大学の独自性を活かし次の課題に挑むための2021年度入試改革/東京未来大学

POINT
  • 30年以上の歴史を持ち全国に60以上の専門学校を擁する学校法人三幸学園が2007年に設立した大学
  • こども心理学部、モチベーション行動科学部の2学部の教育を展開
  • 2021年度入試方針で「活動履歴書の活用」と「小論文の実施」を打ち出し、詳細をリーフレットで公表している

 東京未来大学(以下、未来大)は開学13年目の新しい大学だ。通称2年前ルールに則り、2021年度入試の方針公表に当たり、いち早くリーフレットを作成して高校訪問等で広報している(参照リンク)。その内容や背景にある課題感について、東京都足立区のキャンパスを訪ね、エンロールメント・マネジメント(EM)局次長の杉本純哉氏と、同局入試広報係主任の丸山健吾氏にお話をうかがった。

受験生にとっても大学にとっても障壁を軽減する方法を模索

 まず、前述リンク「2021年度入学者選抜まるわかりブック」の概観を見てみよう。ポイントは「活動履歴書の活用」と「小論文(読み取り問題)の実施」の2つ。活動履歴書は学力の3要素評価のための大学独自書類で、将来的なデータ乗せ換えも見据え、JAPAN e-portfolioの項目に一部揃えた内容で構成され、活動プロセスを事実ベースで記載する内容。総合型選抜・学校推薦型選抜では面接の参考とし、一般選抜では任意提出のうえ、記載内容によって加点する扱いとして利用する。小論文は複数のデータやグラフ、文章等を読んだうえで「そこから読み取れること」「自分の考え」を論述する試験を現在検討中だ。この方針は大学入学共通テストの作問方針と概ね合致する。

 こうした内容の検討を始めたのは2018年頃だったという。「検討の軸は『受験障壁を作らないこと』を中心とした3つの観点です」と杉本次長は言う。具体的には以下である。

  • 選抜性の確保:募集段階のマッチングではなく、選抜プロセスの中でマッチングするため、出願条件等で狭めず、母集団は広く確保する。
  • 志願者数の維持確保:①にも関連し、募集基盤となる母集団を極力減らさない方策を練る。
  • 業務効率の確保:小規模校の現状のマンパワーで回せるかどうか。理想に偏らず、現実的に運用可能な範囲で検討する。
 なお、リーフレットは高校2年生の夏のオープンキャンパスで配布するスケジュール感で作成したという。業界全体では2021年度入試方針の公表が進まない中、極めて早い動きと思われるが、「高校生の動きに合わせて、特に入試該当者にいち早く公表するのが重要」と丸山主任は言う。

面接で掘り下げるための活動履歴書、思考力フィルタリングに用いる小論文

 では、検討の結果出された方針をもう少し詳しく見ていこう。

 まず、活動履歴書である。総合型選抜・学校推薦型選抜において、最初は点数化による評価を検討したが、千差万別な内容に対して一律のものさしを用いて点数化することは物理的に困難であると同時に本質的ではないとの判断から、面接時の参考資料として活用し、面接内容に対する評価に包含するとした。調査書は事実確認に用いるのに対し、本人がどのような成長をしてきたかというプロセスを中心に見るという。面接は30分の集団面接(5名)で、1人当たり3問程度の問い掛けが限度となる。その問い掛けは、主体性に関する内容、思考力に関する内容を想定しているという。「主体性に関しては、これまで何かを乗り越えた経験を掘り下げる中で探っていきます」(丸山主任)。思考力については志望専攻に特化したもので検討中だ。学力の3要素を面接で評価するには面接官の力量によるところが大きいと思われるが、未来大の場合、後述するCA制度により学生と対話し引き出すことに慣れた職員が多くいることも追い風であろう。そのうえで問い掛け方のパターンを入試委員会でシミュレーションして作成し、担当者によって評価が変わらないように配慮しているという。

 次に、小論文である。現在の未来大の課題として、学生の国語力向上が挙げられるという。杉本次長は、「授業レポートや実習日誌等、文章力が必要な場面は多いのですが、そこに要する国語力を入試で必ずしも担保できていない実情があります」と言う。そのため、現在は入学時に国語のプレースメントテストを実施し、成績下位の学生に対して基礎国語プログラムを課すことでその課題に対応しているが、そもそも入試でフィルタリングできればこうした体制も不要となる。

 そうした背景もあり、現状の「作文」を「小論文」に変更することになった。従来の「作文」の採点基準は「自分の意見を表明できるか」や「誤字脱字がないか」等に留まり、受験における抵抗感を下げる意味合いもあった。それが「小論文」になることで、論旨を明確に示す力や資料等を読み取る力等、より思考力を問うものに変わるという。

 学力の3要素評価に対応した手法というだけでなく、現状の課題も同時解決できる方法を模索したのである。

独自性のネクストステージを改革に託す

 未来大は学び方や制度が特徴的な大学だ。その主たる例がCA(キャンパスアドバイザー)と呼ばれる職員の存在であろう。4年間学生に伴走する進路・生活面での相談役であり、学生が主体的に成長できるようにファシリテートする職員である。未来大はこのCAと、主に学習面でのフォローを担当するクラス担任、授業担当の専門科目教員の3役が一体となって学生1人ひとりを支援する独自の体制を整えている。学生の成長を複数の教職員で見守り、短期目標や長期的な将来像等を話し合いながら明確にし、意欲を引き出し、行動力を育成し、専門知識を修得させていくのである(図1参照)。

図1 未来大のサポート体制

 また、全員参加必須の三幸フェスティバル(通称・三フェス)というイベント(スポーツと表現の祭典)の存在も大きい。1・2年生は全員が参加して学部学年を超えたチームを作る。チームビルディングや協働によって生まれる摩擦や衝突を乗り越えて1つのアウトプットを創出する等、経験を通した教育効果が大きく、未来大では低学年の「学びの根幹」に実践的なPBLである三フェスを位置づけ、自らの成長へのモチベーションを高めている。大学教育でもこうした経験を踏まえたプロジェクト型学習が多い。未来大に入学する層は学力よりも主体性が高く、こうした仕組みをうまく活用して成長していく学生が多いというのが実情だ(図2)。

※クリックで画像拡大
図2 入学前と入学後の基礎力の変化(東京未来大学EM局作成)

 翻って、今回取材したお二人が属する「EM局」という名称からも、学生1人ひとりへの伴走体制を重視していることがうかがえる。大学HPには、「EMとは、入学前から在学中、卒業後まで一貫してサポートする、総合的な学生支援体制のことをいいます。学生は様々な悩みや不安、希望・要望を抱えています。それらを大学としてどうサポートできるか徹底して考え、実行に移すというのが、未来大のEMです」とある。

 当然こうした取り組みに前向きな学生を基本的には選抜したいわけだが、特色ある大学ならではの悩みは、その特色に馴染まない学生をどうするかである。杉本次長は言う。「本学は、主体性が高い学生の成長を加速させる仕組みは既にありますが、必ずしも主体性が高いわけではないが基礎学力の高い学生を開花させる仕組みの構築は、これからの課題です」。独自性は保持しつつ、さらなる課題に着手する。現状はエンドユーザー向けの就職が多いが、いずれは有名企業への就職も増やしたい。多様な学生が多様な方法で成長できる大学にしたい。誰であっても入学から卒業までにしっかり成長できる大学でありたい。だから入学時のフィルタリングを強化し、同時に学力層のポテンシャルを評価する教育を開発検討する。

 高大接続改革は、大学ブランディング強化の契機とも言えるのだ。単なる入試改革に留まるか、独自性を含めた大学の在り方を見直す機会と捉えるかは、大学次第である。

編集部 鹿島 梓(2019/12/3)