「課題に向き合う主体性」を軸に社会を担う人財を選抜する/神田外語大学

社会のあるべき姿に照らし、課題に向き合う主体性を持った人財を選抜

 神田外語大学(以下、神田外大)が開学以来初めてAO入試を導入したと聞き、幕張新都心のキャンパスを訪ねた。

 神田外大は従来より一般入試の受験者を対象に、6名1グループの集団面接を課している。志望動機や学習意欲等に関する面接で、大学の授業が少人数制の参加型であることから、きちんとコミュニケーションを図れるかを中心に見るという。教育への接続に入試を活用するという意味では、従前から取り組んでいたとも言えるが、今回特徴的な入試を打ち出したのには理由がある。

 神田外大の建学の理念は「言葉は世界をつなぐ平和の礎」。言語を軸にしたグローバルを掲げる大学として、人財の多様性は欠かせない。酒井邦弥学長は「人財の多様性を確保するためには入試の多様化が必要であり、入試ごとの位置づけの明確化が必要です」と話す。単一の集団からはイノベーションは生まれない。差異を包含する集団からこそ生まれるのである。

 酒井学長は画一性から多様性への変化の必要性を「金太郎飴からマーブルチョコレートへ」と表現する。「もちろん多様性だけではなく、それぞれが生き生きと活躍することが大事です。つまり、本学がめざしているのは、ダイバーシティ&インクルージョンです」。一般的にダイバーシティとは人材の多様性を認めることを指すが、インクルージョンは個人を尊重し、それぞれの経験や考え方を認め、活用していく状態を指す。即ち、神田外大は多様な個人の能力と成果が最大化する状態の創出のため、大学の体制や環境を整え、個性を引き出す教育を実践しているというわけである。

 そうした背景から2018年度に導入されたのがプレゼンテーション型入試だ。導入されたのはアジア言語学科(インドネシア語専攻、ベトナム語専攻、タイ語専攻)、イベロアメリカ言語学科(スペイン語専攻、ブラジル・ポルトガル語専攻)である。

 大きな特徴は2点ある。主体的に自らの頭で考え、自らの言葉で発信することを最重視した選考構成と、充実した入学前教育である。

 まず、選考については、書類審査、30分の英語リスニングに加えて、25分の日本語でのプレゼンテーション(質疑応答・面接込)がある。プレゼンテーションのテーマは専攻ごとに事前に定められ、要項等で公表されている(図表1)。かなり突っ込んだ内容であり、下準備や軸となる経験等がないと太刀打ちできないように思われるが、多くの受験生は2〜3カ月の準備期間を経てプレゼンテーションを行っていたとのこと。自らの課題を主体的に掘り下げ、プレゼンテーションできるレベルまで昇華し、臨む入試。募集要項には以下のように記されている。「大学に入学するとこれまで以上に自ら関心をもち、自ら学ぶことが大切になってきます。将来のビジョンを明確にもち、4年間主体的に学び続けるため、自分なりのその地域の文化や言語に対する興味・情熱がどれくらいあるかが大切だと考えています。各学科・専攻のテーマは異なりますが、共通して以下のようなことを大切にしています。①その地域の文化や言語に対し、自分が強い関心があるか。②その地域の文化や言語に対し、基本的な理解とそれに対する自分なりの考えを持っているかどうか」。テーマの難解さに拘わらず、自分の考えをまとめ、それをどうアピールするのが効果的かを講じてほしいのだという。試験当日は7割程度はPCを用いたプレゼンテーションだったが、模造紙や紙芝居、歌に至るまで、その表現方法は個性的かつ多岐に渡ったそうである。

 「今の日本はフレキシビリティーが低い。公平、平等、公正が重んじられるのは悪いことではないが、何であっても偏りすぎている状態は不自然です。本学はそこに切り込めるような人財を輩出したい」と酒井学長は話す。今回の入試改革はそうした神田外大の教育に対する考え方・スタンスを社会に対して発信するという意味合いも強いという。

自立学習できる人財を育てる

 神田外大は2003年度文部科学省特色GPに採択された「英語の自立学習支援の新システム」に代表されるように、自立学習を掲げる大学である。酒井学長は、「How to learnを学ぶことが肝要」と話す。2017年には自立学習教育研究所(RILAE)も設立した。また、同年に開設したKUIS 8(クイス エイト、小誌206号で紹介)のほか、MULC(マルク、7号館2階の疑似留学空間:MultilingualCommunication Center)、SALC(サルク、8号館内:Self-Access Learning Center)、アジアン食堂「食神(しょくじん)」等、主体的に言語を学ぶ意欲を喚起する施設が多く整備されている。言語だけでなく文化や人間を含めて学ぶことが本質的な学びとなる、そのための投資を惜しまずに行ってきた。自立学習の習慣がついた人財こそに輩出価値があり、他大との競合優位点であると決めている。酒井学長は以下のように話す。「開学以来、本当に世界と渡り合い、活躍できる人財を育成輩出するために、大学はどうあるべきかを考え、誰もが主体的に英語を身につけたくなる環境を整備し、学習の循環を生むことに注力してきました。その集大成とも言えるのが昨年設立した自立学習教育研究所とKUIS 8です。今回の入試も当然同じ文脈にある。どんな変化のもとにあってもHow to learnを知る人財こそが社会に必要なのです」。だからこそ、テーマに即した自分の論を構成しプレゼンテーションできる人財選抜に踏み切った。

入学後の教育につなげる手厚い入学前教育

 もう1点の特徴である入学前教育については、2018年度は3種類の教育が用意され、当該入試の合格者は入学前研修及び入学前課題の提出が必須とされた。

 まずは自立学習型の英語課題である。10月から2カ月間・自宅学習・SALCのラーニング・アドバイザーとの双方向学習が課された。

 ほかに、大学で行われる宿泊型研修(1泊2日)、推薦合格者と共通の入学前課題(3カ月間・自宅学習)が実施された。宿泊型研修では合格者同士のつながりも形成し、入学後に各専攻を牽引する人財となるための素地を養う。全ては入学後の教育につなげるために。入学後成長するためには、入学までにどんな力をつけておく必要があるのか。将来的に社会を支える人財となるために。大学側の手厚い教育からその本気度が伝わる。

 入学前教育設計の主体となったのは2017年に正式オープンしたアカデミックサクセスセンター(ASC)である。学生が学業で成功を収められるよう、共同学習や個別ニーズに応じた指導を行い、学問的な知識を深め、高度な技術を身につけるための機会提供を目的に設置された。

 初年度の入試定員は17名、全体の定員893名の2%程度であるが、入学後から卒業に至るまでの成長具合を見ながら今後の設計を決めるという。建学の理念に裏打ちされた入学者選抜が今後どう発展していくのか、引き続き注目していきたい。

(編集部 鹿島 梓)