国内屈指の海外連携による新たな価値の創出/立命館大学 国際関係学部 アメリカン大学・立命館大学国際連携学科
- 15学部28学科を擁し、2020年に学園創立120周年を迎える伝統校
- 2018年4月国際関係学部にアメリカン大学・立命館大学国際連携学科を設置
- アジアを牽引する次世代リーダーを育成するための国際共同教育プログラムを設計
- 初年度は立命館大学に5名(日本人3名、韓国人2名)、アメリカン大学に14名が入学
- 日米の大学のそれぞれの強みを兼ね備えた学科の魅力をより広く伝える広報を強化
グローバル・アジア・コミュニティの構築と人材育成を掲げる
立命館大学は、1869年西園寺公望が創始した私塾「立命館」をその源流とし、前身となる「私立京都法政学校」は1900年に創設、2020年に学園120周年を迎える伝統校で、現在15学部28学科を擁し、1学年あたりの定員は約8000名という大規模校である。建学の精神として掲げるのは「自由と清新」。清新とは現代語訳すればイノベーションを指すという。また、「Creating a Future Beyond Borders」をスローガンに、常に時代の先端たることを理念とし、様々な改革を進めている。
立命館大学の国際化は、30年前の1988年、西日本で初めて、国際と名のつく学部「国際関係学部」を設置することで始まった。立命館大学は、多様性の創造、多様性への理解がイノベーションを生み出し、また、グローバル教育を通じた異なる価値観への理解・尊重が、平和を実現するとの考えの下、多様な国際プログラムを展開している。
最近の動きとしては、2014年にスーパーグローバル大学創成支援事業(以下、SGU)タイプB「グローバル化牽引型」に「グロ-バル・アジア・コミュニティに貢献する多文化協働人材の育成」が採択されている。ここでは、「アジア共生マインドを持つ科学技術高度化の担い手=アジア高度人材、ならびに、アジア共生マインドを持ち社会の在り方を変える担い手=アジア・イノベーティブ人材を大胆かつ大規模に育成していくための教育・研究の徹底したグローバル化と、その仕組み・環境・体制づくりを全学あげて推進する」とある。
その改革の具体化の1つが、今回取材した「国際関係学部 アメリカン大学・立命館大学国際連携学科」(以下、JDP:Joint Degree Program)であろう。その内容や設置背景について、京都の衣笠キャンパスを訪ね、君島学部長にお話を伺った。
長年の連携で培われた信頼関係をベースにした共同教育プログラム
「今回連携しているアメリカン大学(以下、AU)と本学は、1994年から学部レベルでのデュアルディグリープログラム(以下、DUDP)で協力関係を構築してきました」と君島学部長は話す。西日本初の国際関係学部が誕生して今年で30周年になるが、開設して間もなくDUDPを開始したことになる。AUはワシントンD.C.の北西にあり、初代アメリカ大統領、ジョージ・ワシントンによる「首都に偉大な大学を設立する」という呼びかけに後代の人々が応えて1893年に創立された名門私大である。在米外国大使館や官庁、国連本部等が集まる場所柄か、政治学や国際関係学の分野に定評がある。今回、連携したのはその中でもSIS(School of International Service)と呼ばれる全米最大規模の国際関係の学部・研究科であり、米国の外交専門誌「Foreign Policy」の国際関係学分野ランキングでは全米第9位。JDPの定員は25名で、立命館側とAU側双方で募集を行い、入学した学生は図1にあるように、立命館とAUを行き来しながら、学ぶことになる。立命館側の学生は2年次前期までは立命館で学び、後期から4年次前期まではAUで学び、後期に日本に帰ってくるという具合だ。募集については概ね立命館が20名、AUが5名を想定していたが、初年次入学したのは立命館が5名、AUが14名とほぼ真逆の結果となった。これは後述するが、アメリカ側からの強い期待感が背景にあるようだ。
なお、JDPについては2014年に大学設置基準改正によって学科設置が可能となった。そこには、連携外国大学が開設する授業科目を教育課程の一部とみなして、連携した教育課程を編成することができる等が定められている。今回のJDPについてもこの改正に則って進められたものであり、学科設置は国内第一号である。
“デュアル(DUDP)”と“ジョイント(JDP)”の違い
ここで、DUDPとJDPの違いに触れておこう。
DUDPとは、学生が、連携する2つの大学のそれぞれ独自のカリキュラムのもとで2年ずつ学び、取得した単位の一部をダブルカウントして2つの大学の卒業要件を満たし、学士号を2つ取得するもの。一方でJDPとは、異なる大学同士が共通の人材育成目標のために連携して1つのカリキュラムを構築し、それを学生が受講し、両大学が連名で1つの学位を授与するというもの。学生はどちらの大学にも所属することになり、取得学位は「学士(グローバル国際関係学)」。そのための卒業単位124単位全てをジョイントでデザインするのは大変な苦労であったという。君島学部長は話す。「いくら共通した育成人材像のためとはいえ、国も言語も文化も何もかも異なる2つの大学が、連携した1つのカリキュラムを編成するのは容易なことではありません。直接協議の場ももちろん設けましたが、Skype会議等も活用して協議しました」。
なお、立命館が2019年4月に向け開設準備を進めているグローバル教養学部はオーストラリア国立大学とのDUDPである。詳細は割愛するが、従来とは異なり、立命館大学とオーストラリア国立大学が協力して、DUDPを教育課程の全面に組み込んだ日本初の学部となる。こうした動きは先行利益がある反面、実績や事例がない領域での苦労も多いことだろう。敢えてそこに踏み込む理由について問うと、君島学部長からは以下のような言葉が返ってきた。「立命館は自由と清新を建学の精神とする大学ですから、他校がやっていないことを切り開くことにこそ我々のアイデンティティがあると考えています。国内初でなければ意味がないくらいの気概でやっていました」。大学が根差す精神に照らした改革を。苦労はしかし確実に結実し、これまで国内にはなかった実質的な国際連携の形が体現された。
国際関係学部には図2に示すように、国際関係学科に国際関係学専攻とグローバル・スタディーズ専攻(以下、GS)という2つの専攻が存在する。GSは2011年に開始した専攻であり、入試では日本語能力を問わずに英語で実施、授業も英語で行っており、今や29カ国以上の国々から集まる留学生が京都の地で学んでいる。60名の受け入れ数だったが内外での要望が強く、2018年から100名まで拡充した。国際関係学部における経験や実績、さらに、AUとのこれまでの協力関係を結集させて、今回のJDPをスタートさせた。
アジアの時代を担う次世代グローバルリーダーを育成
手法としてのJDPは見てきた通りだが、そもそもの設置背景にある課題意識に戻って、君島学部長は話す。「SGUの構想段階から盛り込んでいたところですが、世界情勢が欧米中心からアジアへと国際的なパワーシフトが起こっているのを踏まえ、アジアを理解する次世代グローバルリーダーを育成する必要があります。AUにとっても、学生がアジアでアジアを学べるメリットは大きいようです」。そうした期待感から、AU側の志願者は250名にも及んだという。なお、アメリカではAUのJDPで学ぶアメリカ人学生に連邦奨学金等が支給されるため、学費の面での障壁もない。そうした背景もあり好調な募集だったようだ。
一方、立命館大学での学生受け入れについては、20名の募集人数に対して現在5名(うち2名は韓国からの留学生)となっており、JDPの魅力をいかに多くの高校生に広く知ってもらうかが今後の課題である。「将来的にはAUからの学生と立命館大学で受け入れる学生が同数になるようにしたい」そうだ。同時に、どうしても高くなる学費を補う日本人学生向け奨学金制度を更に充実させる計画もあるという。 国際的なニーズを背景に、君島学部長の言葉は力強い。「日本の高校を出てすぐに海外の大学に進学するのはちょっと不安、日本にも足がかりは欲しい、でも日本の大学では何か物足りない、という高校生にも今後もしっかりとアプローチして、JDPで学ぶことの意義等をより一層、発信したいと考えています」。
編集部 鹿島梓(2018/8/8)