【専門職】学園の伝統実績を活かし未来の動物産業を支える人材を育成する/ヤマザキ動物看護専門職短期大学

55年ぶりの新学校種となる専門職大学・短期大学制度が発足した。初年度に開学認可されたのはわずか3校。その設置趣旨と認可申請における困難等を取材させていただいた。

POINT
  • 1967年創立、50年以上の歴史を持つ学校法人ヤマザキ学園により2019年4月に開学
  • 2017年末に申請、2018年10月に認可保留となり11月に追加認可
  • 極めて短い募集期間であったにも拘わらず、動物トータルケア学科(3年制)の定員80名に61名の一期生を迎えた(うち男子6名)

 ヤマザキ動物看護専門職短期大学(以下、ヤマザキ専門職短大)の母体であるヤマザキ学園は創立50年以上の歴史を持つ学校法人である。創立以来、コンパニオンアニマルを中心とした動物看護やグルーミング等、動物のスペシャリストを育成する教育で多くの人材を社会に輩出してきた。「生命への畏敬」「職業人としての自立」を建学の精神に掲げ、人間が動物と豊かに共生する平和な世界を目指した人間教育と専門教育は、東京・渋谷の専門学校と南大沢の大学で展開されている。今年はそれに加え、動物看護専門職短大が開学した。十分な教育展開を続ける中で、何故専門職短大を設立したのか。渋谷区松濤のキャンパスを訪ね、山北宣久学長、花田道子学科長、入試広報部長の吉田充氏、法人本部広報部長の丸山正志氏にお話をうかがった。

実践知を体系化し理論と実践の融合を目指す

 ヤマザキ専門職短大は「産業界と共につくる新制度の職業教育」をうたう。「『職業』という言葉は2006年の教育基本法改正で初めて登場しました」と山北学長は言う。具体的には、第二条の二「教育の目標」で、「個人の価値を尊重してその能力を伸ばし、創造性を培い、自主及び自律の精神を養うとともに、職業及び生活との関連を重視し、就労を重んずる態度を養うこと」とある(下線筆者)。社会に出た後をイメージしながら個人の能力を伸ばすこと。働くことへの期待と意欲を引き出すこと。それは先に示した通り、ヤマザキ学園が50年の歴史で取り組んできた教育そのものでもある。

 では、専門学校に加え、既に短大(2012年に閉学)、四大でも教育を展開している法人が、何故専門職短大を設立したのだろうか。

 その問いに、山北学長はこう答える。「我々が目指したのはアカデミックライン(理論)とプロフェッショナルライン(実践)の融合。プロフェッショナルラインに立脚した実践知・応用知の体系化を志向し、2015年頃から専門職機関の構想を始めました。これまでの短大との違いは、設置基準に端的に表される。即ち、実務家教員を数多く揃え、臨地実務実習450時間を組み込む等、より職業人育成に軸足を置いている点にあります」。専門職制度においては、教員・科目・実習等において、職業教育を行う機関として必要とされる独自の設置基準がある。それらを踏まえ、社会との接続を軸に深める方向性に舵を切ったのがヤマザキ専門職短大であるという。「『知識なき実践』は混乱を呼び『実践なき知識』は自己満足であると我々は考えています。融合させなければ」と山北学長は言う。

高齢社会における人と動物の共生を支える

 では、動物トータルケア学科とはどのような学科なのか。自身も獣医師である花田学科長は話す。「背景には高齢社会でペットの役割が増大していること、高齢者が年老いたペットの介護をする老々介護が増えてきていること等があります。家族同然のペットに対して、我々獣医師が行うのは往診、つまり病気を診ること。病気がなければ治療はできません。それに対して、看護とは体全体を看ること。手で触り目で見て全身の状態を把握し、維持改善を働きかける。双方がチーム医療として連携することが大切です」。人間と同じく、ペットの健康寿命を延ばすには生活環境と医療ケアが必要であり、高齢社会にあっては動物病院に連れて来られない場合の訪問看護や在宅ケアにも対応する必要がある。社会の状況に対応し、動物のトータルケアができる看護師が求められているというわけだ。

 また、職業に特化した教育を行う一方でイノベーティブな人材として幅を広げるべく導入されている「展開科目」においては、ジェロントロジー(老年学)、死生学といった「いのち」に焦点を当てて深める科目や、災害・危機管理論、少子高齢社会と人口問題といった特徴的な科目が並ぶ。職業人として幅を広げ、多様なシーンでの活躍を想定したカリキュラムが組まれている(図参照)。

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図 カリキュラム概観

動物看護師の国家資格化の追い風

 2019年6月の参議院本会議で「愛玩動物看護師法」が全会一致で可決・成立した。動物看護領域はこれまで民間資格で、直接的な医療行為は行えず、診察・手術中の獣医師の補助、動物のお世話等が主な仕事であったが、ペットに高度な医療を求める人が増加する中、「愛玩動物看護師」国家資格化が決まった。これにより、動物看護師は獣医師の指示を受けてペットの採血・投薬、マイクロチップの挿入等ができるようになる。

 ヤマザキ専門職短大でも当然「愛玩動物看護師」取得を目指すが、花田学科長は複雑な心境をこう述べる。「動物看護は受験生の保護者からすると将来性や就職環境等で理解を得られにくい点がありましたが、そうした面で国家資格が取れるというのは大きな追い風になるはず。その一方で、通常のカリキュラムと国家試験対策の両立はとても大変です」。専門職制度では実習が合計900時間あり、それに加えて国家資格試験対策もしなければならないとなると、カリキュラムは相当ハードである。とはいえ、よく分からない業界への不安や、せっかく勉強しても何も形に残らないのではないか、という保護者の懸念は根強い。「どうしても動物に関わる仕事がしたい」という本人の熱意がそうした懸念を上回れば志願してくるが、「何しろ領域の認知が低いのです」と吉田部長は言う。昨今は地域や子ども向けの啓発活動にも力を入れているというが、ペットを飼っている家でなければなかなか動物病院に行く機会がないというのも大きそうだ。

 一方、現在1.5兆円規模と言われているペット関連産業では、新しい視点と専門知識を持って商品開発や情報提供を行い、消費者と企業をつなぐ人材の必要性が叫ばれているという。また、立地する渋谷区からも、地域活性やウェルビーイング、災害時の動物支援等にかける期待も大きいそうだ。「動物を飼うことは人の命の充実にもつながります。より良く生きるための1つのスタイルとして、動物との共生を増やすためにも、トータルケアできる人材育成のニーズは非常に高い」と山北学長は言う。

熱意と素質を備えた一期生への期待

 専門職制度の初回審査は困難を極め、17件の申請に対して1件のみが保留なしでストレートに認可され、2件は一度保留(継続審査)となった。ヤマザキ専門職短大は後者の保留案件であった。継続審査で認可されたのは11月。初回入試は12月。現行ルールでは認可前広報は構想や計画のみ可であるため、春先から説明会はしていたものの、実質的な入試広報ができたのはたった1カ月ということになる。志願者は「できるかどうか分からない学校」に出願する準備をする必要があり、それが10月に一度保留となったことで戸惑いも広がったという。

 時間以外の募集広報上の困難について、丸山部長は当時を振り返る。「最も厳しかったのは制度認知が低いことでした。専門職短大とは何か、という点を高校の先生方にあまり知られていなかった。今までの専門学校と何が違うのか、という質問も多かった」。吉田部長も言う。「最終的には学園の歴史と実績で何とか理解していただける感じでした」。しかし、一期生で入学してきた学生はその分コアファンが多い。花田学科長は言う。「絶対にここで勉強するのだ、という熱意ある学生が多いと感じます。意欲的なので吸収も早く、自発的・積極的な行動ができる。また、看護職に必要な人への思いやりやチーム医療に必要な協働性を既に備えている学生が多いのも特徴です」。意欲や素質ある学生が多い理由の1つに、入試制度がありそうだ。定員80名中70名分の入試で面接があり、入学動機を中心に丁寧な評価が行われた。第一志望率も高く、春先からオープンキャンパスに参加してきた学生ばかり。入学後は学校にも協力的で、オープンキャンパススタッフ等にも率先して手を挙げる学生が多いのだという。

 山北学長は、「パイオニアでありたい」と取材中何度も繰り返した。学園としてはより実践知を軸にした体制にして、既存の大学序列からの差別化を図ろうとしているのであろう。偏差値以外の学校選びを、明確な指針と教育内容で実現する。業界と社会の期待を担う教育展開に期待したい。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2019/9/10)