コア人材の選抜に成功したPASCAL入試/創価大学

POINT
■「創造的人間」の育成に向け、入学時点では断片的な知の量を測るのではなく、総合知を求める
■高校までの実績や活動を踏まえ、全学的に展開するアクティブラーニングの適性を評価
■LTD体験参加者はのべ340名、定員100名に対し志願者226名、志願倍率は2.3倍
■学部選考委員会では、教職員が受験生一人ひとりの結果や状況を踏まえ、喧々諤々の議論
■次年度は理工学部を加えた8学部中7学部で実施を検討中

 創価大学(以下、創価)は、1971年に創設された、8学部10学科、4つの研究科、2つの専門職大学院を擁する総合大学である。建学の精神に基づいた「創造的人間」の育成を目標としており、そのために「知力」と「人間力」を磨き、「自分力」(学生一人ひとりが有している可能性)を発見し、開花させる人間教育を重視している。
 そうした教育目標を実現するため、創価は2018年度入学者選抜で「PASCAL入試」を導入した。創価が全学的に展開するアクティブラーニングの適性を測ることを目的に、LTD(Learning Through Discussion)と呼ばれる手法を軸に設計されたものである。選抜の流れと各段階の結果は図の通り。設計に至る経緯は本誌205号でご紹介した。今回はその結果や実施から見えてきた課題について、アドミッションズセンターの澤登秀雄副部長にお話をうかがった。

 初年度ということもあり力を入れたのは「理解」の場の設計である。受験生に趣旨や内容をきちんと理解してもらわなければ、単なる話題提供で終わることが懸念された。そこでオープンキャンパス(OC)では10回にわたり、本番さながらのLTDを体験できるようコンテンツを用意したところ、のべ340名もの参加があったという。「午前・午後55分ずつで、毎回異なるテーマで実施したところ、『楽しい』と言って連続参加する生徒もいました」との言葉通り、自ら仮説を立て議論することが好きな生徒には、関心の高い内容だったようだ。最終的な出願者の65%がOC経由だったが、逆にOCで体験して「この方式は自分に向いていない」と判断し、別の入試方式に回った受験生も相当数いるという。澤登氏は、「全員が同じタイプでは多様性が確保できません。理解の場を充実させることで自分との相性をきちんと考える機会を提供できました」と話す。またそうした場でプチ体験に留まらず本番同様の設計にしたことで、入学前教育より早い「出願前教育」として機能し、PASCALで狙った層の素質を引き出すことに成功したと言えそうだ。

 PASCALの二次選考は10月に実施された。内容は6人グループでのLTD55分、20分の休憩を挟んでLTDのテーマに関連した小論文800文字程度45分、お昼休みを経て3対1の個人面談15分である。LTDも面接も学部による採点だが、評価者は別々になるよう配置した。面接では評価者が事前に受験者の「自己申告書」を読み込んだうえで、高校時代までの活動状況、入学動機等を中心に質問を組み立て、学部教育や大学風土との相性を徹底的に見たという。創価ではPASCALの入学生も入学後に選抜コース等には属さず、他選抜の入学生と同じ教室で同じ授業を受ける。そうした教育設計になっているのは、大学教育全体として推し進めるアクティブラーニングの適性を重点的に見るのがPASCALであり、学部の通常授業を中心に周囲を牽引するコア人材となることが期待されているからだ。
 なお、試験終了後の夕方からは学部ごとの選考委員会が開かれ、受験生一人ひとり結果や状況を踏まえ、喧々諤々議論したという。当日中に議論するために各選考データと資料を全て揃え必要に応じてスコア化し、内容は職員がダブルチェックする等運営上の苦労も多かったというが、「鉄は熱いうちに打て、ではないですが、当日の感覚が残っているうちに学部全体で議論することが大事でした」とのこと。これは欧米アイビーリーグ等で行われているアドミッションズオフィスの選抜に近いように思われる。コア人材の選抜には相応のプロセス設計と運営努力、何より教職員の熱量が必要というわけである。

 一方で課題は何が見えたのか。以下は検討中であり全て現段階の予定だが、評価者人数の見直しや評価方法の修正等、精度を高める方向性で議論しているという。
 まずLTDについて。今年度は1グループ6名としたが、6名では発言機会に濃淡が見られたため、次年度から5名に変更する予定だ。評価は2グループごとに3名(教員2名、職員1名)が担当し、議論のステップごとに分担して評価を行ったが、進捗全体を見る視点が必要との声が多く、次年度は評価者を増員し、各グループの全工程を評価する方式に変更する。今年度の評価者は次年度も担当継続し、研修を重ねて経験を厚くする予定だ。そのほか、書類審査における評価項目の周知のほか、今回特に対策を講じなかった小論文についても、入試でのLTDと小論文との連動を意識しつつ、OCの体験コーナーで例示する等、書く力を育む方向で検討しているという。
 また、次年度は理工学部でも導入を検討している。今年度は共通課題でLTDを実施したが、次年度からは学部教育との整合性をより高めるべく、各学部独自のLTD予習課題と小論文問題を実施できないか、調整中だという。

 課題は様々あれど、澤登氏は初回実施を「大成功」と称し、確かな手ごたえを得たようだ。「初年度で手探りしながら、志願倍率は2.3倍をつけることができました。最終合格者は90名と、入試定員に10名ほど足りませんでしたが、受験生に接した実感として、また評価を担当した教員の話として、本学が求めこの制度で想定した人材が獲得できた実感があります。また本学側の現実的な運営キャパシティも把握できました。次年度以降はこのラインは下げずにより運営設計面で磨きをかけ、本学らしいコア人材の選抜を行っていきたいです」。 

編集部 鹿島梓(2018/1/5)