2021年度入学者選抜方針「一般選抜における『主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度』の評価」について/昭和女子大学

POINT
  • 1920年に設立された私塾「日本女子高等学院」を起源とする女子大学
  • 人間文化学部、国際学部、人間社会学部、生活科学部、グローバルビジネス学部、環境デザイン学部の6学部に14学科を擁し、1学年の入学定員は約1500名
  • かつては良妻賢母教育を理想としてきた伝統校だが近年そこから脱却、「グローバル教育とキャリア志向」を掲げ、様々な取り組みを行っている

 昭和女子大学(以下、昭和女子)は坂東眞理子理事長・総長による改革手腕で近年人気を得ている女子大である。2年後である2021年度の入学者選抜について、「共通テスト利用」「英語4技能検定試験利用」「一般選抜における(通称)主体性評価」の3つの観点で実施方針を公開した。その3点目の趣旨について、三軒茶屋キャンパスを訪ね、アドミッション部長の藤島喜嗣教授にお話をうかがった。

入学後の教育への接続を重視

 昭和女子が公表している2021年度入試の実施方針を以下の通りHPから抜粋した。
https://exam.swu.ac.jp/university/recruitment/point

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(以下抜粋)
一般選抜は学力を重視しますが、以下の入学試験では本学が求める「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を評価します。
対象入試:A日程入学試験
判定方法:
  • 受験生を筆記試験の得点順に並べ、合格予定者数の上位95%までの順位にはいった受験生を成績上位層、上位95%~105%の順位にはいった受験生をボーダーライン層とします。
  • 成績上位層の受験生は合格とします。
  • ボーダーライン層の受験生については、出願時の資料に基づき、昭和女子大学で必要とする主体性得点を算出します。この得点に基づいて新たに順位を求め、合格予定者数に達するまで合格とします。
  • 3の合否判定で合格予定者数に達しなかった場合は、筆記試験の得点に立ち戻り、得点順に合格予定者数に達するまで合格を出します。
  • 上記の手続きで合格にならなかったボーダーライン層の受験生ならびに上位105%に達しない順位の受験生は不合格とします。
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 まず、対象は一般選抜(A日程入学試験)とある。昭和女子の一般選抜はA日程(1月下旬)・B日程(2月上旬)・3月期(3月上旬)の3回あり、最も入試時期が早く募集人員も志願者も多いのがA日程である。

 判定方法では、まず合格予定者数の上位95%までの受験生を成績上位層、上位95~105%の層をボーダーライン層として分け、成績上位層は合格とし、ボーダーライン層について主体性等による評価を行う。この明快な区分について藤島教授は「本学はまず学力を重視します」と言う。昭和女子が近年注力するグローバル教育とプロジェクト学習において、基礎学力は重要な素地であるのがその理由だ。そこで、この2つの内容について触れておきたい。

 まずグローバル教育だが、昭和女子は、2012~2016年度まで受託した文部科学省の「経済社会の発展を牽引するグローバル人材育成支援(タイプB)」事業において、事後評価結果「S」を獲得した。留学前準備教育の体制整備、シラバスの一部多言語化やナンバリング導入、グローバル人材採用、海外協定大学数の増加、海外留学学生数の増加等のほか、カリキュラム面でも全学で英語のプレイスメントテストを実施し、レベル別にクラスを編成、Eラーニングで補習を行って英語力強化の成果を挙げつつ、各取り組みの効果を確認して学生に丁寧な指導を行っている等、組織的に全学的なグローバル化を推進してきた点が高く評価されている。また、1988年より全寮制の海外キャンパス「昭和ボストン」を持ち、学部学科によってはボストン留学が必須となっているほか、2013年設立のグローバルビジネス学部ではグローバルリーダーを支えるグローバルワーカーの育成をうたい、2017年には国際学部を設立する等、グローバルを軸にした多様な教育プログラムを展開している。2019年9月にはテンプル大学ジャパンキャンパスが昭和女子の敷地内新校舎に移転し、スーパーグローバルキャンパスが開設したばかり。教育の相互協力が期待されるが、テンプル大学は科目等履修でもTOEIC600程度スコアは必要になる。レベルの高い教育を受けるにはより高い語学力が必要とも言える環境が整いつつあるのだ。

 次にプロジェクト学習である。専門知識を活かして企業や地域と課題に取り組み、知識の応用力を身につけるのが昭和女子の定義するプロジェクト学習であり、内容は学生が企画したものから企業から依頼されたものまで多様である。学生は学修成果を生かすと同時に社会とのつながりの中で得られる経験値を獲得でき、企業は女子大生の視点での企画や分析を得ることができるwin-winの関係性にある。こうした活動は概ね知識の応用や横断的活用を志向するものであるため、基盤となる知識≒学力を身につけている方が、成果が上がる傾向があるという。

評価すべき資質能力の優先順を定める

 入学後を見据えて学力を担保しつつも主体性を評価する理由について、藤島教授はこう話す。 「本学は真面目な校風で、言われたことにコミットして行動する力は高い学生が多い。一方で、そうした一元的な集団では、積極的に方向性を示したりチャレンジしたりする気風が損なわれてしまう可能性もある。昭和女子において必要な主体性とは、『チャレンジしてみる』ことを厭わない気質、チャレンジ耐性とも言えるものです」。「やってみよう」と言う人がいるかどうかで集団のパフォーマンスは大きく変わる。プロジェクト学習のようなチーム協働の場が多い昭和女子にとって、そうした人材確保は必要命題なのである。

 一方で、学力評価と主体性評価が別個の評価になっている点も特徴的だ。学力評価に加点して主体性を捉える大学もある中で、まず知識・技能中心のスクリーニングを行い、予め定めたレンジに該当するボーダーライン層のみ主体性評価を行う。この方式は、志願者数の多い一般選抜で主体性を評価するという難題に対し、物理的に評価可能な範囲を定める方法であると同時に、学力と主体性を別個のものと考えている証左になろう。藤島教授は言う。「もし学力が高い学生ほど主体性が高いのであれば、学力評価に集約することもできるでしょう。しかし実際は必ずしもそうではない」。だから評価の仕方を分け、その上で、前提条件に学力を置いているのだ。こうした方式に大学のスタンスを見ることができる。より大学教育にフィットしやすい学生をどうやって選抜するか。そのためには、特に一元的な評価になりやすい一般選抜において、多面的な評価が必要なのではないか(図1)。その観点において、2年前から具体的な検討が始まったのだという。

図1 2021年度入試制度の変更点(赤字が主な変更点)

 なお、昭和女子の一般入試志願者数の推移(図2)を見ると、近年では2015年度入試から4年連続増加し、2019年度入試には12993名に達している。この増加トレンドのもと、条件を下げずに選抜できている状況だからこそ、こうした評価方法を決定できたとも言えるだろう。志願者数が減少している状況では、まず増加に転じるための方策に注力する必要がある。量的確保をできているからこそ質に踏み込んだ意思決定ができると言えば言いすぎであろうか。

図2 定員・一般入試志願件数・定員比の推移

入試は育てるもの

 今後について、「測定精度は常に上げていかなければならない」と藤島教授は言う。「選抜では、やってみなければ分からないところも多くある。まずは本学ならではの水準と方式を定め、随時チューニングしていくことが必要でしょう」。まさに入試は育てるものであり、方式を定めることがゴールではないのである。運用開始後に大学や学生にどのような変化が起こるのか、楽しみである。

編集部 鹿島 梓(2019/10/09)