地域社会に選ばれる大学(清成忠男)

人口減少が依然として続いている。ただ、地域間格差が拡大している。人口減少社会を先取りする地域がどんどん広がっている。こうした地域からは、若者の流出が著しく、人口の社会減が大きい。こうした地域に立地する大学は、未来モデルを転換しない限り、定員割れは避けられない。
この小稿では、人口減少社会における大学存続のための未来モデルを検討する。

1. 視点の転換

 いま、大学は、地域社会との関わりを根本的に考え直さなければならない。

 これまで、大学の「教育・研究成果の社会への還元」という表現がしばしば用いられてきた。こうした表現の暗黙の前提には、大学の方が社会より進んでいるという認識が存在していたように思われる。確かに大学が社会をリードする知的資源を有していることは否定できない。したがって、「センターズ・オブ・コミュニティー」(COC)のように、大学が地域社会発展の中核になりうるといった考え方が提起される。

 だが、大学は長い間、閉鎖的な存在であったから、地域社会より遅れている面が少なくない。したがって、地域社会に新しい教育需要が発生しても、大学は気づかない。気づいたところで的確に対応することができない。新しい需要に対して、教育能力を有する教員を揃えることもできない。

 このように見てくると、設置形態を問わず、高校から進学してくる学生に受け入れられるからといっても、地域社会から受け入れられない大学が少なからず存在することが明らかであろう。現在、わが国は、急速に超高齢社会に移行しつつある。それに伴い新しい教育需要が生じつつある。学生は若者だけとは限らない。成人が数多く含まれる。新しい成人教育が大きな伸びを示すことが予想される。しかも、大都市においても、地方においても、こうした教育需要は大きく伸びると思われる。

 要は、学外の変化に目を向け、積極的に対応することである。換言すれば、切り口を変えた大学改革を進めなければならない。

 ところで、地域社会に関わる新しい教育需要は多様に生じうる。グローバル化の進展、技術進歩、持続可能な発展、等々、多様な需要が見込める。ただ、ここでは、最も重視すべきものとして、超高齢社会の到来を挙げておこう。この面で、わが国が世界の最先端を走っているからである。教育・研究においても、世界の最先端分野を切り拓く可能性が大きい。

2. 超高齢社会の到来

 まず、来るべき超高齢社会の状況を確認しておこう。

 いわゆる2025年問題がクローズアップされている。団塊の世代が後期高齢者に達し、同時に高齢者の絶対数が急増する。とりわけ、三大都市圏における高齢者の集積がきわめて大きい。図1の示す通りである。2025年における高齢者の数は、東京圏が955万人(26.1%)、東海圏473 万人(12.9%)、関西圏554.7 万人(15.2%)となる。三大都市圏の合計は全体の54.2%に達する。高齢者数が30万人以上の都道府県が圧倒的に多い。

 こうした状況は、2025 年までには、医療や介護といったヘルスケア・サービスの需要が大きく伸びるだけでなく、ライフサイエンス、医療機器、創薬などの伸びが見込まれる。さらに、一般の消費需要も変化し、住い方、交通、都市のあり方まで大きく変化することになろう。しかも、地域によって実情がかなり異なるはずである。

 さらに、問題は、高齢者の内容である。2025年までに増加するのは65歳〜74歳の前期高齢者ではない。むしろ、この層は減少傾向にある。増加するのは、75 歳以上の後期高齢者である。ここに、2025年問題の深刻さがある。こうした状況を地域別に見ると、図2の通りである。三大都市圏において、前期高齢者が減少し、後期高齢者が大きく増加することが見てとれる。従来とは異なったヘルスケア・サービスのあり方が求められる。他の問題も重要であるが、とりわけこの問題の解決が急がれる。

 ところで、超高齢社会の特徴を明確にするために、さしあたり高齢者数の地域別アプローチから入ったが、ここで超高齢社会の全体像に触れておこう。

 総人口は、2010年には1 億2806万人であったが、2025年には1 億2066 万人に減少する。5.8%の減少である。増加するのは東京(0.1%増)と沖縄(1.5%増)だけである。

 これに対して、減少が著しいのは秋田(19.8%減)、青森(15.4%減)、高知(14.4%減)、岩手(14.3%減)、山形(14.0%減)、和歌山(13.3%減)、島根(13.3%減)など。

 また、地域経済を支える生産年齢人口の推移を見ると、すべての地域で減少する。全国では15.3%の減少、減少率の大きい県は秋田(28.2%減)、青森(24.9%減)、高知(23.0%減)、岩手(22.5%減)、山形(22.3%減)、徳島(22.1%減)、福島(21.8%)、島根(21.5%減)、鳥取(20.6%減)などである。減少率の大きい県は、人口比率でも50%前後と低い。こうした県は、経済活力も低い。解決すべき課題が多いにもかかわらず、解決能力が低いといわざるをえない。

 いずれにしても、超高齢社会は人口減少社会であり、かつ、地域間格差の大きい社会である。

 もちろん、地域間格差は、人口1人当たり県民所得を見ても大きい。人口減少が著しく、高齢者比率の大きい県においては、所得水準も低い。しかも、所得格差は、資産格差、教育格差、身分格差にもつながる。のみならず、格差は世代を超えることもある。

3. 大学の地域分布

 大学が地域で活動するにしても、設置形態別にどのように分布しているか、とりあえず確認しておこう。まず、地域を大都市とその他に大別しておく。ここで大都市とは、政令指定都市と東京23区を指す。表1の示すように、大学数ではその他の地域に61.8%が立地している。ただ、国立の68.6%、公立の71.7%がその他の地域に存在している。学生数でも、国立と公立はその他の地域で存在感を有している。これに対して、私立は大都市にややウェイトがかかっている。私立大学が存在しない県も島根、高知、鳥取の三つに増えている。その他、私立大学の存在感の薄い県も少なくない。国立は、大都市に大規模な総合大学が研究型大学として立地している。その他の地域においては、医学部が重要な役割を果たしている。

 公立は、小規模な大学がその他の地域に数多く立地し、地域との連携を強めている。

 これに対して、私立大学は、大規模な大学が大都市に集中している。私立大学の状況を端的に示しているのが、表2である。大学数では、地方・中小規模が39.6%と最も多い。ここで中小規模とは、在籍学生数が2000人未満の大学である。逆に、学生数では、大都市・大規模が52.6%を占めている。赤字校は地方・中小規模が目立っている。そして、大学全体に占める赤字校の比率は35.4%である。大都市・大規模においては赤字校の比率は7.4%に過ぎないが、地方・中小規模においては54.1%に達している。地方・中小規模においては入学定員割れが過半を占めており、収入減が赤字の原因となっている。

 地域社会との関わりにおいては、大都市・大規模はこれまで関係が比較的稀薄であった。しかし、今後、大都市には前述したような問題が集中的に生ずる。規模にかかわらず、大学には新しい役割が求められよう。

 他方、地方においては、大学と地域社会の関わりは密になり得る距離にある。やはり地域の問題解決にあたることが今後求められることになろう。

4. 大学の対応

 大学が地域貢献を進めるにしても、何よりもまず地域から学ぶ必要があろう。大学は、地域の現場に蓄積された知的資源から学ぶところが大きいはずである。また、地域における問題解決や挫折、障害などを知る必要もある。地域とのさまざまな共同作業も必要になろう。

 さて、地域社会から期待される大学の役割は多様である。ただ、本稿では、とりあえず、早急に、かつ、中長期的に発生が予想される教育・研究需要に論点をしぼる。その際、程度の差はあれ、どの地域においても生ずる需要に着目する。具体的には、前述の箇所で重視して紹介した超高齢社会における地域福祉を取り上げる。

 この問題のフレームワークは、地域包括ケアシステムである。ただ、制度的にも、実体的にも、さまざまな未解決の論点が存在している。十分に大学における調査・研究の対象になろう。地域の実情をふまえた提案が必要になると思われる。

 また、実体面では、地域社会における医療と介護の統合が主要な論点になる。これまで医療と介護はそれぞれ根拠法規が異なり、両者の間には機能面でギャップが存在していた。だが、昨年、「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」が成立し、本年4月から施行されることとなった。

 今後は、地域の創意工夫を生かしつつ、医療と介護を統合することになる。そして、都道府県及び市町村は、地域の実情に応じて、地域医療構想等に基づいてそれぞれ計画を作成することになる。

 だが、問題は、医療と介護をどう統合するかである。このプロセスは、イノベーションの展開に他ならない。医療と介護の現場の作業の改善というよりは、全体としての事業モデルと経営管理のイノベーションが最重要の課題になる。

 事業モデルは、統合主体(インテグレイター)を中核にした医療施設など介護施設の分散配置ということになろう。統合主体は、全体の経営について責任をもつのみならず、分散配置された現場施設の経営を指導する。現場の施設は、独立ベンチャーといった経営体が望ましい。内発的な創意工夫によってサービスの質を向上させつつ、効率化を進める。それにより、現場の作業担当者の賃金の引き上げが可能になる。現場の施設を大規模な持株会社の下に置くと、自立性が低下し責任の所在が曖昧になる。

 こうした展開にあたっては、人財養成が決定的に重要になる。統合主体のトップマネジメントの人財、現場施設の経営管理人財、地方自治体の福祉関連人財、産学公の調整人財、等々、多様な専門人財の育成が急務である。こうした人財育成は、まさに大学の責務である。学部や大学院の教育改革が不可欠になる。

 さらに、大学を核にしてヘルスケア・サービス産業クラスターが形成されれば、関連産業の立地が進み、地域社会に対する波及効果は一段と拡大する。まさに、新産業群を軸にした新しい地域社会の形成である。医療・介護に関する知的資源の集積が進み、多様な関連産業を引きつけることによって、「医療産業都市」へと進化する可能性がある。

 製造業の空洞化が進んだ地域において、企業の遊休資産・労働力を活用し、複数の大学が協力することによって、新しいヘルスケア・サービス産業クラスターを形成することが考えられる。こうした成功例として、アメリカにはUPMC(ピッツバーグ大学メディカル・センター)がある。「鉄鋼産業都市」から「医療産業都市」へとピッツバーグ市が転換したのである。

 UPMCは地域レベルで医療と介護を統合しネットワーク化した非営利法人である。売上高は1999年以降急速な伸びを示し、2013年には100億ドル(約1兆円)に達している。関連産業を含めた経済波及効果は217億ドル(約2.2兆円)と推定されている。医療サービスの他、子会社を通じて多角化しており、リハビリテーション施設、海外病院コンサルティング、画像診断、在宅ケア、高齢者施設、検査、臨床治験など多様な事業を行っている。また、医療保険の経営も行っており、加入者は140万人に達している。大学の努力により、ヘルスケア・サービスの産業化が進んだのである。

5. 大学クラスターの形成

 前述の産業クラスターは新産業を創出する手段としてきわめて有効である。産業クラスターにおいても大学の役割は重要であるが、前述の福祉分野の他に未来志向型の産業を創出するためには、大学がもう一歩ふみ込む必要がある。大学クラスターの形成である。

 ここでいう大学クラスターとは、地域に立地する複数の大学の協力を密にし、新産業を創出するための組織化をいう。数多くの大学が集積しており、中核となる研究型大学が存在していることが望ましい。

 現実的な可能性を考慮すると、国の地方創生政策に関連して想定される中枢拠点都市に大学クラスターが立地することになろう。広域中枢拠点都市はまさに知的創造拠点であり、多様な知的資源の集積が不可欠である。そのコアとなるのが大学クラスターであり、企業の本社機能や研究機能、シンクタンクなどと連携し、全体を行政がサポートすることになろう。中枢拠点都市が広域を牽引するエンジン役となる。こうした中枢拠点都市が形成されれば、東京一極集中が是正されよう。広域中枢拠点都市は、3大都市圏を除くと、札幌、仙台、広島、福岡などということになろう。これらの都市には、すでに多くの大学が集積している。しかも、文部科学省の「スーパーグローバル大学」のタイプA:トップ型の研究大学が立地している。もちろん、これは一つの例示であり、その他の都市が不適格であると判断するつもりはない。

さて、問題は、大学クラスターの具体的なイメージである。行政が、政策的に「制度」として設計する必要があろう。予算も用意しなければならない。「制度」の根幹は担い手となる人財と組織である。とりわけリーダーと組織の運営人財が重要である。これまで経済産業省が産業クラスターを、文部科学省が知的クラスターを実施してきた。だが、成功例は必ずしも多くない。クラスター・マネジメントに問題があったからである。クラスター組織は多様な機能を有している。運営にあたる人財には、ソフトな専門家集団を動かす独自の知的な能力が求められる。

 とにかく、理念を明確にし、ヴィジョンと戦略を内外に提示することが望ましい。とりわけターゲットとする領域の選択が重要である。参加大学のポテンシャルを生かすとしても、先端的分野のシーズ創立に取り組まなければならない。産業の姿も、将来に向かって大きく変化しつつある。例えば、ドイツでは「インダストリー4.0」が目標にされている。第4次産業革命であり、製造業ルネッサンスである。製造業とサービス業の区分が不明確になり、プロセス・イノベーションも、システム・イノベーションも同時に進む。

 高コストの先進国においては、高付加価値の製品・サービスを供給しなければならない。未来の産業は、まさに知識経済に対応し、担い手は新しい「創造的階層」ということになろう。まさに大学の存在価値が問われるのである。

 クラスター・マネジメントにおいては、ロードマップを示し、イノベーションを促進する努力が重要になる。長期的には、大学発ベンチャーを数多く生み出し、地域に企業家風土を形成することが望ましい。集積が拡大すれば、外から企業を呼び込むことも可能になろう。さらに、地域外の大学や企業とのネットワーキングも重要であり、それを国境を越えて展開することが望ましい。

 大学クラスターは、いずれは新しい先端産業のクラスターに展開する可能性を秘めている。行政サイドも、大学クラスターの重要性に着目する必要があろう。

 ただ、懸念されるのは、大学側の取り組み姿勢である。知識基盤社会においては大学の役割はますます拡大する。だからといって、大学は抽象論では動かない。大学クラスターにおいては教育型大学や文系の領域にも活躍の場があるといっても、なかなか大学の自覚と結びつかない。

 こうした問題を解決するためには、関連する省庁が横断的に連携し、「クラスターズ・オブ・エクセレンス」を実施することが考えられる。地方創生政策の一環として、5年程度の予算を用意し、専門家による評価やコンサルティングを行う。資金面では、公的な基金を活用し、コーチ役の人財を投入する。こうした「制度」を活用し、大学側の意欲と能力を引き出すのである。こうしたプログラムへの挑戦が地域社会に評価されるだけでなく、大学のランキングを引き上げることになろう。グローバルな競争を視野に入れると、大学クラスターの重要性が明らかであろう。

むすび

 本稿では、地域社会から期待される大学の役割として、新産業創出への挑戦を取り上げた。新産業が形成されれば、地元に雇用が生まれる。のみならず、人口が増加に転ずることもあろう。

 具体的には、「草の根」の産業とグローバルな競争に勝ち抜く大学クラスターを取り上げた。2013年度の学校基本調査によって、大学進学時の都道府県別純流出入率がマイナスの地域である三重県(31.3%)、和歌山県(30.6%)、長野県(30.2%)、茨城県(28.9%)、などにおいては、「草の根」の産業化に挑戦する価値は大きい。他方、広域中枢拠点都市の候補地においては、大学はグローバルな競争力の強化が課題になろう。

 いずれにしても、将来に向かって、大学の積極的な挑戦が望まれる。

清成 忠男(事業構想大学院大学学長)