理論と実践の有機的結合により教育生産性を重視した専門職生涯キャリア教育/メイ・ウシヤマ学園
メイ・ウシヤマ学園は、近代美容教育のパイオニアとして国内にトータルビューティの概念を広めるとともに、「総合力」と「専門力」を身につけ、ビューティビジネスを牽引できる人材を長きにわたり輩出してきた。1925年にハリウッド美容講習所を設立して以来、ハリウッド美容専門学校(美容科・トータルビューティ科)に加え、世界初のビューティビジネス専門職大学院であるハリウッド大学院大学(ビューティビジネス研究科)を2008年に設立する等、21世紀のリーディング産業であるビューティビジネスの根幹を担うイノベーターを育成し続けている。そのカギを握るのは、理論と実践を有機的に結合させ、教育生産性を重視した教育体系である。
本稿ではメイ・ウシヤマ学園の具体的な教育体系やそれを支える理念等について、ハリウッド大学院大学の学長を務め、ビューティビジネス論の専門家でもある山中祥弘理事長にお話をうかがった。
職業教育体系と社員教育体系のミスマッチ
かつての日本の社員教育体系は世界最高レベルと称されていた。しかしバブル景気崩壊以降、派遣や臨時といった非正規雇用が増え、多くの企業では人材育成ノウハウや企業文化が薄れ、社員教育力も低下したために、経営活力は低下し、経営立て直しが困難となった。
その結果、大学・専門学校等の高等教育機関における職業教育による人材育成が期待されるようになった。しかし、学校の職業教育体系と企業の社員教育体系のミスマッチは未だ大きな課題となっている。山中理事長は大学・大学院の学生であった当時より、日本社会における人材育成、とりわけ職業教育や社員教育に強い関心を持っており、「企業の成長のためのみならず、地域開発のためにも、アメリカ並みの産学協同教育が必要である」と考えていたという。卒業後は中小企業向けのベンチャーキャピタル(東京中小企業投資育成(株))で活躍した実績も持つ。
近年、未来の日本型職業教育に関する議論が活発になされているが、山中理事長は「産業教育振興法※での言葉を定義し直すことが、まずは大事ではないか。戦後復興に大きな貢献をしたことを、再評価すべきである」と苦言を呈する。
大学進学率が10%程度であった1951年に施行された産業教育振興法では、職業教育に重点を置く専門校を設置する等、職業教育体系を整え、戦後復興に必要な人材育成の礎となった。大学進学を取り巻く環境は当時と異なるが、産業社会に寄与し得る職業教育について本腰を入れて検討していくのであれば、この指摘は看過できないであろう。
教育生産性をいかに向上させるか
山中理事長は、職業教育体系と社員教育体系のミスマッチを正すためには、学校における「教育生産性」を向上させる必要があり、その最も有効な方法論として「理論と実践の有機的結合」を挙げている。
教育の生産性を「学修成果」と「学修期間・学修労力・学修費用」との関連から捉え、その向上には教育投資の概念を持ち、高付加価値教育を施す必要があると言う。しかし、「大学等での教育はあくまでも自己実現を図るための手段であり、目的ではないはず。時間やお金を効率良く活用し、社会で役立つ教育の高生産性が必要ではないか」とその現状については疑念を抱いている。「教育の目的不在で手段ばかりが叫ばれるが、職業教育は産業社会のインフラであるべき。目的意識もないまま高等教育を受けて就職できないような若者を輩出するのではなく、職業教育にシフトさせることで社会の安定が図られ、雇用も創出されるだろう」という信念がその根底にはある。
また、就職後のキャリアチェンジという点からも教育生産性が求められると言う。バブル景気崩壊以降、終身雇用制度が揺らぎ始め、労働者の就労観にも変容が見られる。学校を卒業した後、同じ企業に定年退職まで勤め上げるというキャリアではなく、社会変動に即したキャリアチェンジを重ねていくケースは、今後ますます増えていくだろう。
そのためには学校での学び直しが必要になる場合もあるが、キャリアチェンジのために2~3年も通学することは難しい。「だからこそ、教育の生産向上性をあげる必要がある。職業教育は年限にこだわらず、アメリカのように飛び級制度や単位制も取り入れるべきではないか」と山中理事長は提言する。
こうした理念は、メイ・ウシヤマ学園の学校経営モデルにも反映されている(図表1)。かつて美容講習所として社内に自前の研修部門を置き、先輩の真似から始まり10年かけて習得させていたことを、美容専門学校として教育カリキュラムをシステム化することにより1~2年で習得できるように、即ち教育の生産性を向上させることにより、職業教育体系と社員教育体系の連続性を高めようとする仕組み(ジョイントプログラム)である。専門学校においても大学院大学においても、理論と実践を有機的に結合させ、教育生産性を重視した多様な年限のコースが設置されている。
技術と経営を結合させる専門学校+大学院大学教育
山中理事長は、現在の日本の職業教育、とりわけビューティビジネス教育の課題の一つとして、「技術者を活かす経営者の不在」も挙げている。日本の美容技術は世界一なのに、そこに付加価値を付けて価値を増幅できる経営者がいないのは非常に残念なことだと言う。サービス業の雇用シェアが75%を占める今、優れた技術を有する専門職人材を活かす経営者を育成し、技術と経営を両輪とした職業教育を推し進めることが重要である。これまでは現場上がりの経営者が主流だが、必ずしも良い技術者が良い経営者になるとは限らず、また自ら技術を持たずとも人の力を引き出しマネジメントすることは可能であり、専門的に経営者としてのスキルを学んだ専門経営者が求められていると言う。
そこに、専門学校と大学院大学の一貫教育体制の意義がある。メイ・ウシヤマ学園では、専門学校の高度専門課程及び大学院大学ビューティビジネス研究科により、「技術」と「経営」を有機的に結合させた教育カリキュラムを整備している(次頁図表2)。
ハリウッドビューティ専門学校の高度専門課程では、美容界のリーダーを目指し、高度なヘア・メイク・ネイル・エステ・美容健康食・着付のトータル美容の専門科目、さらに美容室経営の基礎が学べる理論と実践の結合した4年間一貫教育を展開している。 美容業界を代表する技術者や経営者との提携による学校教育、現場研修から就職までの産学協同教育システムであり、美容師免許取得と大学院へ進学できる大学卒業同等の資格(高度専門士)を取得できる、日本で唯一の学校である。
ハリウッド大学院大学のビューティビジネス研究科では、ビューティビジネスに直結する高度な知識やスキルを効果的に修得できるプログラムが組まれている。経営学・会計学・マーケティングといったビジネス基礎科目は、高い学識を持つ研究者教授が担当し、サロンや化粧品店等の業態別のマネジメントや従業員の技術評価といった実務的な発展科目は実務家教授が担当する等、理論と実践をバランス良く学べる内容となっている。
生涯を視野に入れた専門職キャリア教育
「技術」と「経営」、どちらにシフトしても同じ業界内で動くことになる。つまり、美容・化粧品業界に就職した人は、同じ業界内でキャリアチェンジをすることが可能となり、それは業界から見れば人材をストックできることにほかならない。
日本の労働市場を踏まえ職業教育について議論する際には、「就社(組織に属するフローマーケット)と就職(職を得るストックマーケット)の概念はきちんと分けるべきである」と山中理事長は念を押す。
メイ・ウシヤマ学園では、「特定企業への就社を目的とするゼネラリスト教育」だけでなく、「専門職に就職するためのスペシャリスト教育」にも力を入れている(図表3)。「生涯キャリア開発センター」を設置し、就職転職支援・経営支援・紹介派遣等を行っている。また、キャリア教育の種類を「キャリアゲット(Career Get)」「キャリアアップ(Career Up)」「キャリアリフレッシュ(Career Refresh)」「キャリアチェンジ(Career Change)」に分類し、生涯を通じての専門職キャリア教育にも力を入れている。
「キャリアゲット(Career Get)」は、「就職力(就職決定率)」を教育目標に掲げ、新卒学生を対象に「学校卒業後の就職・就社を目的とする基礎的教育」を行うものである。このような教育は、多くの大学でも今や一般化しているだろうが、他の3つは卒業生を含めた社会人を主な対象としており、生涯にわたるキャリアの転機(トランジション)に対応した、メイ・ウシヤマ学園の特徴的な教育といえるだろう。
まず「キャリアアップ(Career Up)」は、「専門職力(専門職昇格)」を教育目標とし、昇格希望社会人を対象に「在職または転職後に高度な専門職への昇格教育」を行うものである。
続いて「キャリアリフレッシュ(Career Refresh)」は、「復職力(旧職場復帰)」を教育目標とし、休職者の現役復帰を目的に「休職後に元の職場職種に復帰への再教育」を行うものである。結婚や出産を契機に休職し、タイミングを見て復職を希望する女性は多い。しかし、現状では、元の職場職種に復帰することは難しい。美容業界には多くの女性が就職しており、このような教育に対する期待やニーズは大きい。
最後に「キャリアチェンジ(Career Change)」は、「転職力(新職種転換)」を教育目標とし、転職希望社会人を対象に「現在の職種よりも有利な転職への教育」を行うものである。
このように、在学時に身につけた能力やスキルの賞味期限が切れないよう、卒業生に対するフォローもしっかりと行っている。山中理事長は「授業料は在学期間の分だけでなく、生涯の学びに対するもの」と言うが、こうした信念はメイ・ウシヤマ学園の職業教育にも強く表れている。
ビューティビジネスのグローバル化に伴う展開
メイ・ウシヤマ学園の職業教育は、卒業生も含めた多様な年代の学生に対してだけでなく、多様な国々の学生に対しても展開されている。
アジア地域の開発途上国、特に経済発展が進む諸国では、ビューティビジネスやトータルビューティに対する需要が急速に高まりつつある。こうしたビューティビジネスのグローバル化に伴い、様々な国でリーダーとして活躍できる人材が求められており、メイ・ウシヤマ学園ではそれに応える人材の育成にも長年力を入れてきた。世界10カ国以上の学生が「インターナショナル・ビューティシャン」を目指して学んでおり、在校生や卒業生との国際交流を通じて活躍の場を広げている。
サービス業におけるセンスやスキルは、その国の文化によるところが大きい。日本の職業教育、特に美容教育の水準は高く、海外移転も可能なレベルに達している。しかし、現地に日本の学校をそのまま移転・設立することは、思想教育も含んだ文化が根付いているが故に難しく、現地化していかなければならない。特にアジア地域は思想教育が強く、その傾向が強いという。
こうした状況を踏まえ、メイ・ウシヤマ学園では、教員養成やシステム・ノウハウ提供を行い、ロイヤリティビジネスに特化している。中国や韓国の美容学校で教員となる人材を育成するのみならず、海外で経営者としてビューティービジネスを展開する人材も増えているという。直営のサロンで、専門課程生は「技術」、大学院生は「経営」のインターンシップを取り入れているが、多国語インターナショナルサロンもその中には含まれている。
メイ・ウシヤマ学園では、「専門職大学(仮称)」の構想もある。専門職大学院・専門職大学(仮称)・職業実践専門課程を通して、高度化・実践化へ進化する専門職キャリア教育をさらにグローバルに推し進め、実践的リーダーを育成していくという。
職業教育ではカリキュラムや教育システムのみならず、先輩が後輩を教える連携リレー教育も重要である。専門学校+大学院大学の体制により、これから実社会に出ていく学生(主に専門学校に在籍)は、学生経験以外の多様な経験をしている先輩、しかも自分が将来希望する業界での経験が豊かな先輩の姿から学ぶことができる。実践経験豊かで専門技術にも秀でているような学生(主に大学院大学に在籍)にとっても、後輩に「教える」「伝える」経験は自身の成長につながる。今後の専門職大学(仮称)設置が可能となれば、「人財メーカー」としての環境や雰囲気もより充実したものとなるだろう。
(杉本和弘 東北大学高度教養教育・学生支援機構教授)
- この法律で「産業教育」とは、中学校(義務教育学校の後期課程、中等教育学校の前期課程及び特別支援学校の中学部を含む)、高等学校(中等教育学校の後期課程及び特別支援学校の高等部を含む)、大学または高等専門学校が、生徒または学生等に対して、農業、工業、商業、水産業その他の産業に従事するために必要な知識、技能及び態度を習得させる目的を持って行う教育(家庭科教育を含む)を言う。