オンリーワンを目指す大学創りのマイルストーン/京都産業大学 国際関係学部・生命科学部・経営学部

POINT
  • 天文学・宇宙物理学者の荒木俊馬氏が、「大学の使命は将来の社会を担って立つ人材の育成」と当時は珍しかった産官学連携を提唱し、1965年創設
  • 2015年に迎えた創立50周年に当たり、次の50年を見据えたグランドデザイン「神山STYLE2030」を策定し、教育・学生支援、研究改革、社会貢献等、多岐に渡る方向性を示した
  • 近年は2017年現代社会学部、2018年情報理工学部を増設し、2019年には国際関係学部・生命科学部を増設、同時に経営学部の再編を実施
  • 現在10学部18学科を擁し、1学年の募集定員3625名の総合大学


 京都産業大学(以下、京産大)は2019年に国際関係学部・生命科学部を開設し、経営学部を再編した。その趣旨について、京都上賀茂のキャンパスを訪ね、大城光正学長にお話をうかがった。

グランドデザインに位置づけられた学部学科開発

 京産大は創立50周年を迎えた2015年にグランドデザイン「神山STYLE2030」を公表した。小誌211号にてその内容や策定に係るプロセスについて取材・掲載したが、その「教育・学生支援」の大項目に示された今後の方向性の第一には、「社会的ニーズに呼応した、学部学科の新設と積極的再編」とある。「将来の社会を担って立つ人材の育成」を建学の精神に据える大学らしく、常に社会に求められるニーズの変化を捉えようとする京産大の姿勢が表れている。学部学科編成を考える専門の経営部署があるわけではなく、全学的に備わっている感覚のようだ。「学部学科ごとに今後の社会を見据え、必要となる要素についてボトムアップで要望が来ることもあれば、大学として必要な領域をトップダウンで伝えることもあります」と大城学長は言う。特にここ3年間は連続して新学部を開設した。「規模的に目標としているのは収容定員1万5000名です」と大城学長は話す。1拠点総合大学としては限界値であるという。現在の収容定員は1万4000名を超えており、目標まであと少しといったところだ。

 なお、学部学科の検討軸としては「将来ニーズ」は勿論のこと、「他大学の真似ではなくオンリーワンを目指す」ことが大きいようだ。「本学のような中堅大学はオンリーワンを目指さなければ意味がありません。本学だけの学び、本学ならではの魅力。そういったものをしっかり持った大学でありたい」と大城学長は言う。独自性ある大学創りのために何ができるかを常に考え、月に2回は学長・副学長でMTGを行い、実務部署の長を兼ねている副学長達との情報共有を行っている。そのほかにも、学長補佐に外部から要職経験者を招聘し、特定のテーマに関するMTGであれば担当部署の部長も交えたランチMTGを行う等、組織の風通しを良くし、オープンな議論が行われるように配慮するという。これまでの新増設・改組の沿革を図表に示したが、こうした1つ1つの蓄積が能動的な教職員の働きを引き出し、積極的な検討・開発につながっている気がしてならない。

社会科学系に転じた国際関係学部

 では、それぞれの学部の詳細について見ていこう。まずは国際関係学部である。

 母体である外国語学部国際関係学科ができたのは2008年。当時の外国語学部はコース制を敷いており、国際関係コースはその1つであったが、概ね全体の2/3の学生が志望する人気コースであった。コースから学科へ、それから11年が経過し、ついに学部化したという経緯である。

 国際関係学部の最大の特徴は社会科学系であるという点だ。政治・経済・共生の3つの視点で国際社会の諸問題にアプローチするのがカリキュラムの軸で、1年次に全員必須の海外フィールド・リサーチが3週間設定されているほか、海外インターンシップやNPO等での就業経験を課す国際キャリア開発リサーチ、長期留学プログラム等、世界を知る機会が多く設定されている。外国語学部の学科だった頃は、人気はあったがどうしても人文学の域を出ず、教育内容にも限界があったが、今回学部格となることで、法・政治・経済といった本来の国際関係学領域に存分に絡んだカリキュラムを設計できたという。

社会での利活用を見据えた生命科学部

 生命科学部は、2010年設置の総合生命科学部の発展的改組である。

 生命システム学科、生命資源環境学科、動物生命医科学科の3学科で構成される総合生命科学部は、言い換えれば理学・薬学・農学・環境科学・獣医学・動物生命科学といった複数の学問を総合的・横断的に学ぶ学部と言えた。それが学部からの要望により仕立て直すことになった。その背景にあったのは、「概ね理系の研究員を想定した当初の教育研究内容や進路に対して、学生の要望が多様化しているという課題感です」と大城学長は話す。

 研究員以外の道を模索する必要性から社会との接続を鑑み、教育に社会科学系の要素を取り入れ、利活用を含めた生命科学の方向性を模索した。民間就職や教員のほか、ワンキャンパスのメリットを生かし、法学部と連携して公務員の道も志向できるようカリキュラムを整備したのが産業生命科学科である。生命科学と社会科学の両分野の知識を身につけ、課題研究やPBL・インターンシップ等を通じて、生命科学を実社会に活かす視点を持つスペシャリストを育成するのが学科の設置趣旨だ。一方でもう1つの学科である先端生命科学科は、実験や演習を中心に高い専門知識と技術を身につけ、生命科学の先端研究を推進できる人材を育成する。2つの生命科学の在り様を示すことで、学生の多様化にも対応し、次世代研究も網羅する生命科学部ができた。

 なお、京産大は理学系の2つの柱として、建学のルーツでもある天文学と、医療や創薬分野に多大な影響を及ぼすタンパク質研究を掲げている。後者は平成29年度私立大学研究ブランディング事業採択プロジェクト「“生命活動の根幹”をなすタンパク質研究の世界的拠点の形成と推進」があるが、総合生命科学部創設を機に京産大にはライフサイエンス領域で優れた研究者が集まっているという。

マネジメント力を育成する経営学部

 経営学部は従来の経営学科、ソーシャル・マネジメント学科、会計ファイナンス学科の3学科を統合し、マネジメント学科1学科とした。背景にあるのは社会変化に即応した経営力育成の必要性だ。「社会の変化が激しい時代において、経営のあり方も大きな変革期を迎えており、これからは自ら変化を読み解き、自分も周囲も変えていくことのできるマネジメント能力が求められます」と大城学長は言う。経営学部ではマネジメントに必要な機能を3つの知識領域「ドメイン」に編成し、分野を横断する学びでマネジメント能力を身につける独自のカリキュラムを構築した。「逆T字型」と称するその方式は、入学時に専門分野を決めることなく、「戦略と組織」「マーケティングとイノベーション」「アカウンタビリティとガバナンス」の3ドメインから学生が自由に履修計画を組み、学びながら方向性を見出すことができるスタイル。経営学の基礎から、マーケティング、グローバル経営、最新のケーススタディ等のほか、資格取得関連科目まで、これからのビジネス界で求められる知識・技能を幅広く網羅したカリキュラム編成で、あらゆる業種・業界で通用するマネジメント能力を身につける。2年次からはゼミが始まり、実践的に学びを深めていく。

将来に対する共通認識に裏打ちされた非連続的な事業成長

 今回設置した3学部はいずれも初年度志願者を多く集め、受験生の支持を得て順調な滑り出しを見せた。勢いのある大学は変化を恐れない。むしろ現状や将来予測に即して課題を設定し常に動き続ける。その空気が取材に行くとよく分かるものだが、京産大も学長をはじめとする教職員の方々のオープンで生き生きとした雰囲気から、構成員の方々が大学の状況を肯定的に捉え、挑戦を継続することの必要性を自然に理解しているように感じた。これはもともとの学風もあるだろうが、グランドデザイン策定プロセスにおいてあらゆる部署を巻き込んだ検討が行われた結果、全学的な社会変化や現状認識が共通化され、各部署が当事者意識を持って計画を捉えている状況が生み出されたということでもあるように思う。新しい学部学科で行われる教育研究は勿論のこと、「神山STYLE2030」に描かれた将来像の実現、その先にある京産大の姿がとても楽しみである。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2019/6/25)