進化する「AO型入試」高大接続答申における「多面的・総合的な評価」の特徴④進化する「AO型入試」(西郡 大 佐賀大学アドミッションセンター 准教授)

進化するAO型入試

世間の注目を集めている東京大学の推薦入試、京都大学の特色入試だけでなく、他の大学においても国際バカロレアを活用した入試や様々な工夫を凝らした先進的な入試が動き始めている。前述のように、これからの大学入試改革は、AO入試のような特定の選抜区分を拡大することが主旨ではない。「学力の3要素」を多面的・総合的に評価を試みる入試であれば、AO入試でも推薦入試でも構わないという考え方である。その意味で、AO入試や推薦入試といった選抜区分が持つ意味は、誰(何)をターゲットとするかという多様な人材確保の手段としての違いに留まるかもしれない。従って、従来の学力検査を中心とした一般入試とは異なる側面から、志願者の能力や資質等を多面的・総合的に評価しようとする入試を「AO型入試」と呼ぶ。各大学の先進的な入試改革を踏まえて「AO型入試」を類型化すると図表6のようになる。

横軸が「目的」、縦軸が「アプローチ」とすることで、4つのタイプに分けられるが、各大学の置かれている状況や立場、戦略によって、どのタイプに該当するかは大きく異なることが考えられる。この類型に全てのAO型入試が当てはまるとは限らないが、何を目的として、どのようなアプローチをとるのかという視点からAO型入試を捉えることで、その位置づけを検討する1つの枠組みとなるだろう。

「AO型入試」への期待感と課題


伝統的ともいえる知識伝授の講義形式を中心とする場合、一般的な教科・科目の学力検査によって知識ベースの基礎学力のバラつきが少ない集団を選抜するほうが効果的な教育活動を行えるという考え方もある。しかし、高等学校教育と大学教育は、教員による一方向的な講義形式から、学習者の能動的な学習への参加を取り入れたアクティブ・ラーニングへと教育のあり方が変わろうとしている。教育のあり方が変われば、それにふさわしい学生の選び方も変わるはずである。


来年度から国による財政支援を受け、各大学の入試改革はさらに加速する。従来のノウハウを発展させたものだけでなく、全く新しいタイプの入試も生まれるかもしれない。ただし、目新しさだけを求めるようなAO型入試の拡大は避けなければならない。改革の本質は、高等学校教育、大
学教育、大学入学者選抜の一体的な教育改革である。入試のみに焦点を絞った改革は、本質的な改革とはいえない。

筆者が期待する1つの形は、教育カリキュラムと連動したAO型入試の浸透である。確かに少数の個性あふれる学生を見つけ出し、既存の入試で入ってきた学生に刺激を与えることを期待する入試のあり方も重要ではあるが、相応のコストをかけて選考した学生が、入学後にその能力を活かせない環境で学ぶことで平準化してしまうことも十分に考えられる。であれば、AO型入試で入学した学生が、その能力を最大限に活かせるような入学後の仕組みを構築することが必要である。本来、教育のあり方があって、それにふさわしい学生を求めるのが筋だろうが、まずはAO型入試のあり方をきっかけとして大学教育改革への波及を期待したい。


AO型入試によって新たな受験者層創出を狙うのは1つの戦略である。それと同時に受験生の学習行動・学習経験をどのように変えるかという点も意識したい。入試で問われなければ、高校では学習しないと言われることがあるが、AO型入試でこそ、大学で学ぶために重要だと思われる学習活動や学習経験を喚起するような仕組みが実現できるのではないだろうか。いわば入試を教育機会と捉えた「受験対策前提」の入試制度設計である。


具体例として、筆者の所属する佐賀大学の事例を紹介したい。佐賀大学では入試改革の柱の1つとして「佐賀大学版CBT」を検討している。いわゆる「CBT(ComputerBased Testing)」ではなく、ペーパーテストでは技術的に評価することが難しい領域をタブレット等のデジタル技術を用いて評価しようという試みである。現在は「化学」を題材に、実験活動等を積極的に行うことが問題を解くうえで有利になるような出題内容を検討している。


もう1つの柱は高大連携活動である。教師を目指す県内の高校生を対象に「高校3年間と大学4年間で教師を育む」ことを目的とした「継続・育成型カリキュラム」を開発した。参加者は、1年次から年3回程度来学し、講話や大学の講義、大学生との交流といったメニューの中でアクティブ・ラーニングを中心とした教育活動を行う。そして、最終的にポートフォリオを仕上げた者には大学から修了証を発行する。これらの成果は、佐賀大学に限らず他大学の入試でも積極的にアピールすることを推進しており、高大連携活動の活性化も視野に入れた改革モデルを目指している。

最後に、AO型入試が乗り越えるべき課題に触れておく。


選抜性の高い大学では、受験生にとって合否結果を受け入れやすい学力検査を中心とした一般入試の割合が大半を占めている。しかし、一般入試の割合が減りAO型入試の割合が大半を占めるようになれば、受験生の「納得性」をどう高めるかという課題に直面する。不合格になっても「学力不足」と納得しやすい学力検査と違い、多面的・総合的な評価には相応の説明が求められる。その説明として最も重要となるのは、APに沿った人材を公正に評価しているという「入試の妥当性」を示すことである。これを説明するには入学者の追跡調査、選抜方法の検証、合格発表後の成績情報開示のあり方の検討等、アドミッション機能の強化は欠かせない。妥当性を説明できなければ、その入試制度は存在意義を失うのである。「多様な方法で『公正』に評価するという理念」(高大接続答申)をどのように実現するのか。各大学の挑戦的な改革を期待したい。

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西郡 大 佐賀大学アドミッションセンター 准教授
東北大学大学院教育情報学教育部博士課程修了。博士(教育情報学)。早稲田大学教育学部卒業後、民間企業を経て、東北大学大学院へ進学。日本学術振興会特別研究員を経て、2009 年より佐賀大学アドミッションセンター准教授として勤務。2012 年より同大学インスティテューショナル・リサーチ室長を兼務。専門は、入学者選抜方法論。

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