少人数制を活かしたキャリア支援と大学編入指導/京都経済短期大学

 京都経済短期大学は、京都洛西にキャンパスを置く、経営情報学科単科の短期大学である。2013年5月現在の学生数は246名で、うち男性が109名、女性が137名と、短大としては男子学生が多い。京都経済短期大学では、徹底した少人数制教育の下、キャリア教育と4年制大学への大学編入支援に力を入れており、高い就職内定率98.7%(2013年3月時点、就職希望者数76人中)と、編入合格率(2013年3月卒業生で95.1%)を実現している。特に大学編入については、関西圏の4年制大学の社会科学系学部(経済・経営・商)や情報系学部への豊富な編入指定校枠を数多く有し、『大学編入なら経短』と認知されている。さらに、編入対策科目を正課カリキュラムに組み込み、春・夏季休暇中には小論文添削指導や模擬面接を含めた特別講義を実施するなど、教学面でも特長を持つ。

 京都経済短期大学の考える短期高等教育機関としての社会的役割、職業教育や4年制大学編入への考え方などについて、岩田年浩学長、森田充入試情報センター課長にお話をうかがった。

短期高等教育機関としての社会的役割

 京都経済短期大学は1993年、京都で初めての経営情報学科を置く短期大学として誕生した。京都明徳高等学校(旧・明徳商業高校)、京都成章高等学校を抱える明徳学園による設置であった。

 京都経済短期大学が果たしている役割について岩田学長は、「国家資格など様々な資格を取得後に就職を希望する学生や4年制大学への編入を志す学生、京都に憧れを持つ学生の受け皿になっている」と話す。特に京都の企業は、京都の地を知る人材、京都で勉強した学生を求めるところがあり、地域に密着した高等教育機関である短期大学の果たす役割が大きいという。また、商業系高校卒業生の受け皿としての役割もある。例えば京都経済短期大学の一般入学の学力検査では、「商業(簿記・会計)」が選択可能であり、商業系の高等学校からの入学に開かれている。実際、2013年度志願者の出身学科では、23%が商業科・総合学科であった。

 そして、大学編入における豊富な指定校枠の確保もまた、関西地域の短期高等教育機関としての信頼に支えられた強みである。

 さらに、岩田学長、森田課長の双方が、専門学校に対する短期大学の特長として強調するのが「教養」である。「専門学校は専門的な資格を取得する点は秀でている。しかし、教養を広げ人間力をつけるなら大学。短大は、その凝縮版だ。教養は人間のやる気の根本。いろんなことに関心を持ち、関心を絶やさないためにも必要だ」と岩田学長は話す。

地域企業のニーズに応えるキャリア支援

 前述のとおり、京都経済短期大学は、地元企業からの強いニーズと信頼関係を背景に、採用において多くの学校推薦枠を確保している。これは、就職活動の際に必要な筆記試験、英語、数学などの対策科目に加え、キャリアについて考える自己分析や自己PRの力を身につける「キャリアプランニング」を正課に組み込むなど、大学のカリキュラムそのものがキャリア形成の場となっているためだ。さらに、資格取得に直結した授業が多いのも特徴で、日商簿記検定・日商PC検定・ビジネス文書検定などについては修得単位への振替も可能である。授業外でも、1回生から始まる週1回の就職ガイダンスや、企業人事の経験を持つ職員による就職希望者全員を対象としたマッチング面談など、多岐にわたる就職支援プログラムが用意されている。

 特に、京都経済短期大学における女性のキャリア支援について、森田課長は次のように話す。「女性の生き方は男性よりも多岐にわたるかもしれない。そのなかで、なぜ働くのか、どう生きていくのかについて考える作業を、キャリアプランニングを通じて徹底している。結婚しないという選択も一般的な時代、30代40代になった時に続けていられるかどうかも考えながら仕事を選ぼう、といった話もしている」。実社会の厳しさを、キャリア支援のなかで徹底して考えさせるため、就職してからも仕事を辞める卒業生が少ないという。希少なビジネス系の短大生として、金銭の話の理解が早く、卒業段階で既にビジネス資格を取得している点も、自社で研修を行う余裕のない中小企業において重宝されている。キャリア意識が強く、働く覚悟ができている京都経済短期大学の卒業生は、採用企業における「若くて、辞めない、即戦力」という需要に応えているといえる。

大学編入支援の伝統と具体的取り組み

図表1 京都経済短期大学の進路選択

 4年制大学への編入を希望する学生が多い点は、京都経済短期大学の開学以来の傾向であるという。入学者の約3分の1が大学編入を志望しているが(図表1)、就職へと進路を変更する学生が一定数存在する。地元有名企業の学校推薦枠もあるため、編入して4年制大学を卒業するよりも、希望の企業に就職しやすいケースがあるからだ。入学時の編入希望者は50名程、実際に編入学するのは40名程、このうち指定校に向かうのは30名程であるという。

 開学以来、熱心な教員が大学編入を希望する学生のニーズに対応する形で、答案を徹底的に添削するなどの編入指導に当たってきた。指定校の数も、経済系単科の短期大学が希少ということもあり、当初から多かった。また、学生の希望に応じて、教職員による指定校枠の開拓が進み大学数が倍増した。さらに10年前からは、経営者の側でも、編入指導を前提とした教員採用を進めてきた。「京都経済短期大学の大学編入支援は伝統である。習慣化しており、教員にとって編入指導は当たり前」と岩田学長は話す。

 図表2は、京都経済短期大学における2年間の大学編入支援の概要を示したものである。編入対策英語など、編入対策科目が正課として用意されているほか、合格体験談や出願書類指導、さらには編入後を視野に入れた指導など、授業外における支援も手厚い。特筆すべきは、夏季及び春季休暇中に開かれる集中講義「経営経済特別講義Ⅰ~Ⅲ」だ。編入試験に向けた経済、経営、英語の学習や、小論文指導、カウンセリング(各教員の研究室で実施)、学習計画書(志望理由書)作成のための情報収集、及び面接練習が行われる(図表3)。この特別講義には、ほぼ全ての教員が関わっている。全学を挙げた編入支援の体制だ。

 また、これらプログラムとしての大学編入対策に止まらない、少人数制を生かした細やかな個別学生への支援が、京都経済短期大学の特長である。編入試験は、受け入れ先の大学によって試験内容が多様であるため、経済・経営・情報の専門科目への対応、英語指導、小論文、面接など、一人ひとりの志望に応じた対策が、ゼミなどを通じて実施されている。特に、編入試験で課されることの多い英語に対する個別指導が丁寧に行われている。なかには、学生一人に対してメールでの添削指導が600通を超えた教員もいるという。「少人数制なので、手塩にかけて育てることができる。4年制大学からは、1回の試験で学力を測るよりも、一人ひとりの学生をよく知っている短大からの推薦に任せたいという意向の指定校もある」と岩田学長は話す。徹底した個別指導は、京都経済短期大学における豊富な指定校枠を支える基盤でもあるといえる。

図表2 京都経済短期大学における編入学指導

丁寧な指導を支える“自然なFD”と、その効果

 京都経済短期大学における丁寧なキャリア支援、編入指導を支えているものについて尋ねたところ、「教職員全体の意識が高く、将来を見据えている」点であると、岩田学長は答えた。教職員の意識を高めるうえで特に興味深い取り組みが、オムニバス講義「経営情報学科特講」である。同講義は専任教員の全体で担当する、1回生前期の必修科目である。それぞれの担当教員が自らの専門に基づいて講義を行うスタイルだが、そこに学長自身も司会として同席し、適宜「つっこみ」を入れる点がユニークだ。このオムニバス講義が持つ効果について岩田学長は「各先生の講義に対して、それでは学生が分からないのでもう少し説明してくれ、などと指摘する。すると先生が変わる。例えば、学生との間に距離を置いていた先生が、次第に学生と近づくようになるといった変化がある」と話す。日常の教育実践に根付いた、自然なFD活動ともいえる。このオムニバス講義は、近隣住民をはじめ、外部にも公開しており、東京から高校の先生が参加したこともあるという。教員間の仲の良さ、学生への分かりやすい授業の工夫を示すうえでも効果のある取り組みだ。

 これら教職一体となった丁寧なキャリア支援、大学編入指導の効果は、編入後の学習態度や就職活動に表れている。「編入先の大学から、京都経済短期大学からの学生は、まじめで学力が高く、きちんと学んでくれて、就職の実績が高いとの評価を受けている」と森田課長は話す。むしろ、はじめから4年制大学に入学して2年間を過ごした学生よりも、就職か大学編入かといった進路決定を意識しながら2年間を過ごした京都経済短期大学の卒業生のほうが、しっかりとしたキャリア意識を身につけている側面もあるという。

図表3 京都経済短期大学の経営経済特別講義(集中科目)の内容(2013年度)

京都経済短期大学の課題と改革の方向性

 現在の京都経済短期大学における課題の一つは、原発事故や国際摩擦を背景として減少した留学生数を回復させることだ。他方、日本国内からの入学者については微増が続いているが、京都や滋賀といった近隣地区からの進学者についてはさらに増加させる余地があると森田課長は話す。京都経済短期大学の魅力を近隣地区により浸透させることが課題という。

 そのための改革の一つが、出口を見据えたコースの再編である。まずは、2014年4月から、従来の「経営・経済」「会計」「情報」の3コース制に代え、「企業マネジメント」「流通ビジネス」「ソーシャルビジネス」「経済ファイナンス」「会計・経理」「情報システム」「ITマネジメント」の7コースに、「秘書・事務副専攻」「販売マーケティング副専攻」「大学編入(経営・経済)副専攻」を加えた、7コース3副専攻制をスタートさせた。各コース及び副専攻を履修することによって得られる卒業後のメリットを、より明確に示した形だ。

 この7コース3副専攻制を、2015年度にはさらに進化させ、卒業後の職業、資格、進路と直結した8コース12ユニット制へと移行する。上記7コースに「秘書コース」を追加し、就職ユニットとして「公務員」「ホテル・エアライン・ブライダル」「医療事務」「販売士」「ファイナンシャルプランニング技能士」「宅建主任」「ITパスポート」「ウェブデザイン技能士」「TOEIC®」、大学編入ユニットとして「国公立大受験」「難関私大受験」「協定校推薦」を設ける予定だ。これらのユニットについては複数選択や途中でのユニット変更が可能で、また非常勤講師として各分野のプロを活用することで、最前線の教育を提供する。

 改革の狙いについて森田課長は次のように話す。「これまでの3コースは4年制大学との違いがみえにくかった。出口をもっと明確にしたい。また緩やかなユニット制とすることで、選択肢を持てるようにした。この点は専門学校との違いでもある」。出口を見据えつつ、多様な学びの選択肢を確保する改革であるといえる。

教職一体で学生一人ひとりに向き合う風土

 改革が実現した背景には、職員の側からの積極的な提案と、それを受け止める岩田学長の柔軟な姿勢があったという。「学長が教職一体を謳って進めている。そのおかげで、職員にも提案する機会がある。また岩田学長が“まずは変えるんや”ということで7コース3副専攻制への転換を推し進めてくれた。8コース12ユニット制は、それにさらに味付けをほどこしたもの」(森田課長)。出口を見据えたコース再編を背景に、2014年度の入学者は、2年ぶりに10%以上の増加となった。教職一体となった努力の成果といえる。

 「本学の良いところは、皆、学生が好き、というところ。よく話しているのは“逃げずに笑える子を育てよう”ということ」と岩田学長は話す。京都経済短期大学の高い就職率と大学編入の実績は、学生一人ひとりのキャリアに対し、教職一体となって真摯に取り組む風土によって支えられたものであるといえる。岩田学長自身も、自ら企業を回って自校の学生のアピールに回っているという。京都経済短期大学の学生の売りについて、岩田学長に尋ねたところ「笑顔でよく挨拶をするところ。素直で、打てば響く面がある」との答えであった。取材の際に特に驚かされたのは、岩田学長、森田課長のいずれもが、全学生の顔と名前を一致させ、さらには卒業後の進路まで一人ひとりしっかりと把握していたことだ。教職員と学生の距離の近さが、強く印象に残る事例であった。


(丸山和昭 福島大学 総合教育研究センター 准教授)


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