個の成長に寄り添い女子大ならではの国際学部を模索する/甲南女子大学 国際学部

POINT
  • 1920年に設立された「甲南高等女学校」を起源とする女子大学
  • 建学の精神に「まことの人間をつくる」、教育方針に「全人教育、個性尊重、自学創造」、校訓に「清く、正しく、優しく、強く」を掲げる
  • 文学部、人間科学部、看護リハビリテーション学部、医療栄養学部の4学部9学科に加え、2020年国際学部(国際英語学科・多文化コミュニケーション学科)を開設


 甲南女子大学(以下、甲南女子)は2020年国際学部(国際英語学科・多文化コミュニケーション学科)を設置する。その設置趣旨について、兵庫県神戸市のキャンパスを訪ね、国際学部設置ワーキングチームの梅原大輔教授にお話をうかがった。

継続的に議論検討が行われた国際領域

 「2001年文学部に多文化共生学科を開設したことが改革の発端でした」と梅原教授は回顧する。
 多文化共生学科は社会連携型プロジェクトが多く、学生1人ひとりの学びが構築されていく手応えから、これを全員必修にしてはどうかという声が2016年頃から学内で多数上がったという。同じ国際領域の英語英米文学科も2012年に英語文化学科と名前を変え、キャリアプログラムや海外インターンシップを推進してきたという。両学科とも「1人ひとり自分のプロジェクトを作っていく」「1人ひとりの学びにフォーカスを当てる」といった方向性を設置当時から持っていたと言える。

 その一方で、国際領域を扱う学科としては、文学部の枠組みの中という限界があった。文学の枠組みの中では、どうしても言語や文学、文化社会のイメージが先行してしまう。甲南女子の国際とはそうした内容で良いのか、それとも別のアプローチがあるのか、その場合はどういう在り様が相応しいのか、議論は続いた。2008年・2012年にも学科名称を変更したのもそのメンテナンスの一環だったというが、継続的な議論の中で体系的な教育構築や研究集積といった観点から、学部化が構想されていった。こうした内発的動機だけでなく、当時は学生募集においても社会情勢においても国際系ニーズが高まっており、外的動向も検討を後押ししたようだ。経営層もこうした動きに応え、100周年を迎える2020年に国際学部を設置する方針が固まった。

個人の志向に配慮しつつ活動経験を積み重ねる

 国際学部は2学科で教育展開する。学部パンフレットによると、国際英語学科は「確かな英語力、英語圏の社会での経験、言語や文化について考える力を通して、英語を活かした卒業後の進路に結びつけます。個としての強さを持ち、国際的な環境で活躍できる女性を育成します」、多文化コミュニケーション学科は「言語(英語+アジアの1言語)、国際教養を身につけ、国内外での活動に取り組みます。実践的な学びを通じて、チームで働くための企画力、課題解決力、リーダーシップなど、国際的な現場で必要な力を持った女性を育成します」とある。いずれも語学力を前提にした活躍像を掲げ、重なる部分も多くあるが、英語で仕事をするキャリアを想定した国際英語学科と、多様な背景の人々と協働するシーンを想定し、英語以外の言語も修得を目指す多文化コミュニケーション学科という違いがある。

 学部として掲げるタグラインは「じぶん色のつばさで羽ばたく」。各学科の方向性を踏まえつつ、個人の希望に沿い、多様なキャリアプランを提案しているのが特徴だ。例えば留学については、「希望者全員留学」と称し、1年までの長期留学や海外研修・インターンシップ・海外プロジェクト等、多彩な留学プログラムを整備している。また、留学先に日本でのコミュニティを持ち込むことのないよう、1カ所につき5名前後を目安に分散するようにも配慮する。その一方で、外国人コミュニティの交流等が多い神戸に立地している点を活かした課外活動や、学生が自由に集い多様な交流を育むコモンルーム、English Onlyの「e-space」といったファシリティも整備する。「留学は推奨しますが希望しない学生もいます。そうした学生にもメリットを感じてもらえるよう、学内外のリソースをフル活用し、国際経験を積めるように配慮します」と梅原教授は言う。全員留学を掲げる大学も多い中、敢えて希望者全員留学と称するのは、学力による選抜等を行わず、希望すれば留学できる体制を整える意味合いのほかに、多様な学生の志向への配慮があるのだ。「本学は小規模な女子大ですから、その特性を活かした国際学部を創っていきたい」。安心して留学できること、現地のサポートが充実していること、留学を希望しない学生にも経験の場を提供すること。また、留学意向があり成績も良いのに経済的理由で断念することがないよう、給付型奨学金も充実させた。

 甲南女子といえば、地元神戸では評判のいわゆる「お嬢様大学」であるが、学部として目指す育成人材像には「タフ」「粘り強い」「自立心」「高いコミュニケーション能力」といったキーワードが並ぶ。いずれも、これまでの甲南女子ではあまり見られなかった属性と言えるかもしれない。梅原教授は言う。「これまでの伝統を否定する意味ではなく、伝統とは異なる学生像を育成輩出したい。グローバルな環境で多様なタイプの人材が揃い、各自のキャリアが個別に支援されている状況を生み出したいと思っています」。

1人ひとりの成長ストーリーを提供する

 学校法人甲南女子学園の第4次中期計画(2018~2020)には基本構想として「教育で選ばれる大学」、基本方針として「学生に能力開発と成長ストーリーを提供する」を掲げる。学生1人ひとりがきちんと成長するための用意とスタンスがそこからは強く感じられるが、端的にそれを示す具体例として、取材時に梅原教授が見せてくださったのが、現学科で活用している「Study Log」と呼ばれるノートだ。学生1人ひとりが週ごとに目標設定、授業科目への落とし込み、実践後の達成状況の振り返りを記載し、それに対する教授のコメントが丁寧に赤字で記入してある。学生1人ひとりの成長に寄り添い、自己省察と次のアクションにつなげる手書きのポートフォリオツールである。「大学でここまでするのかという意見もありますが、学生自身が大学生活を通して成長実感を持てることが何よりも大事です」と梅原教授は言う。

 甲南女子に入学してくる学生は「与えられたものに真面目に取り組む」受け身な学生が多いという。しかし、大学教育では自分で目標を立てて自立して学ぶ必要がある。「そのギャップを埋め、スタンスの転換を促すには、経験と自己省察が必要です」と梅原教授は続ける。自ら学ぶスタンスを修得させるために、経験の機会を多く設け、自分自身を深く理解し、一歩ずつ進むことができる仕組みを作り、見守る。そうしたプロセス設計が大事なのだという。

図 国際学部の学びのサイクル(設置検討時コンセプト)

 近年国際系の学部学科開発は全国的に活況であり、その内容も留学等の海外経験やPBL等を通した自主性と語学力の獲得等、多少様子が似通ってきているように感じるものが多い。甲南女子の取材を通して感じたのは、学生1人ひとりの個性に寄り添い、その成長機会を丁寧につむごうとする教育のスタンスだ。「学生に能力開発と成長ストーリーを提供する」という経営指針と教育計画、そして現場スタンスがきちんと合致している稀有な例であると感じた。そしてそれこそが、甲南女子にしか紡げない教育価値であり、独自性と言えるものなのではないか。来春、新学部に入学する学生それぞれの成長ストーリーが如何なるものか、注目していきたい。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2019/11/11)