学修成果の可視化に取り組み、学生の成長実感を実現/高千穂大学

高千穂大学キャンパス


寺内 一 学長

 大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングといった座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働と、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。

 この連載では、この「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置付けに注目しながら、学長及び改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく。各大学が活動の方向性を模索する中、様々な取り組み事例を積極的に紹介していきたい。

 今回は、伝統の「人格教育」と現代性の高い「実学教育」との融合を図る高千穂大学の取り組みについて、寺内一学長にお話をうかがった。

高千穂商科大学から高千穂大学へ

 高千穂学園の起源は、1903年開校の高千穂小学校だ。創立者の川田鐵彌氏が、人格教育を重んじる発想で、小学校から作り上げていった経緯がある。高千穂大学も、高等教育機関として商学、経営学、人間科学といった実学を通じて社会に貢献する人材の育成を掲げつつ、より根本には、人を育てる人格教育という創立以来の教育理念があると、2019年度に就任した寺内一学長は説明する。

 「この教育理念のもとに、『常に半歩先立つ進歩性』という学風の指針があります。さらに、指針を具現化するのが学風の目標で、『偏らない自由人』『気概ある常識人』『平和的国際人』の3つ。これらが高千穂大学の教育の礎と考えていただければいいと思います」。

 戦後の学制改革による新制大学としては、商学部商学科の単科大学「高千穂商科大学」としてスタートし、現在は3学部の「高千穂大学」になっている。

 少人数教育も開学以来の伝統で、学年定員は3学部合計で550人。その規模を活かした「先生との近さ」「面倒見の良さ」「ゼミナール教育」等を特徴として打ち出している。特に初年次教育の「ゼミI」は全学部必修で、10~15人の小クラスで学び方の基本やコミュニケーション能力を身につける。

「大学に入学したばかりの1年生にとってゼミIの担当教員は、頼りにな<る存在です。担当教員がかなり密接な形で学生と関わり、一人ひとりの成長を支えていくのが、本学のゼミナール教育の大きな特徴といえます」(寺内学長)。/p>

目的意識の醸成をサポートするアドバイザー制度

 高千穂大学で近年の課題認識とされてきたのは、学生の目的意識の希薄さだと寺内学長は言う。

 「入学時やゼミIでの調査を見ると、入学時にきちっとした目標を持っている学生と、明確な目標のない学生とに大きく分かれます。商科大学時代は、税理士になりたいなど目標のはっきりしている学生が比較的多かった。でも、経営学部、人間科学部と拡大するのと時を同じくして、そういった明確な目標を持っていない学生が、商学部も含めて、多く見られるようになってきました」。

 こうした学生には、自分はどういう長所があり、将来、自分はこのような方向に向かうべきだということを、より明確にすることが重要と考えられた。

 そこで2002年度入学生からスタートしたのが「アドバイザー制度」で、入学から卒業まで、学生全員に専任教員がアドバイザーとしてつくものだ。目標が明確な学生にはその達成に向けてのフォロー、明確な目標を持たない学生に対しては、自分の夢を見つけ、将来像を描けるよう、個人の特性を見据えながらのサポートを実施している。

 1年生はゼミIの担当教員、2年生以上は所属する専門ゼミの教員がアドバイザーを務める。大学4年間での切れ目のない支援を目指している。専門ゼミは必修ではないので、ゼミに入らない学生には、教務委員会の担当教員がアドバイザーになる。アドバイザーは、随時学生の相談に乗るだけでなく、春学期、秋学期に1回ずつの年2回、担当する学生全員を面接して、様子を確認していく。

「特定された目標ではない、社会人になりたいとかの一般的なものが悪いわけではなくて、そういう学生がすごく伸びていくというのもあります。いかにその学生が自分に自信をつけてやっていくようにするかを考え、そこに手間暇をかけて色々やることは非常に大きなポイントだと思います」(寺内学長)。

学生が自身の目標をプランニングする「高千穂マスタープラン」

 続く取り組みが、経営学部を開設した2001年度頃に検討を始め、2005年度からスタートした「高千穂マスタープラン」。各学年各学期の行動指針と、「授業」「ゼミ」「学友会・課外活動」「キャリア(就職)」の4グループに分かれた学内行事が「マスタープラン」として一覧になっており、それを参考に学生自身が個人の目標を設定し、大学生活4年間をどのように過ごすかの具体的な行動を、「目標管理シート」を使ってプランニングするものだ。学期ごとに、学生が記入した用紙をアドバイザー教員がチェックして、本人と共に振り返りをする。

 この取り組みが重要かつ有効だということは間違いない。ただ、実施上の課題も多かった。寺内学長は、一教員だった当時をこう振り返る。「スタートして数年のうちに、教員たちの間では『なかなか手間暇がかかって大変だね』という話にはなっていました。また、マスタープランに沿って個人のプランを出すこと自体は簡単にできるのですが、それに対して学生自身がどこまでできたかをチェックするのがなかなかできないという課題がありました」。

学修成果を可視化する「高千穂Can-doリスト」

現代的高千穂教育(イメージ)

 そこで、「高千穂マスタープラン」の進化版として「現代的高千穂教育」と「ハイブリッド型サポートシステム」が2019年6月から検討され始めた。

 マスタープランを参考にした目標管理シートを学生一人ひとりが作るところまではそのまま踏襲。大きく変えたのは、「到達度の確認」を重視した点だ。

「『マスタープラン』を一歩進めて、学生が自分で自分の目標について、何が今できていて、何ができていないかを確認して成長実感を得られるようにしていくのが、一番大きなポイントになります。
 また、教員が『君はここまできているよ』と成長を共に振り返ることによって、本人の実感をもう一度、意味付けすることで、いっそうの成長実感につなげていきます」。

 学修成果を可視化するツールとして「高千穂Can-doリスト」を作成する。文字通り「高千穂大学でできるようになること」の具体的なリストで、大学が学生に提供する教育の到達目標を示すものだ。現在は1年生の全学部必修科目「ゼミI 」「英語I /II 」「基礎コンピュータI/II」、商学部と経営学部の必修科目「簿記I/II」といった基本的な科目から作成に着手している。

 例えば、英語のCan-doリストは、リスニング、リーディングなど5つの項目について、初学者のA1から熟練者のC2まで6つのレベルで評価するルーブリック表だ。レベル区分はEUで作成され日本を含む各国で使われているCEFR(セファール)に合わせている。

「基礎コンピュータ」科目のCan-doリストも、インターネット利用、文書作成などの項目について、CEFRと同じくA1からC2までの6レベルで評価する形に揃えた。科目ごとのCan-doリストをこの形で作成していけば、英語とそのほかの必修科目のレベル感が同じように見られることになる。「さらに必修科目を超えて全科目に行くと、もっと色んなものが可視化していくと思っているところです。すぐにはできませんが」。

 学生の自己評価と教員の評価との関係、科目ごとの達成目標との連携等、難しい問題は多い。また、教員の負担の大きさも、課題として残されている。しかし、学修成果を学生一人ひとりに対して可視化する仕組み作りは、大学として大きな目標と寺内学長は考えている。

ハイブリッド型で進める「現代的高千穂教育」

 推進に当たる学内の体制は、職員を含めどうなっているかという問いには、「ハイブリッド型サポートシステム」という名前がそのまま答えになっていた。「主に教員と職員のハイブリッドという意味です。教員、職員のほか、理事会、同窓会、父母の会等、全学あげて学生をサポートすることは前提ですが、特に今回は『教員だけで物事は動かないよ』ということを強調しました」。

 教員に対しては3学部の専任・任期付教員全員が集まる連合教授会、職員に対しても同様の形で、趣旨や実施内容を全員に周知しながら、協力体制を作っている段階という。

「Can-doリストのほかにも、ディプロマサプリメント等、複数の事業を予定しています。それを一度に全部動かすのではなく、浸透していく形になるよう、留意しています。小さな組織で実験をしてから次のステップというように、できるところから少しずつでも、時期をずらしながら準備し、実践に動かしていきます」。

「現代的高千穂教育」は、2020年度に本格的に開始する予定だったが、コロナウイルスの影響で5月上旬の時点でも新年度の学生と直接会えてさえいない状況下、実施は遅れている。今後の実施に当たって、学長が最も困難を予測しているのは、目標を持っていない学生への対応だ。「税理士や公認会計士になる等の目標を持っている学生に対してのサポートは、本学の設立以来、大きな変化はないと思います。その意味で、それほど難しくはない。一方、自分の目標とか夢とか、あるいは自分が何に向いているかとか見極めることができていない学生が多く存在していて、その把握と指導にはかなり手間暇がかかります。

 ただ、面倒見の良さというのは、本学の長所の一つとして守りたい。このポストコロナで対面ができない状況でのフォローは、どういう仕方がいいのか、すごく考えなければいけないと思っています」。

 学内では、一人ひとり面倒見よく手間暇かけた教育をしていく意思統一はできているといい、それは高千穂大学の強みといえるだろう。「ただ、面倒くさいという人もいます(笑)。どんな組織でも色んな人がいるので、強制的にやりなさいではなく、その方の職務としてお願いしてやって頂く形にしています」。

3年後の創立120周年を見据えたプロジェクト

 この「現代的高千穂教育」は、完成まで約3 年を見込んでいる。3 年後(2023年)の学園創立120周年を見据えているからだ。「今年度中に大きな基礎的な柱を固めて、走らせるものは走らせていく。高千穂大学の次の50年、100年に向かっての礎になるようなプロジェクトにしていけばいいと思っています」。

 高千穂大学自体の将来像については、建学の精神である人格教育を根本に考えるという。「人を育てるというのは、4年間で終わるものではない。卒業後も高千穂のファミリーとして育っていき、自分の世界を築いていく、その時この4年間が良い影響を及ぼすような、そういう学園であればと思っています」。



(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)



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