国際性の強化をめざして、教育研究の充実をはかる/南山大学

 南山大学(以下、南山)は、共学の大学としては、中部唯一のカトリック系総合大学で、「キリスト教世界観に基づく学校教育」を建学の理念とし、この建学理念に具体的な方向性を与えるために、「Hominis Dignitati(人間の尊厳のために)」という教育モットーを掲げている。現在は7学部16学科を有し、学部学生数は約9500名程度の大学である。本誌の「進学ブランド力調査」でも東海エリアの文系学部で安定して高い評価を得ている。特に女子の興味度、志願度ランキングは3年連続で1位と女子からの不動の人気を集めている。

 ブランド戦略への考え方や今後の方向性について、ミカエル・カルマノ学長、野呂昌満副学長にお話をうかがった。

文理融合の総合大学を目指した発展

 ブランディング戦略について尋ねたところ、「これまで特にブランディング戦略をもたずにやってきた。女子学生からの人気が高いのも初めて知った。ありがたい話だが、そういうイメージを作ろうと大学として努力をしてきた結果ではない」と話す。実際の女子学生割合は学部によって異なるが、大学全体では54.6%であり、確かにそれほど突出して女子学生が多いわけでもないようだ。

 むしろ大学を創設した時から、理系を含めた文理融合の総合大学を目指してきたという(図表1)。南山の母体となったのは南山外国語専門学校(後、名古屋外国語専門学校に改称)であり、外国語系の大学として出発したのは自然なことであった。その後は文系の学部を中心に作り、拡大・発展を遂げてきた。理系学部を作るためには実験設備など莫大なお金もかかるうえ、当時は現在の半分にも及ばない学生規模で、財政的な裏付けがないままに理系学部を作れない時期も長かった。また、1970年代になると名古屋地区に新しい学部を設置できないという文部省(当時)ならびに国土庁(当時)の規制もあったことから、理系学部の新設に至らなかった。1995年に学校法人名古屋聖霊学園と合併後、瀬戸キャンパスを得て、2000年に念願の理系学部である数理情報学部(2009年に情報理工学部に名称変更)を設置することになった。こうした発展の過程で、「国際性に富む、女子に人気、語学が強い」という南山のイメージがあとからついてきたのではないかとカルマノ学長は述べている。

 また、野呂副学長は「地元のオーナー企業の子女が通う大学として始まり、地元に就職する学生が多い。また名古屋は女の子を外にあまり出したがらない保守的な地域であり、地元の伝統校である南山大学に入れれば大丈夫という地元の要請にこたえてきたことが現在のイメージにつながっているのではないか」と述べる。こうして入ってきた学生をいかに4年間で成長させ、南山で学んでよかったという帰属意識をもって卒業してもらえるのかを考え、地道に様々な努力をしてきたという。


図表1 年表(学部新設を中心に)


各学部にあう広報のやり方を模索

 他の大学からみればうらやましい話であるが、地元で安定した高い評価を得ている同大学では、どのように広報戦略を考えているのだろうか。

 昨年度から広報のやり方をかえ、入試のための広報を戦略的に展開することを始めた。志願者数も増えており(図表2)、それなりの効果を実感している。これまでほとんど広報しないできたが、今はアイデアを出しながら試行錯誤を重ねているという。高校の先生方と話すなかでわかってきたこともある。これまで広報が必要なかった大学が急に動きだすと「いよいよ学生募集に困っているのか」とうがった見方をされ、自らネガティブキャンペーンをしてしまう危険性もあることだ。そうであればやらないほうがいい。そこで今は広報に力を入れたほうがよい後発の瀬戸キャンパスの2学部と、それ以外の学部と、別の広報戦略をとるようにした。前者は教育内容などがまだ十分に知られていないこともあり、重点的に広報活動をしたり、入試制度を改革したりすることの効果が期待できる。万一、一つの学部においても志願者の減少や偏差値の低下が起これば他の学部に対しても悪い影響を与えるので、後発2学部を中心に底上げしていくことが広報戦略上、最も重要だという。ただし、イメージだけをふくらませるような広報はせず、教育の内容をありのまま伝えていくことが考え方の基本である。すべての学部で特色ある教育、面倒見の良い教育を丁寧に行っていることを知らしめていくことが大切だという。

 それによって今後も東海地区で着実に優秀な学生を確保していく。10年ほど前から入試の全国展開もしているが、東海地区以外はカトリック系高校からの推薦で入学する学生がほとんどである。むしろ中部唯一のカトリック系総合大学という特徴や立地条件を使って何ができるかを考えていきたいという。


図表2 志願者数の推移(一般入学試験)


面倒見の良い教育

 特色ある教育のありのままの姿を伝えることが大事だというが、南山の教育の特徴はどういった点に見出せるのか。それは、まじめに面倒見良く教育していることだという。

 例えば、授業評価にもかなり熱心に取り組んでいるそうだ。評価が良くない教員は希望すれば学部長やFD委員会で手厚く面談して授業改善をしている。多くの教員が大学に対する強い帰属意識をもっているので、他大学よりはやりやすいのではないかという。また情報理工学部では、事実上、数学や物理のリメディアル教育をしており、キャリア教育の一環として、全学的に大学での勉強の仕方やノートの取り方から丁寧に指導している。また、いま学んでいることが4年生や大学院、あるいは卒業後にどのように役立つのかについても、各学部学科で科目を設けている。例えば「情報通信学特別講義」では企業から人を招き講義してもらうなど、カリキュラム上、手厚く実践しているという。

 特に力を入れているのが卒業論文(以下、卒論)や卒業研究であるようだ。とにかく自分で頑張ってやってみるという経験を大切にしているためだ。卒論や研究は、ほとんどの学部で必修となっており、この成果は冊子にまとめられて、1年生に配布される。なかでも情報理工学部では全員の卒論の発表会も行っている。並列セッションではあるが、1人10分の発表をさせて、内容が芳しくない場合は、再発表、再提出でブラッシュアップさせている。このきめの細やかさには驚かされた。例えば情報理工学部のある学科では、卒論はまず12月1日に出してもらい、教員2名が面談して指導する。学生はこれを受けて再度書き直し、卒論の質を上げている。教員からすれば、自分の研究室の学生以外に17~18名ほどの学生の面談をしなければならず、大変な負担であるが、こうしたシステマティックで、きめ細やかな教育をずっと行ってきているという。卒論も満足できない内容であれば落とすことにも躊躇しない教員が多く、そのため5年生まで残る学生も1割以上いるという。こうした卒論指導会は、教員同士が議論し、刺激しあう場にもなっているようである。

 ただ、名古屋キャンパスの学部の場合、偏差値の高い大学パターンで学生を自由にさせておく傾向があり、今後はもう少し勉強させるようにしたいという。例えば、瀬戸キャンパスにある総合政策学部では、ITスキルについて繰り返し訓練をさせるなどして、高い効果を上げている。この教育モデルは名古屋キャンパスの学部でも有効だと野呂副学長は話す。

最重要課題は国際化の強化

 まじめに教育研究活動を行うことによって、地元で安定した評価を得ているが、今後はどのような方向性で発展したいのかを尋ねてみた。カルマノ学長が繰り返し強調した将来像は、「世界から選ばれる大学」「世界に人材を輩出できる大学」である。このキャンパスにいろいろな国の学生が協同し、世界に情報発信できる開かれた大学となり、学生のレベルから異文化交流をさせたい。南山のキャンパスに来れば、アメリカ、イギリス、中国に留学するのと同じような環境が得られるような場にしたい。そのためには教育研究が魅力的であることがなにより大切であるため、中味を充実させずに広報戦略だけに力を入れることはしないという。2010年度の「学長方針」のなかでも国際化の強化は最重要課題として明記され、すでに様々な努力を始めている。

①留学生の受け入れの拡大

 海外からの留学生は現在、300名弱程度である。このうち、外国人留学生別科での受け入れが毎年140名程度である。学部の留学生は約130名で、そのなかでも総合政策学部が111名と最も多い。こうした数をさらに増やしたいという。

 外国人留学生別科は交換留学生の受け入れを行っており、日本語教育と日本文化の教育にはかなり自信を持っているという。彼らは日本語習得を目的として、1年間のプログラムに参加するが、交流協定校の日本語専攻を持つ大学に限られており、外国人留学生別科だけで留学生数を増やすことには限界がある。そこで、外国語による講義(特に導入科目)を増やしてもらうよう、各学部や研究科に呼びかけている。ただ、すべてを外国語による授業にしようとは考えていない。留学生に日本語で講義をしないのもおかしい。外国語による授業をきっかけに一定割合を、学位取得を目的とする留学生として、学部や大学院に取り込むことができればと考えているという。日本人学生にとっても学んでいる外国語を使う機会を増やせる効果も期待できる。

 学位取得を目的とする留学生の受け入れについては、瀬戸キャンパスの総合政策学部が良いモデルである。1年の間に日本語教育を徹底して行い、4年間で教育できるプログラムを作っており、これを他の学部にも広めたいという。現在、カルマノ学長のゼミには韓国からの留学生がいるそうだが、留学生が1人いるだけでゼミの雰囲気や他の学生の問題意識も変わるので、留学生の受け入れは大事だと実感している。

②南山の学生の海外派遣制度

 グローバル化が進む社会のなかで、多文化を経験し、外から日本を見ることが大事であり、そのために南山の学生を海外に送り出すことにも力を入れている。現在、語学研修を含め、長期・短期を合わせて海外留学をする学生は年間500名ほどいる。そのなかで派遣留学制度(交換・推薦・認定)を利用したものは101名。一方で、休学して自費留学をしたものは111名である(2009年度実績)。休学をすれば、当然4年間で卒業できないので、こうした状況を改善するための制度改革を行う必要があるという。

③教員の研究レベルでの国際交流

 南山で特徴的なのは、学生だけでなく、教員対象の留学制度もかなり充実している点だ。ほとんどの教員が着任後3~4年の間に、1年から1年半程の留学をして、海外とのネットワークを作り、研究の充実を図っている。こうして教員を留学させるのは教育活動の面でも負担が大きいが、できるだけ若いうちに教員を留学させる伝統があるという。そのためほとんどの教員が英語でのコミュニケーションにも不自由がない。また研究休暇も10年に一度は取れるようにしている。真の意味での国際交流を達成するためには教員の研究レベルでの国際交流が根づいていることが重要だという考えによるものだ。ちなみに外国人教員の占める割合は約2割だという。昔は25%ほどであり、海外の教員や研究者の招へい実績はまだ多くなく、これについても増やしたいとのことだ。

 近年、「留学制度が整っていても海外に行きたがらない学生が多い」とよく聞くが、休学して留学する学生も相当数いるという海外志向の高さはこうした教育環境に身を置いているからかもしれない。また、こうして大学から留学することにより、教員たちの帰属意識が高くなる効果もあるという。

④国際化のための海外拠点づくり

 以上のような人的交流を推進するためにも、まずは交流協定校を増やすことから積極的に始めていく必要がある。現在61大学と交流協定を結んでいるが、このうちカトリック校は10校しかないので、世界のカトリック大学との連携も強化する。例えば韓国ソウルにあるイエズス会系の私立総合大学である、西江大学校とも協定を結んだが、将来的にはスポーツ競技の対抗戦など、幅広い面での交流を深めていく予定だ。

 拠点作りとしてもう一つ力を入れているのが、留学生の卒業生ネットワークの組織化だ。1年間を南山で学んだ外国人留学生別科の卒業生は4500人ほどに達している。この同窓会を立ち上げて、名簿を作ったり、定期的にメイルを送ったりしている。「南山で学んでよかった」と思っている卒業生を大事にして、今の南山の姿を発信していく。学長は「海外向けに広報するためコンサルティング会社を雇うことは一番簡単かもしれないが、南山らしくないので今はそこまでやらない」という。まずは卒業生のネットワークを機能させてそれを広報の代わりにすることを考えているという。

⑤国際化推進の体制整備

 国際化をさらに推進するために2010年度から国際化推進本部を特別委員会として立ち上げた。国際化に特化したプロジェクトチームでカルマノ学長自身が本部長を務め、各学部から学長指名の教職員が参加する。最終的にはどこにお金を使うのかという問題になるので、学長自身がリーダーになって進める。

 現在検討されているのは、例えば国際的な研究をする教員のための競争的研究経費、テレビ会議等インフラの整備、留学生のハウジング問題の解決(ホストファミリーや交流会館の定員増)などである。

 また2011年には、地上7階地下1階の新棟が完成するが、ここも国際化の拠点になることが期待されている。2階の国際交流フロアには、国際教育センター、ワールドプラザ、英語教育センターが入る予定だ。ワールドプラザは日本語禁止のスペースだが、瀬戸キャンパスで始めて効果を上げているので、名古屋キャンパスにも導入された。英語教育センターは、ハンス ユーゲン・マルクス前学長(現南山学園理事長)が「語学の南山」の強化をうたって立ち上げたセンターである。またこの建物には、2011年から大学の中の一つの学部となる短期大学部も入る。南山短期大学は実践的英語教育の面で社会から高い評価を得ており、大学の外国語学部と連携してさらなる高い教育効果を狙う。

開かれた運営で発展を目指す

 安定している大学らしく、教員集団が今後の方向性を考え、皆で教育研究の充実に向けて努力している様子が印象的であった。南山は教授会が反対すれば通らないという面では教授会の権限が強い大学だが、講師から教授まで皆が出席し、若手も自由に議論する雰囲気があり、皆で議決しているという。そうした意味では開かれた運営で、創設時からチームで学園全体を運営してきたということだ。まじめに教育研究をする南山らしさでさらなる発展を遂げることを期待したい。


(両角亜希子 東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策コース講師)


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