アクティブラーニングを支えるコミュニティ・コラボレーションセンター/愛知淑徳大学
愛知淑徳学園は、1905年に愛知県下初の私立高等女学校として誕生して以来、100年を超える伝統を持つ。その長きにわたる伝統の中、愛知淑徳大学は、時代の流れや多様化する社会の要請に的確に応えて1975年に開学した。その後「共生」が社会の大きな課題となる時代を迎えるとともに、1995年の創立20周年にあたって男女共学化を果たし、現在では8学部を擁し、8,000名を超える学生数を誇る大学へと拡大している。
愛知淑徳大学には、「違いを共に生きる」という基本理念がある。男女の性差だけでなく、国籍の違いを越えて、外国人留学生や、年齢や世代の異なる社会人を受け入れており、健常者と障がい者が共に学ぶこと、自然環境との共生等を視野にいれながら、基本理念の一層の充実を目指している。
この基本理念は、「地域に根ざし、世界に開く」「役立つものと変わらないものと」「たくましさとやさしさを」の3つの具体的テーマの形で表現されており、様々な教育体制の確立と教育実践に反映されている。それはボランティアをはじめとする体験教育の充実にも表れており、社会で活躍できる人材を育成するために、主体的な学びを引き出すアクティブラーニングに全学的に取り組んでいる。
その中心的役割を担っているのが、コミュニティ・コラボレーションセンター(CCC)である。初代センター長である五島幸一教授(現メディアプロデュース学部長)に、アクティブラーニングの導入や展開、CCCの果たす役割等についてお話をうかがった。
3つのセンターが連動した全学的展開
愛知淑徳大学では、全ての学生を受講対象とした全学共通教育にアクティブラーニングを位置づけている。従来、スキル教育、資格関連、教養教育、スポーツ科目という分け方で全学共通科目を考えていたが、それに「体験教育科目(アクティブラーニング)」という分野を加えたのである。
この新たな分野を導入するきっかけは、2006年にCCCが設立され、キャリアセンター、国際交流センターとの連携を考え始めたことにあるという。ボランティア活動を支援する「CCC」、 インターンシップやキャリアサポートを行う「キャリアセンター」、 海外留学を支える「国際交流センター」が、幅広い分野で体験教育科目を開設し、それらを連動させた教育を展開しながら、学生が多面的に学びを得られる機会を豊富に用意している(図表1)。
3つのセンターに共通する「実体験を通した学び」を総称して「アクティブラーニング」と称し、単に学生に学外で体験や経験をさせるだけでなく、事前学習・事後学習があり、その中で「気づき」を得て、次のステップへと移っていくというプロセス全体を「アクティブラーニング」として捉えている。
CCC設立の背景
アクティブラーニング導入のきっかけとなったCCCであるが、その設立のきっかけは、「学生をただ学外に出せばいいのか、地域の人々と話せばいいのか」という問いにあったという。当時、現代社会学部に所属していた五島教授は、フィールドワークで学外に出ている学生の様子や提出されたレポート等を通して、「その経験をより教育的につなげることはできないか」と強く思っていたという。
受け入れ側の地域社会にも目を向け、「こうした活動を地域に根付かしていくことができないか」との思いも抱いていた。人材育成を超えて、より直接的に社会貢献ができないかと考え、理系であれば産学連携といった形もあるが、文系でもできる形はないかと模索した結果、地域連携という形が思い浮かんだという。
それは大学の基本理念に関わるテーマ「地域に根ざし、世界に開く」にもつながっており、「ボランティア」というよりも「コミュニティとのコラボレーション」といった形で全学的に取り組むことができないかという思いが強まっていったという。共学化したことにより、学生のアクティブさに弾みがついたことも、その思いを後押しした。
こうした五島教授の思いに対し、当時の学長は「好きにやってみなさい」と全権委任の形で応えた。
その後、2004年にコミュニティ・コラボレーション構想委員会が設置され、五島教授の声かけに応じた30代の若手教員ら各学部より5名の教員により、センターの構想について検討を開始した。
翌2005年には、コミュニティ・コラボレーション準備委員会が設置され、具体的な検討も進めていった。設置準備室も開設し、インターンシップの試行やボランティア活動支援が開始され、専属スタッフも着任している。スタッフには大学職員だけではなく地域の方も入っており、地域からの目線をもって取り組みを進められたことが、その後にも大きく影響しているという。
2006年9月、こうした構想・準備期間を経て、地域社会との確かな連携を進めるべく、CCCは長久手・星が丘の両キャンパスに開設された。現在は、教職員スタッフ、学生スタッフのほか、各学部の教員が運営委員として携わりながら、「地域に根ざし、世界に開く」という姿勢で、学生一人ひとりが持つ輝く個性や未来を拓く力を、地域での「体験」や「実感」を通して引き出している。ただし、「教員は前に出ず、学生が地域と大学を結び付けてくれる」と五島教授が言うように、教員はあくまでもコーディネイトする役割であり、動き始めたら見守るスタンスをとっている。そこには、CCCの取り組みは「教育」であるという思いが強く表れている。
学生の実践力を育む「教育」プログラム
CCCの取り組みは、学生の実践力を育む「教育」と、学生の自主活動を応援する「支援」が両軸となっている。両者の柔軟な体制を整え、地域の人々と共に活動し、学生が「文化」「世代」「地域」「社会」の違いや多様な価値観に共感して、自己を成長させる「生きた学び」を得られるようにサポートしている(図表2)。
1つの軸である「教育」としては、地域や自治体・企業と共に行う社会貢献活動に、学生が段階的にチャレンジできるよう、ボランティアの視点と専門性の視点をベースにCCC開設科目を開講している(図表3)。
講義型授業の「入門ボランティア」「障がい者支援ボランティア入門」では、初めてボランティアにチャレンジする学生も参加しやすいように、ボランティアについての基礎知識やスキルを学ぶ講義から、地域社会の人々と積極的に関わることができる数多くの体験学習まで広く取り入れている。「入門ボランティア」は1年生を中心に100名を超える学生が受講している。
次のステップとして位置づけられる、課題探求型・演習型授業の「コミュニティ・サービスラーニング( Ⅰ~Ⅴ )」では受講者の上限を20名程度とし、「まちづくり」「企業のCSR活動」「地域メディア実践」「地域福祉」「日本語学習支援」の5つのテーマに基づく、より具体的な地域活動に取り組んでいる。様々なコミュニティとの地域連携プログラムを企画・実践し、地域社会の一員としての自覚と能力を養っている。
こうした授業を通して地域や社会へと一歩を踏み出した学生は、自ら考え、行動する実践力を高めていくという。
学生の自主活動を応援する「支援」活動
もう1つの軸である「支援」としては、様々なコミュニティとの架け橋となり、学生が自ら活動を企画・実践できるようサポートをしている。
自主活動への意欲が芽生えるきっかけは、個人的な興味、学部の授業、ゼミ活動、クラブ活動等一人ひとり異なり、活動の目的や内容も多岐にわたる。そこでCCCは、学生の力を必要としている地域や企業等との出会いをコーディネイトし、学生の思いを具体的な活動へと結びつける橋渡しをしている。
さらに、学生が活動中に課題に直面したとき、自分自身で答えを導き出せるよう、考える力を引き出すサポートも大切にしている。CCCでは、スタッフが気軽に学生の相談に乗っているが、それは指導やアドバイスというよりも、学生の声に耳を傾け、「聴く」というスタンスに近いという。
これらの自主活動を資金面で応援する「チャレンジファンド」制度も2009年度より設けられた。「社会貢献」「チャレンジ」「継続」をキーワードに、学生が主体的に企画した活動内容を公開コンペでプレゼンテーションし、地域のニーズに応える活動や社会的に意義の高い活動に対して、大学の後援会の協力により助成する制度である(最大10万円)。教員とスタッフによる審査を6月に行い、採択された団体については、その年度の3月に連携先にも来校してもらい、一年の活動を皆で振り返る活動報告会を開催している。
広がる支援の輪と学生の成長
学部やゼミ、教員ごとに点在していた地域との活動やつながりがCCC開設を機に線で結ばれ、学外の多様なコミュニティへと続く道となり、より多くの学生たちが地域との活動にチャレンジするようになっている。
もちろん、全ての学生がこうした活動に積極的に取り組んでいるわけではない。そもそも、進学目的や意欲の低い学生もみられるという。こうした学生が地域と自主的に関わりを持つことは難しい。しかしCCCに立ち寄り、そこを居場所として、仲間と共に地域に出向くとなると格段にそのハードルは下がる。
学生は活動するだけでなく、自らの活動を昼休みに発表している。教室の中で一部の学生を対象に行うのではなく、多くの学生が日常的に通りかかるスペースを利用することで、活動に参加していない学生や教職員に対しても影響を及ぼしている。発表に興味を持った学生の勧誘も同時に行うことで、その輪は広がっていくという。情報配信等を希望するためにCCCに登録している学生は全学部生の18.5%、最も多い3年生に限れば26.3%にも及んでおり(2011年度末時点)、一部の特殊な学生の活動といった印象は学内にはない。
また、「2010愛知環境賞」優秀賞をセンターとして受賞する等、こうした活動は対外的な評価も得ている。受験生にも刺激を与えており、CCCでの活動を希望して愛知淑徳大学への入学を決めた学生もいるという。
しかし、こうした取り組みは手間が非常にかかるわりに、成果を数値化して示すことは難しい。
愛知淑徳大学では、その成果を主に「学生の成長」から感じ取っている。学生一人ひとりがボランティア活動やインターンシップ、留学等に積極的に参加することで、社会に通用する実践力や行動力を養うと同時に、人間として大きく成長するチャンスにもなっているという。
アクティブラーニングの機会を活用し、様々な人とインタラクションを築き上げる経験をすることにより、学生は自分のポジショニングが分かっていく。チームの一員として、他者から声かけを受けたり、他者の模倣をしたり、時には痛みや失敗も経験しながら実際に動くことで、経験の浅い学生も自分の立ち位置や役割を意識できるようになる。経験を積むにつれ責任感も芽生え、関わってきた地域とのつながりを継続するためにも、次世代の育成に目を向けるようになるという。
今後の課題
こうした成果を感じる一方で、検討すべき課題もあるという。
CCCは、学生が学外の様々な地域のコミュニティに能動的に参加・交流し、地域の人々とともに活動しながら、実践的な生きた知識や技術を学ぶことを支援する教育組織である。こうした教育活動を通して、豊かな人間性や社会性、さらにはそれぞれのテーマに沿う深い専門性をそなえた人材を育てることができるものと期待している。
そのためにも、学部での専門教育との連携は不可欠である。近年は連携先から学部へ声もかかるようになり、専門教育へつなげる足がかりもでき始めた。学生の様子を通して学部の教員の関心や理解も広がっており、学部の教員が活動を進める上での相談も増え始めている。とはいえ、学部によりその進み具合には違いもあり、全体的にみれば十分であるとは言えないという。
また、近年、グローバル人材の育成が大学に求められている中で、海外ボランティアの拡充は愛知淑徳大学にとっても推し進めていくべき課題の一つとなっている。
そうした課題は、愛知淑徳大学に限らず、アクティブラーニングに取り組む多くの大学で抱える課題といえるだろう。
愛知淑徳大学では、CCCが大学と連携先との接点となり、アクティブラーニングを進める上でのワンストップサービスとして有効に機能している。学生が地域と共に歩みを進めるたびに、人とのつながりや活動の幅は大きく広がり、ゆるぎない礎が築かれている。
意外なことに、こうした取り組みはGPをとっていない。であるが故に、「活動ありき」で時限や当初の計画等を必要以上に意識することなく、「学生ありき」で臨機応変に活動し続けているようにも感じた。学長の決断と、思いを持つ教員らのリーダーシップにより、着実に堅実に「学生のためになる」教育や支援を積み重ね、組織としても成長し続けていくことを今後も期待したい。
(望月由起 お茶の水女子大学 学生支援センター准教授)