私立大学の中期計画に関する学長調査 詳細分析vol.2

中期計画の策定と運用における専門部署の価値


高木航平・両角 亜希子


2020年4月から中期計画の策定が義務づけされた。そこで、四年制大学の学長に対するアンケートを『カレッジマネジメント』と東京大学大学院教育学研究科の両角亜希子准教授と共同で、私立大学の中長期計画の策定・運用状況等について実施。同研究科において詳細について分析を実施した。

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カレッジマネジメント220号「私立大学の中期計画に関する学長調査」
両角 亜希子(東京大学 大学院教育学研究科 准教授)

1. 規模別に経営計画の専門部署の活用による効果を分析

 本稿では「私立大学の中期計画に関する学長調査」のデータを用いて、経営計画の専門部署の活用が中期計画の策定や活用においてどのような効果を発揮するか、を分析した。

 2020年4月1日に施行される私立学校法改正により、全私立大学において中期計画の策定が義務化される。企業において経営計画は「経営理念を明確にし、それを通じて企業と環境との関係を決定し、その望ましい関係を達成するために資源の獲得・配分をするプロセス」※1と定義されている。その策定には相応の組織的キャパシティが必要で、中小企業庁の2018年調査によると、一般企業では36%以上の中小企業が中長期計画を策定していない※2。一方、大学では規模に拘わらず普及しており、私学事業団による調査では2018年時点で、75%の調査回答校が何かしらの中期計画を作成していた※3。中期計画が、私学事業団の経営支援事業や私学助成の条件に組み込まれ、活用されてきたことも影響している。

 今回の法改正で計画を作らない選択肢がなくなり、他大学の模範や一般的なフォーマットに基づき、「とにかく計画を作る」ケースも増えると類推されるが、企業の経営計画の研究からは、経営管理システムとして活用されれば、構成員の目標達成を促し企業業績に好影響を与えるが、外部報告のみを目的とした時は負の影響を与えるという研究報告もある※4。大学において有効な中期計画を策定・運用するために、企画室をはじめとする専門部署が担う役割について検討するが、大学の規模によってその効果が異なる可能性を考慮し、回答校全体と、定員2000名未満の大学の結果を紹介し、解釈を行うこととする。

2. 計画作成時は情報収集面で専門部署活用の効果

 まずは計画の作成に関する項目から検討する。図1は、専門部署を活用できているか否かで計画作成時点で参照する情報が異なるかどうかを示した。自大学の過去の中期計画や認証評価は、多くの大学が参照しており、専門部署の実施度合いによる差はなかった。一方、実態調査やアンケート調査結果、外部評価結果、高等教育政策情報(各種答申等)は、専門部署を活用している大学で参照度が高く(図1)、それらの情報を入手するために必要なコストや専門性を反映した結果と考えられる。経営計画の実現性を高めるには具体性や裏付けが重要となることは、これまでも繰り返し指摘されており※5、大学内外における情報収集はその基盤となる。定員2000人未満の小規模校に限定してみても、専門部署を活用する大学で参照度が高い。

図1 計画作成にあたっての参照情報

3. 計画の管理・検証でも専門部署による実施率が高い

 次は、計画実行における進捗管理や効果検証だが、計画策定時以上に専門部署活用の有無による違いが大きい(図2)。専門部署を活用できている大学では、定期的な達成状況の点検評価や未達事項の原因分析、達成度の評価報告書の作成や報告会の実施、教職員の取り組み評価と業務改善や人材育成とのリンク、の実施状況も良く、小規模校でも同様の結果が確認できた。

図2 専門部署の計画管理への効果

4. 専門部署活用だけでは経営改善に対する効果は確認できず

 専門部署を活用することで、外部環境を参照した計画を作成し、計画の実行内容の評価や検証にも有効であったが、経営計画の目的たる経営改善にも影響を与えているのだろうか。「(前期の)計画の策定実施が経営改善につながったか」という質問への回答を、専門部署を活用できている大学とそうでない大学で比較すると、違いは確認できなかった(図3)。小規模校に限定すると、統計的には有意でないものの、専門部署を活用している大学ほど、経営改善効果を感じていないという関係がみられた。要因としては、元々の経営状況の影響が考えられる。実は、先に見た計画の作成や管理においては、定員割れ大学においても部署の活用は一定の効果を持っていたが、この項目では効果がほとんどない。経営状況が悪い大学では、専門部署が活用できていても、またはそれによって計画作成や管理体制が強化されても、それ以外の要素の影響も大きく、最終的な経営改善にまでは影響していない。定員割れは小規模大学に多いため、上述のような結果がみられたのだと考えられる。

図3 前期の計画実施による経営改善

5. 専門部署の活用は計画策定、進捗管理・検証に効果的

 大規模校のみならず、定員2000人未満の小規模校でも、専門部署を活用することで、中期計画の作成や進捗管理・検証に効果的に取り組めることが分かった。定員充足している小規模校のなかから、ウェブサイトで公開されている情報を調べてみると、専門部署による進捗管理を実施していても、1人担当や兼職など、必ずしも充実した体制を整備しているわけではない。法改正で義務化するのであれば、そうした専門人材の育成については大学の枠を超えた支援や連携も重要になってくるだろう。

 一方で、既に経営状況が厳しい大学では、専門部署の有無がそれほど影響を与えていない。企業では経営企画部門の役割が、増益傾向の場合は新規事業の企画立案や推進に注力する「経営者の参謀」であるのに対し、減益傾向の場合は、予算編成や会議体の事務局に注力し、情報を収集するが分析や他部署への共有ができない「経営者の手足」になるという※6。専門部署が各大学でどのような役割を果たしているか、さらに検討する必要がある。


    【参考文献】
  • 宮島康暢 (2019) 『中小企業における経営計画による経営理念の浸透―経営の「見える化」実現に向けて―』晃洋書房.
  • 中小企業庁編 (2018) 『中小企業白書 2018年版:人手不足を乗り越える力 生産性向上のカギ』日経印刷.
  • ⽇本私⽴学校振興・共済事業団 (2019) 「『学校法人の経営改善方策に関するアンケート』報告:大学・短期大学法人編 平成 30 年 4 月調査」『私学経営情報』33.
  • 福嶋誠宣、米満洋己、新井康平、& 梶原武久 (2013) 「経営計画が企業業績に与える影響. 管理会計学」『⽇本管理会計学会誌: 管理会計学』21(2)、pp. 3-21.
  • 篠田道夫 (2013) 「第1章 実効性ある中長期経営システムの構築に向けて」『私学高等教育研究叢書:中長期経営システムの確立、強化に向けて (2013年2月)』、pp. 1-18.
  • 吉田徹 (2016) 「経営企画部門の現状と自律的組織変容に向けた課題―874社に聞いたアンケート調査から見えた 経営企画部門の真のあり方―」『Business Research』2016年9・10月号、pp. 55-60.

(2020/4/10掲載)