日本の金融教育を牽引しビジネスの仕組みを理解した人材を育成する/昭和女子大学 グローバルビジネス学部 会計ファイナンス学科

POINT
  • 1920年に設立された私塾「日本女子高等学院」を起源とする女子大学
  • 人間文化学部、国際学部、人間社会学部、生活科学部、グローバルビジネス学部の5学部に14学科を擁し、1学年の入学定員は約1500名
  • かつては良妻賢母教育を理想としてきた伝統校だが、近年そこから脱却、「グローバル教育とキャリア志向」を掲げ、様々な取り組みを行っている
  • 2013年グローバルビジネス学部設置、2017年国際学部、食安全マネジメント学科設置、2018年会計ファイナンス学科設置と近年新増設・改組が続く


 昭和女子大学(以下、昭和女子)は坂東眞理子総長による改革手腕で近年人気を得ている女子大である。国際領域、食安全領域等の意欲的な改組が続いていたが、2018年4月グローバルビジネス学部に開設したのは会計ファイナンス学科。その設置趣旨について三軒茶屋キャンパスを訪ね、山田隆学科長にお話をうかがった。

資格取得を軸に金融ビジネスを学ぶ

 学科の特徴について、山田学科長はこう話す。「本学科は『お金の流れを中心に経済を学ぶ』学科で、女子大でこの名称は初となります。日商簿記2級とFP等の資格取得を軸にビジネスリテラシーと会計リテラシーを学ぶカリキュラムで、Wスクールせずにそうした資格取得を目指せることを売りとしています」。グローバルビジネス学部の学科であり、学部の趣旨である「グローバルなビジネスの最先端を担える人材育成」の意向をよりプロフェッショナルにシフトした学科というわけである。その設置背景には、高校生のニーズもあったという。「今、女子高校生には経営学を学びたいとか、資格を取りたいといったニーズが多い。それにも対応しつつ、日本で遅れている金融教育を牽引し、ビジネスの仕組みを理解して社会に出てもらいたいと思っています」(山田学科長)。

 カリキュラムの概観を図に示した。基本的なコンセプトは「簿記・会計」「ファイナンス」「プロジェクト」の3つの掛け算である。まずは1年次に基礎理論を厚く学び、検定対応の集中講義(サマー・スクール)等を経て学科生全員が日商簿記検定3級の合格を目指す。2年次からは「ファイナンス」「アカウンティング」のどちらかに重点を置き、それぞれの専門を追求していく。そのプロセスで「ファイナンス」ではFP技能士資格を、「アカウンティング」では簿記上級資格やBATIC(R)(国際会計検定)を目指すこともできる。3・4年次は企業や地域と連携したプロジェクト演習で、知識と実践の両面から学びを深め、卒業論文に取り組む。理論と実践を組み合わせ、段階的に難易度や専門性を高め、着実にステップアップできるように設計しているという。

 なお、初年度入学生は入学後7カ月の勉強で、日商簿記3級合格率88.9%という高いスコアを叩き出した(在学者数63名、合格者数56名)。「カリキュラムの有用性を証明してくれました」と山田学科長は微笑む。

図 カリキュラム概観

専門性を極めることが学際に通じる

 教育を設計する教員は実務家中心で、実際の金融市場で起こる事象をシミュレーションやゲーム等を通じて感覚的に理解してから理論を学ぶといった理論・実践のサイクル設計等、「今まで金融教育を受けたことのない学生にどうやって教えると教育効果が高いか」を日々工夫しているという。取材当日も実際の授業で使うという株式市場のシミュレーションを体験させて頂いたが、「〇〇会社で新社長が中長期戦略公開」「猛暑で消費者行動に変化」「日銀為替介入」といった架空の経済ニュースに対し株価が変動し、企業業績や為替の変化を見据えて株の仮想売買を行う実践的な内容(写真参照)。金融市場はスピーディーに状況が変化し、その都度様々な情報や理論を駆使する必要がある総合力勝負の世界であるというのがよく理解できた。リアルな現場を知らない学生にどれだけリアリティのある授業をできるかが鍵のようである。「これまでこうしたカリキュラムは国内ではビジネススクール等が中心になってきたもの。学士課程で4年間かけて学ぶにはどのような形が良いか、常に自問自答しています」と山田学科長は言う。なお、このシミュレーションの仕組みは学園の中で付属校や社会人向け講座等でも横断的に活用されており、先日山田学科長はこの教育手法を理由に優れた教育成果をあげた教員に贈られる学内賞「TEACHERS OF THE YEAR」を受賞したという。

 また、会計学やファイナンスは専門性の高い教育ではあるが、実際は「情報をどう読み解くか」「人の心理がどう働くか」といった多様な知識に通じている必要がある、学際分野。専門性を極めるほどその広がりが必要になる。「私はファンドマネジャーとして20年ほど働いていましたが、当時先輩に『株のことばかり考えていると株のことも分からなくなる』と言われたものでした。広い視野を持ってこそ専門性は生きるのです」と山田学科長は話す。資格取得はもちろんカリキュラム上の軸ではあるが、How toではなく物事を根本から考える機会を多く配置する等、プロフェッショナル育成の名称では想像できないような一面もある。「奥ゆきのあるプロフェッショナル」「タフでしなやかな女性」の育成を目指したいという。

馴染みのない専門領域の魅力を高校生にどう伝えるか

 「ビジネス」という大きなフィールドから金融という特定の専門性を切り出し、その習熟度を高めるカリキュラムである以上必然ともいえるが、1期生は保護者が金融関係というケースが多いそうである。専門用語の難解さや親しみにくさゆえに高校生にはなかなか魅力が伝わりにくいのが課題の1つだが、逆に保護者が子どもに学科を勧めてくれるケースも多いという。ビジネスを一度経験した大人のほうが、こうした知識の重要性は理解しているということだろう。ある種の専門職業教育でもある当該領域に向く特性を尋ねると、「精神的に安定し、まじめでコツコツ頑張れること」との答えが返ってきた。「いかに高校生に学びのイメージを持ってもらえるかと同時に、馴染みがないであろう金融職のイメージも正しく伝える必要があると感じています。しかし幸い、1期生は概ね学科の学びを理解し、まじめに取り組み成果をあげている学生が多い。彼女達の成長が学科のPR力となって伝われば」と、山田学科長の言葉は力強い。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2019/2/26)