地域社会のニーズに応える短大の新たな可能性/仙台青葉学院短期大学

 短期大学が不振にあえいでいる。高校生の大学進学志向の強まりを背景に4年制大学に学生が流れ、同じ短期高等教育機関である専門学校との差別化にも苦しんでいる。そんな苦境を前にして、短期大学が歴史的役割を終えたと見なす向きもあるにちがいない。

 しかしそれは妥当だろうか。グローバル化や情報化が社会の隅々に浸透し深まっていく現代、人々には生涯にわたって幅広く学び続け、変化に対応していく力が求められるようになっている。高等教育に対するニーズは確実に高まっている。そこに短大として貢献できることはないのか。短大が強みを発揮する余地は本当に残されていないのか。

 本稿で紹介する仙台青葉(せいよう)学院短期大学は、そうした問いに真正面から向き合おうとしている事例だ。専門学校運営で培った経験を梃に、ここ数年の間に積極的に学科を新設し、短大としての可能性に挑み続けている。具体的にどんな取り組みが展開され、何が効果を上げているのだろうか。同短大の藤村重文学長、専門学校・短大を運営する北杜学園の鈴木浩二副理事長、傳法谷晃信入試広報センター長にお話をうかがった。

「専門学校」運営の実績

 仙台青葉学院短期大学を運営するのは学校法人北杜学園だ。1980年、「仙台スクールオブビジネス」を創立し、その歩みを始めた。翌年には学校法人格を取得し、専修学校としての認可を受けた。今年で創立35年目を迎える。人間でいえば青年期を過ぎてちょうど壮年期に入った頃。心身ともに成熟し、最も活動的に仕事のできる働き盛りといったところだ。そんな連想をさせるほどに、同学園には今確かな勢いがある。そのことは、これまでに同学園が進めてきた精力的な「専門学校」の設置と運営に見ることができる。

 2014年現在、北杜学園が仙台市中心部で展開する専門学校は都合5校だ(図表1)。ここまで約30年の歳月をかけて、医療や福祉、工学、デザイン等々の人材育成分野を幅広く網羅する学園グループへと成長してきた。具体的には、保育士、介護福祉士、歯科衛生士、理学療法士、作業療法士、公務員、税理士、測量士、グラフィックデザイナーといった広範な専門職業人育成を手がけている。学園は、理念として「自主・友愛・至誠の理念のもと、地域社会に貢献できる豊かな人間性を備えた専門職業人を育成する」を掲げるが、それはこうした専門学校教育を通してしっかりと具現化されてきたと言っていい。

図表1 学校法人北杜学園が運営する専門学校

 そもそも専門学校(専修学校専門課程)は、1976年、実践的な職業教育を行う機関として創設され、いまや大学に次ぐ高校生の進学先へと成長した。専門学校は、資格取得率や就職率の高さを売りに多くの人材を惹きつけている。社会ニーズへの感応性が高く、幅広い領域でのきめ細かな職業教育を提供しているのが特徴だ。学生数が右肩上がりに伸びているわけでは必ずしもない。しかし近年、実用的な技能習得を求める大卒者の入学が増えつつあるなど期待が高まっていることは確かだ。

 そんな専門学校に比べると、このところの短大はやや元気がない。少なからぬ短大が4年制大学へと移行し、機関数も学生数も減少傾向が続く。かつて女子が進学する地域密着型の高等教育機関として確かな存在感を示していた短大は、往時の輝きを失いつつあるかのようだ。

 しかしそうした状況のなか、北杜学園は2009年、仙台青葉学院短期大学を開学するに至った。学園内からも「なぜいま短大なのか」と問う声があったというが、確かに、市場が縮小しつつある短期大学の世界にあえて参入したのはなぜなのか。そこにはどんな狙いがあったのだろうか。

なぜ短期大学なのか

 短大設置に至った理由は大きく二つあると鈴木副理事長は説明する。

 一つは、長年の専門学校経営を通して感じた、東北地方における短期高等教育に対するニーズの高さだ。鈴木副理事長は、当初は医療系の4年制大学設置を構想していたと振り返る。しかし、もとより東北地方は一人当たり所得水準が低く、家計の事情で4年制大学を諦めて専門学校に進学してくる学生が少なくなかった。そこで改めて学内で議論した結果、「東北地方や仙台という地で新たな高等教育機関を作るのであれば、大学教育の機会を均等に提供するような機関であるべき」と判断し、学園理念の「地域社会に貢献できる専門職業人の育成」を実践する短大の設置を目指すことにしたのだという。広範な専門職業人の養成を行っている短大が近隣にはなく、新たに参入できる余地が十分にあると判断できたことも大きかった。

 もう一つは、専門学校における専門職業人育成の高度化を進める必要性があったことだ。例えば保育士の養成だ。専門学校で保育士資格を取得しても、実際には幼稚園教員の資格も持っていないと就職が難しいというのが現実だという。そのため結果として、学生に他の短大での併修を求める必要があった。そうであれば、幼稚園教員を自前で養成できるようにするほうが、学生の負担も軽くなりメリットになる、教育内容にも一貫性をもたせられると考えた。さらに、リハビリや歯科衛生等の医療分野は日進月歩で高度化していて、学術研究をしっかり備えていなければ質の高い教育が提供できない状況になっている。この点からも短大の必要性が高まったのだという。

 こうした短大設置の経緯からは、北杜学園が、長年の専門学校経営を通して地域社会の高等教育課題に真摯に向き合ってきた姿勢をうかがい知ることができる。専門学校を運営してきた学校法人が、地域課題を視野に入れて議論した結果、一つの短大が誕生した。このことの意味は大きい。平たく言えば、専門学校とは存在意義を異にする短期大学の可能性は「まだまだ捨てたものではない」ことを教えてくれるからだ。

 事実、入試広報センター長として高校回りをする傳法谷氏は、とある高校で進路指導担当の先生から次のような言葉を頂いたという。「多くの短大が4年制に移行する中で、短大の役割は今後どうなるのだろうかと案じていたが、北杜学園が短大を設置し、その後も色々な学科を増設してくれたことで短大志願者数が増え、短大はやはり社会に必要な教育機関であると改めて思った」。短大に対する社会のニーズが確実に存在することを痛感したと傳法谷氏は振り返る。

多様なニーズに応える学科構成へ

 仙台青葉学院短期大学は、2014年現在の学生数が1099名、そのうち女子が8割強を占める。さらに教職員の7割が女性で、女子学生がいろいろと相談しやすい環境が整備されている。しかしだからといって、女性のための教育を提供しているという意識はないと鈴木副理事長は語る。実際、リハビリテーション学科は男女比がほぼ半々だ。そのうち理学療法学専攻の夜間主コースは男性が9割にも及び、さらにその8割を社会人が占めている。「男女を問わず、社会人の方にもどんどん入学して頂けるような短大を目指している」という。

 それを示すように、ここ数年積極的な学科設置が進行中だ。2009年開学時の2学科体制(キャリアデザイン学科、看護学科)に、昨年リハビリテーション学科とこども学科の2学科が設置され、今年は歯科衛生学科、さらに来年には栄養学科が加わって6学科構成になる予定だ。これら全ての学科が完成年度を迎えると総定員1,560名の短期大学となる(図表2)。

図表2 学科構成(2014年4月現在)

 こうして学科設置を複数進行させるには組織的に極めて大きなエネルギーが必要になる。法人本部内に専担部署(専従スタッフ3名)が置かれ、社会ニーズを把握しながら学科設置や既存学科の改善計画に関する業務を担当していることが奏功しているようだ。

 また、地域社会の多様な要請に応えるには、社会人にも学びやすい制度設計を進めることが必要になる。例えば、先述のリハビリテーション学科の夜間主コースに社会人が多いのは、専門学校時代は4年だった修業年限が、短大で3年に短縮されたことが大きい。しかも、夜間主3年コースというのは全国に例がない。理学療法士になりたい社会人にとって、1年早く社会に出られ、同時に学費も抑えられることが魅力になっているのではないかと鈴木副理事長は分析する。

 学科数が増えているだけでなく、志願者数も右肩上がりの傾向を見せている(図表3)。特に看護学科は時代のニーズを踏まえて設置した学科で、2010 年以降志願倍率が順調に伸びている。既に3回の卒業生を送り出しているが、近年の看護師不足を背景に就職でも問題ないという。

 他方、やや伸び悩みを見せるのがビジネスキャリア学科(旧キャリアデザイン学科)だ。2014年度入学者は若干だが定員を下回った。同学科は、学生が入学後にどういうビジネス分野に進むかを選択できるよう緩やかな履修モデル方式がとられている。しかし、唯一国家資格につながらない学科でもあり、学習のインセンティブに欠ける面があることは否めない。学生の職業観を涵養していくためにも、今後インターンシップの必修化や地元企業と連携したカリキュラム編成の可能性、入試改革の必要性について学内で議論を重ねている。

 これ以外にも課題はある。例えば、国家試験を受験する学生向けのリメディアル教育が必要になっている。短大教育では資格試験対策が全てではないが、それでも出口管理としての試験合格は重要課題だ。国家資格につながる課程では指定科目が多く、そこでどんなリメディアル教育が実施可能なのか学内での検討が続く。

 また、良質な短大教育を提供するには優れた教員の確保や育成も重要だ。どの学科でも、専門職としての実務歴と研究業績をともに有する人材を見つけるのに苦労している。今年設置された歯科衛生学科においては、研究業績や学位を持たない教員に、4年程前から東北大学大学院への進学を財政的に支援し、ほぼ全員が修士号を取得したという。年間に研究日を設定して研究活動を奨励するなど、短大では専門学校時代とは異なる対策が必要になるが、それが質保証につながるというわけだ。

図表3 学科別の志願者数と志願倍率の推移

北杜学園が有する経験のユニークさ

 北杜学園は、一つの法人の下に専門学校と短期大学、二種の短期高等教育機関が併存する興味深い事例だ。二つの機関種の機能分担をどうするのか、政府や学界でも議論が続いているが、北杜学園での経験からも多くを学ぶことができる。

 そのなかで最も示唆的なのは、専門学校には専門学校の、そして短大には短大の強みがあるという点だ。専門学校では、例えば短大にはできない1年課程が設置可能であり、より専門特化したきめ細かな教育ができる。対照的に、短大の強みは職業教育に加えて一般教養も身につけられるところにある。短大教育は大学教育でもある。専門学校とは異なる「短大らしさ」を追求するには、教養教育の質を上げていくことが大事だと藤村学長は強調する。

 その上で、両機関を傘下に持つ北杜学園のユニークさは、二つの異なる機関種の棲み分けと融合とのバランスを取りながら短大教育を展開しているところにある。鈴木副理事長は、専門学校から異動した教員と学外から採用した研究志向の教員とが刺激し合ってうまくやっているという。短大ならではの、教育と研究のシナジーが起きていると言えるのかもしれない。

 しかし同時に、専門学校教育の良さへの配慮も忘れていない。例えば、専門学校の教員が短大に移る際、「研究室が与えられるのはありがたいが、教員同士が顔を合わせられるスペースは絶対なくさないでほしい」という要望が出たそうだ。それこそ、教員が顔を合わせて、学生や学科の問題について情報共有する中で質の高い教育を維持する専門学校教育の強みだ。「そんな専門学校の良さを維持する短期大学でいたい」と鈴木副理事長は述べる。これは、短大にとっての新たな未来を柔軟に模索しようとする一つの試みだと言っていいだろう。

 結局、短大は大学と専門学校の狭間に置かれ、その強みが十分に活かされてこなかったのではないのか。北杜学園の挑戦をみるとそう感じざるを得ない。短大には短大の存在意義があり、さらに新たな可能性を模索できる余地が少なからず残されている。北杜学園は、多様な領域で短大と専門学校を運営し、異分野のチャンネルを学園グループとして備えていることが強みだ。仙台での意義ある挑戦から学べることはまだまだ多いのではないか。


(杉本和弘 東北大学高度教養教育・学生支援機構准教授)


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