他領域との掛け算で新たな価値を創出する/摂南大学 農学部

摂南大学 農学部キャンパス

POINT
  • 1922年創設の関西工学専修学校を起源とし、都市基盤整備に必要な技術者育成から始まり、現在7学部13学科を擁する総合大学に進化。
    2020年4月より8学部17学科展開となる
  • 2015年に開学40周年を迎えた
  • 大阪府の寝屋川市と枚方市の2カ所にキャンパスを構える


摂南大学(以下、摂大)は2020年4月農学部(農業生産学科、応用生物科学科、食品栄養学科、食農ビジネス学科)を開設する。大阪府内では唯一となる農学部設置。その設置趣旨や背景について、大阪府寝屋川市のキャンパスを訪ね、荻田喜代一学長にお話をうかがった。

「不可農は、ない」

 農学部設置に際し摂大が掲げたコンセプトビジュアル「不可農は、ない」を目にしたことのある方は多いだろう。これはその言葉の示す通り、農学の可能性は無限大である趣旨のキャッチコピーである。農学は「食料資源の生産・自然環境」から「生物科学」「食の安全・安心」を通した豊かな社会基盤を構築するあらゆる領域に通じるという意識が背景にある(図表1)。そのキーワードとして掲げるテーマは「連携」だ。例として挙げられるのは、学内連携として理工学部、同一法人内の大阪工業大学の情報科学部やロボティクス&デザイン工学部との連携、新たな機能性食品・加工食品の開発やゲノム編集等の先端技術活動を想定した企業との共同研究、地域連携等、多岐に渡る。領域をまたぐ連携、組織をまたぐ連携。「他領域との掛け算で新たな価値を創出するのが農学のトレンド」と荻田学長は言う。

 農学部は国内の農業従事者支援、平たく言えば農家の事業継承に関する課題解決や人材育成のイメージを持たれがちである。しかし、従前より農学部で捉えるテーマは、「持続可能な開発目標(SDGs)」と一致している。世界の人口爆発に伴う食糧不足や環境保全といったグローバルテーマ、国内の高齢化に伴う消費者ニーズに応じた商品開発・研究、国内の事業継承についても農家の高齢化や就農人口減少に伴うマンパワー代替や収穫負荷等の軽減を主たる目的にしたICT技術を活用したスマート農業等、包括するテーマはどんどん広がっている。

図表1 農学の広がり(概念図)
図表2 農学の広がり(概念図)

食と農をつなぎ健康を司るエキスパートを養成

 荻田学長は言う。「本学は、薬学部や看護学部という医療系学部は既に設置している。どちらも専門職の国家資格取得を軸としていますが、医療は昨今の高齢化を背景に、予防医療や未病対策、健康維持促進といった方向にも従来以上に領域を広げています。本学としても、そのリソースを有効活用しながら、次は健康領域にも展開を広げたいと思っていました。本学の農学部では、薬学部・看護学部と協働することにより、食と栄養という観点からもそうしたアプローチが可能になると考えています」。

 その言葉が示すように、農学部設置認可申請書には、管理栄養士・栄養士養成をうたう食品栄養学科について、「家政学を基本とした管理栄養士との違い」を説明している箇所がある。そこには、「管理栄養士として身につける専門性に差はないが、それ以外に農学の専門科目を学修することで、食と農についての包括的な知識を身につけることができる」とある。農学の基盤を持つ管理栄養士ならば、農作物の特性を活かした栄養研究や商品開発等も可能になろう。また、食生活における心身の健康増進に重要と言われる「食育」推進を担う人材としても、食とその原材料や周辺領域に精通した人材としても期待されるというわけである。

総合科学としての農学を学び、広範な領域を支える人材を育成

 それ以外の学科の特徴も見ていこう。

 まず農業生産学科である。先にも挙げたが、国内の就農人口は1991年の約480万人が2019年には約168万人となり、28年間で310万人も減少している。それに加え、2019年における65歳以上の就農者は全体の70%を占め、高齢化が著しい。さらに近年未曾有の天災や気象変動等、耕作継続を困難にさせる要因が増加しており、将来的な農業生産力の低下が懸念されている。一方で消費者からは安全・安心な農作物の供給が求められており、同時に美味しくて健康によい農作物や、農村景観や農業活動とともに成立する自然環境保護への関心も高まっている。

 こうした状況を踏まえ、農業発展のための正しい解決の方向性を明確にし、国の根幹たる農業を立て直す必要がある。農業生産学科では対象とする作物とそれを取り巻く環境の関係を科学的に解明し、作物の改良、新しい農業生産技術の開発・普及・指導を行う能力を有した人材育成を教育研究の目標とする。即ち、国内農業の振興発展を支える人材の育成である。

 次に、応用生物科学科である。グローバル化・ボーダーレス化に伴い「食」「農」に関わる産業・技術にもかつてないイノベーションが進むと考えられているが、食農関連産業や科学技術等を維持・発展させていくために、農学と情報科学も含めた生命科学の専門性を備え、柔軟性と創造力を持った人材育成が急務である。そうした背景を踏まえ、応用生物科学科では「植物系」「微生物系」「動物・海洋生物系」の3領域について、その機能の追究を行う。こうした取り組みはバイオサイエンスとして医学・薬学等の他領域との融合や発展も期待されている。

 最後に、食農ビジネス学科である。農学の専門性を持ち、経済学・経営学・ビジネス的側面から食農を捉え、関連産業に貢献できる人材を育成する。昨今は社会生活の変化に伴い、食料生産・流通・消費が量的・質的に大きく変化し、かつ多様化している。2014年の食料消費合計約69兆円のうち、外食規模は31兆円、約45%を占める(公益財団法人食の安全・安心財団より)。食の外部化・簡便化が進む中で重要となるのは食料生産の現場のみならず、加工・流通といった後工程である。こうした食と農を取り巻くシステム全体を捉え、支える人材を育成するという。

図表2 各学科のキャリアイメージ

図表2 各学科のキャリアイメージ

医薬農の連携でライフサイエンス・キャンパスを構築する

 摂大は大学全体として、PBL(Problem/Project-Based Learning)、TBL(Team-Based Learning)、CBL(Case-Based Learning)といった課題解決型学修や協働学修をうたっている。そうしたスタンスは当然農学部でも軸となる。そのうえで連携による領域拡大・実践機会を増やし、農学の可能性を拡げる人材を育成輩出したいという。

 「そもそも医療と農は親和性が高い」と荻田学長は言う。それは、共に根底となる学問に化学があるからだ。対象が人(看護等)か物(薬品・植物等)かの違いはあるが、いずれも対象の化学反応・物理学反応を見る学問である。「そうした前提があったうえで、看護学は人を丸ごと観る学問、薬学は病気の原因を特定して、その病気を治す物質を扱う。農学は農学的知見から健康面をサポートするとともに、一方で医療ニーズから食品の品種改良等につなげる。いずれも、同じ対象に違う方向からアプローチする、チーム医療の一環とも言えるのです」と荻田学長は言う。学部教育には薬学部・看護学部・農学部食品栄養学科の学生が協働して学ぶプログラムもある。そこでは模擬患者の状況に合わせて、栄養指導・投薬・治療計画・検査計画といったクリニカルパスを作成する。こうした学部間連携学修の場を配置したいという。

 薬学部と看護学部がある枚方キャンパスに農学部が開設することで、枚方キャンパスは「ライフサイエンス・キャンパス」という特長を強くすることになる。食・バイオ・栄養・医療・健康を司るキャンパスというわけだ。社会課題に応える農学教育の可能性に期待したい。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2020/2/26)