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失ったブランドを取り戻すために 大学の信頼をいかに回復するか ──東京医科大学の改革


東京医科大学学長 林 由起子氏


改革に向け、本学初の女性学長に就任

 2018年7月、大学のトップが贈収賄事件で起訴され、続いて属性による得点調整という不適切な入学試験が明るみにでて、本学は社会からの信頼を大きく失墜し、存続すら危ぶむ声が聞こえるほどになった。

 そのような混乱の最中に、大学の再生と改革を担う教学責任者として学長に就任することとなった。まさに清水の舞台から飛び降りて火中の栗を拾いに行くようなものであったが、これも運命、と腹を括った。

 就任後の最優先事項は不適切入試への対応と公正な入学試験の実施であった。内部調査委員会に続き第三者委員会を設置し、事実関係を明らかにすると同時に、不利益を被った受験生への対応を行った。在学生やご父母、教職員へも可能な限りの情報提供を行った。報道が先行するなど、もどかしいことも多々あったが、大学として常に「真摯に事実と向き合い、誠実に対応すること」を基本に据えて対応した。入学試験の実施に際しては、入試システムの全面的な見直しをはじめ、ソフト・ハード両面からの対策を講じることにより、不正の発生する余地のない仕組みを確立した。また、法人ガバナンスについては、寄附行為を見直し、役員・評議員の構成比を改め、外部有識者の意見が法人運営に適切に反映できるように改編した。入試改善と法人ガバナンス強化の両面から再発防止策を着実に履行した本学の改革・改善の取り組みが評価され、現在では大学基準協会の機関別認証も追評価にて「適合」の認定を受け、私立大学等経常費補助金も段階的回復に至っている。

同質性から多様性・柔軟性へ

 「なぜ、このような不祥事が生じたのか?」再発防止と更なる躍進のためには、まずその原因を探ることが必要である。本学は1916(大正5)年に理想の医学校を求めた学生達の強い志とそれに共感した多くの支援者の援助によって創られた希有な歴史を持つ私立医科大学である。「自主自学」を建学の精神とし、校是には「正義」「友愛」に加え、建学を支えてくださった方達の恩に報いる意味もあり「奉仕」を掲げている。開学の成り立ちからか同窓の絆は強く、母校愛が強い。反面、同質性を好むがゆえ馴れ合いが生じやすく、多様性や変化に対する抵抗感がある。そのような校風のもと、客観的視点や自由闊達な意見交換が乏しくなり、組織としての柔軟性が欠如し、徐々に視野偏狭の状態となっていたものと推測された。

目指したのは「風通しのよい組織への転換」

 そこで改革の基本を「風通しのよい組織への転換」とした。外からの視点を取り入れるために、新執行部は多様性を重視した人選を行った。教育、医学医療、経営、法律、会計、文化など多様な専門家で構成された外部理事・評議員からは、多くの示唆に富むご意見を頂戴し、それを大学運営に反映させている。また、学長企画プロジェクトチームを発足し、組織改革に向けた意見を幅広く募る全職場アンケート調査を実施。教職員の誰もが自由に意見を投稿できる「学長ほっとライン」も設置した。寄せられた意見は公表し、関連部門に意見を伝え、改善案を提示し、公表することを繰り返している。また、改善につながった投稿者に対しては、学長表彰で顕彰した。役員の現場視察と教職員との意見交換会、研修会などを定期的に開催することで、役員と教職員の積極的な交流を図った。コロナ禍で再開の待たれる学長とのランチ交流会は、気楽なコミュニケーションの場となっている。

改革を可視化する「学長かわら版」の発行

 このような取り組みから、これまで行き場のなかった小さな声も拾い上げることができるようになり、柔軟な勤務時間の設定、職場での旧姓使用、大学事務職員の制服の自由化など、働きやすい環境作りに活かすことができている。専門家チームによるメンタルサポートも含めたきめ細やかな健康管理の充実に向けて学生・職員健康サポートセンターを新設。固定していた部門構成人数の見直しと流動化、教員評価システムの運用、内部質保証体制の構築、学内選考過程や資金配分の透明化など可能な限りの情報開示も積極的に行っている。組織の縦割りを打破し、協力体制のもとで業務効率を上げるために、事務部門の大幅な組織再編も実行した。教学面では医学・看護学科間の交流の活性化、カリキュラムの見直し、コロナ禍に対応したVR教材の開発や感染症実践コースの設置など、新たな取り組みを積極的に進めている。そして改革に向けた様々な取り組みを「見える化」するために、「学長かわら版」「事務局かわら版」を発行し、定期的に発信している。

 社会からの信頼回復に向けて教職員一丸となって改革を進める中で、THE世界大学ランキング日本版2021「教育リソース」部門で私立大学東日本エリア1位と評価されたことは、大きな自信につながったと思う。

 本学のような単科大学は、人と人との距離が近く、対話を重ねることで、新たなアイデアが次々とわいてくる。小回りがきいて新しい取り組みも導入しやすい。そして決まった事は皆で強力に推進できる底力がある。日々、そのすばらしさを実感しているところであり、これが学長職の醍醐味かもしれない。一方で、本学の魅力を十分に外部に伝えられていないことにもどかしさを感じている。今後の課題である。

 この度、新たな学長選出規程のもとで再任された。今後3年間、柔軟に、前向きに、さらなる改革を進めていきたいと考えている。


風通しのよい職場への転換




(東京医科大学 学長 林 由起子)



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