人事評価に役割等級制度を導入し、挑戦する職員の改革への意欲を後押し/京都芸術大学

学校法人瓜生山学園 財務担当理事 髙久正史 氏

モチベーションの起点は建学の理念

 京都芸術大学は、近年急速な勢いで志願者数を伸ばしている。2023年度入試における通学部の志願者数は前年度比110.3%の8873人。2年連続の増加となり、5年前の2018年度と比較すると倍増となった。また、同大学は1998年に芸術系4年制大学として初めて通信教育部を設置し、社会人層への芸術教育に進出。2013年度には完全オンラインの芸術教養学科を開設する等、この領域でも先駆的な存在として成果を出し続けている。

 では、このような京都芸術大学の成長・拡大に職員はどのように貢献しているのだろうか。また、それが実現できる職員をどのように育成しているのだろうか。同大学を運営する学校法人瓜生山学園の髙久正史理事に話を聞いた。

 髙久理事は、人材の育成・評価においても、根本にあるのは「芸術による創造教育の普及を通じて平和で豊かな社会を築く(藝術立国)」という建学の理念だと強調する。

 「本学では、この理念が教職員の間に浸透しています。その実現のために本学は成長し続けなければならない。その意識も共有されていますから、教員・職員ともに事業の普及拡大にポジティブです」

 建学の理念とともに、教職員の行動の軸となっているのが、「学生こそが大学の主役(学生本位)」という考え方だ。これを徹底させることにより、学生のために改善を続けることへの職員のモチベーションも高いという。

 このような組織文化が土台としてあり、さらに2017年度に新人事制度を導入したことが職員の改革・改善への意識をより鮮明にさせた。

必ず改善・構築・開発を含む目標を設定

 「それ以前は年功序列の給与制度だったのですが、若手職員の抜擢も積極的に行っており、年齢が若い上司より年上の部下のほうが給与が高いということも起きていました。そのため、当時、職員に実施したアンケートでは、『何が評価されているか分からない』『公平な評価をしてほしい』『処遇のルールを明確にしてほしい』等の意見が挙がっていました。一方で、執行部としても大学の方針に対して結果を出した職員に報いたいという思いがあり、2017年度に学園の成長と個人の成長を結びつけることを目指して、職員の役割等級制度(図1)を導入しました」


図1 京都芸術大学の役割等級制


 役職ではなく役割(ミッション)に応じて等級が決まる新制度導入によって、仕事の評価結果が直接処遇に反映されることとなり、年齢と給与の関係はなくなった。

 「本制度の運用は厳格に行われており、同一等級の最高号俸になれば、等級が上がらない限り給与は上がることはありません。給与を上げたいと思ったら、より重要度・難易度の高い役割に挑戦していかなければなりません。ですから、個人の目標設定・管理がより重要になります」

 新人事制度(図2)では、この目標管理制度も整備された。

 まず、次年度の学園の中期計画に基づいて事務局重点課題が提示され、そこから各部署目標が設定される。そのうえで部署目標に従って各個人の目標が設定される。

 「個人目標は上司との1on1で密にコミュニケーションして定めていきます。ここで、目標達成への納得度を高め、目標達成に向かうプロセスが個人の成長につながることへの合意形成を丹念に図ります。その際、個人目標にはルーティン業務を設定することはできず、必ず『改善』『構築』『開発』等の言葉を含むことが大前提。また、数値に現れない職務行動についても評価対象としています」

 この仕組みを適切に機能させるためには、評価の精度を高める必要がある。そのため、当初は全管理職が集まった目標設定と評価の合議会議をそれぞれ2日間にわたって実施。評価基準の平準化と評価能力向上に取り組んだ。


図2 新人事制度における職員評価の仕組み


職員と教員との対等な関係作りを重視

 「職員に求めるのは、常に改善、改革に取り組む姿勢です。挑戦した結果の失敗は許容しています。ただし、失敗を次の改善につなげることも大切。そのため、取り組むことについては数値で検証できるようにしています。同時に、『失敗しました』という事後報告ではなく、『達成できそうにない』という状況報告を優先させ、管理職と共に解決策を検討することで、防げる失敗は防ぐ体制をとっています」

 大学組織において職員が存分に力を発揮するためには、教員との対等な関係も重要となる。そのため、必要であれば職員が教員に意見できる環境作りにも力を入れている。「事業に関しては職員、教育に関しては教員が主体ではありますが、これまでの本学の様々な取り組みは、ほとんど職員と教員との協力があって成立しています」

 なお、同大学の職員採用は民間企業からの中途採用が中心。前職の経験に応じた適材適所の人材配置を進めることで、改革型の組織体質は年々強固なものとなっている。



(本文/伊藤 敬太郎)




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