グローバル教育への志を入学者選抜で問う/東京海洋大学 2021年度入学者選抜方針(英語)

東京海洋大学キャンパス

POINT
  • 2003年10月東京商船大学と東京水産大学の統合により発足した国内唯一の海洋系大学
  • 「海を知る、海を守る、海を利用する」教育研究の中心拠点となり、日本が海洋立国として発展するための一翼を担うことを使命とする
  • 2019年度入試では大学全体の募集435名に対して志願者数2204名を集める


東京海洋大学(以下、海洋大)は2019年11月29日、英語外部資格・検定試験の出願資格について、第三報を公表した。多くの国立大学が活用を見合わせる中、全国の国立大学で唯一、全学で出願資格を設定。その背景に何があるのか。東京都品川駅近くにあるキャンパスを訪ね、理事(教育・国際担当)でもある東海 正副学長と、入試課長の大滝正人氏にお話をうかがった。

国立大学で唯一、全学で英語外部資格・検定試験を出願資格として利用

 まず、2019年11月29日に公表された2021年度入学者選抜方針第三報の内容を押さえたい。

  • 海洋生命科学部、海洋資源環境学部
  •  出願資格として、次に掲げるいずれかの英語資格・検定試験の成績を保持していること
    • TOEIC L&R(TOEIC⁻IPを含む) 400点以上
    • TOEFL(iBT)40点以上、またはTOEFL(PBT)(TOEFL-ITPを含む)435点以上
    • IELTSバンド3.5以上
    • GTEC(4技能)840点以上(オフィシャルスコアに限る)
    • GTEC(3技能)またはGTEC for STUDENTS 500点以上(オフィシャルスコア以外も可・ただし2019年3月31日までの受検に限る)
    • GTEC CBT 720点以上(2017年3月31日までの受検に限る。2018年4月1日以降のGTEC(CBTタイプ)はGTEC(4技能)として扱う)
    • 実用英語技能検定(従来型・新方式<CBT,S-CBT,S-Interview>)準2級以上
    • TEAP(4技能)160点以上
    •  ※専門学科・総合学科卒業生には別途水準設定あり

 2003年に東京商船大学と東京水産大学が統合して生まれた東京海洋大学。設置当時は品川キャンパスの海洋科学部に4学科、越中島キャンパスの海洋工学部に3学科を擁していたが、2017年4月に海洋科学部を廃して、同学部があった品川キャンパスに海洋資源環境学部と海洋生命科学部を設けた経緯を持つ。そのため、入試設計についても、旧海洋科学部の2学部と海洋工学部で分かれた検討となっているようだ。

 なお、出願要件として置く外部スコアはいつ取得したものでも可としている。外部試験の活用については公平性の観点からその運用を疑問視する声もあるが、「高校3年生になってからのスコアでなくても、有効な証明書の提出があれば、中学時点のものでも可です。病気や家庭の事情、会場の都合等で受けにくいこともあるでしょうから、生徒が自分の受けやすいタイミングで受けたものがあればよい。本学ではそれが公平性の担保になると考えています」と東海副学長は言う。

グローバル人材育成のための教育改革

 出願資格の背景について、大滝課長は、「海洋生命科学部・海洋資源環境学部については、改めて設定したわけではなく、従来から設定していたルールを再掲しただけ」と控えめだ。海洋大は2010年からの第2期中期目標において、海洋分野で国際的に卓越した教育研究拠点を目指すことを最重要課題として掲げており、そのためには英語力の育成とグローバルな観点から行動する学生の育成が急務であるとしていた。その後文科省の2012年度グローバル人材育成推進事業(特色型)に採択され、その採択内容に即して2014年からは海洋科学部(現在は海洋生命科学部と海洋資源環境学部)を中心に、以下3点を目指した学部教育改革を展開している。入学者選抜改革はこうした施策に即したものであるという。

  • TOEICスコア600点を学部4年次への進級要件化(大学として数値で示す着地点の明確化)
  • 学部3年次での海外派遣型キャリア演習の新設(グローバル視点での自己キャリア啓発と異文化交流活動)
  • 関連する大学院の専攻における大学院博士前期課程授業の完全英語化

TOEICを進級要件化し半強制的に学生の英語力を高める

 まず、①TOEICの進級要件である。海洋生命科学部・海洋資源環境学部では4年次に進級する際にTOEIC600点を超えていなければ進級できない。例外も救済措置もないという。「厳しい要件を課しますが、当然それに向けた対策は大学が全面バックアップします」という東海副学長の言葉が示す通り、大学は1年次必修のTOEIC入門をはじめ、講座や模試練習会等でハイスコアを獲得するための様々な支援を講じている。そのおかげもあってか、進級要件の達成率は100%に限りなく近い水準を維持しているほか、ギリギリで追い込まれるよりも専門に入る3年次までに語学力をクリアしておこうとする学生も多く出て、初年次のスコアの向上が顕著だという。これを受けて、海洋工学部でも2021年度入学者からの同様の進級要件化が検討され、その一環として英語資格・検定試験成績の出願資格活用に踏み切った。

 語学が得意な外国語大学でもないのにここまで英語教育が厳しいことに反発はないのか聞くと、「海洋をやりたい学生は学習意欲が高い場合が多いです」と東海副学長は言う。「だから、やりたいことに必要だと言われると必死に頑張る。英語力を厳しく問うと専門の勉強に問題が生じる学生が増えるのではという懸念も当初ありましたが、全く問題はなかった」。そもそも海洋とはグローバルが大前提の領域だ。海は境界なく世界へ広がっている。こうした学問領域としての性質を考えれば、グローバル対応が必須というのも頷ける。

 また、こうした情報は広く発信しているため、高校からは「海洋大を目指すならTOEICがある」という認識で準備するように指導しやすく、また高校時代にSGHやSSH等でハイレベルなチャレンジをしてきた高校生からすれば、そうしたチャレンジを継続できる大学として認知されることであろう。

図:海洋生命科学部・海洋資源環境学部のTOEICを軸にした教育体系

海洋生命科学部・海洋資源環境学部のTOEICを軸にした教育体系

現場経験によりキャリアの広がりとさらなるグローバル化を促す

 次に、②海外派遣型キャリア演習の新設である。「海外探検隊」という通称で親しまれる教育プログラムがこれに該当する。海外の交流協定校等との連携に基づき派遣される海外インターンシップを含むプログラムで、開始当初は海洋科学部(現在、海洋生命科学部と海洋資源環境学部)で展開されていたが、2016年7月からは海洋工学部も含めた全学展開となっている。グローバル人材育成推進事業採択時は3年次のキャリア科目としての活用を想定していたが、近年は1・2年次の参加希望者が増加しているという。「TOEIC教育で英語力を身につけ、行ってきた先輩の話を聞く機会がある等の状況から、海外に行ってみたいという学生が増えているようです」と東海副学長は嬉しそうだ。「本学の卒業生には海外で活躍している人も多い。キャリアの広がりと同時に自分自身の視野や可能性を広げるきっかけになれば」。

 最後に、③大学院博士前期課程授業の完全英語化である。先導的にグローバル化を進めた専攻では、修士レベルで80%が英語化しており、これにより留学生の受け入れが非常にスムーズになり、留学生数増加に直結しているという。「大学内に留学生が増えれば、雰囲気を含め一気にキャンパス内でグローバル化が進む。交流のために日本人学生はもっと英語力を向上させようと頑張る。国際的な共同研究の推進等にもつながっていく。良い循環が生まれます」。東海副学長はキャンパス内のグローバル化をより推進したいと意気込む。

 こうしたグローバル教育を管轄するのはグローバル教育研究推進機構という組織だ。挙げた3つの教育とは別に、大学の世界展開力強化事業『日中韓版エラスムス』を基礎とした海洋における国際共同教育プログラムに関すること、その他グローバル教育研究における企画・立案・実施に関することを全般的に担当しているという。

グローバル教育への志を入学者選抜で問う

 海洋大は2015年10月に「ビジョン2027⁻海洋の未来を拓くために‐」を公表した。そこには、海洋国家である日本にとって今後益々重要性を増す海洋に関する諸分野の教育研究の拠点となるべく、学問の進展と人材育成に賭ける思いが集約されている。これを引き継ぎつつ、より高い水準でトップランナーとして活躍するための、またSDGs等前回公表後に加わった論点が加筆修正され、2019年4月には5つの観点で整理されたversion2が発表された。5つの観点のうち1つは「国際化」であり、そこでは国際性豊かなキャンパスやグローバル人材の育成、海外連携や共同研究の促進等が改めて掲示されている。「本学のこうした取り組みに賛同してくれる受験生を歓迎します。入学者選抜要件はそのために策定したもの。本学の教育を十分に活用するためのガイドラインでもあります」。東海副学長の言葉は力強い。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/2/19)