大学入試は、企業の採用面接から何を学べるか2 「求める学生像」への示唆 濱中淳子

「アドミッション・ポリシー」と「人材要件」

 多面的・総合的な評価を組み入れた入試を設計しようとなると、次の2つについて検討する必要があろう。(1)どのような資質を、(2)どのように評価するのか、という問題だ。ただ前者については、既に各大学が「アドミッション・ポリシー」の文脈で議論してきた点でもある。アドミッション・ポリシーという言葉が初めて登場した政策文書は、1999年の中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」。以降、その策定や改善は、各大学に課された宿題であり続けている※1。

 ところで、企業の新卒採用にもアドミッション・ポリシーと似たような概念がある。「人材要件」だ。採用にあたって、企業は求める人材像を描いた人材要件を示す。例としてリクルートホールディングスが掲げる人材要件を紹介すれば、①「意志力」がある人、②「論理的思考力」がある人、③「成長意欲」のある人、の3つだそうだ。学生はこのような要件を見て応募するかどうかを決め、対して企業は要件を反映した試験を行い、採用するかどうかを判断する。その役割自体は、アドミッション・ポリシーが担っているものと同じだと言ってよい。

 連載2回目である今回は、この「人材要件」を糸口に、採用面接結果の向上をもたらす要因について議論したい。経営者や人事課の考えが盛り込まれる要件ではあるが、組織が置かれている状況に見合った設定の仕方というものがあるかもしれない。そして実際、分析結果からは注目される傾向も見いだせた。例えば、事務系と技術系では、納得がいく採用につながる要件に違いがある。選抜性によっても、結果につながる要因が異なっている。そして何より、新卒採用に制約を抱える企業ならではの方策というものも見いだせる。こうした分析結果は多くの大学にとって、学生募集や入試の戦略を練る際のヒントになるはずだ。

 では、採用面接担当者に実施した調査のデータから、どのような景色が描きだせたのか。順に説明していこう。

オリジナル要件は強みになるか

 自分たちがどのような人物を求めているのか。かなりアバウトな問いだが、その答えを出そうとすると、まず自分達の特性を突き詰め、他の組織とは違う独自の要件を生み出そうとするところも少なくないのではないだろうか。気の利いた要件を示すことで、少しでも望ましいマッチングを目指す。方針として珍しくないように思われる。

 では、こうした要件のオリジナル性は、採用面接の場においてどのような意味を持つのか。この問いの検討から始めることにしよう。

 調査では、勤務先の企業が設定している人材要件について複数の側面から回答してもらったが、そのなかの1つに「自社オリジナルだといえるもの」か、「他社にもよく見られるもの」か、4段階尺度で答えてもらう項目がある。回答分布は、「自社オリジナル」だという者が1割ほど、「やや自社オリジナル」が4割強、「やや他社にもよく見られるもの」も同じく4割強、「他社にもよく見られるもの」と回答した者が1割弱。そしてこの回答別に、連載1回目でも取り上げた「勤務先の採用面接への評価」(「うまくいっている」かどうか)を整理すると、図表1のようになる。


図表1 人材要件の内容別にみた自社面接結果評価


 ここからは、事務系か技術系かによって、効果の表れ方が異なっていることが見えてくる。技術系総合職の場合、オリジナルな要件が功を奏する一方で、他社と共通するような要件でも納得のいく選抜結果へとつながることがある。他方で事務系総合職の場合は、オリジナル性を打ち出す要件こそが「うまくやっている」という面接結果に結びつきやすい。要件のオリジナル性は、専門が見えにくい領域でこそ重要になるということなのかもしれない※2。

 サンプル数の物足りなさといった問題を含む分析であるため、今少し慎重になる必要があることは言うまでもない。ただ、状況によって望ましい要件が異なっている可能性を想起させるには、十分な証左であるように思う。いたずらにオリジナル性を追求すればよいというものではない。そして、以上のことは、次のような文脈でアドミッション・ポリシーへの示唆にもなり得る。即ち、組織自体の特徴を打ち出したほうが望ましいのか、領域としての特徴を打ち出したほうが効果的なのか、自覚することが重要である。文系なのか、理系なのか。あるいは資格につながる領域なのか、違うのか。所属組織の特徴に照らし合わせながら、以上の点を吟味する意義は小さくないと考えられる。

選抜性の差がもたらす相違点

 要件効果の違いについて、もう少し視野を広げながら見てみよう。

 図表2は、要件の「数」と「見直し状況」、そしてさらに要件以前の問題という側面もあろう「結局、既存メンバーと同じような人材が好まれているのかどうか」という観点を新たに設定し、ロジスティック回帰分析を行った結果である。これら3つについても企業特性によって異なる効果が見られるのではないかという淡い期待から試みた分析だが、選抜性という要素も追加したことで、興味深い叩き台が抽出されたように思う。詳しく紹介したい。


図表2 自社面接結果評価の規定要因


 ロジスティック回帰分析とは、「有無」といった「1」と「0」のカテゴリで示される目標変数に影響を与える要因が何かを特定化し、影響を与える要因については、その要因が加わることで目標変数が「1」になる確率がどれくらい高まるのかを検証する手法である。そして、この手法を用いて「勤務先の企業の面接はうまくやっている」を「1」、「うまくやっていない」を「0」とし、「1」となる確率を高める要因が何かを探った結果が、図表2になる。ここからは次の3点を指摘しておこう。

 第一に、「要件の数」に有意な効果を見ることはできない。元より要件の多寡には、自己選抜を制御するという影響力が見込まれる。「こんなにも色々要求されるのであれば、自分にはとても無理だ」「これぐらいの要件なら応募してみようか」と思い巡らす学生は少なくないだろう。しかしながら採用面接担当者からすれば、要件が多いと採用面接がうまくいき、少ないとうまくいかない(あるいは逆に、要件が多いと採用面接がうまくいかず、少ないとうまくいく)というわけでもないようだ。要件の数よりも、内容が大事だといったところだろうか。

 そして第二に、それを裏付けるかのように、「要件の見直し状況」にはプラスの効果が確認される。分析では、項目「人材要件の見直しがよく試みられている」への回答(4段階尺度)をそのまま得点化したものを用いたが、回答が1増すと、「勤務先企業の面接は『うまくやっているほう』だ」とする状況に1.42~1.92倍ほどなりやすくなるという結果が出ている。ただ、ここで同時に指摘されるのは、こうした効果が見られるのは、選抜性の面で恵まれているところに限られるということだ。技術系総合職の場合、プラスの効果を見ることができるのは、「選抜性・高」と「選抜性・中」の2つ。事務系総合職にいたっては、「選抜性・高」のみ。要件の見直しは大事だが、それは選抜が実質化している世界において、という話のようである。

 では、逆に選抜性の低いところで意味がある要因は何か。それが第三の点であり、分析からは、「既存社員に似たタイプへの注目」こそが、結果として納得がいく採用に結びついていることが読み取れる。分析に投入したのは、4段階尺度の項目「面接現場において、評価が高い学生は、既存社員に似たタイプであることが多い」への回答だが、回答が1上昇すれば、事務系で1.76倍、技術系では2.13倍、勤務先企業の採用面接は、うまくやっていると回答するようになる。

「似たような学生を集める」という戦略

 さて、ここまでの議論をもとにアドミッション・ポリシー策定への示唆を取り出すとなれば、「よい学生を採ろうとするならば、組織と領域のどちらに軸足を置いたポリシーを定めるのか、検討を加えたほうがよい」「ポリシーに盛り込む特徴の数について思案するより、見直し作業に努めたほうがよい」ということになろう。ただ大学全入時代という現状を踏まえれば、より注目すべきは、最後に見た既存社員関連の結果ではなかろうか。選抜性の面で不利な立場に置かれている企業でも、納得いく採用ができているところがある。そしてその企業は、自覚的なのか無自覚的なのか、いずれにしても既存社員タイプを高く評価するような視角で採用面接に臨んでいるところだった。

 この知見を起点にすれば、「学生募集に悩む大学も、在学中の学生と似たタイプの入学者を求める姿勢で、多面的・総合的評価をデザインすればよい」という主張も編み出されよう。なるほど、これまでほとんど論じられたことがない提案だが、考えてみれば、ひとつの指針としてあり得るように思われる。なぜ、そのように言えるのか、2つほど理由を挙げておきたい。

 1つは、既存メンバーを念頭に置いた選抜をすることで、組織文化が強化され、大学(学部)の特徴がより明確になるからである。学生募集に困難を抱える大学を見渡せば、新興の大学や学部だということも少なくない。歴史が浅いなか、自分達のカラーというものを作り出していく必要もあろう。だとすれば、これまでの経験の延長上に自分達の立ち位置を確立する。どのような学生を育て上げることが得意なのか、その特性を磨き上げる。こうした方策に力を入れる意義は再考されて然るべきではないだろうか。

 2つめの理由は、受け入れた学生達を教育する体制に関わるものである。学生募集に悩む大学の特徴の1つに、比較的小規模校が多いことが挙げられる。ひいては教員数も少なく、学生の多様化はそれなりに大きな負担となろう。大学入試は、何も選抜場面のみで終わる問題ではない。その先に「教育」という日常が待っている。ここで、面接担当者調査のデータに戻れば、選抜性の低い企業の関係者だという者の多くは、地方の小~中規模企業に勤務していた。既存社員に似たようなタイプの人材を受け入れながら、安定した空気のなかで新人教育を行う。そうしたなかで「うちの採用面接はうまくいっている」と感じるようになる。決して派手ではないが、参考にすべきひとつのパターンであるように捉えられるのである。

 とはいえ、ここまで述べたとしても、やはり突拍子のない提案だという印象を持たれるかもしれない。仕方がないところもあろう。とかく「多様性」という概念の価値に支持が集まりやすい昨今である。企業関係者の間では、「多様性によって組織は活性化する」「多様性のなかでこそ新しいアイデアは生まれる」といった言説があふれている。教育界では、「多様な人々を受容し、尊重すること」の必要性が説かれている。そもそも、本連載の出発点である多面的・総合的な評価自体、「多様な学びを、多様な方法で評価する」ことを主眼としたものだ。「似たような学生を集める」というのは、時代の流れと逆行する方針とも言える。

 ただ、それでも最後に改めて強調しておきたいのは、冷静に状況を見極めることが大事だという論点である。誰もが「メンバーの多様性」を求めることができるわけではないし、求めなくてはいけないわけでもない。おそらく、多様性という戦略には、それに合う段階や条件というものがある。

 「多面」と「多様」。あるいは「多様なメンバー」に「多様な能力」、そして「多様な入試」。似たような言葉であり、紛らわしく、併せて使われることも多いが、区別して考えることも必要だ。特定のタイプに狙いを定めた多面的・総合的評価があってもよいはずである。企業の実態が教えてくれることのひとつに、単純かつ当然でありつつも看過されがちな、こうした判断があるように思われる。

  • 周知のように、今現在も「学力の3要素」に配慮し、かつ「カリキュラム・ポリシー」と「ディプロマ・ポリシー」との一貫性を有した「アドミッション・ポリシー」へと改善することが求められている最中である。
  • 試みとして、事務系総合職の採用面接について、「オリジナルな要件を設定している」とした者の回答をさらに丁寧に分析すると、「勤務先企業は、創造力・発想力を要件として掲げている」という傾向が強く、他方で「コミュニケーション能力・表現力を要件として掲げている」という傾向は弱いという特徴が見いだせた。

(文/濱中淳子 大学入試センター)


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