大学を強くする「大学経営改革」[33] 大学職員の雇用形態の多様化について考える 吉武博通

雇用形態の多様化とマクロ・ミクロ両面での課題

 我が国における全雇用者の3分の1がいわゆる非典型雇用者である。2006年に33%に達して以降は、ほぼ横這いで推移しているが、1990年の20%から見ると約15年間で急速に増加したことがわかる。

 ここでいう非典型雇用者とは、パートタイマー、契約社員、派遣社員、嘱託など、期間の定めのない常勤雇用者(本稿では常勤職員と呼ぶ)以外の雇用者を指す。一般的に非正規雇用と呼ばれているが、適正な契約に基づき働き、それぞれの組織に貢献していることを考えると、非正規という用法は適切さを欠くと思われる。本稿では「非典型雇用」という用語を用いることにする。

 働く側にとって、個々の就業ニーズに応じた多様な雇用形態が用意されることは、働き方の選択肢が増えるという点で望ましいことである。雇う側にとっても業務の性格やニーズに対応した雇用形態を選択し得るという点でメリットは大きい。

 このように双方にとって意味のあるはずの雇用形態の多様化も、その一方で、マクロとミクロの両面で様々な問題を生じさせている。

 マクロ面では、雇用形態の多様化が雇用を不安定にし、格差や不平等をもたらしていると言われている。それに対する反論を含めて種々議論のあるところであるが、いわゆる就職氷河期を経験した大卒者が非典型雇用から抜け出せない状況や若年層の雇用の不安定化といった現状から見ても、深刻に受け止めるべき問題と考えている。

 ミクロ面では、雇用契約や請負契約をめぐるトラブルや法的紛争の発生という問題が考えられる。雇用形態の多様化に呼応するように、関係法令の整備が進んでおり、これらに対する社会や雇用者の関心も高まっている。本分野に関するコンプライアンスや紛争リスクへの対応が、人事労務管理上の重要な課題となっている。

 ミクロ面でのもう一つは、多様な雇用形態の社員・職員が働く職場をどのように運営するかという組織マネジメント上の問題である。雇用形態が異なる担当者同士の職務上の分担・連携関係、職場内での人間関係、それらを適切にマネージすることの難しさ、といった問題に悩む職員は少なくない。その一方で、上位者になればなるほど、この問題への関心が薄れ、現場で問題が生じても放置される可能性が高い。

 このような組織マネジメントに関する問題は、前述の人事労務管理上の問題と重なり合う部分が多く、前者の巧拙によって紛争リスクが抑えられたり高まったりするという面もある。

非典型雇用への依存度が高まる大学の業務

 非典型雇用への依存を含めた雇用形態の多様化という点では、大学の職員組織も例外ではない。

 筑波大学でもほぼ全ての課や室に事務補佐員と呼ばれる非典型雇用の職員が配置されている。学部事務に相当する組織では総務、会計、教務、学生などの係単位に1名の事務補佐員を置くところも少なくない。

 非典型雇用の雇用実態の現状を定量的に把握すべく、国公私立大学のホームページを任意に30校程度調べてみたが、職員数の公開は限定的であり、公開されていても非典型雇用者が除かれているケースが大半である。

 その中で、東京工業大学は2009年5月1日現在の職員数を一覧で表示しており、常勤の事務職員459名に対して、非常勤職員数として事務員230名、補佐員504名という数字が記されている。理工系大学であり、外部資金等を活用した雇用も多いと思われるが、大学全体で見れば、常勤職員1名に対して、約1.6名の非常勤職員が雇用されていることになる。

 また、多くの大学が自己評価書をホームページ上に公開しているので、その中で非典型雇用者数を確認できる場合もある。

 そのうちのある私立大学は、職員約1,100名のうち、常勤嘱託と派遣職員等を合わせた数が約600名、別の私立大学は、職員数約500名のうち専任以外の職員が約280名と共に職員数の5割強を非典型雇用の職員が占めている。比較的小規模な私立大学では、職員数75名のうち専任と非専任の割合がほぼ2:1というケースもある。

 今後、さらにデータを収集し、実態を明らかにしていく必要があるが、冒頭に述べた33%という全国平均以上に、大学においては非典型雇用者の比率が高く、彼ら彼女らの働きなしに、大学の教育研究も経営も成り立たない状況にあると言って過言ではなかろう。

非典型雇用職員の配置・職務実態の的確な把握が必要

 大学において雇用形態の多様化が進んだ背景や経緯を考えてみたい。

 法人化以前の国公立大学では国や自治体による定員管理の下、その枠内で対応できない業務を非典型雇用職員に委ねることで、定員削減や業務量増に対処してきた。法人化以降、大学が自ら総人件費管理を行うことになったが、考え方や管理方式は事実上踏襲されており、加えて競争的資金の拡充等に伴う期限付き任用の増加もあり、雇用形態の多様化はさらに進みつつあると思われる。

 私立大学の場合は、学部・学科の増設等に対応して教員数の確保を図る一方で、職員人件費を抑制すべく、非典型雇用職員へのシフトを進めた結果、先の例に見られるような状況に至ったものと考えられる。

 このように経緯については、国公立と私立で違いもあるが、経営の関心は常勤職員の数や質に注がれ、非典型雇用職員には十分な関心が払われていないという点は、多くの大学に共通するのではなかろうか。

 大学職員の業務が高度化・複雑化していると言われている。それに対処するのは一義的には常勤職員であるが、非典型雇用職員の日常的な支援があってそれも可能になるし、非典型雇用職員の業務自体も難易度が増しているものと考えられる。

 その意味からも、これらの職員についても常勤職員に準じる形で、その配置状況や業務実態、処遇条件などを経営レベルで把握し、職員組織をよりトータルに、かつきめ細やかに管理する必要がある。

 その一方で、非典型雇用の場合、月単位で職員数が変動することもあるし、人事管理システムも常勤職員専用に作られていることが多いことから、配置状況の把握が困難な場合も少なくない。システム面を含め、配置や勤務に係る情報を一元的に把握し得る仕組みを整えることは、以下に述べる種々の課題に対応するためにも不可欠な前提である。

関係法令を含む雇用形態毎の正しい理解が不可欠

 非典型雇用の形態や呼称は大学毎に様々だが、法律上代表的なものは有期契約労働者、パートタイマー(短時間労働者)、派遣労働者である。

 有期契約労働者とは、期間の定めのある雇用契約を結んでいる労働者であり、大学で契約職員や常勤嘱託と呼ばれている職員はこの範疇に含まれる。パートタイマーは、法律上常勤職員よりも所定労働時間が短い者を指し、短時間労働者とも呼ばれている。国立大学における短時間労働者の多くは雇用期間の定めがあり、法的には有期契約労働者とパートタイマーの両面を有している。公立や私立でも同様の形態が少なくないものと思われる。

 これに対して、派遣労働者は、派遣元事業主との間に雇用契約を結んだ上で、派遣先事業主の指揮命令の下で労働に従事する者である。通常、大学では派遣職員と呼ばれている。

 常勤職員か否かを問わず、雇用関係にある職員と雇用関係はないが指揮命令下に置く職員を適切に管理していくためには、労働基準法や労働契約法(2008年3月施行)とともに、パートタイム労働法、労働者派遣法など関係法令の要点を押さえておく必要がある。

 雇用形態が多様化すればするほど、雇用や派遣に係る契約も多様なものとなり、契約上の不備や法令・契約に対する理解の不足がトラブルや法的紛争に繋がるおそれもある。そのような事態まで至らなくても、関係者間での認識の齟齬が円滑な業務運営を妨げることも考えられる。

 雇用契約や派遣契約を担当する人事部門、職場で指揮命令にあたる管理者、個々の非典型雇用職員の3者が、関係法令や契約内容について共通の認識を有していることが不可欠である。

雇止め問題と均衡待遇・差別禁止への適切な対処

 非典型雇用に関する法律上の問題として、特に留意すべき事項を2点述べておきたい。

 一つ目は、有期雇用契約の更新を繰り返した後に、新たな更新は行わないとする、いわゆる雇止めに関する問題である。最高裁判例として東芝柳町工場事件が知られているが、契約が反復更新されるなどして、労働者が雇用継続について合理的期待を抱くに至った場合には、解雇権濫用法理が類推されるため、使用者による雇止めには合理的理由が必要とされている。

 このため、多くの大学が、期間を1年と定めた非常勤職員の契約更新に回数制限をかけたり、期間3年や5年の契約職員の更新は行わないとしたりして、雇止めに関するトラブル回避のための措置を講じている。

 二つ目は、パートタイマー(短時間労働者)の均衡待遇と差別禁止に関する問題である。

 パートタイム労働法では、賃金の決定や教育訓練について通常の労働者との均衡を考慮するよう求めている。ここでいう均衡とは、同一ということではなく、労働時間等の違いも踏まえたバランスのとれた対応を意味するものであり、努力義務とされている。

 その一方で、職務内容等において通常の労働者と同視すべきパートタイマーに関しては、賃金の決定、教育訓練、その他の待遇について差別的取扱いを行ってはならない旨の禁止規定を設けている。

 雇用開始時に定めた職務内容が、時間の経過とともに変化し、常勤職員との職務上の違いが不明確になるという状況は大学においても生じている。職務内容の適切な設定とその後の業務実態の的確な把握は、処遇をめぐるトラブルを回避する上でも、より円滑な業務運営を行うためにも不可欠である。


図 雇用形態の類型、多様な雇用形態を活かすために


適切な職務設計と計画性を高めた採用・配置

 このような認識に立つと、職務内容や雇用期間を含め、個々の非典型雇用職員に何を期待するかを、予め明確にし、計画性をもった配置を行うことが極めて重要であることがわかる。

 そのためには、課・室などの組織単位毎に、業務を整理した上で、非典型雇用職員を含めた職位別の職務内容と職位間の指揮命令や分担・連携関係を明らかにし、課・室の構成員全員で認識を共通化しておく必要がある。これにより、非典型雇用職員を含む構成員全員がより納得した形で、業務に専念できることになる。課長や室長の職務設計能力が問われているのである。

 そうすることにより、非典型雇用職員の勤務・処遇条件や雇用期間(反復更新を含めて)も、職務内容との関係においてより合理的なものとなり、計画的な配置も可能となるはずである。

 もちろん、新たなプロジェクトや業務量の一時的増加に対処するなど、計画性よりも臨機応変の対応が優先されることもあるが、このような臨時的配置の常態化や、臨時的配置と恒常的配置の境の曖昧化が、問題を複雑かつ構造的なものとしているのである。

 雇用形態の多様化は、その時々の事情が積み重なることにより、結果として進んできたという面も大きい。現状をあらためて点検し、効果的な業務遂行と適正な人件費構造という2つの視点から、より合理的な体制に近づけるための工夫を図る時期にきているのではなかろうか。

就業動機や仕事・職場への期待を理解する

 配置・育成や制度・運用を考える上で、働く側の立場に立って考えることは重要である。とりわけ、非典型雇用職員の就業動機や仕事・職場への期待を知ることは、使用者側と働く側の双方に有益である。

 アルバイトをする学生の動機や期待が明らかなように、従来のパートタイマーの多くは家計補助を就業動機とし、仕事や職場への期待も働きやすければよしとする傾向が強かったものと考えられる。

 それに対して、契約職員や派遣職員を中心に、就職難の時代に社会に出たために常勤の職に就けなかった、勤務先よりも特定の業務や専門性を活かすことに関心を持ち派遣職員の道を選んだ、実績を示して常勤職員に登用されたい、経験を重ねてキャリアアップにつなげたい、など様々な背景や動機を持ちながら働く職員も大幅に増えてきている。

 個々の就業動機を斟酌し、それぞれの期待に応えることなど到底できるものではない。しかしながら、経営層を含めて大学全体が、動機や期待が異なる多様な職員が働いているという事実を十分に理解すること、人事部門を中心に、動機や期待が同じと思われる職員を大まかにグループ分けし、全体の傾向を把握しておくことが、今後益々重要になるものと考える。

 課や室などの組織単位では、管理職層が、常勤職員に準じる形で、個々人の就業動機や仕事・職場への期待を把握しておく必要がある。立ち入り過ぎは避けるべきだが、動機や期待の理解を通して、働きやすく、能力も発揮しやすい環境を整えることは、使用者側と働く側の双方にメリットをもたらし、常勤職員を含めた組織内の業務の質や効率性をより高めることに繋がるだろう。

 もう一つ留意すべきことは、常勤職員との分担・連携関係を明らかにした上で、それ以外の面では、日常業務運営において、非典型雇用職員を差別的に取り扱わないという点である。職場ミーティングの出席、文書の回覧、メールアドレスの形式(例えば常勤は個人名、それ以外は番号など)、管理職や常勤職員の言動など、些細と思われることでも差別されていると感じる職員は少なくないだろう。

 特に、契約職員や派遣職員は、常勤職員以上に自分は厳しく見られているという意識を持ち、より高い緊張感で仕事に臨んでいる場合が少なくない。その分、常勤職員以上の能力を発揮することもあるし、より強いプレッシャーと先行きの不安を抱えながら日々を送る者も多いと思われる。

 彼ら彼女らの期待に必ずしも十分に応えることはできないとしても、少しでも働き甲斐のある環境を提供し、その職場での経験がさらなるキャリアアップに繋がるよう、きめ細やかな配慮を行う必要がある。

 大学では、これ以外にも請負契約先からの職員派遣など、外部委託先の職員が同じ職場で仕事をするというケースもある。また、大学の国際化に伴って外国人の雇用が増えることも予想される。常勤を含めて雇用形態は様々考えられるが、そこでは在留資格や均等待遇などの問題を押さえておかなければならない。

 多様な人材を如何に効果的に活用できるかどうか、大学のマネジメント力が試されている。



(吉武博通 筑波大学 大学研究センター長 大学院ビジネス科学研究科教授)


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