80周年に向け、強い組織で、学生を伸ばす大学を目指す/大阪電気通信大学

大阪電気通信大学キャンパス


大石利光 学長

 大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングといった座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働と、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。

 この連載では、この「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目しながら、学長及び改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく。各大学が活動の方向性を模索する中、様々な取り組み事例を積極的に紹介していきたい。

 今回は、4学部の中にデジタルゲーム学科、健康スポーツ科学科等、ユニークな学科も擁する大阪電気通信大学で、大石利光学長にお話をうかがった。

「情報教育なら大阪電気通信大学」に

 大阪電気通信大学の建学の精神について、「技術者の育成というよりは人間の育成」と話すのは、2016年度に就任した大石利光学長。「人間力と技術力を培い、社会に貢献する。それを実現するのが実学というベースです」。

 学長になって1年後、幹部の教職員を集めた合宿の場及び全学教授会で「『情報教育なら大阪電気通信大学』といわれる大学になろう」と語ったという。「全学部で情報教育を進化させる。AI・IoT時代の新たな実学を目指す」は、学園創立80周年(2021年)に向けてのキャッチフレーズにもなっている。

 「社会に必要とされなかったら、大学はいらない。IT・情報に携わらない仕事はなくなるような時代に、情報教育をどこまで学生に浸透させるか、知識と技術をどこまで社会に還元するか。それが一番の肝と考えています」。

 「新たな実学」の象徴が、2018年度に設立したICT社会教育センターだ。大学の本気を示す学内外へのメッセージとして、学長自らがセンター長を務める。活動のメインは、初等中等教育におけるICT教育支援。自治体と提携して、小中学校教員向けに教材プログラム体験、模擬授業体験、情報教育のアドバイス等を行っている。

 この社会貢献活動は、大学の「持ち出し」にも見えるが、小中学校の現場から吸い上げる声は、情報教育教材の改善に貴重な資料となる。また、学内で「全学部で情報教育を進化させる」にも、大いに参考になると言う。

入口、離学率、出口の3つの目標で改革推進

 現在、改革の具体的な目標として掲げるのが「学生をしっかり集めます。離学率を減らします。進路決定率は関西ナンバーワンを目指します」(大石学長)の3つだ。

 1つ目、「入口」である学生募集については、オープンキャンパスに関する教員の変化が大きいと大石学長は言う。教員全員が、しかも主体的に参加するようになったという変化だ。「その結果、オープンキャンパスの来訪者数は2014年から倍増しています」。

 2つ目の離学率について大石学長は、「縁があって入ってきた学生が途中でやめるということは、何か大学側に問題がある。学生との接点をしっかり高めて、問題を改善していけば離学率は下がるはず」と言う。

 その取り組みには、例えば教職共同で取り組む出席のシステムがある。欠席の続く学生には学務課の職員が連絡する。それでも来なければ手紙も書く。教員だけでなく職員も学生との接点を高めようとしているのだ。学生本人に話を聞いて状況を確認し、場合によっては教員に連絡して「面談して下さい」「こういうことで悩んでいるようです」等とフォローしていく。

 もう1つは、授業の質が離学率に大きく影響するという観点から、学生のアンケートを活用した授業改善だ。現在、アンケートの回収率は97%に達している。非常勤に至るまでの授業担当者一人ひとりにフィードバックされ、評価が悪い場合は授業を改革するよう促される。

 「物事の結果が悪かったら、やり方を変えなければいけない。でもその前に、考え方も変える必要があると思います。考えることで行動し、結果が出るのですから。『アンケートの取り方が悪い』『学生がいけない』という考え方ではなく、『どうすれば学生に分かってもらえるか』というふうに変えてもらわなければ。そのために、大学としてもFD等の環境を作っています。目で見える数字として、離学率は随分下がりました。非常にうれしいですね」。

 3つ目は、「出口」であり、学ぶと働くをつなぐ「進路決定率」の向上だ。

 「建学の精神をベースに、『伸ばす大学』と掲げていますが、学生を伸ばしたことを何で理解してもらえるかというと、1つは就職です。それで、進路決定率で関西ナンバーワンを目指すと言い切りました」。

 具体的な取り組みの1つが資格取得の奨励・支援だ。「就職活動のとき、その資格自体も大事ですが、資格を取るための努力が評価されます。資格学習支援センターが中心になって、学部を問わず取り組んでいます。2015年、延べ960名しか資格にチャレンジしていなかったのが、2017年は2300名です。難関資格取得者の表彰制度による表彰者数も、この2年間で大きく伸びています。こうした結果が、就職率、進路決定率にもつながっています」。

民間企業出身学長として組織を強化

 企業経営者から大学人に転じた大石学長は、改革の流れについてこう語る。

 「大学は企業と違って、決定するまでのプロセスが大切です。権限は学長にありますけれども、これは責任を取るための権限で、決めたものを必ずやりなさいと強制する権限ではない。実際のプロセスは、多くの組織から選ばれた代表が機関として決める。決めたものをしっかりと皆さんにおろしていく。意見を聞いて、皆さんが納得できないことは立ち止まって、再考する」。

 大石学長は2010年度に医療福祉工学部健康スポーツ科学科の教授となり、学長になるまでの6年間、前職の経験を生かして、健康の概論、ヘルスケア機器の開発、経営管理等で教壇に立った。ゼミ生を抱えて、卒業研究・修士論文等の指導も行った。

 「学術の世界に全くいなかったので、論文を書いて勝負をしようというつもりはなく、私が役立つことがあるなら何でもやろうと、役職を言われれば全部引き受けました」。そうして学部長や理事としての経験を積んだうえで、2016年の学長選で候補の1人に選ばれた。所信表明では、大学を組織として強くすること、基本的な大学のポジショニング、大学の生き残り策を提案したという。

 「大学では学長が教授の代表であり、学術研究のトップであるという認識が過去にはあったでしょう。でも現在もそうだったら、恐らく私が学長になってはいません」。自身が学長になったことを、変化が必要だという「組織の意思」と受け止めているという。

 「企業から来て、大学と企業は違うと確かに感じましたけれども、いったん自分のからだを通そう、とにかく一度はやってみようと、批判は一切しませんでした」。その結果、見えなかったことが見えてきて、いま学長としての言動に役立っているという。

 「例えば命令すると何が起きるか。『はい』と言うけれど、硬直するのが大学です。それに、企業では命令に従わなければすぐ結果が見えて異動にもなりますが、大学では研究にせよ学生指導にせよ、手を抜いても分かりません」

 大学についてもう1つ分かったのが、教員がみんな賢く、教育についてもこんな学生を育てたいという意向があるということ。「けれども個で動くから、それを実現できないのです。組織としてどう力を統合するかというのが、私の仕事なのですね」。

ミッション・バリュー・ビジョンを制定し中長期計画へ

 そんな「統合の旗」として、大石学長は就任からほどなくして、中長期経営計画の作成に着手した。建学の精神を改めて認識しようと、教職員50人規模のプロジェクトで作り上げ、2016年1月に制定された学園の指針「ミッション・バリュー・ビジョン」を基に中長期計画作成を手がけた運営会議は、学部長、研究科長、学務部・入試部・就職部等の部長という、教職協働のチームだ。「中期のゴールはまず5年後、80周年の2021年に設定しています。長期計画は、15年後にこうなりたいという姿としてあり、その中に、最初に注力する第1次5カ年計画を中期計画として含んでいます」。

第1次5カ年計画(2017-2021年度)

 計画の実施にあたっては、教学で8項目、組織運営で3項目を設定し、それを達成するための活動計画を各部、各学科が作っている。「各事業の計画にそれぞれ複数の明確な数値目標、KPIが入っています。離学率一つとっても各学科バラバラですから、一律に何%にしなさいということはできません。学科ごとに作ったもの全部が集まると全体のKPIが達成できるように調整しています」。

 計画の検証は、結果報告を半期ごとに行う。そこには学長評価、教員評価もある。教員評価は、研究業績、授業、運営、社会貢献の4領域、計114項目ほどで構成される。「私は給与に反映するところまでしたかったのですが、大学はプロセスが大事ですから、まずは昇格の要件として使っています。給料や賞与は次の段階。個人ではなく、学科の成果で賞与を変える予定です」。

キャンパスリニューアルでオープンな学びを実現

 今後の展望としては、今秋着工の寝屋川キャンパスリニューアル計画がある。新棟の第一期が20年春、第二期は22年に竣工の予定だ。教育環境を「ガラッと変える」ためのキャンパスリニューアルだという。

 「われわれのような工学系の大学ではたいてい、ゼミ生を抱える形で教育・研究をしていますが、体制がクローズになりがちです。隣の研究室で何をしているか、例えば同じ学科の教員同士でも学生同士でも、よく分からない。そういう形で学生に卒業研究をさせて、世の中に送り出して通用するかというと、疑問が残ります。ITと並んで、コミュニケーションの重要性が言われる時代ですから。それで、教育・研究をオープンなスタンスに変えていかないと、これからの世の中で通用する人間は育っていかないと考え、環境から変えていこうとキャンパスリニューアルを計画しました」。

 「オープンな学びのスペース」がコンセプトの新棟は、教員の部屋はガラス張りで、研究室の仕切りはない。中央のパサージュ(アーケード街)に全員が集い、行き交いして、隣の研究室がどんなことをしているか、全部分かるように変わるという。

 これは個々の教員にとっても大学としても、大改革といえる。クローズなスタンスに慣れている教員達は「ガラス張りで、何をしているか全部見える」オープンな環境を嫌がるかもしれないと大石学長は言う。

 しかしそれも、物事を変えるには「やり方を変える」だけでなく「考え方を変える」のが一番大事という観点で、必要な変化なのだ。教員の意識が変わることで、教育が変わり、学生も伸び、「伸ばす大学」が生き残っていくことができるからだ。


(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)



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