「学生を信頼する大学」が高校生に伝わるオープンキャンパス/函館大学

函館大学キャンパス


 函館大学は、北海道の道南地域の中心都市であり、わが国有数の国際観光都市である函館市に位置する、入学定員100名の商学部からなる私立大学である。1938(昭和13)年に創設された函館経理学校を淵源に持ち、1965(昭和40)年に4年制大学として創設された。同大学を運営する学校法人野又学園は、函館大学とともに、函館短期大学(食物栄養学科、保育学科)、短期大学附属調理製菓専門学校、函館歯科衛生士専門学校、函館看護専門学校の1つの短期大学、3つの専門学校と2つの大学附属高校を設置し、地域で幅広い人材育成を担っている。函館大学では3年前からオープンキャンパスを学生が企画・運営する方式を取り入れ、学生が中心となり、高校生に大学の情報を発信している。このことは志願者・入学者の増加につながるとともに、学生自身の成長にもつながっているという。これらの取り組みの背景や効果について、野又淳司学長・理事長にお話をうかがった。

野又淳司学長・理事長

 函館大学は、創設者の示した「報恩感謝」「常識涵養」「実践躬行」の学園訓3カ条を具体的信条として、「知・情・意を高度に、かつ円満に発達させる真の学問追究をすること」を建学の精神に位置づけている。3代目の理事長である野又学長は、建学の理念を「知識・技能・態度のバランスのとれた人格形成を目指している」と集約している。商学部の単科大学である同大学は、商学を構成する法律・経済・会計・流通・経営の5つの領域を学ぶことを基本として、企業経営・市場創造・国際英語の3つのコースを設置している。企業経営コースは経営学・会計学・法学を、市場創造コースはマーケティング・経済学を中心に学ぶことになっており、英語国際コースは英語を学習したいというニーズが高いことから設置された。学生は入学の段階でコースを選択することになっているが、入学後の変更も可能としている。学生のコース選択について野又学長は「入試の段階では国際英語コース志望は多い。しかし、途中でコースを変える学生も少なくない。高校の時に英語が得意だから国際英語コースを選んだとしても、実際にビジネスで英語を活かすには、他の分野の知識も必要だということに気づく。また、高校では法律や経済は学ばないけれど、入学後に学んでみるとそれが面白いということでコースを変える。やってみて気づくこともある。コースを前向きに変えて、大学に入った後に頑張ってもらうための仕組みになっている」と話す。そして、高校生の進路選択については、「法人として、短期大学や専門学校も運営しているなかで、高校生に対して、商学部単科である函館大学に入ることだけが最適な進路とは言えない。オープンキャンパスでは、学問の内容、就職の状況、自分に合っているかどうかを自分自身で見てほしいと伝えている」と言う。一人ひとりの高校生や学生にとって、自分自身の将来の目標や自分に合う進路選択を促すことを重視しているのである。

1人の職員の発案から始まった、学生に任せるオープンキャンパス運営

 高校生が自分自身の進路を決めるにあたり、大学と直接触れる機会であるオープンキャンパスは、大学にとってもPRの機会として重要な意味を持つ。函館大学では、高校生が大学について理解を深める機会であるオープンキャンパスを、3年前から企画・運営の全てにおいて学生が担当して実施することに変更した。学長挨拶等を含めた企画・構成も、大学についての説明も、全て学生が行っている。学生が全体を企画することで、高校生がリラックスして話を聞ける雰囲気を作りながら、高校生に伝わることを重視した内容に変わってきたという(写真)。

函館大学オープンキャンパスの様子

学生による大学の説明について、「よほど間違った情報でもなければ学生の話を訂正することはないけれど、学長の立場からすれば、『そこを強調するのか』と驚くことはある。例えば、“海外に行くのに、(大学の支援で)全然お金がかからずに行けた”ということを学生が紹介する。お金がかからないことをあまり前面に出されるのも困るなとは思うが、一方で、“頑張ればチャンスがつかめる”、“私は頑張った”ということを伝えたい、という思いも学生にはあるのだろう。学生は、何年か前にオープンキャンパスの参加者としてそこにいた、という高校生の視点に立って話している。多少正確ではないとしても、高校生に説明するのに、実際に教育を受けている学生の言葉が一番よく伝わるのだろう」と野又学長はその様子を話す。そして、「学生達は、オープンキャンパスに参加した人に、“参加してよかった”と感じてもらいたいと思って取り組んでいる。そのような学生が真剣に取り組める環境を作ってやりたい」とする。現在、オープンキャンパスには20名程度の学生がスタッフとして参加しており、その活動に対する単位付与や対価としてのお金の支払い等はない。学生の自主的な希望制のもとで、2年生が中心となって運営し、1年生は経験を積むこと、3年生はサポートをする、という役割分担のもとで、様々な学年の学生が関わっている。そして、学生主体のオープンキャンパスは、参加者の満足度が高く、入学者に占めるオープンキャンパス参加者の比率も高まっているという。学生が主体的に取り組むようになってから、その数字は良くなっており、オープンキャンパス参加者の7割が入学していて、その比率はこの1、2年で特に高まっているという(図表1)。

図表1 オープンキャンパス参加者、志願者、入学者等の推移

 このような学生が企画・運営する方式に変える前は、函館大学のオープンキャンパスも他の多くの大学で行われているそれと同じように、教職員が企画を立て、学生に手伝わせるというやり方だった。しかし、ある職員から「オープンキャンパスの企画を学生に任せたい」という提案があった。それは野又学長・理事長が新たに定めた人事評価制度の元で挙げられた職員からの提案であり、野又学長は「職員から、オープンキャンパスを学生に任せたい、という提案があったことは、学生を信じて任せたいと思った人がいたということ。学長として、職員のことを信じているのでその提案を採用し、学生に任せることにした」と導入の経過と背景を話す。そして、「学校選びに学校の雰囲気は大切だと思うが、オープンキャンパスを通じて、そのような信頼関係が、学校の雰囲気として伝わっていればいいし、そういう信頼関係が作れる大学ならここで頑張ろうと思えるようになると良いのではないか。期待されたり、信じてもらうほうが人は伸びる。オープンキャンパスは一つのきっかけではあるが、学生が自分達自身の能力を伸ばしていく活動でもある」と位置づける。学生主体のオープンキャンパスにより、参加者の満足度が高まり、志願者が増えているだけでなく、オープンキャンパスの企画・運営に関わる学生の成長にもつながっており、そして、そのことが大学全体の良い雰囲気につながり、好循環をもたらしているのである。

主体性を育てる地域課題解決の取り組み

 函館大学では、オープンキャンパスを学生の企画・運営に任せただけでなく、学生の主体性を育てるための様々な取り組みを行っている。具体的には、1年生と2年生の必修科目である「商学実習」では、“函館の発展”をテーマとするPBLの授業として、函館の課題や魅力となる資源を見つけ、地域や自治体に様々な提案を行っている。2018年には、学生提案の成果として、函館市内の観光地にある大学のサテライト施設に、ムスリム観光客を対象とした礼拝所を設置した。それまで函館市内では、ムスリム礼拝所は空港内にしかなかったものであるが、マレーシアやインドネシアからの観光客が増加していることや、ムスリム観光客の受け入れ態勢を研究するなかで、学生から発案されたものである。このような取り組みは、北海道知事の視察もあり、メディアでも取り上げられた。具体的な成果と目に見える反応から、学生にとって生きた学びになっている。また、海外での学習についても、以前から行っている姉妹校への留学や語学研修だけでなく、学内で学生を公募して取り組む地域活性化プロジェクトとして、アジアへの商品展開について現地訪問を含めて学ぶ「アジアマーケティング研修」を新設した。これは、国際的な視点で地域の活性化に資する取り組みを提案するものである。そこでは、約30人の学生が、函館のインバウンドの観光客にリピーターとなってもらうために必要なことや、函館市内の宿泊サービスの国際化において求められる工夫等を考えて提案する等に取り組んできた。このように、国際観光都市である函館という特色のある地域の発展や課題解決に、学生が主体的に取り組む仕組みを取り入れているのである。

主体性を育てる地域課題解決の取り組み

 さらに、函館大学では、学生の主体性を伸ばす取り組みとともに、学修成果のアセスメントにも力を入れるようにしてきた。内部評価・外部評価・内部調査を体系的に取り入れている(図表2)。カリキュラムポリシーに基づいて、アセスメントポリシーを定め、そのなかで、教育課程のアセスメントとして、「ルーブリックに基づき、学年ごとに実施する共通課題、および卒業論文により、知識・技能・態度の評価を組織的に行う」としている。その特徴は、授業科目とは別に、学年ごとに全員必修としている「共通課題」であり、「共通課題Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」として、学年ごとに、全ての学生に共通した方法で学修成果をアセスメントすることを取り入れていることである(図表3)。その内容は、「共通課題Ⅰ」は、1年時の共通課題として、テーマを決めて学生に毎週、新聞記事をスクラップさせ、学長と副学長を交えて、その内容についてグループでディスカッションするものである。テーマには、コンビニエンスストアの24時間営業のあり方、高齢者ドライバーの自動車免許のあり方等、現代的な課題を設定し、新聞報道や参考文献を参考にして、法律や経済等の授業と関連づけながら自分の考えをレジュメにして学生が報告し、学長と副学長がその内容を評価していく。「共通課題Ⅱ」は、2年時の共通課題として、商学を構成する法律・経済・会計・流通・経営の5領域について専門知識の試験を行い、一定の点数以上を取ることを必須としている。このような共通試験を行うことで、単位認定の甘い授業やしっかり勉強させていない授業があることに気づくという。「共通課題Ⅲ」は3年時の共通課題として、課題図書に指定した50冊の中から学生がレポートを書き、そのレポートに基づいて、学長が1人15分の面談を全員と行うものである。大学3年生にふさわしい受け答えができるかどうかを確認しているという。このように授業科目とは別に、「共通課題」として学修成果をアセスメントすることで、個々の学生の状況を学長が直接把握しているのである。このことを通じて、優秀な学生やそうでない学生がどのゼミに所属しているかが分かり、また、問題があると思われる場合には教員や授業のあり方に働きかけていることから、「共通課題」は教員にも緊張感をもたらしているという。

図2 学修アセスメントの概要図、図表3 共通課題 学年ごとの概要

 さらに、このような内部試験による学修アセスメントだけでなく、外部試験としてTOEIC®やSPI、PROG等も活用するとともに、内部調査として毎年の学修行動調査を行っている。特に、学修成果を高めるために、授業外学習時間を推進する仕組みを新たに導入した。授業外学習時間の目標を週10時間に設定して、学生に学習を促すとともに、大学のシステムとして、毎週の授業外学習時間をウェブで登録する仕組みを導入し、学生にスマホで授業外学習時間の状況を入力させている。そして、教員・職員が学修状況を確認し、学生指導に利用している。学修アセスメントとして、内部試験・外部試験・内部調査を体系的に取り入れ、学生の学修成果を高めるために、教育改善や学習指導に活用しているのである。

当たり前のことを当たり前に取り組むという改革

 このような取り組みは、野又学長が2015年に学長・理事長に就任してから、新たに取り入れたものである。野又学長は「大学では当たり前のことがこれまで行われていなかった。教職員の人事評価も目標管理的な取り組みも、当たり前のことをやっている。学生がなぜ大学に通っているのかを考えたら、教育の改善点はいくらでもある」と話す。そして、新たな取り組みを進めることで、学生が主体的に関わり、勉強している姿が地域の人にも認められるようになってきたという。入学者の7割が北海道出身、その大半が函館周辺の出身である函館大学にとって、地元の高校や地域からの評価は重要である。学生の地域での主体的な活動がメディアで取り上げられたり、学生の活動や学修成果のアセスメントの取り組み等を入試広報を通じて高校にも伝えるなかで、高校からの評価は変わってきているという。そして、自治体の側から大学との連携が提案されるようになる等、学生の学びが波及してきているとのことである。かたちのある成果につながっているのである。

 このような函館大学の取り組みは、小規模な地方単科大学による先進的なものと言えるだろう。ただオープンキャンパスの企画・運営を学生に任せるようにしたのではなく、学生を組織的に育てる仕組みを発展させており、学生主体のオープンキャンパスは、学生を育てる活動の一部でもあり、その成果とも言える。野又学長は「オープンキャンパスを学生に任せることは、他の大学でもできるのではないか。学生を信じていればできる」と話す。函館大学の取り組みには、教職員と学生への信頼が背景にあり、それは、学修成果のアセスメントとして、学長自身が全ての学生の学修成果に直接関わっているという具体的な根拠に基づいている。このような裏付けのある自信と信頼に基づいて、学生に任せることができる学長や大学はどのくらいあるだろうか。学生主体のオープンキャンパスに象徴される新たな取り組みを経た卒業生を輩出していく函館大学の今後の動向には引き続き注目が必要である。

(白川優治 千葉大学 国際教養学部 准教授)



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