時代の変化に対応し、創造性や課題解決に情報技術を活用できる職業人を育成/コンピュータ総合学園

コンピュータ総合学園キャンパス


 神戸電子専門学校と神戸情報大学院大学を運営する学校法人コンピュータ総合学園は、50年を超える伝統を持ち、国内で最も長い歴史を持つコンピュータ技術の教育機関として専門的職業人の養成に取り組んでいる学校法人である。技術革新や社会の変化の影響を受けやすい情報技術を通じて職業人を育成する教育機関として、その取り組みにはどのような特徴があるのであろうか。神戸電子専門学校と神戸情報大学院大学の実践は、変化が大きい職業教育のあり方を考えるヒントになるだろう。

起源は高度成長期を支える技術者養成

 神戸電子専門学校は、「人間力と品位を有する専門職業人を育成する」という教育理念のもとに、情報処理学科・情報ビジネス学科・デジタルアニメ学科・サウンドクリエイト学科等、7分野15学科(工業専門課程、文化・教養専門課程)を設置する専門学校である。在籍学生は1600名、専任教職員は90名を超える規模を持つ(2015年)。15学科全てが職業実践専門課程の認定を受けるとともに、高度専門士を授与する4年制学科(ITエキスパート学科)も設置しており、ICT技術を幅広く教育している。

 神戸電子専門学校は、福岡富雄理事長が1958年に神戸市で各種学校として創設した神戸電子学園を淵源とする。創設当初、教員は福岡氏1名、生徒数十名からスタートした学校は、テレビ・ラジオ、各種家電等の電子機器の大量生産・大量販売が始まる高度経済成長のなかで生じた修理技術者・電気工事技術者の人材需要に対応することで規模を拡張した。時代が求める技術教育を提供することで、職業人養成の学校としての社会的地位を確立していったのである。

神戸電子専門学校 福岡校長、神戸情報大学院大学 炭谷学長、神戸情報大学院大学 福岡副学長

 1年制課程からスタートした同校は、1965年に現校名に改称するとともに2年制課程を開設し、創設者が有していたコンピュータへの関心をもとに、電子工学からソフトウエア、プログラミングにその対象範囲を広げてきた。学校の発展過程で注目すべきことは、電子計算機と称されていたコンピュータへの関心から、最先端の電子計算機を導入し、その構造と設計を自ら研究し、その成果を国内初のコンピュータ技術の体系的教科書としてまとめ、1971年に出版したことにある。当初、自校の教材として想定して作成したが、電子計算機とプログラミングの基本原理を概説する先駆的な書物として、松下電器や三菱重工業等の企業の社内技術教育、大阪大学や関西大学等の大学の工学系学部の教材として活用されたという。ここに、時代が求める技術教育を受容的に提供するだけでなく、先駆的な取り組みに挑戦しようとする同校の特徴を見ることができる。その後、1975年に創設された専修学校制度のもと、76年に専修学校として認可を受け、1977年には学校法人化を進めた。日本社会全体のオートメーション化が進み、高度情報処理技術を持つプログラマーが必要とされるなかで、その技術者を養成する専門学校として発展していく。現在、デジタル技術は、コンピュータアート等の直接関係する分野から、マルチメディア、3次元造形、360度サラウンドの音響技術等、応用・活用分野まで、あらゆる領域に広がっている。IT技術には安定的に入学希望者があり、ゲームソフト、3DCG等に人気があるが、学校としては、社会と企業のニーズの変化に対応していくため成長分野として、IT技術、グラフィックス、ビジネス分野の3つが連携したウェブビジネスへの対応を強化している、と福岡壯治校長は話す。

「基礎」「専門」「実務経験」3段階の教育課程

図表1 グループ全体図

 神戸電子専門学校では、全学科に共通したカリキュラムの特徴として、現場実践力を育てることを目的に、「基礎」「専門」「実務経験」の3段階の階層化された教育課程を組み立てている。「基礎」とは、専門職業人としての基礎力とともに職業人(社会人)としての基礎力を修得するものであり、「専門」とは、専門科目の学習と実習を通じて各分野の即戦力となれる専門技術を修得することであり、「実務経験」は企業等と連携した課題解決力等を養う経験を得ることである。技術は、それを活用できることが重要であり、問題解決能力は手足を動かしながら身につけていく。そうでなければ身につかないという考えがそこにはある。そして、職業教育として実務経験を全ての学科に含めていることに加え、職業実践専門課程の認定を受けることで、企業・産業界の声を聴く仕組みが導入され、企業にカリキュラムを開示することでパートナーシップとしてやっていこうという感じになっているという。そのことが、これからどういう方向で進めていくかというチャレンジにつながっており、それが大切だと福岡校長は話す。

 さらに、職業教育としてICT技術を教える専門学校としての特徴は、社会の変化のなかで積極的に新しい取り組みを進めていることにある。現在の社会では、産業界、クリエイター、エンジニア、どの領域でもICT機器、ICT技術を扱っている。しかし、社会や生活のあり方を技術により変えていく、生活を面白くしていく、クリエイティブエンジニアの育成が日本では弱いのではないかと、福岡校長は感じていた。そこで、2015年に、神戸電子専門学校の学校全体のミッションを再定義する検討を行い、「CreativeEngineering」をキーコンセプトに位置づけ、「技術教育」を基盤にしながら、アイデアを触発し、かたちにする力を育成することを重視する教育に取り組むという方向性を定めた。この方向性を具体化する一例として、2016年4月にWebエンジニアコースとして、資格取得よりも新しいものをつくることに主眼をおいたコースを新設し、試験的に取り組んでいる。3カ月ごとの成果発表会やハッカソン(プログラマーやデザイナーがチームを組んで、数時間から数日の与えられた期間のなかでソフトウエア開発に取り組みアイデアや成果を競い合う開発イベント)を行う等、答えのないことに取り組むことで突破力のあるエンジニアを育てる試みである。このような学校の方向性を実現するためには、教員が重要である。先進的取り組みを行っている他校の取り組みを見学する研修や、地元を含め、ステークホルダーを訪問すること等、個々の教員に社会変化のなかで考える教育を提供できる力をつけてもらうことに取り組んでいる。変化の激しい未来を主体的に生きるための技術教育を提供するために、学校のミッションを再定義したうえで、それを実現する教員を育てる取り組みを進めているのである。

JICAと連携し課題解決人材を育成する大学院大学

 2005年4月、学校法人コンピュータ総合学園は、高度ICT技術者を育成する専門職大学院として、情報技術研究科情報システム専攻の1研究科1専攻からなる神戸情報大学院大学を創設する。電子工学の技術教育からスタートした建学の経緯と、実務・実践的教育を重視する校風のなか、これまで同法人では、大学の設置を選択することなく、神戸電子専門学校での職業人養成一筋に取り組んできた。しかし、ICT技術の急速な普及と進歩の中で、産業界が高度なIT人材育成を求めるようになる。そのなかで、IT人材ニーズ調査などから、大学の情報工学の教育は、産業界が必要とする実践的な高度IT人材の要請とミスマッチが生じていることが指摘されていた。このことを背景に、産業界から高度情報技術者を養成する専門職大学院の設置が求められ、神戸情報大学院大学を設置することとなったのである。この経過から、創設当初は、産業界の要請を忠実に反映した高度IT人材を育成することを目指したと、福岡賢二副学長は当時を振り返る。

 しかし、実際に大学院を開設したあと、学生募集は苦労することになる。当初、進学者層として想定していたのは、①情報工学系学部の卒業生、②企業でIT職に就いていてその能力の高度化を目指して進学する人であった。ところが、①のタイプは、実践的な専門職大学院ではなく、これまでどおり学術系大学院に進学する傾向は変わらず、②のタイプは、会社に勤めながら大学院で学んでも社内で評価されない風潮が日本の企業にはあることなどから進学希望者になりえなかったのである。そこで、大学院のあり方を再検討したと福岡副学長は話す。何のための大学院なのかまで立ち返って検討し、国際的な観点で革新的な探究教育を行うという方針を再設定し、2010年に、課題解決型の教育実践に取り組んでいた炭谷俊樹氏を学長に招いた。1年間の検討を経て、2011年からICT技術を活用して課題解決に取り組む授業科目「探究実践演習」を開始するとともに、「人間力を有する高度ICT人材の育成」という教育目的のもとで、ビジネスソリューションとICT技術を有する人材を国際的な観点で養成することとした。

 専門職業人として高度IT技術者を考えると、活用されるシステムを作るには、ICT技術だけではなく、使い手の視点を持つことが必要となる。このことについて、「MBA保持者は企画を出すことは得意であるが、自分自身でシステムを作ることはできない。しかし、課題解決を実現するには、ICT技術を用いて企画を実現するシステムを自ら作り、自分のアイデアを検証できることが必要である。『探究実践演習』では、自分自身が研究する具体的課題を設定し、その現場に行く、調査をする、収支を見る、ビジネスとして成立するかを検証することを実践的に取り組む。この経験を通じて、使い手の視点を持ったICT技術者となることができる」と炭谷学長は話す。この取り組みは、国際協力機構(JICA)の目に留まり、2012年、ICT技術を使って社会課題の解決を目指すコンセプトのもと、アフリカ8カ国の政府高官や産業人材ら30人程度を対象とする6週間の研修プログラムを提供した。同研修を受けたルワンダからの起業したばかりのITベンチャーの女性起業家が、本研修で学んだことを活かし、帰国後事業を成功させたことが、ルワンダや日本でも大きな話題となっている。彼女は研修で学んだことを今でも若者に語り継いでおり、後進の育成に力を入れている。また2015年度に彼女はアメリカ・フォーブス誌でアフリカを代表する起業家の一人に選ばれるなど、具体的な成果が出始めている。

図表2 コンピュータ総合学園ブランド成長ステージ

 この実績を活かし、実務経験とICTスキルを有し、英語でわかりやすく教えることができる能力を持つ教員を揃え、2013年10月から、英語のみで学位の取得を可能とするICTイノベーターコースを新設し、留学生の受け入れを進めることとした。このコースは、初年度の入学者は6名であったが、翌年には36名に増えた。

 この取り組みは、我が国の成長戦略・外交方針にも重なっていく。2013年6月に横浜で開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD Ⅴ)で、安倍首相は、5年間で1000人のアフリカの若者を日本に受け入れ、高等教育や企業インターンシップを提供する「ABEイニシアティブ:AfricanBusiness Education Initiative for Youthアフリカの若者のための産業人育成」を表明する。他の大学に先駆け、既に前述の研修プログラムで高い評価を得ていた神戸情報大学院大学に、多くのアフリカ人から留学希望が寄せられたのである。こうして神戸情報大学院大学は、JICAと密接に連携し、ABEイニシアティブのもと、積極的にアフリカ人留学生を受け入れる方針を定めた。このような神戸情報大学院大学の社会課題をICT技術によって解決する人材育成は、2016年8月にケニア・ナイロビで行われた第6回アフリカ開発会議(TICAD Ⅵ)でも日本政府によって代表的取り組みとして大きく紹介されている。これまで、世界50カ国以上から留学生が訪れ、国際的な環境の中で専門的職業人材の育成が行われている。日本人学生にとっては、日本にいながら多様性を身につけることができるユニークな環境となっている。

 他方、ABEイニシアティブは、アフリカの若者の育成であるとともに、日系企業のアフリカ進出の水先案内人として活躍してもらう人材を養成する目的もある。現在、神戸情報大学院大学はICT技術立国を進めているルワンダとの関係を深めており、JICAと連携した留学生の戦略的な受け入れを通じて、学校が所在する自治体である神戸市のアフリカ諸国との国際交流政策にも共同で取り組んでいる。企業からもアフリカビジネスへの展開の問い合わせや共同事業の提案を受けるようになってきた。アフリカ人学生、日本企業、大学、自治体、国際機関が協働によってアフリカの社会課題解決を目指すプロジェクトが数多く動いており、大きなインパクトをアフリカに与える可能性のある事例も出始めている。ICT技術を用いた社会課題の解決という実践的な職業能力を育成する神戸情報大学院大学の人材育成が、日本企業のアフリカへの進出を促進し、国際交易の中心都市として地域活性化を進める行政の活動を推進しているのである。

情報技術の変化スピードに挑戦する

 神戸電子専門学校と神戸情報大学院大学の2つの学校に共通する特徴は、社会のニーズを柔軟に満たすために、教育プログラムの新設や見直し、新しい挑戦に積極的に取り組んでいることにある。職業教育は変化する社会ニーズに対応していかなければならない。特に、情報技術は変化のスピードが速く、変化の幅も大きい。社会のニーズを満たす職業人を技術教育を通じて育成してきた学園創設時の特徴は、建学の理念として現在運営する2つの学校にも引き継がれている。そこには、技術を教えるだけの教育ではなく、創造性や課題解決に情報技術を活用する、社会を発展させる力を持つための職業教育が目指されている。社会の変化を受動的に対応するのではなく、教育機関の側が理念をもって社会変化を作りだす職業人材育成を進めている2校の特徴は、これからの職業教育を考える上で重要な示唆となるだろう。

(白川優治 千葉大学国際教養学部 准教授)



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