学部コンセプトの体現者を募集する次世代型リーダー選抜入試/京都産業大学 現代社会学部
学部コンセプトを結晶したアドミッションポリシー
現代社会学部では、アドミッションポリシーとして「社会の多様な事象・問題に関心を持ち、それらの関係性や解決策について考えようとする意欲を持っている人」「自己の価値観や立場を絶対化せず、多様な属性や価値観を持つ人々を理解し受け入れながらリーダーシップを発揮できる人」「高い学習意欲を持ち、将来にわたり多様な価値観を容認する社会の発展に貢献しようとする意志を持つ人」の3点を掲げている。学部として、社会学の基盤と幅広い教養を軸に、社会を研究するだけでなく実際に変えていく「次世代型リーダー」を育成することをコンセプトとしており、そのためには素養として、先述した3点が欠かせないのである。現代社会学部では、この3点に重点を置き、学部コンセプトに合致した人物を選抜する独自の入学者選抜を展開している。その名も「次世代型リーダー選抜入試」。高校までのリーダーシップを発揮した経験とそこから何を学んだのかを紐解き、大学の教育と丁寧に接続する内容である。
「リーダーシップと一言で言っても、その解釈は人によって様々です。多様な人々と協働し、主体的に行動した経験とそこから自分は何を学んだのかを客観的に説明できることを重視します」と藤野敦子学部長は話す。
入試のプロセスは図表1に示した。まず書類審査で志望理由書と自己アピール書で、リーダーシップを発揮した経験と学部を志望する理由について言語化する。その後、リーダーシップセミナーという独自プログラムを受講する。セミナーでは60分のグループワークを2回、それぞれ与えられた課題に初対面のメンバーと協働して取り組み、その後にリーダーシップに関する45分の講義を受ける。リーダーシップに関する理論等のレクチャーである。そうしたプロセスを経て、振り返りレポートを作成し、提出する。グループワークのリフレクションに理論が加わり、自分なりに昇華した状態を見るのである。
グループワークのお題は、例えば「たわし」の従来以外の用途を考える等、答えが1つでない問いについて、他者と協働してどんな答えを導き出すかというものであるという。「実社会では常にそうであるように、正解が1つに定まっているようなことはまずあり得ないものです。だからこそ、協働して自分たちの解にたどりつくためのアプローチを行える人材が活きる。グループワークの中でそうした経験をしてもらい、その中で自分はどう動くのかを実践してもらいます」。パフォーマンス評価は客観性・公平性を期して独自のルーブリックを用いて行う。
次世代でのリーダーシップを育成するとは
この入試では、多様性が増し、より複雑化した未来社会でリーダーシップを発揮できる素養のある人材を選抜することが目的であるが、そうした人材は素養や目的意識において学部教育にマッチしているであろうことを見越して、牽引人材となることが期待されている。例えば、学部教育に多く導入されているグループワークでファシリテーターを務める、周囲の学生に良い刺激を与える等の期待である。
入学後は、社会学の基盤を講義と少人数でのグループワークでしっかり学んだ上で学科ごとの専門性を深める。また仲間と協働し、目標を実現する力を高めることを目的とした「リーダーシップ科目」、実際に社会の課題解決に挑む「演習科目」を配置する。さらに学部内の正課外活動ではあるが、学生同士の「ラボ活動」や教員と協働する「コラボ活動」で他者と協働する実践的な活動の機会も提供する。
「どんな学部なのか、どんな教育を行うのかを想定した入試なので、楽しんで参加してくれた方が多かったようです」との言葉が示す通り、藤野学部長によると、入試に参加した学生の満足度も概ね高かったようである。大学教育と高校教育を入試がつなぐ。まさに高大接続型の入試制度だと言えるだろう。
なお、現代社会学部は全員を次世代型リーダーとして育成することを掲げており、当該入試による入学者だけ特化したプログラムやコース等の措置はないが、通信教育とスクーリングを組み合わせた入学前教育で関心ある社会問題の課題解決の手法を学ぶ機会を与えられる。入学後の導入教育では、ディスカッションや他者と協働する作業が多く取り入れられているため、先んじてそうした行動に慣れ親しんでおく機会を与えられるのである。学部への志望理由を入試プロセスで明確にしているからこそ、こうした仕組みがアドバンテージとして働くのである。
高校までの多様な経験を大学の教育に接続する
実際にこの入試制度を活用する人材にはどんな人がいるのか。2年間実施した中では、生徒会長や大きな大会を目指す部活動のリーダー的存在等、人の上に立つ役割を実践してきた人物、国際交流や地域活動の中でリーダーシップを発揮した経験を持つ人物等、多様な背景を持つ志望者がいたという。「入試設置の趣旨に合致した、多様な人々と協働する中で自らリーダーシップは何かを考え、行動してきた経験を持つ人が多く志望してくれました」と藤野学部長は話す。単なるリーダーシップではなく、次世代型リーダーシップというのが肝なようで、いわく、ダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(包摂)の概念が進んだ社会でリーダーシップを発揮できる人材、まさにそういう人材こそが現代社会学部が育成したい人材層なのである。アドミッションポリシーでも、自分を絶対視せず、多様な人々と協働できる素養を持ち合わせることを謳っており、学部のコンセプトを体現する人物を選抜する入試制度と言えよう。本音を言えば、学部の入試を全部これにしてしまいたいくらいなのであろう。藤野学部長の語り口からは、並々ならぬ意志が伝わってくる。
藤野学部長は、ヨーロッパの労働事情がご専門で、フランス滞在経験もある。多様性を基盤としたヨーロッパ社会では個々を活かすため対話を重視したリーダーシップが発達しているのに対し、日本は1つの概念や声の大きい人の意見に引っ張られやすい傾向があること等を感じる機会が多いのかもしれない。人との違いを楽しめる人、多様性の中で自分なりの仮説を持って主体的にことに当たれる人を多く見いだしたいのだという。
そうした狙いに即して志願者を多面的・総合的に評価しており、高校側からしてもこれまでの学生の経験を多面的に測ってくれる、しかも入学前に大学の学びに関連するレクチャーや入学前教育を充実させていることもあり、反応は概ね好評だという。
入試結果は図表2に示したが、初年度から倍率もつき、多様な経験からリーダーシップを自分なりに理解している学生を集めることができ、学部長は十分手応えを感じているようである。「この入試を楽しめる人は入学後の学びも楽しめると思います」との言葉が示すように、大学教育に必要な素養を見極める、まさに入試は社会へのメッセージなのである。
(本誌 鹿島 梓)