【TOP INTERVIEW】2025年に110周年を迎え、 時代の変化に対応した8学部18学科体制へ/安田女子大学・安田女子短期大学 学長 瀬山敏雄


瀬山敏雄

安田女子大学・安田女子短期大学 学長 瀬山敏雄(せやま としお)
1949年生まれ
1975年 広島大学医学部医学科卒業
1990年 広島大学助教授
1990年 放射線影響研究所放射線生物学部 細胞生物学研究室長
1998年 放射線影響研究所放射線生物学部部長
1999年 安田女子大学文学部教授兼保健センター長
2007年 安田女子大学薬学部長兼薬学部薬学科長
2009年 安田女子大学・安田女子短期大学学長補佐
2010年 安田女子大学・安田女子短期大学学長
(現在に至る)

「柔しく剛く」女性の活躍するフィールドを開拓

 安田女子大学は、広島市に所在し、7学部(文、現代ビジネス、家政、薬、教育、心理、看護)、学生数約5300名を擁する総合大学です。

 創立は1915年、ちょうど大正デモクラシーを背景に日本全国で大学の芽が多く出てきた頃、創立者・安田リヨウがまだ地方の小さな町だった広島に広島技芸女学校を設立したのが始まりです。そういう意味で安田学園の端を発するところは、閉塞感の中にもできることを前向きにやっていこうという気概の表れであり、それが今も学園の基本となっています。

 学園訓「やさしくつよく」は、安田リヨウが創立時に唱えた建学の精神で、人を思いやる優しさと、自らを支える力を示しています。そして柔しさと剛い意志を持って社会に貢献できる女性の育成を目指し、それを実現するための総合大学化ということで、女性の活躍するフィールドを作り続けてきました。

教育の特長として息づく「安田の習慣」

 創立から変わらない思いを体現した「柔しく剛く」の精神は、本学の伝統と習慣に息づき、教育の特長ともなっています。その一つが「安田の習慣」です。本学では、挨拶・制服・清掃・硬筆書写からなる4つの習慣を通じて、世の中や社会を見て、人と人との関係性を作る教育を行っています。

 まず挨拶ですが、挨拶ができない段階で人は関係性を築くことはできません。そのくらい重要だということです。これは新入生向けの「オリエンテーションセミナー(オリゼミ)」(後述)の時から言っています。制服は1918年から続く全国でも珍しい安田ならではの伝統です。社会にはTPOとして身だしなみを正さなければいけない時があります。見た目だけでなく心の持ちようも日頃から教えるという意味で、入学後約1カ月間と試験期間、式典や公式行事には制服を着用することとしています。清掃は「まほろば教養ゼミ」(後述)の中で定期的に学内清掃を行い、自分達が使う場所をきれいにすることを習慣づけています。硬筆書写は、パソコンの普及によって手書きの機会は減少しているとはいえ、名前一つ書くだけでその人の性格は分かるものです。大変ではありますが、硬筆の先生10人に15段階のステップを踏んで、丁寧に指導して頂いています。

まほろば教養ゼミとオリゼミ

 安田の習慣と並び、学園訓を体現する教育の特長に、まほろば教養ゼミとオリゼミがあります。まほろばとは、「人が生きていくのに心地よいところ」を意味する『古事記』に登場する言葉で、まほろば教養ゼミは、クラスメイトや担任、先輩・後輩との交流等で、縦横斜めの人間関係を築くきっかけを作る授業です。本学ではクラスごとにチューター(担任)制度を採用し、4年間持ち上がりで学生一人ひとりのフォローや相談に乗っています。まほろば教養ゼミはこのチューターによりクラス単位で運営されています。週に一度クラス全員が集まり、講話やディスカッション、例えば、裁判員制度を知るための時間に充てるなど自由に好きなことをしています。

 大切なのは、自分で考えて主体的に行動する学生に成長していくことです。最初は「どうやったらいいか分かりません」と言っている学生も、人と人との接点による環境や主体性を発揮できる機会を得て、自ら成長していきます。安田風に言うなら「相手の立場になって考えてみる」ということです。この言葉は折に触れて先生方にも伝えてもらっています。

 オリゼミは本学で45年以上続いている伝統行事で、毎年4~5月に新入生と先輩学生が2泊3日の合宿を行うグループ研修です。オリゼミを運営するのは主に2年生で、座談会、野外炊飯、キャンドルのつどい等のプログラムを半年以上かけて準備し、新入生に安田女子大学がどのような大学かを表現することで先輩も成長します。本学には、同じ時間と空間を共有することによって人間は成長するものであり、それこそが大学なんだという考えがあります。オリゼミはその後の大学生活にも大きく影響を及ぼすので、コロナ禍でも消毒など細心の注意のもとで開催しました。本学の退学率が0.6%と全国平均より低いのも、こうした取り組みが関係しているかもしれません。

 さらに本学は『就職の安田』の定評を頂いていますが、「安田女子大学の学生なら安心して採用できる」という評価を耳にすることがあります。何かを通して社会を見て人間関係を築いてきた成果として、相手の立場になって主体的に動ける卒業生達が、企業の信頼に応えてくれているのだと思います。

女子大初の理工学部設置と短大の四大化

 何かを通して世の中や社会を見ていくわけですから、選択肢が多いというのは、その可能性を広げることだと我々は考えます。2003年の現代ビジネス学部設置以降、6つの学部を新設してきたのもそのためです。

 そして2025年4月、女子大学として日本初の理工学部(定員180名)を設置できるよう準備を進めています(設置構想中)。理工学部は3つの学科(生物科学科、情報科学科、建築学科)で構成され、理工学分野において女性が活躍する未来を切り拓こうとする本学の挑戦でもあります。設置の準備を進めていたところ、文科省「大学・高専機能強化支援事業」の存在を知り選定を受けることができました。「みんなで思った方向に進めてきたのは、間違いではなかったかもしれないね」と学内で話したものです。

 同時に2025年には、短大を発展的に四大化する予定です(設置構想中)。短大に唯一残る保育科を教育学部に移し、幼児教育学科を新設、児童教育学科との2学科体制とします。

 こうして2025年、本学は8学部18学科となります。折しも2025年は創立110周年に当たりますが、時代と社会の要請に応じてきた結果の、たまたま創立110周年だったと捉えています。学生と大学の接点をどうやって広く堅固なものにするか、これは大学が常に努力をしなければいけないところです。時代の変遷の中で、社会や学生、保護者の願いを成就するために我々が進むべき方向が、理工学部設置と短大の四大化でした。まず近未来においては、そこを焦点と定めて進んでいきます。

(文/能地泰代 撮影/滑 恵介)


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