共通基盤教育のフレームで入学者を育成・選抜する 武蔵野BASIS育成型入試/武蔵野大学

POINT
  • 仏教による人格教育を教育理念に、「世界の幸せをカタチにする。」をブランドステートメントに掲げる浄土真宗本願寺派の仏教系大学
  • 1997年までは文学部単科の女子大学だったが、20年かけて9学部を擁する共学総合大学へ進化
  • 修学キャンパスは武蔵野キャンパスと有明キャンパス(2012年開学)の2カ所
  • 2010年より全学共通教育「武蔵野BASIS」を導入
  • 2013年より武蔵野BASIS育成型入試を導入
  • 2017年度は19名の志願者・合格者(定員はAO入試との合計で全体87名)

知の土台を培う共通基盤教育「武蔵野BASIS」のフレームを活かした入学者選抜へ

 武蔵野大学は文学部単科の女子大学からの共学化や積極的な学部学科の新増設改組・定員増加により、ここ20年間で急拡大してきた大学である。

 2010年から開始した全学共通教育「武蔵野BASIS」をご存じの方は多いことと思う。武蔵野大学では学部学科を問わず全学生が1年次を武蔵野キャンパスで過ごし、このプログラムを履修する。BASISの名の通り、大学での学修の共通基盤となる考え方や知識等を修得することが目的である。特に注目すべきは「基礎セルフディベロップメント」という、自己理解・他者理解のための科目だ。全学科混合のグループでのディスカッションで、哲学(認識と叡智を学ぶ)、現代学(国家と世界を学ぶ)、数理学(数学的考え方を学ぶ)、世界文学(創造と生き方を学ぶ)、社会学(世間と個人を学ぶ)、地球学(自然と人間を学ぶ)、歴史学(事実と時空を学ぶ)の7分野を、それぞれの専門家による講義と討論を通して学ぶ。多様性の中で主体的に学び、自分の考えを発表し、他者の考えを聞きながら考察を深める。まさに学力の3要素を総動員して挑み、育む科目である。

 現在武蔵野大学は、西東京市の武蔵野キャンパスに加え、江東区の有明にもキャンパスを構える。「キャンパスごとに学部を設置すると別々の大学のようになってしまいがちなところ、本学はBASISを必修とすることで、基盤教育の共通化に成功しました」と、北條英勝教務部長は話す。武蔵野BASISは、2キャンパス一体となった教育の質保証という文脈から整備されたものでもあるのだ。

 2013年からはそのフレームを活用した入試を開始した。ベースとなるのは、先述した基礎セルフディベロップメントのワークを通じて、他者との関係性の中で学び、自らの論を構築し、発信することである。武蔵野BASISはオープンキャンパスでも体験コンテンツとして人気があり、高校からの評判も高い。しかし、国の高大接続議論が始まった頃から検討を開始していた先見の明もさることながら、なぜ教育コンテンツのフレームを入試に転用することになったのか。背景には急拡大した大学についての危機感があったという。

 少子高齢化の時代で真に選ばれる大学になるには、大学としての個性をより強固にしていく必要があるのではないか。そこで白羽の矢が立ったのがBASISだった。「本学は武蔵野BASISを広報上も軸の1つとして立てています。本学ならではの共通基盤教育として設計し、教育成果を出してきました。だからこそ、その教育価値を入試に導入できれば、本学ならではの選抜制度が設計できるのではないかと思ったのです」。

模擬授業課題、グループワーク、プレゼンテーション等、複数のステップで多面的に評価を実施

 入試の具体的なプロセスは以下である。8月のオープンキャンパスで「武蔵野BASIS育成型入試模擬授業」(哲学または社会学)を受講し、そこで提示された課題、志望理由書、調査書による一次審査を経て合格者は志望学科混合のグループワークに参加し、模擬授業で提示された課題に対する自分の考えを説明しながらグループワークとプレゼンテーションを行う。ワークの活動内容(4段階評価/評価項目は公表されている→図表)と書類をもとに各学科の教員が出願可否を審査し、出願可否通知連絡を経て10月末に出願、11月中旬に合格発表という流れだ。教員による審査を経た出願となるため、出願者はほぼ合格となる。入試プロセスに授業やワークが多く組み込まれており、入試に参加することで基礎力を育成する趣旨の入試になっている。

 従前から武蔵野大学のAO入試ではオープンキャンパスでの模擬授業参加による出願が可能となっていたため、武蔵野BASIS育成型入試のプロセスに同様の工程があることは違和感がなかったという。「本来AOは複数回接触して成長を見ながら選抜するのが趣旨と考えています。そうした趣旨に照らし、従前のAOでは見ることができなかった側面をしっかり見るために、武蔵野BASIS育成型入試が誕生したとも言えます」。

 一番の特徴は、出願前のワークと書類を見ながら、教員が「この子が欲しい」と思った受験生を指名でスカウトする点であろう。そのため、エントリー段階でのワークを通じて学科教育に必要な要素に照らし、受験生のポテンシャルや成長具合を見極めるのである。育成しながら評価するという流れだ。昨年度入試では、グループワーク段階では参加者は40名、出願可否通知連絡段階では19名であり、スカウト率は約5割となった。

 なお、対象となる学科は毎年見直しているという。学科ごとのアドミッションポリシーに掲げる求める人材像、学び方との親和性が高いところは導入効果が高いようだ。飯山入試センター事務課課長によると、入試と学科教育をシームレスにつなぐために、何をどのように評価すべきかが学科教員に共有徹底されている学科は、ワークを通じた評価が実質化しやすいという。全学共通基盤教育である武蔵野BASISが存在しながらも、選抜手法として武蔵野BASIS型の育成が適している学科とそうでない学科があるというのは興味深い。2018年度入試では環境システム、法律、政治、経営、日本文学文化、人間科、社会福祉の7学科が対象となった。北條教授は話す。「各学科で入試ごとにほしい人材像を設定しており、育成型入試でほしい人材と評価すべきポイントはどこか、どうやって評価するか、AO入試ではどうか、推薦入試では…といった具合にきちんと議論がされている学科は、全体の人材ポートフォリオも描けている印象です。武蔵野BASISは全学で取り組む個性的な取り組みですが、あくまで基盤教育としての武蔵野BASISなのであって、学科の専門教育についてどの学科もそうしたディスカッションが中心というわけではありません。本学は文理医に跨がる総合大学ですので、専門領域ごとに学ぶ方法も多様です。武蔵野BASIS型の育成が専門教育に合致するかどうかは学科判断としているのはそのためです」。

武蔵野BASISの進化に合わせた入試改変を検討

 導入から5年目を迎え、見えてきた効果や課題はあるのか。

「GPA推移等IR的な本格的な検証はこれからですが、5年経ち、国立大学の大学院進学者等、自ら志向したキャリアに進んでいる卒業生も出ています。多様性の中で自らの考えを立てる思考のできる人材は、表層的なものではなくより深い学びを求めるのかもしれません」と北條教授は話す。

 近年基礎セルフディベロップメントに加え、武蔵野BASISで力を入れているのは「フィールドスタディーズ(FS)」。基礎セルフディベロップメントで培った知の土台を活かし学生の可能性を広げるため、大学を飛び出して社会で自己を試し、経験によって内なる壁を乗り越える学習活動である。全学横断プログラムもあれば、学科ごとのFSもあり、「東京都八丈島 離島の保育園インターンシップ」「徳島県阿南市加茂谷地区農業体験実習」「タイNGOプログラム」等、内容や実施場所も多岐に渡る。こうした実践知を育む現状の武蔵野BASISを踏まえ、今後、武蔵野BASIS育成型入試もより進化させようと検討を進めているという。

 近年武蔵野大学が学部学科を問わず全学として掲げているDPは「アクティブな知」。即ち、主体的に情報を取捨選択して自分なりのものを発信できることである。そうしたコンセプトに合致した入学者選抜を設計することは、大学経営を支える軸を再確認することでもあるのだろう。今後の武蔵野BASIS育成型入試の動向を見ることで、そうしたコンセプトの進化を見ることができそうである。

編集部 鹿島梓(2018/5/16)