリーアドレスのスペース2

教員の個人研究室はなく、職員とともにスペースを活用する。教職員へのアンケートでは相互の交流が生まれるようになったという回答があったという。


梅光学院大学キャンパス本棚

【写真右】教員一人ひとりの個性が現れる本棚。
【写真左】トラットリアは土曜や夜遅い時間も開いている。ワインなどのアルコールも提供。地域の方にも開放されている。


梅光学院大学キャンパス2階教室

家具を担当したインターオフィス社のアイデアで、2階の教室では、色やデザインが異なる個性豊かでデザインコンセプトが明確な365種類の椅子が使われている。


梅光学院大学キャンパスフリースぺース

学生が学び、人と交流し、時間を過ごすことができる様々な場が存在する。ホワイトボードが多く設置され、活発なコミュニケーションを促進する環境となっている。


梅光学院大学キャンパスフリースぺース2

随所に置かれたリンゴ箱を模したオリジナルのボックス。テーブルにしても、椅子にしても、ステージに見立ててその上に立って発表してもいい。


梅光学院大学キャンパスフリースぺース2

自習する学生、お茶を飲みながら過ごす学生等、一人で静かに過ごせるスペースが増えた。


梅光学院大学キャンパスフリースぺース3

階段もオープンな学びの場として活用。


(文/金剛寺 千鶴子)



【印刷用記事】
The Learning Station CROSSLIGHT/梅光学院大学