全学で目指すグローバル教育への「扉」としての入試/立教大学 2021年度入学者選抜方針(英語)
- 1874年米国聖公会の宣教師ウィリアムズ主教によって築地に設立された立教学校を源流とし、2024年創立150周年を迎える
- 「キリスト教に基づく教育」を掲げ、文学部、異文化コミュニケーション学部、経済学部、経営学部、理学部、社会学部、法学部、観光学部、コミュニティ福祉学部、現代心理学部、Global Liberal Arts Program(GLAP)の10学部1教育プログラムを展開し、学生数約2万人、一般・センター志願者合計68,842人(2019年度)にも及ぶ大規模総合大学
立教大学(以下、立教)は2019年7月、11月に2021年度入学者選抜方針を公表した。それぞれの概要を以下に見てみよう(図1参照)。
■7月公表内容- 現行1試験日の全学部日程を5試験日に拡大(試験日が異なれば複数日の併願が可能)。
- 全学部日程では、英語外部試験のスコアを得点化し、本学で受験する他の2科目の得点と合計した3科目の総点で合否を判定する。本学独自の英語試験は実施しない。
- 文学部は、上記方式に加え、独自の英語試験と国語、選択科目の3科目による試験日を設ける。
- 大学入学共通テストにおける「大学入試英語成績提供システム」の導入見送り・延期が11月1日に文部科学省より発表されたことを受け、新たに、一般入試で利用可能なスコアの1つとして、大学入学共通テストの英語成績を加える。
図1 2021年度以降の方針概要
「英語の立教」が英語の独自試験を廃止し、民間外部資格検定試験に振り切ったというのもセンセーショナルなニュースだったが、11月1日に文科省が共通テストの英語における外部試験利用を当面見合わせる判断をした後、速やかに「公平性の観点」から方針を再考し、外部試験を受験できない人でも立教を目指せるように、共通テストの英語成績も利用可能スコアに加えるという柔軟な早期対応を公表したことも目を惹いた。こうした英語にまつわる動きの背景に何があるのか。池袋キャンパスを訪ね、入学センター長の家城和夫教授にお話を伺った。
TGU採択を起点とした学内のグローバル化
今回の立教の方針を理解するために、まず触れておかなければいけない取り組みがある。2014年度文科省「スーパーグローバル大学創成支援(タイプB:グローバル化牽引型)」(以下、TGU)に採択された「グローバルリベラルアーツリーダーシップ教育自己変革力‐世界で際立つ大学への改革‐」である。この軸となった国際化戦略「Rikkyo Global 24」では、創立150周年を迎える2024年に向け、「アジアを代表し、世界で際立つ大学」になるために24のプロジェクトを展開。具体的には、(1)海外への学生派遣の拡大 (2)外国人留学生の受け入れの拡大 (3)教育・研究環境の整備 (4)国際化推進ガバナンス強化 の4分野24プロジェクトごとに目標を設定し、取り組みを進めている。
その中の(1)文脈でのカリキュラム改革において、2010年より全学部の1年次全員が少人数で展開する英語ディスカッション科目を展開し、スピーキング力を徹底して強化してきた。その他に、英語リーディング&ライティング科目や英語プレゼンテーション科目も通年で履修し、グローバル社会で必要とされる自らの意思を英語で発信していく能力の向上を目指してきたという。
こうした取り組みを発展させる形で、2020年には春の英語ディスカッション科目を経て秋には英語ディベート科目を履修するというカリキュラムに変更される。「ディスカッションは『英語を話す』ことへの慣れも含め、まずは自分の意見を話してみること。ディベートは、『相手の意見を理解し、自分の意見との違いを明らかにした上で、自分の意見の正当性を主張する』活動。その上で全体としての結論を出してもらうので、難易度は各段に上がります。共通教育レベルで全学生にこれができるようになってほしいというのが、立教のメッセージです」と家城教授は言う。だからこそ、入学段階で4技能をしっかり問う必要がある。それは立教が全学で目指すグローバル大学のあるべき姿なのである。
また、グローバル社会の多様性を活かすためには1人ひとりのリーダーシップが重要との観点から、チーム協働実践型のプロジェクトを軸に展開する全学共通科目Global Leadership Program(GLP)がある。GLPには日本語トラックと英語トラックがあり、海外実践課題クラスで英語は4技能のスムーズな活用が大前提。立教でレベルの高い教育を受けるためには4技能はマストとも言えるのだ。
さらに、教育改革として、2016年に導入した教育設計がRikkyo Learning Style。「グローバルリーダーを育成する新しい学びのスタイル」と称し、自らが掲げる成長目標に近づくための4年間を過ごすべく、4年間を導入期(1年次春)・形成期(1年次秋~)・完成期(3~4年次)に分け、課外活動も含め各期間に最適なプログラムを設計したものだ(図2参照)。個人の目標に応じたこうした活動はeポートフォリオ「新立教時間」に蓄積され、学習成果と成長実感が可視化されていく。自分が何でどのくらい成長したのか、それは何故か、目標にどのくらい近づけたか、足りない観点は何か、といった自己考察を繰り返しながら、自らの進む道を確かめるのである。
図2 Rikkyo Learning Style概念図
TGUで掲げた「学生の自己変革力」を呼び起こすのは、こうした共通教育全体であり、それがどの学部に所属したとしても立教生として持つべき素養であるからこそ、その教育に必要な18歳段階の力を測る目的で入試を設計すれば、当然英語は4技能測定が必要になるのである。
グローバル方式入試からの変換
見てきたように、立教は国際化を強力に推進するべく、様々な取り組みを行っている。入試においてもそれは同様で、従来から全学部で英語外部試験を活用できる入試を展開してきた。それが「一般入試全学部日程グローバル方式」だ。指定の外部試験において所定のスコアを満たせば、各学部学科が指定する英語以外の2教科の独自試験の合計点で合否判定を受けることができる仕組みで、立教の一般入試全学部日程はこのグローバル方式と3教科方式の2通りの受験ができる(併願不可)。直近の平均実質倍率はグローバル方式が7.2倍、3教科方式が6.1倍であり、グローバル方式のほうが人気だという。
2021年度以降の入試変更は、当然こうした従来の取り組みを土台にするものだ。ただし、グローバル方式では一定基準のスコアをクリアしていないと出願できない「最低ライン」が設けられているのに対して、2021年度以降はこうした制限のない総合評価方式。即ち、英語の独自試験が丸々外部試験のスコアの得点換算に置き換えられることとなる。「同じCEFRランクの中でも実際の能力には幅がある。足切りに使うとそうした多様性を捨てることになりかねない」と家城教授は言う。「『英語の立教』だからこそ、学習指導要領上で既に進められている中等教育までの4技能教育をさらに伸長させ、これからの時代に即したリーダーを育成する大学教育と接続するものとして入学者選抜を設計する必要があった。作問経験のない4技能テストを独自試験で作るよりも、4技能測定に既に実績があり、本学でも利用実績のある外部試験を活用するのは当然の判断です」。さらに、家城教授は続ける。「英語は技能でありツール。それを使って何ができるかが大切なのであって、大学はそれを創る場所。だから前提として、技能のレベルをきちんと把握する必要がある」。過渡期の措置として、2技能ではあるが共通テストの英語を選択肢に加えたのは現実的な公平性の担保である。2技能受験の学生が入学後も教育は4技能前提なのでフォローアップは必要であろうが、そのために教育のハードルを下げることは考えていないという。
技能である英語を公平に測り、大学教育にむすびつけるための工夫。そこからぶれることなく、現実解を導いたチャレンジは非常に頼もしい。社会が変われば教育が変わる。教育が変われば入試が変わる。そして、入試は大学教育への扉。立教の打ち出したメッセージは明確である。
編集部 鹿島 梓(2019/12/13)