全国初のデータサイエンス学部と研究科設置で目指す独自性ある大学創り/滋賀大学 データサイエンス学部 データサイエンス研究科

POINT
  • 滋賀師範学校、滋賀青年師範学校、彦根経済専門学校を源流とし、1949年に統合設置された国立大学。設置当初より教育学部・経済学部の2学部構成で教育研究を展開
  • 2017年全国初のデータサイエンス学部を設置
  • 2019年度志願状況は定員100名に対して志願者496名、志願倍率3.2倍


 滋賀大学は2017年に全国で初めてデータサイエンス学部を設置し、注目を集めた。2019年には同じく全国初となるデータサイエンス研究科(修士)を設置し、2020年には博士後期課程を設置する予定だ。次々とデータサイエンス(以下、DS)領域を広げる背景にはどのような課題意識があるのか。滋賀県彦根キャンパスを訪ね、竹村彰通学部長にお話をうかがった。

日本学術会議の提言に基づく新学部構想

 最初に、滋賀大のDSに関わる沿革に触れておきたい。

 まず、2016年データサイエンス教育研究センターが開設した。センターが担うのはDS教育に関する先端的な研究活動、企業や自治体との連携、大学間連携等の主体であり、様々な分野における新たな価値創造、社会貢献、教育開発等を行っている。

 2017年には学部、2019年には研究科修士を設置。2020年には博士後期課程の設置を控える。まさにDS領域において他校を先行し、存在感を増す滋賀大だが、大学の沿革を見ると、実は教育学部と経済学部の2学部体制の歴史が長かった大学である。「第3学部構想でDSを選択したことが契機となりました」と竹村氏は振り返る。その根拠となったのは、2014年9月に日本学術会議情報学委員会E-サイエンス・データ中心科学分科会が出した提言「ビッグデータ時代に対応する人材の育成」である。その内容は、アジアや欧米諸国が国を挙げてビッグデータ関連の研究や人材育成を行っているのに対し、日本だけ著しく遅れていることに対して警鐘を鳴らし、データ中心科学を専門とする教育組織の設置、データサイエンティストの振興等を提言するものだ。日本に枯渇した領域の人材育成を行うことが、ひいては大学としての独自性確立になるのではないか。そうした狙いもあり動き出したDS学部設置。学部長となった竹村氏は統計学を専門とし、東大やスタンフォード大学で学んだ経歴の持ち主だが、第3学部構想検討当時の佐和前学長は竹村氏の東大在学時代のゼミの先輩で、そうしたつながりから声が掛かったのだという。

技術は理系、活用は文系という文理融合の学問

 そもそもDSとは、「社会に溢れているデータから新たな『価値』を創出する学問」である。技術的には統計学と計算機科学等が複合的に統合された学問だが、滋賀大は文理融合教育をうたう。その意図は、「技術は理系ですが、活用シーンの多くは文系であるから」と竹村氏は断ずる。「エンジニアと聞くとひたすらデータをいじって分析しているイメージがあるかもしれません。勿論そうした職種もありますが、DSにおいて重要なのは、活用を見据えていかに付加価値を創出できるか。そのままではただの数字の羅列であるデータに、どういう付加価値をつけられるかをプランニングできないと意味がない。そのためには活用シーンに即応した課題解決の視点が必要です」(竹村氏)。企業においてDS人材の育成が必要不可欠と言われるのは、多くは投資や経営について合理的な意思決定をできるよう、根拠となる数値を分析しサポートする役割を担うためである。社会や企業についての正しい知識、活用シーンの想定があり、必要な程度や粒度を含めて設計し、実際の分析を行い、使いやすいアウトプットを出す。そうした活動を精度高く行えるのが優れたデータサイエンティストだ。経済産業省が2016年に公表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、日本では2015年時点で約17万人ものIT人材が不足しており、2030年には59万人程度まで不足規模が拡大する恐れがあるという。

DSに対する社会的期待と国の取り組み

 こうした状況を背景に、昨今DSを取り巻く環境は激変している。

 DSやAIに関する方策としては、統合イノベーション戦略推進会議が2019年に公表した「AI戦略2019」が注目を浴びたが、文科省には「数理及びDS教育の強化に関する懇談会」等がある。これは2016年1月に閣議決定された第5期科学技術基本計画において、未来社会として示される超スマート社会(Society 5.0)に向けて数理的思考やデータ分析・活用能力を持ち、社会における様々な問題の解決や新しい課題の発見、データから価値を生み出すことができる人材を戦略的に育成するために設置されたものだ。これを受け、文科省は2016年12月に「数理及びDSに係る教育強化」拠点校に、北海道大学、東京大学、京都大学、大阪大学、九州大学、滋賀大学の6校を選定した。6校は現在「数理・DS教育強化拠点コンソーシアム」を形成し、以下の観点で活動を行っている。

  • 全国的モデルとなるDSの標準カリキュラム・教材の開発
  • DS教育の全国展開、啓蒙活動

 そこでは、DSに関するレベルピラミッドが模式図として提示されている。滋賀大の学部・研究科修士・研究科博士の育成レベルを重ねたものを滋賀大が作成しているため、ご参考に供したい(図1)。

図1 DS教育のレベルピラミッドと滋賀大の育成人材レベル
DS教育のレベルピラミッドと滋賀大の育成人材レベル

修士課程は大半が企業派遣、実践的な課題解決へ

 大学院研究科(修士)では高次の独り立ちレベルを目指して教育研究が行われるが、その具体的なスキルイメージは「DSのモデルを自ら立てて分析できること」である。イメージを図2に示した。企業におけるDS人材育成ニーズを捉え、夜間通学ではなく昼間通学で徹底的に鍛えるカリキュラムを作った。その狙い通り、一期生は大半が企業からの派遣であるという。企業派遣生は原則として、課題となっている分析対象のデータを企業から持参し、それが修士論文のテーマとなる。修了後に企業に戻る前提で、学びの成果がそのまま所属企業の課題解決に直結する仕組みだ。こうしたスキームによって、社会活用を前提とした分析とモデル構築を一貫して行える人材を育成できるというわけである。

図2 大学院研究科(修士)レベルの模式図
大学院研究科(修士)レベルの模式図

DS教育の今と将来を担う

 独自の教育組織を作る以外にも、滋賀大はオンラインで大学生向けのDS講座パッケージを作る等の啓蒙活動も行っている。関西地区の人材育成コンソーシアムでも、ポスドクに対してデータ産業界へのキャリアパスを切り開く支援をする目的で、DSを企業に活かす人材育成、そのためのコンテンツ開発、インターンや採用に積極的な連携企業や自治体の開拓等にも力を入れている等、その活動は幅広い。既に大学の独自性としてDSが確固たるものになってきているのではないかと思ったが、竹村氏は謙遜される。「我々は、日本にとって必要な分野を牽引するトップランナーでありたい。自他共にそれを認める状態になって初めて成功と言えると思っています。DSは新時代に必要なスキルであり、どの大学でも教えるべきもの。そうした全体支援の主体としてもやることは多い」。滋賀大以降、DS領域の新増設や研究所設立を行う大学や、基礎教育にDS科目を加える大学は確実に増えつつある。当然先人である滋賀大に学ぶケースは多いだろう。未だ道半ばだと自認する滋賀大の足跡は、しかし、日本の大学全体に大きな影響を及ぼしているのではないだろうか。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/1/20)