大卒求人倍率で見る 2017年卒の就職動向(ワークス大卒求人倍率調査)

大卒求人倍率は前年よりわずかに上昇

 2017年卒の大卒求人倍率調査(大学生・大学院生対象)の結果によると、大卒求人倍率は1.74倍と、前年の1.73倍よりわずかに上昇となっている。

 求人倍率は求人企業と民間企業に就職希望する学生数とのバランスで決まるので、両者の動向について見ておきたい。求人数は、前年の71.9万人から73.4万人へと1.5万人増加した。対前年増減率でみると+2.1%であり、2015年卒以来3年連続増加しているが、増減率は鈍化している(図表1)。一方、学生の民間企業就職希望者数は、前年41.7万人から42.2万人と5000人あまり増加した(対前年増減率は+1.2%)。学生の民間企業就職希望者数が増加したのは2012年卒以来5年ぶりのことであり、この背景については後で見ていきたい。

新卒採用の未充足企業の増加

 次に、求人数の増減率が鈍化している様子について見ていきたい。大卒求人倍率は2012年卒より5年連続で上昇していることからも、学生にとって就職しやすい環境になっている一方、企業にとっては採用しにくい環境になっている。過去のデータを再分析した結果、図表2で示しているように、新卒採用を行う企業のうち当初の予定人数通りに採用できなかった(未充足がある)企業の割合は、年々増加し、2016年卒においては54.4%となっている。

 また、先ほど紹介した企業の求人数の増減率+2.1%は、前年の採用予定人数(求人数)に対する増減率であるが、2016年卒の採用実績人数に対して、2017年卒の採用予定人数(求人数)の増減率を計算すると+16.2%となっており、採用実績に対しては企業の求人数は大きく増えていることになる。

 一部の企業では、採用基準を下げてまで充足しないと決めている企業も見られるが、多くの企業では応募する学生数からして採用予定数に達しないことから、結果として充足できていない状況が見られ、こうした企業では翌年の採用も前年と同じ計画にする傾向が見られる。採用できない状況が見られるなかで企業の求人数は前年の求人に対して鈍化していることになるが、企業の採用意欲は引き続き高い状況であるといえる。

大企業希望の学生が前年より増加

 学生の状況を見ると、先ほど紹介しているように学生の民間希望就職希望者数が増加している。こちらはリクルートワークス研究所による推計であるため、その根拠を示すと、学生(学部3年、修士1年)自体の数は前年より増えていないが、学生のなかには、好調な就職環境であるから、公務員や教員等ではなく、民間企業に就職を希望する学生がより増えるだろうという背景がある。これまでの傾向でも民間企業に就職する人数は増えており、こうしたことが続くと判断した。

 図表3は従業員規模別の学生の就職希望者数である。2016年卒と比較して2017年卒の特徴は、300人未満の中小企業を希望する学生が減る一方、5000人以上の大企業を希望する学生が増えていることだ。その背景を振り返ると、2016年卒の学生が就職活動をする時の採用スケジュールが、3月1日広報開始、8月1日選考開始と大きく変更されたことがある。調査を実施した2〜3月においては、中小企業を中心にインターンシップや選考活動が既に開始されていたこともあり、中小企業に目を向ける学生が多かった。しかし、2017年卒については、広報開始時期が3月1日と前年と同じである(選考開始は6月1日に変更)が、多くの企業は前年の採用活動において内定辞退が増えたことから、インターンシップを強化し、説明会等学生との接点を強化することをより早い段階から進めてきた。そのため昨年同時期に比べ、多くの学生が大企業と接点を持つ機会が増え、大企業への就職希望が増えた。それに加え、近年の就職しやすい環境により、人気の高い大企業へ就職できるのではないかと考える学生も増えていることも背景にある。このように考えると、学生の大企業志向は例年並みであり、前年が採用スケジュールの変更による特殊要因により、大企業を志望する学生が減少したといえる。

従業員規模間のミスマッチは前年より広がる

 このようななかで、従業員規模間のミスマッチについてはどうなっているか。これまで新卒採用において従業員規模間のミスマッチが課題とされてきたが、大学等における指導によりミスマッチが改善されてきたことがある。

 図表4の従業員規模別求人倍率を見ると、300人未満の中小企業においては2016年卒の3.59倍から2017年卒の4.16倍まで上昇しているが、一昨年2015年卒の4.52倍よりは下回る結果である。その一方で5000人以上の大企業においては、2016年卒の0.70倍から2017年卒の0.59倍まで低下しており、結果として従業員規模間のミスマッチは前年に比べては拡大しているが、過去の2010年3月卒の時のように倍率差が大きな状況にはなっていないといえる。

 スケジュール変更によって学生の希望に変動が見られるなかで、従業員規模間のミスマッチは依然として見られる。学生にとって就職環境は良くなっているが、企業の採用活動を見ると、充足できない企業のうち、応募が集まらないから充足できないのではなく、採用基準を満たない学生までもあえて採用しない企業も見られるため、全ての学生にとって楽に就職できる状況ではない。多くの学生が希望通りの就職を果たすためには、従業員規模間のミスマッチを課題として捉え、解消していくことが求められる。

流通業の倍率が大幅上昇

 図表5には、業種別の求人倍率を示している。流通業、製造業、建設業において前年より上昇しているが、特に顕著なのは流通業の大幅な上昇である。流通業の2016年卒の倍率が5.65倍であるのに対し、2017年卒は6.98倍とほかの業種よりも高い求人倍率となっている。調査開始以来の最高値(2008年卒の7.31倍)には達していないが、それに匹敵する水準である。一部の流通業では労働時間などの働く環境が厳しいという認識が学生に広がっており、学生の志望として流通業以外に目が向いていることが背景にある。

 以上のように、企業の採用意欲は依然として高く就職しやすい環境になっているが、企業は採用基準を下げてまで学生を採用しないことをふまえると、全ての学生にとって就職しやすいとは言い切れない。また、採用スケジュールの変更に柔軟に対応し採用活動を行う企業の姿勢もうかがえる。こうしたことからも、今が依然として続いている従業員規模間のミスマッチを解消するチャンスであると捉え、新卒採用に携わる者は、これまで以上に学生に中小企業に目を向けるような指導やアドバイスをしていき、多くの学生が希望通りの就職ができることが望まれる。

戸田 淳仁(リクルートワークス研究所 主任研究員・主任アナリスト)