開学90周年に向け“動く名城大学”を伝える/名城大学

 高校生の目に自分達がどう映っているのか気にならない大学関係者はいない。大学進学を目指す高校生達は、志望校を絞っていく過程でいくつかの大学について何かしらのイメージを作り上げていく。大学としてそこにどう働きかけるのか。各大学の打ち出す「イメージ戦略」で勝負することになるが、しかしそれは単なる広報活動の強化を意味しない。事実、高校生の志願度が上がっている大学を訪ねてみると、具体的な改革の動きがその大学のイメージを向上させていることが分かる。

 今回、「進学ブランド調査2014」で東海エリアの志願度1位に輝いた名城大学は、まさにそうした好例だ。東海地方最大規模の私立大学として存在感を保持していて、2年後の2016年には開学90周年を迎える。そんな特長を活かしつつも、さらなる高みを目指す改革が進行中だ。天白キャンパスを訪ね、中根敏晴学長と入学センターの本山慶樹課長にお話をうかがった。

動き始めた名城大学

 名城大学は、1926(大正15)年創立の名古屋高等理工科講習所を嚆矢とし、近く開学90周年の節目を迎えることになる。名城大学は今、この開学90周年事業を契機に大きく動き始めている。それを最も象徴するのが新キャンパスの建設と新学部の設置だ。

 開学90周年となる2016年、名城大学は名古屋市東区にナゴヤドーム前キャンパス(略称:ドーム前キャンパス)をオープンさせる。名称通りナゴヤドームの目と鼻の先に位置し、交通アクセスの至便さが売りだ。都市部に勤務する社会人学生向けにも生涯学習の機会を提供するのに絶好のロケーションだ。その新キャンパス開設に合わせて同じ年、大学の国際化を先導するフラッグシップ事業として「外国語学部」を新設することにしている。外国語学部が加わり、名城大学は9学部体制へと拡大する。

 さらに、翌2017年4月には、都市情報学部(可児キャンパス)と人間学部(天白キャンパス)が新キャンパスに移転する。ドーム前キャンパスの完成と学部移転で、天白キャンパスの狭隘化が緩和される予定だ。ドーム前キャンパスは将来、全学16,000人のうち約3,000人の学生が学ぶ場になる。その他、開学90周年事業では新たに共通講義棟東を建設するなど既存キャンパスのリニューアル計画も進行しつつある(図表1)。

 確かに、開学90周年を機に名城大学はにわかに、そして大胆に動き始めているといえる。その背景には、何よりも危機感が存在すると中根学長は強調する。名城大学は歴史的に地味な印象があり、広報も必ずしもうまくなかった。しかし、「間近に開学90周年という節目が迫り、その先には開学100周年という目標も控えている。こうした歴史的機会に名城大学が『動く』という印象を与えることが重要だった」と学長は語る。時代の変化を読んで「動く」大学であることを示さなければ、いくら大規模私学といっても安泰ではない。そんな危機感が後押しした。特に、キャンパス取得は経営サイドの意思決定によって日の目を見た。この意思決定がなければ、名城大学は従来とあまり変わらない行動に終始していたのではないか。経営サイドの決断が大学を大きく動かすこととなったと中根学長は高く評価している。

図表1 開学90周年事業

若手職員の思いを込めた統一メッセージ

図表2 開学90周年に向けたメッセージとシンボルマーク

 開学90周年事業には広報戦略も重要な役割を担っている。開学90周年に合わせ、新たなコミュニケーションメッセージとシンボルマークが作成された(図表2)。2014年4月には、名古屋の主要駅に「RISING つながりを、チカラに。」のメッセージを伝える各種ポスターが並んだ。同時に、ブランドサイトも開設した。「RISING」という言葉には、高みを目指して一人ひとりが起ち上がり、未来へと挑戦する「独創的で強い大学」像への思いが込められている。

 このメッセージとマークは、14人の職員からなる開学90周年事業のためのプロジェクトチーム「つなぐプロジェクト」の手によるものだ。チームは2013年9月、プロジェクト推進室の下に結成された。大学から予算が投じられ、学内公募によるメンバー募集も行われた。入職3年目から30代までの若手職員が手を挙げ、その半分ほどは中途採用の企業経験者だったという。本山課長もメンバーの一人として加わった。「やる気のある前向きな職員達の存在を知り、一緒にプロジェクトを推進できたことはうれしく楽しかった」と本山課長は振り返る。

 「つなぐプロジェクト」のメンバーらは、まず時間をかけて議論することを心がけた。メンバー全員によるインサイト分析を行いながら、必ずしも統一されていなかった課題意識を共有していった。自分達は社会にどう見られたいのか、どんな大学になっていきたいのか。そんな観点から名城大学像を明確化する作業を丁寧に進めていった。一過性のプロジェクトでなく、大学の風土そのものを変えるきっかけとすることを目指したという。そんな若手職員らの強い思いは、次第に、前出の「RISING つながりを、チカラに。」という統一メッセージへと形をなしていった。

 今回こうして開学90周年事業を主導した若手職員達は、名城大学が2026年に開学100周年を迎えたとき、大学運営を中心的に担っていく層になる。中根学長は、今後の名城大学を背負っていく世代の人々が「作りたい大学を作る」ことを目指していってほしいと語る。実際に若手職員に具体的なプロジェクトに取り組んでもらうことで、将来の大学作りにつなげていってもらいたいという思いがある。

 そもそも名城大学では団塊世代が徐々に抜けて世代交代が進んでいる。職員の平均年齢が急速に若返っているという。それを好機と考え、若手職員の力を活用し、学生も巻き込んでイベントを実施する機会も出始めている。例えば、ここ3年ほど若手職員が学生と一緒になって入学式・卒業式を企画している。在学生が新入生を迎え、卒業生を送り出すといった形で学生が主役になる式を企画・実施していて、学生からの評価も高いそうだ。

 ほかにも、カーネーション酵母を用いた名城大学ブランドの日本酒「華名城(はなのしろ)」やそれを原料とした飲む酢の製造・販売など、農学部や経営学部の学生も巻き込んで取り組む事業が話題を集めた。日常の身近なところから大学を活性化していこうとする取り組みが内部で始まっていると言えそうだ。

大学が変わると市場も反応

 何ごとも華々しさだけに目を奪われていてはことの本質を見失う。名城大学の「動き」も、新キャンパスや新学部の創設だけで語ることはできない。大学内部でも着実な変化の種が芽生え、花開き始めている。それが次第に市場のイメージを変えつつある。

 本山課長は「メッセージをきちんと伝えていくと市場はちゃんと反応する」と強調する。入学センターの業務を通して高校生に接する機会の多い本山課長が現場で感じる実感だ。その言葉を裏付けるように、ここ2年間で志願者数が7,000人ほど増えている。過去5年間の志願倍率をみると緩やかなV 字を描いていて、倍率がやや低迷した2012年度を境に回復基調にある。今年度入試の志願倍率は10.6倍に伸びた(図表3)。志願者行動には多様な動機や要因が作用するため即断は禁物だが、志願倍率からは、少なくとも名城大学を見る市場の目が変化しつつあることは確かなようだ。

 大学としての広報のやり方も変わってきている。広報担当の渉外部と入試広報を行う入学センターが協力して広報に力を入れるようになった。「名城大学が動く」「名城大学が変わった」というメッセージを意識的にきちんと伝えていくことを目指してきたと本山課長はいう。大学側がどう伝えたいか明確になっていないと高校生には伝わらない。こう見られたいという意識をしっかり持って伝え方を変えるようになったそうだ。実際、オープンキャンパスで女子高生向けの企画をしたり、ダイレクトメールを送ったりしているという。そんな取り組みが「親しみやすい大学」としてのイメージの向上にもつながり、受験先として名城大学を選ぶという志願者の行動につながっているのかもしれない。

図表3 志願者数・志願倍率の推移

MS-15からMS-26へ

 こうして一定の成果が見え始めているなか、今後、大学全体としてどう戦略性を高めていく計画なのだろうか。

 振り返ってみれば、過去10年間における名城大学の諸改革は、2004年策定の基本戦略「MS-15(Meijo Strategy2015)」を基盤に展開されてきた。MS-15では、長期ビジョンとして、総合化・高度化・国際化により、「広く社会に開かれた日本屈指の文理融合型総合大学」を実現することが目標に掲げられた。

 中根学長は、今後の名城大学が、MS-15に掲げた人材育成、研究推進、社会貢献に関わる基本的なミッションから大きく外れることはないと語る。課題はそれをどう具体化していくか、その仕掛けをどう機能させるかだ。

 例えば国際化だ。今どきの学生は内向き志向だと言われるが、大学が学生を海外に送り出す仕組みを十分に整備していないことこそ問題だと学長はいう。名城大学では2013年、国際化・グローバル化に向けた具体的な方向性を示すため、2018年度までの6カ年計画として「国際化計画2013」を策定した。理事長・学長の下に国際化戦略推進会議を設置し、新たに国際化担当副学長も置いた。2年後の外国語学部設置が国際化計画の中心的事業となることは言うまでもないが、ただそれを待っているだけでは不十分だと中根学長は考えている。

 名城大学では既に、グローバル人材としてのポテンシャルや意識を持った学生を社会に送り出す制度の整備に着手している。1・2年次学生向けの「海外英語研修プログラム」は、学生の海外送り出しを目的とした取り組みだ。2014年度から100人の学生に20万円の奨学金を給付し、6カ国15校に派遣する。外国語学部ができる2016年には給付枠を180人に拡大させる予定だという。また、3年次以降は各学部・研究科が専門に根差した国際専門研修(グローバル企業でのインターンシップや海外ボランティア)を提供する予定だ。

 さらに、こうした海外英語研修や国際専門研修を支えるため、天白キャンパスとドーム前キャンパスに、英語のネイティブ教員が常駐する「グローバルプラザ(仮称)」の設置を計画中だという。学生の自律的な英語学習を促し、英語を読む・書く・話す・聞くという4つのスキルを向上させる機会を日常的に提供する仕掛けだ。

 こうした国際化の例にみるように、具体的な改革を促していくにはMS-15のような基本戦略が今後も必要になる。来年で一区切りとなるMS-15の次の10年を展望すべく、現在「MS-26(Meijo Strategy 2026)」を新たに策定中だという。名称が示すように、開学100周年となる2026年を目標年に定めた新たな戦略だ。経営と教学の下に、教職員による起草ワーキンググループを設置し、既に二十数回の議論を重ねて素案作りを進めている。MS-15ではトップダウン的に策定された面が強かったが、MS-26の策定は構成員のみならず、幅広いステークホルダーの意見をより反映する形で進めているという。このMS-26は近く発表される予定だ。

開学100周年に向けて

 こうして見てくると、名城大学は目前の目標として開学90周年に向けて動きつつ、それと同時に開学100周年を見据えてさらなる高みを目指そうとしていると言っていいだろう。

 そのためにも、実効性ある改革を推進できる学内体制をどう強化するか。今政府や企業からは学長のリーダーシップや大学のガバナンスの必要性が言われ、スピード感をもった意思決定が課題になっているが、「特定の学長だけに力を与えるだけではだめだ」と中根学長はいう。名城大学では学長・副学長の打ち合わせを毎週行い、それを教学執行部会に提示し、さらに大学協議会で諮っていく。全学的な視点で物事を見ながら意思決定を図っていく大学運営が今後の課題になると学長は見ている。

 学生の8割を地元出身者が占める名城大学は今後、東海地区以外も視野に入れ、また女子の入学者も増やしていきたいという思いもある。それでも、まずは開学100周年を迎える頃の名城大学が、今よりもっと学生が生き生きと活動し、教職員が一丸となって目標を成し遂げていく大学となっていてほしいというのが中根学長の思いだ。学生の力を引き出していける大学へ。名城大学の次なる挑戦に期待したい。


(杉本和弘 東北大学高度教養教育・学生支援機構准教授)


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