楽工舎/日本文化大学
日本文化大学は、1978年に東京都八王子市の地に開学した法学部のみの単科大学である。創学者である蜷川親繼(ちかつぐ)氏は、「これからの日本を支えていく人材は、温かい人格をも兼ね備えなくてはならない。法律を学ぶ前にまず人づくりが重要である」と説いた。その理念にもとづき、日本古来の歴史や良き文化の修得をも重視し、徹底した少人数教育により幅広い学びを実践している。「先生と学生の距離が非常に近い。キャリア支援についてもゼミや就職関係の先生が中心になって、個人別に相当きめ細かくやっている」(特任教授・吉田勝信氏)というその指導の成果は、警察官をはじめとする多くの公務員を輩出するなど、高い就職実績が証明する。
指導のソフト面に尽力してきたこの大学は、ハード面における魅力も強化すべく、開学以来30数年を経過した頃からキャンパス整備を着実に進めてきた。グラウンドの全面人工芝敷設や夜間照明の設置に始まり、昨年2月には国際規格に準拠した柔道場「立志舘」が竣工。警察官としての道を志す学生達が日々柔道の腕を磨く。そして、キャンパス整備計画の中心的存在として、昨年8月に完成したのが地上4階建ての総合新校舎「楽工舎」である。吹き抜けのトップライトからは自然光が降り注ぎ、建物内部を明るく照らす。教室の壁はガラス張りとなっており、ほどよい緊張を保ちつつも圧迫感がない。また教室内部は柱がなく、横に広さを確保し奥行を短くしていることが特徴。そのため、学生は先生との物理的距離、ひいては心理的距離を近づけられる。いずれも、「学生に伸びやかに使ってほしい」という大学側の思いを具現化した造りとなっている。一方で学生側も、什器メーカーのショールームまで足を運んで机や椅子の検討プロセスに関わるなど、自分達が学ぶための場づくりに、彼ら自身の意思を反映している。
また、日本文化大学の特徴的な学びとして茶道の実技がある。日本文化史という必修科目の一環で、全員が茶道の実技を受けるが、その授業の場として36の炉が配された大きな茶室が作られた。学生はここで一斉に茶道の心得とお点前を身につけることができる。この広間のほか、4畳半の本格的な茶室もある。「お茶というのは客人を迎えるマナー。その心構えや礼儀作法を学ぶことは、社会に巣立ってから自然と形になって表れる」(法学部・山田 徹氏)。
さらにこの新校舎において大切にしたのが、学生にとっての「寛ぎ、安らぎの場」としての役割を担うこと。例えば、2階の「さくらテラス」は友達と軽食を食べながら自由なコミュケーションが図れるスペースとなっている。春には窓からの景色が桜一色になるという。そのほか1階の「学生ホール」も廊下の待合スペースも学生が自分の居場所を持ち、大学への愛着の基点となる場所となっている。「大学の中で学生同士が会話しながら寛いだり、先生方にちょっとした質問をしたりということが学びにつながっていくと思います」(山田氏)。
そして、これまで隣の2号館にあった法廷教室の施設をこの楽工舎に新設。実際の裁判の状況を高いレベルで再現できる最新設備を整えた。学生が主体となって裁判官や検察官、廷吏などの役割をそれぞれ担い体験する「模擬裁判」という科目も開講する。
同大学のキャンパス整備計画はこの後もまだ続く。2号館を新たな校舎へと刷新、その1階フロアは全てトレーニングルームになるそうだ。
礼節を身につけ、心身共に成長した人材がこのキャンパスから続々と誕生することを、すれ違う学生達の明るい挨拶の声から実感した。
2017年8月に完成した総合新校舎「楽工舎」外観。大きな局面を描く外壁が特徴的。
「さくらテラス」も十分に採光が考慮されたガラス張りのスペース。春には、窓の外には一面の桜の花が見られる。
入口のすぐ横に設けられた学生ホール。
自由に組み合わせることが可能な机の形状から、通称は「勾玉部屋」。アクティブラーニング形式の授業に活用される。
教室は窓が大きく取られており採光が十分考慮された明るく開放的な造り。
36の炉が切られた広々とした茶室。青畳の香りが広がる中、全員がここで茶儀の実習を行う。
「親繼(ちかつぐ)庵」は、初釜などあらたまった機会に使用される、本格的な茶室。
裁判の流れがリアルに再現できる法廷教室。オープンキャンパスに来た高校生にとっても、興味を引き付けられる場所の一つとなっている。
200人強を収容できるホール。ガイダンスや大人数が受講する授業で使用する。モノトーンを基調とした内装やコンクリートの壁が、他の教室とは雰囲気を異にする。
パウダールームは、トイレの概念を超えた寛ぎの空間のひとつとなっている。
(文/金剛寺 千鶴子)
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