【専門職】「服の、先へ。」が示すコンセプトメイクできる人材育成/国際ファッション専門職大学

 55年ぶりの新学校種となる専門職大学・短期大学制度が発足した。初年度に開学認可されたのはわずか3校。その設置趣旨と認可申請における困難等を取材させていただいた。

POINT
  • 1966年創立、50年以上の歴史を持つ専門学校・モード学園を運営する学校法人日本教育財団により2019年4月に開学
  • 国際ファッション学部1学部の中にファッションクリエイション学科(定員80名・東京)・ファッションビジネス学科(定員38名・東京)、大阪ファッションクリエイション・ビジネス学科(定員38名)、名古屋ファッションクリエイション学科(38名)の3キャンパス4学科を展開
  • 2017年11月に申請、2018年10月に認可保留となり11月15日に追加認可
  • 認可から初回入試までが約2週間という短い募集期間であったにも拘わらず、定員194名に対し204名の入学者を集め定員充足


 国際ファッション専門職大学の母体である学校法人日本教育財団が展開する専門学校、モード学園をご存知の方は多いだろう。1966年名古屋校、1971年大阪校、1980年東京校開学以降高い知名度を誇り、ファッションデザインやグラフィック、メイク・ネイルに至るまで幅広いクリエイティブ領域で「ゼロからプロにする」を標榜し、センスや感性といったクリエイターの素養は訓練によって開発されるという理念のもと、『完全就職保証制度』『国家資格 合格保証制度』『15年間就職保証制度』等、学生の成長と卒業後の活躍をバックアップするスタンスと業界直結の教育で、数多くの卒業生を社会に送り出している。日本教育財団はこのモード学園を含め、東京・名古屋・大阪・パリで10校の専門学校、1校の通信制大学を運営する学校法人だ。では国際ファッション専門職大学ではどのような人材を育成するのか。東京都新宿駅前にある総合校舎コクーンタワーを訪ね、近藤誠一学長、統轄責任者の後藤京子理事にお話をうかがった。 

服の、先へ。

 まず、近藤学長のプロフィールに触れておきたい。元外交官、元文化庁長官であり、パリOECD事務次長、ユネスコ日本政府代表部大使等を歴任し、退任後は東大・慶大・東京藝術大等で教鞭をとられる傍ら、一般法人TAKUMI Art du Japonを設立する等精力的な活動が評価され、フランスで最高勲章の1つであるレジオン・ドヌール・シュヴァリエを、日本で瑞宝重光章を受章。文化・芸術の発展、国際交流に長年従事してきた。そうした背景の学長が、どのような課題意識のもと大学を創るのか。

 「まず昨今、グローバル競争が激しい世界において、一元的な価値体系を重んじる動きがあります。それはとても便利ですが、そもそも多様な世界の在り様を1つの枠で測るのは不可能であり、個性が損なわれてしまう。そうした潮流に対して、我々は強い危機意識を持っています」と近藤学長は言う。その対極にあるもの、人によって異なる感性、地域ごとの特性、スピードや標準化により駆逐されてしまうオリジナリティーこそがクリエイティブの源泉であり、国際競争力になるという。今こそオリジナリティーに目を向け、個々の特徴を抽出するコンセプトワークのスキルと、自ら創る技能を併せ持つ人材が必要との課題意識から、設計したのが国際ファッション専門職大学だ。コンセプトワークとは、「誰に何をどのように提供し何を目指すのか」を明文化する作業である。多様な価値がある中で、どう筋道をつけて何を立てていくのかを定義できる力。服を創るだけではなく、その先へ。それが大学全体のコンセプトだ。

物事のルーツからコンセプトメイクできる能力を培う

 専門職大学制度のカリキュラムは基礎・職業専門・展開・総合の4科目群で構成される(図)。特徴として、1年次から演習科目を配置し、実践により問題意識を高め、自己修練を積むための主体性を涵養するほか、制度上必須である600時間相当の企業内実習も交え、経験を軸に理論と実践力を高めていくのが既存大学との大きな違いである。業界で必要な切り口から語学コミュニケーション能力を養成し、日本の伝統技術も3D衣装製作等のデジタルテクノロジーも扱う。方法論を広く学ぶと同時に基盤を整え、どのような場にあっても特性を抽出しそれを生かした創作を行うことができる人材を育成する。

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図 カリキュラム概念図

 イノベーティブな人材となるための能力を培う目的で設定された展開科目では、どの学科でもビジネスやメディアデザインといった発信力を高めるための科目群と、海外実習や国際知財論といった国際科目群の2つを用意した。また、文化人類学の科目を多く採り入れているという。「デザイナーは、デザインのコンセプトをきちんとプレゼンできることが世界水準ですが、日本人はそれが苦手です。プレゼン技術や経験はもちろんですが、関連要素のルーツをしっかり探り、現状の所以を明らかにしたうえでないと新たなコンセプトは構築できない。そういう思考プロセスなしに表層的なデザインをしても国際的には通用しないのです。だから、文化的・民俗学的アプローチを重視し、そうした専門の先生にも多く来ていただきました」と後藤理事は言う。事象やモチーフの持つ意味やルーツをしっかり理解することがコンセプトワークを助け、教養という国際通用性にも昇華される。国際経験豊かな教員が広げる世界観が、学生の創作活動に多くの影響を与えることは想像に難くない。

早期広報で獲得したロイヤリティの高い母集団

 では開設にかかる困難はどういう点にあったのか。まず初年度3キャンパス同時開設という難題について、近藤学長は「地域性やオリジナリティーを活かすことをコンセプトにしている以上、東京一極集中を体現するような大学にはしたくなかった」と言う。東京以外にも同時に創りたいという意向から、モード学園の基盤がある大阪と名古屋にも学科を置く形で計画は進められた。

 最も苦労したのは学生募集活動だ。特に今回認可となった11月中旬から初回AO入試実施の12月上旬までたった2週間という超短期募集であったが、最終的には定員194名のところ204名が入学し定員充足。一体どのような募集プランニングをしたのかを聞くと、「2年前の夏から学校説明会を何度も実施し、絶対にこの大学に入りたいという志願者が多く待っていてくれた。これに尽きます」と後藤理事は感慨深げだ。早期広報によるロイヤリティの高い母集団形成が最終的にものを言った。「本学のコンセプトに共感し、教育に期待してくれる人がこんなにいるのだと、勇気をもらえました」と近藤学長も言う。育成人材と理念を明確に標榜し、きちんと広報してきた結果が顕れたとも言えよう。

職業教育に必要な素養を多面的総合的に評価する

 さて、最後に注目したいのは入試制度である。初年度入試ではAO、学校推薦、一般の3方式が用意された。AOと一般では3つのポリシーを説明するガイダンス受講が必須であり、そこで大学の理念を理解する。そして評価方法は、AOは面接と調査書、一般は2種類の適性診断(国語・英語の基礎学力を問う記述式選択問題40分、論理的思考力・表現力を測る検査30分)と調査書に面接。面接は高校までの生活態度や基礎学力と、志望理由書をベースにした内容だ。大学で育成する人材像から逆算して、多面的・総合的に評価する内容になっている。

 筆者は「新入試」と称される入学者選抜のリサーチで様々な学校を見ているが、大学よりも専門学校のほうがこうした方式の意味合いを理解しているように感じることは多い。教育内容と育成人材像に照らし、入学時点で何が必要なのかを捉え、個人の意欲や主体性も含め総合的に評価する。また、そうした意図や学校の方針について、一般入試の志願者であってもきちんと理解してもらう必要があると考え、その場を創出する。こうしたスタンスを一本筋が通ったものと感じる人は多いことだろう。モード学園で展開している『完全就職保証制度』を大学でも掲げており、責任持って人材育成輩出するための覚悟が一層強く感じられた。

 国際ファッション専門職大学は、モード学園の実績を活かしたファッション領域に特化してはいるが、コンセプト自体はどの領域でも必要なコーディネーターやファシリテーターの素養育成に挑戦するものだ。教育コンセプトと育成人材像と選抜がぶれず一貫していることこそ、この大学の最大の強みであろう。開設から5カ月が経過し、近藤学長も後藤理事も、確かな手ごたえを感じておられるように感じた。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2019/10/7)