大学を強くする「大学経営改革」[81] 地域の持続可能性と大学の果たす役割 吉武博通

負のスパイラルに象徴される構造的問題の深刻さ

 政府は、『まち・ひと・しごと創生総合戦略(2018改訂版)』(2018年12月21日閣議決定)において、「人口減少が地域経済の縮小を呼び、地域経済の縮小が人口減少を加速させる」という負のスパイラルに陥るリスクを指摘したうえで、今後の施策の方向として、①地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする、②地方への新しいひとの流れをつくる、③若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる、④時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する、という4つの基本目標を掲げている。

 中央教育審議会『2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)』(2018年11月26日)においても、地方創生が実現すべき社会を、「個人の価値観を尊重する生活環境を提供できる社会」としたうえで、「高等教育の将来像を国が示すだけではなく、それぞれの地域において、高等教育機関が産業界や地方公共団体を巻き込んで、それぞれの将来像となる地域の高等教育のグランドデザインが議論されるべき時代を迎えている」との考えを示し、「地域連携プラットフォーム(仮称)」の構築を提案している。

 今後、国によりガイドラインが策定される予定であるが、地域が主体性を持って、新たな視点を積極的に取り入れながら、自らの地域資源を最大限に活用し、地域の持続可能性を高めていく必要がある。それは、高等教育の未来を確かなものとするための前提でもある。

 その一方で、足元を見ると、東京一極集中と地方の衰退は想像を超える速度で進行している。各地の大学を訪問した際に実感するのは、冒頭の「負のスパイラル」に象徴される構造的問題が深刻さを増しつつある現実である。

 東京都のある特別区の外部評価と北関東のある町の人材育成に関わり、人口増加に伴う行政需要増への対応が目下の最大の課題である自治体と人口減少に歯止めがかからない過疎地域市町村の姿を同時に目の当たりにしてきた。

 前者の特別区の場合、直近10年間で人口が約10万人増加したのに対し、後者の町は、人口減少と高齢化による税収減のなかで、増加する医療・福祉費や老朽化が進む道路・構造物の維持費等をどう賄うか、行政サービスの水準を如何に維持するか、産業の担い手をどう確保するか等、持続可能性に関わる深刻な課題を抱えている。

 以下、人口と経済活動の両面から、都道府県別データを見てみたい。

大きな人口減少が見込まれる東北各県

 2015年国勢調査で都道府県の人口を見ると、東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)が全国の28.4%を占め、これに愛知、滋賀、福岡、沖縄を加えた8都県が2010年に比べて人口が増加しているのに対し、39道府県で減少している。減少率の大きいのは秋田(5.8%)、福島(5.7%)、青森及び高知(4.7%)等であり、2005~2010年と2010年~2015年の増減を比べると、33道府県で減少が拡大している。

 総人口に占める65歳以上人口の割合は2010年の23.0%から2015年は26.6%に上昇しているが、秋田33.8%、高知32.8%、島根32.5%をはじめ13県が30.0%以上となっている。

 次に、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(2018年推計)」によると、総人口は2015年1億2709万5000人から2045年1億642万1000人に減少。42道府県で2015年以降、全ての都道府県で2030年以降一貫して減少するとの結果が示されている。2015年を100としたときの指数で見ると、全国83.7に対して、秋田58.8、青森61.0、山形68.4、高知68.4、福島68.7、岩手69.1となっており、地域ブロック別には東北(69.0)、四国(73.4)、北海道(74.4)、北関東(77.9)等の減少が大きい。

 年齢別人口を見ると、15-64歳の割合が全国で2015年60.8% から2045年52.5% に減少。秋田(42.5%)、青森(45.0%)、福島(46.6%)、山梨(47.2%)、山形(47.4%)をはじめ22道県で50%を下回るとされている。

一人当たり県民所得の下位の県は九州に集中

 次に、「平成27年度県民経済計算」で経済活動状況を確認しておきたい。

 県内総生産(名目)について、地域ブロック別シェアを見ると、2015年度は関東40.9%、中部15.6%、近畿15.2%、九州9.0%、東北7.8%、中国5.5%、北海道3.5%、四国2.6%となっており、2010年度からの推移を見ても大きな変動はない。

 一人当たり県民所得は、2015年度において、東京が537万8000円と突出して高く、次いで愛知が367万7000円、以下三重、栃木、富山、静岡、福井、群馬、大阪、茨城、広島、滋賀と続く。最も低いのは沖縄の216万6000円であり、以下下位から鳥取、宮崎、鹿児島、長崎、佐賀、熊本、青森と続く。沖縄は東京の約4割にとどまり、下位の県が九州に集中している。県民所得は、県民雇用者報酬、財産所得、企業所得の合計であるため、産業集積地が高くなる傾向にある。

 そこで、一人当たり県民雇用者報酬を確認すると、東京が555万9000円、以下神奈川、福井、大阪、愛知、広島、奈良、千葉、兵庫、長野、石川と続く。最も低いのは秋田の355万2000円で、以下下位から鹿児島、宮崎、沖縄、島根、青森、鳥取、山形、佐賀、岩手と続く。秋田は東京の約6割にとどまる。

 なお、比較可能な2006年以降のデータで、一人当たり県民所得の推移を見ると、最下位沖縄に対して東京は2006年の2.91倍から2015年には2.48倍へ、一人当たり県民雇用者報酬においては、最下位秋田に対して東京は1.69倍から1.56倍へ、それぞれ開きが縮小している。

 この間、東京の県民所得総額が3.6%減少している一方で、沖縄は11.0%増加している。県民雇用者報酬については、東京の人口増が報酬総額増を上回っているのに対して、秋田では報酬総額の減少を上回るペースで人口減が進んでいることがその背景にある。

「第三の目的としての社会貢献」と「教育研究を通した社会貢献」

 ここまで、人口と経済活動の両面で都道府県別の状況を見てきたが、同じ県内でも県庁所在地等人口が集中する都市と過疎化が進む市町村の二極化が生じる等、「地域」をどう捉えるかによって、対処すべき問題も異なってくる。また、一人勝ちと言われる東京都も、高い増加率で高齢化が進むとされており、絶対数が大きいだけに状況は深刻である。

 このような状況も踏まえながら、大学と地域の関係について考えてみたい。

 大学の基本的な役割は、教育、研究、社会貢献とされている。中央教育審議会『高等教育の将来像(答申)』(2005年1月28日)は、大学の機能別分化を促すにあたり、世界的研究・教育拠点、高度専門職業人養成、幅広い職業人養成、総合的教養教育、特定の専門的分野(芸術、体育等)の教育・研究、地域の生涯学習機会の拠点、社会貢献機能の7つを挙げているが、地域貢献は産学官連携、国際交流とともに社会貢献機能の一つに位置づけられている。

 他方で、「教育・研究を通した社会貢献」という考え方に立つ大学関係者も多い。

 丹保(2011)は、札幌農学校は、モリル法によって実学としての農業、科学、工学の大学を米国各州に興し、「地域の産業力を高め社会階層性を打ち破る」地域のための高等教育を作ろうとして始まったLand-grant Collegeの日本版であり、札幌農学校/北海道大学はその創立から地域発展のための高等教育機関であったとしたうえで、「大学の社会貢献は、良い学生を育てることにつきるが、そのために地域の大学は実学的な基盤を持つことが大切で、地域貢献を基盤に研究ができるような組織を大学(群)が公/民の外部組織と連携して作れるかどうかに事柄の成否はかかっている」と述べる。そして、地域に系統立った学問/技術の成果を定着させること、一過型のイベントではなく、十分な継続的活動が必要であることを強調する(丹保憲仁氏は1995年から2001年まで北海道大学総長)。

 いずれの考え方に拠るにせよ、地域や社会の支持を得ることなしに大学の存続・発展はあり得ない。

地域主導による経済再生と課題解決

 大学はこれまでも教育を通して様々な分野で地域社会を支える人材を養成してきた。産官学連携を通した研究面での地域貢献、医学部や附属病院による地域医療高度化への貢献等も活発に行われている。

 また、近年では、地域のニーズも踏まえた新学部設置、「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」による支援を受けての教育プログラム改革等、地域を重視した諸改革がこれまでにも増して展開されている。

 このような成果を踏まえたうえで、地域が大規模かつ急激な構造変化に直面するなか、大学は持続可能な地域の創生に向けて如何なる役割を果たし得るのか、深く問い直し、より総合的・戦略的な地域との連携を目指す必要がある。

 林・山鹿・林・林(2018)は、地域経済衰退の根本的な原因は地方経済の脆弱性にあるとし、産業構造が衰退・停滞産業に特化していること、財政依存型を特徴とする経済であることを指摘する。そのうえで、企業誘致や公共投資に代表される外来型開発から脱却し、地域主導型の内発的発展への転換が不可欠と述べる。

 また、玄田(2010)は、停滞気味の地域を再生するために不可欠な条件の第一に、地域を思う人々の対話による「希望の共有」、第二に、地域の個性、地域の自分らしさ、地域の強み等と訳されている「ローカル・アイデンティティ」の再構築、第三に、「地域内外のネットワーク」を挙げている。

 過去を遡れば、経済活動の多くは地域単位で営まれるとともに、それぞれの地域は独自の特色ある産業を持っていた。その後、大都市への産業集積が進むなか、物やサービスの域外からの調達(移入)が増え、資金や雇用機会の域外への流出が拡大すると同時に、地域を特色づける産業も衰退し、地域経済の足腰が弱まっていったとされている。

 時間を逆回しするような発想は現実的ではないが、地域にある資源を掘り起こし、磨きをかけて競争力ある産業に育てるとともに、生産性を高め、働き甲斐のある就業環境を実現することは、地域経済再生に向けた最大の課題である。

 同時に、人口減、高齢化、インフラ老朽化等に伴う費用増を抑制しつつ、住民の生活環境を維持するための様々な工夫を施していく必要がある。地域における課題解決力の強化はもう一つの大きな課題である。

人材育成、知識・情報の蓄積と高度活用、場づくり

 これらを進めるためには、「人材の育成」、「知識・情報の蓄積と高度活用」、「場づくり」の3つが極めて重要になると考えられる。

 先進的な取り組みで注目される地域には、高い志、柔軟な発想、周囲を巻き込む力を持った人材が必ずいる。地位に拘らずそれぞれの持ち場でリーダーシップを発揮できる人材がどれだけいるかが、地域経済の再生においても地域課題の解決においても決定的に重要である。

 地域社会を担う人材を養成してきた大学も、このことを意識した教育を行う必要がある。また、既に地域で活躍する人材や他地域から移って当該地域で活躍しようとする人材に対するリカレント教育も、今後の大学の重要な役割になるであろう。

 2つ目の「知識・情報の蓄積と高度活用」について、地域経済再生を例にとると、まず、地域の経済・産業構造を正しく把握し、強みを生かして競争力ある産業に育て上げるための方策を考え、その実現に向けて種々の問題を克服するというプロセスが想定される。

 地域の経済・産業構造の可視化に関しては、従来の「産業連関表」に加え、近年では、「地域の産業・雇用創造チャート」や「地域経済分析システム(RESAS :リーサス)」が整備されている。競争力ある産業の育成にあたっては、技術動向を押さえたり、経済学や経営学の枠組みを用いたり、内外の事例に学んだりすることも必要である。

 このようなプロセスに大学が積極的に関わることで、分析の質が高まり、多角的な視点からの検討に基づく、実効性の高い戦略が練り上げられる可能性もある。

 3つ目の「場づくり」は、玄田(2010)が挙げた地域再生に不可欠な3つの条件と深く関わる課題である。自治体、企業、金融、医療、福祉、教育、その他機関・団体等、地域の様々な主体が、トップやミドル等各レベルで対話を重ね、協働する。そのような場づくりは極めて重要である。地域の中で閉じるのではなく、地域外や海外とも開かれた関係を持つことで、多様な知恵を取り入れることもできる。

 大学の教育研究は地域に閉じられたものではない。国内の研究者ネットワーク、海外の大学・研究機関との交流は、大学が地域に貢献できる貴重なリソースでもある。大学は場づくりに積極的に関わり、主導的役割を果たすべきであろう。


「地域の持続可能性と大学の果たす役割」の概念図


「地域に存在することの意味」を確認する

 丹保(2011)は、「Land-grant型のCollegeはそれぞれの存在理由を持っていて強い特色があったのに、総合大学という名を冠されるようになると、東京帝国大学に始まる中央型の学部講座制大学を日本の大学の原型と見て(見誤って)しまい、地域貢献に始まる実学的研究教育活動が、全国化/国際化して地域に発する特色有る学問が創られていく方向を疎かにしてしまった誹りがある」と指摘する。

 行政、産業、金融、メディア等の中枢機能が東京(中央)に集積し、地域が主体性を失い、特色を薄れさせていく姿と重なり合う。

 持続可能な地域は、地域自らが切り拓き、築き上げていかなければならない。同様に、大学も「地域に存在することの意味」を今一度確認し、学内で広く共有する必要がある。そのうえで、地域の現実を直視し、教育研究を通して、あるいはより直接的な社会貢献として、諸課題の解決に地域と協働して取り組む必要がある。その際、短大や高専を含む地域の高等教育機関との連携は不可欠である。

 そのことが教育研究を発展させ、大学の特色を際立たせ、地域の持続可能性に寄与するだけでなく、大学自体の持続可能性を高めることにつながるはずである。


【参考文献】
丹保憲仁「地域と結ぶ大学」『IDE 現代の高等教育』No.536, 2011.2
林宜嗣・山鹿久木・林亮輔・林勇貴『地域政策の経済学』日本評論社,2018
玄田有史『希望のつくり方』岩波書店,2010



(吉武 博通 公立大学法人首都大学東京 理事)


【印刷用記事】
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