相互選択型の入学者選抜へ(カレッジマネジメント Vol.197 Mar.-Apr.2016)

今回の高大接続改革では、共通テストの改革、つまりセンター試験が変わるとされる2020年がフォーカスされがちだが、実は足元では各大学の個別選抜が大きく変わってきていることに注目すべきである。今年2016年度入試は、“個別選抜改革元年”と呼んでもよいくらいの変化が起こっている。

特に国立大学の入学者選抜が変わり始めた。東京大学が、初めて推薦入試を導入したことは、大きなニュースになった。募集定員は100名で、東京大学の定員からすると僅かだが、「世界的視野をもった市民的エリート」育成のために、多様な学生が互いに切磋琢磨する環境を作るとしており、求める学生像を明確にした点が注目される。京都大学は「特色入試」を導入し、お茶の水女子大学は「新フンボルト入試」を導入した。また、島根大学は、大学のミッションに合わせて「地域貢献人材育成入試」を導入。さらに、来年度からは大阪大学が「世界適塾入試」の導入を発表している。

 つまり、何が起こっているかというと、高大接続改革プランという大きな工程表の中で、共通テストより先に、学力の3要素に基づき、大学の求める人材像に合った学生を確保しようという個別選抜改革が、着実に動き始めているということである。特筆すべきは、建学の精神や理念が明確で、多様な選抜を行ってきた私立大学だけでなく、国立大学の個別選抜改革が進化してきていることである。それは、全体を一気に変えるというよりは、まずは“教室の前から座る意欲の高い30%”を、どのように獲得するかに注力していると考えている。言い換えれば、うちの大学はこのような人材を育成するために、このような教育を行う大学である。だから、このような学生に来てほしい、そのためにこのような能力を評価します、という大学の“メッセージ”が大学の入試という形態になり、それに呼応した学生が主体的に受験するのが、現在新たに導入が進められている個別選抜の形である。これを私は、知識の量で序列化されるのではなく、大学のメッセージ(大学からの約束)を受けて、この大学で学びたいという主体的な意欲(学生の期待)をもって受験する『相互選択型入試』と呼んでいる。ポイントは、大学の理念や育成したい人材像に合わせた「学力+意欲」の多面的・総合的評価であろう。

 今回の特集では、多面的・総合的な入学者選抜である「AO型入試」について、これまでの振り返りと今後の方向についての整理を行った。また、求める人材の募集→選抜→育成・活躍という観点から、企業がどのように「相互選択型採用」を行っているのかを整理した。そして、新たに導入された『相互選択型入試』の事例を取材した。改革の胎動を実感していただければ幸甚である。

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