チームで新しいビジネスの仕組みを創る/桃山学院大学 経営学部 ビジネスデザイン学科

POINT
  • 1884年教会の敷地内に建てられた英学校をルーツとし、1959年に開学した大学。現在、国際教養学部・社会学部・法学部・経済学部・経営学部の5学部6学科を擁する。
  • 2019年4月経営学部ビジネスデザイン学科を開設予定。
  • 変化の激しい社会で多様な人と協働して新しいビジネスを生み出せる人材を育成する。


予測不能な将来社会で、会社に頼らず生きていける人材を育成

 桃山学院大学では2019年4月経営学部ビジネスデザイン学科を開設する。牧野 丹奈子学長に新学科で育成したい人材像を問うと、「会社に頼らずに生きていける人」との言葉が返ってきた。技術革新のみならず、働き方の変化、職場におけるダイバーシティ、グローバル対応等、社会が直面する課題は同時進行かつ複合的だ。社会の在り様の変化に合わせ、求められるスキル・スタンスや仕事の仕方・ビジネスの仕組みも変わっていく。そうした変化を捉え、自ら考え行動できる人材を育てたいという。

 ビジネスデザインとは、「チームで新しいビジネスの仕組みを創ることを指します」。チームで、というのが肝だ。「一人ではなく、多様な人と協働してアウトプットを出す力。昨今言われる学力の3要素がまさにそれです。社会変革期と言われますが、どんな世になろうとも、ビジネスの仕組みを創ることができる人材は活躍できます」。

 ビジネスとは「社会に何らかの価値を創出すること」と定義すれば、社会におけるあらゆる活動はビジネスになり得る。「起業と聞くとハードルが高いと感じるかもしれませんが、我々が育もうとしている起業家精神(アントレプレナーシップ)はどんな状況でも役立つスキルなのです」。起業家精神とは、ビジネスに高い創造意欲を持ち、リスクに対しても積極的に挑戦していく姿勢や能力を意味し、企業においてもこうした資質・能力を持つ人材の需要が高まっている。必ずしも起業を前提にした話ではなく、ビジネスの基盤に近い。そのため、どんな将来を描くのだとしても、身につけることのアドバンテージは大きいという。

ビジネスを創るために必要な「ぐるぐる思考」

 では、起業家精神を身につけるにはどのような教育が必要か。育むベースとなるのは、図表1に示すように、現状や過去を「分析」「調査」する左側の象限、将来に向けて「企画」「実践」する右側の象限を自在に行ったり来たりしながら考えていくデザイン思考(以下、「ぐるぐる思考」と呼ぶ)であるという。

 牧野学長自身がもともと環境工学から経営学へと学問を渡り歩いた経緯もあってか、分析重視の文系と実践重視の工学系では教育が大きく異なるように感じていたそうだ。「分析が得意でも企画できるとは限りません。まして実践できるとは限りません。文系でもやはり企画や実践の教育が必要です。そうでないと変化の激しい実社会で活躍できる人になれないからです。ですから、今後の文系では調査・分析・企画・実践を自在に行き来する力を育てるための教育が必要になるでしょう」。では、この「ぐるぐる思考」をどのように育むのか。それこそがビジネスデザインの肝であり、基礎であるという。

スキルベースで最適化されたカリキュラム

 新学科では、「ぐるぐる思考」獲得のために育成すべき能力を「クリエイティブ力」「高度なコミュニケーション力」「やり抜く力」の3つと定義している。それぞれの能力を育成するための教育開発と、全体に「リーダーシップ教育」を絡め、独自のカリキュラムを設計した(図表2)。クリエイティブ力とは「ゼロからイチを生み出す力」、高度なコミュニケーション力とは「人間関係の中で共感しあえる力・巻き込む力」、やり抜く力とは「強い意志と責任感を持って実現する力・当事者意識」とも読み替えられるという。

 まず、「クリエイティブ力」を身につけるためのカリキュラム上の工夫は、後述するPBLや担当企業により提示される課題に取り組むドメイン科目、柔らかい発想力を育む教養・文化科目の配置である。発想力とは専門性の深化だけでなく、多様な刺激によって生まれる。ビジネスに直結するスキルセットのみならず、ケーススタディや文化等、幅広い視野を培うための工夫が見られる。

 次に、「高度なコミュニケーション力」を育成するためには、多様な人とチームを組んで企画を考案し、実現させるための議論を重ねる実践演習・スキル演習を設けている。一人で考えているだけでは培われない協働性を、徹底して場数を踏ませることで育成する狙いだ。

 最後の「やり抜く力」を身につけるための仕掛けとしては、全員時間割固定で7割以上が必修科目という点と、毎日時間割の最後にフィードバックの時間をとっている点がある。「履修自由は魅力的ですが、修得スキルが散漫になってしまい、結局、充実感が得られないリスクがあります。そこで、この学科では、時間割を全て固定化しました。半期ごとに何が身についたか、どのように成長したかを個人ごとに明確にしながら進めます」。分からないことが生じた場合もフィードバックの時間を使い、その日のうちに担任教員と壁打ちして解消する。その日に身につけるべきことを先送りせず、ついていけない人を出さない仕組みを整えている。

 これらに絡めるリーダーシップ教育についてはどうか。「リーダーシップとは、かつては一部の経営者や管理職だけが発揮する能力でした。しかしこれからは、目標を設計し仲間を支援しながら行動する能力を意味し、チーム全員が発揮すべきものになります」。そしてこれは、実際に答えのない課題に対して協働する経験でしか培われない。学生と企業人のチームで取り組む問題解決型学習(PBL)を最大で半期15回配置していることがその証左になろう。

 PBLを導入する大学は増えてきているが、企業が提示した課題に対して学生チームが取り組むというやり方が多く、新学科のように企業人がチームに入るのは珍しい。企業側から送り込まれるのは概ね企業の幹部候補生と見られ、学生のチームの中で授業をサポートしながらファシリテーションやチームビルディングの役割を担い、企業での業務に役立てるのだそうである。実は連携企業にとっては、大学での授業の前後のインプットとリフレクションを合わせて社員研修となるように設計されているのだという。まさにウィンウィンの関係性と言えるだろう。

学科教育と同じプロセスで親和性の高い人材を選抜

 新学科のアドミッションポリシー(AP)には、欲しい人材像として、「『アントレプレナーの素養と実行力を持つ人を育てる』という教育目的を理解し、学科が実施する教育を通して創造力と高いコミュニケーション力を身につけたいという意欲を強く持つ学生」が定義されている。こうした人材を選抜するために、新学科では以下に挙げる2種類の入試制度を用意した。

 まず、総合型選抜である。企業採用型の内容となっている。定員は40名と、入学定員70名の過半数を占める。事前に模擬授業の受講が義務づけられ、選考は基礎能力検査、グループワーク、アイデアレポート(企画書)、面接(プレゼンテーション)等を用いて多面的・総合的に評価する。学科の教育への親和性を重視し、学科で実際に行われるワークや企画等のプロセスを体験しながら、マッチング度合を測る。イメージとしてはまさに企業の入社試験であるという。

 そして、学科試験と面接を総合的に判定する推薦入試、一般入試と、独自試験なしで判定されるセンター利用入試の3つの方式に合計30名の定員を充てている。APを色濃く反映しているのは企業採用型であろうが、いずれも知識技能のみによらず、学力の3要素評価になるように配慮して設計されているという。学科教育の趣旨が明確だからこそ、こうした入試設計になるのであろう。

 社会変革に照らした新増設が増えている中、ビジネスデザインに特化した新学科がどのような人材輩出をしていくのか、引き続き注目したい。

編集部 鹿島梓(2018/10/5)