スポーツは世界共通の人類の文化/駿河台大学 スポーツ文化学部(仮称)

POINT
  • 埼玉県飯能市にて、法学部、経済経営学部、メディア情報学部、心理学部、現代文化学部の5学部を展開する大学
  • 1人ひとりの成長を見据えた愛情教育を建学の理念に据える
  • 2019年に現代文化学部を廃してスポーツ文化学部(仮称)を開設予定
  • チームビルディングや協働体験をベースにしたカリキュラムで、2年次より健康・教育・キャリアの3コースに分かれる

※新学部は認可申請中であり、名称・内容等を含む取材内容は全て仮称・予定。


 埼玉県飯能にキャンパスを構える駿河台大学(以下、駿大)は、2019年4月に現代文化学部を改組し、スポーツ文化学部(仮称)を設置予定(設置認可申請中)である。学部設置の狙いや背景について、学部長就任予定の吉野貴順教授(現・現代文化学部学部長)にお話を伺った。

スポーツに対する関心の高さと将来性

 今回改組の対象となった現代文化学部は2017年から2年次進級時に国際文化コミュニケーションコース、観光ホスピタリティコース、スポーツ文化コース、スポーツキャリアコースの4コースから1つを選択するカリキュラムに変更した。そのうちスポーツ系の2コースに、学部定員200名の3/4に当たる150名ほどの希望が殺到しているという。「本学がスポーツに力を入れている大学ということもあり、高校まで運動部に所属しておりスポーツに親しみがある学生、学問としてのスポーツを学びたいという学生のニーズが多いです」と吉野教授は話す。こうした学生ニーズを鑑み、来年開設に向けて認可申請中なのが、スポーツ文化学部(仮称)である。

 駿大は学部を問わず、一人ひとりの学生の自立と成長を促す「愛情教育」を基本理念に掲げている。社会で活躍できる人材を目指して初年次からゼミに所属し、少人数で自分の軸となるスキル・スタンスの育成を行う。新学部も当然そうした土台の上にあり、学生によって異なるスポーツへの期待値に応えながら、将来を見据えた育成を行う。アスリートを中心としたいわゆる体育学部ではなく、あくまでスポーツを中心とした複合分野の教育に拘る。「スポーツには、健康、福祉、教育、医療、国際交流といったこれまでの社会からの要請に加えて、地域社会の活性化や観光など、新たな産業へ貢献することが期待されています。新たな分野としてのスポーツ文化を切り開き、広がりのある教育を実践したい」。これからの少子高齢化の社会で、2020年に東京オリンピックを経ることもあり、スポーツが地域や社会に貢献する大きなチャンスが到来すると吉野教授は見ており、スポーツが担う役割はこれまで以上に大きくなることが予想される。そうした社会で新たな分野としてのスポーツ文化を切り開き、スポーツを中心とした政策立案や運営ができる人材を育成輩出したいという。

協働体験を早期に厚くするカリキュラム

 前述したスポーツへのニーズは高いものの、「今の学生は昔ほど集団的な行動をしてきておらず、規律の中で生まれる楽しさや、他者と協働して作り上げるダイナミズム、といった、スポーツによって得られる体験が相対的に少ない傾向があります」と吉野教授は話す。個人の力だけでは達成できない目標に対してチームで団結する。困難な状況でもリーダーシップを発揮し、周囲を統率する。あるいは、そうしたリーダーを支え、チームを良い方向へ導く。他人を信頼し、関係性を構築する。目標を高く掲げ、最後まで粘り強くやりぬく。心身の葛藤やそれを経た達成感。まずはそうしたものを体感してほしいという狙いから、プロジェクトアドベンチャー(アメリカで開発された体験学習法で、主に野外において困難なアドベンチャーを他者と協力してクリアする教育プログラム)や集団行動等、ユニークな科目を1年次春学期に必修として揃え、協働やコミュニケーション、一体化といったスポーツの力を活かし、学内外でチームを組んで動く経験をカリキュラム上多く配置した。

 「チームビルディングは社会に通じる力」と語る吉野教授は元々スピードスケートの競技者で、ソルトレーク、トリノ両オリンピックのショートトラックチームのトレーニングドクターを務めた経験もある。個人的な想いとして、スポーツをしている人は勉強する時間が十分にとれず知識技能より実技に偏る、といった偏見をなくしたい考えがあるという。文武両道が基本であり、それは二律背反する概念ではない。また、アスリートとして生きる以外に、スポーツを取り巻く領域は広い。そうした現場に従事し、当事者として見てきた立場だからこそ、思い描く形があるのだろう。スポーツそのものを科学的にしっかりと理解したうえで、教材として活用した人材育成を行いたい。そのためにはスポーツマンが身につけないといけないことも多い。専門性にかまけて盲目になってはいけないという。「従来のアプローチには、社会にスポーツをどう活かすのか、という観点が弱かったように思います。新学部ではそのあたりを教育上拘りたい。専門に分断するのではなく社会に活かすという観点で見直した時、スポーツには可能性があり、フィールドはもっと広いはずなのです」。

将来活躍したいフィールドによって分かれる3コース

 新学部では2年次から、将来活躍したい領域ごとに健康、教育、キャリアの3コースに分かれる。スポーツ健康コースではスポーツの意義や健康に与える影響を正しく理解し、様々な年齢層に対して効果的な実践方法を指導できる人材を育成する。主な進路として、健康産業の中での指導者等、健康づくりのプロとしてのフィールドが考えられている。スポーツ教育コースでは保健体育教員や社会体育指導者等、地域社会や教育で貢献する人材を育成する。教育者としてスポーツに関連した専門性を持つスタイルだ。スポーツキャリアコースでは、地域スポーツの運営者、スポーツツーリズムの人材や行政職員等、少子高齢化や過疎化等の地域の課題に対して、スポーツと文化を融合して政策を立案できる人材を想定しているという。現在一番人気は教育コースだそうだが、それは「体育の先生や部活の顧問の先生といった身近な存在に刺激を受けてのことでしょう」と吉野教授は話す。アスリートでなくてもスポーツを取り巻く領域は広く、身につくスキルは汎用性が高い。それを体現するコース編成で、学生1人ひとりのニーズに対応していくという。

 将来的には飯能市との連携や地域のスポーツ行事への積極的な関与等、新学部で構想している在り方は多様である。吉野教授は話す。「駿大はローカルリーダーを育成する大学ですから、活躍の舞台である地域で、1人ひとりが自立してどのような価値を提供していくのかを4年間で探究してもらいたい。新学部はその軸がスポーツ文化だということです。おかげさまで、駿大の学生は就職先等でも人間性の評価が高い。そうしたこれまでの実績を活かして学内外問わず学びの場を用意し、多くの経験を通して学生が成長できることを期待しています」。

編集部 鹿島梓(2018/7/26)